「明日から一か月の長期休暇に入る。慣れない学校生活で疲れも溜まっているだろう。皆、存分に休暇を楽しんでくれ」
教室に集まった俺たちに向けて、担任の先生が清々しい笑顔でそう告げた。
魔術学校では毎年、新学期から約三か月後に長期休暇を設けている。
期間は一か月で、その間は簡単な課題が出されるのみで、他は何をしていても良い。
遠く離れた地から来ている者にとっては、久々に故郷でゆっくりできるありがたい期間だ。
「休みって言われてもな~」
「僕は忙しいよ。この時期は特にね」
「そうなのか?」
「ああ。一応は貴族だから、食事会とか色々出席しないといけなくてね」
「なるほど」
俺には必要なくなった行事だな。
「じゃあ休み中はあんまり自由もないのか?」
「ああ。残念ながらね」
「そうか。暇なら訓練相手を頼もうと思っていたんだけど」
「すまない。僕もぜひお願いしたいところだが、こればっかりはうるさくてね。次にちゃんと会えるのは、もしかすると休み明けになるかもしれないよ。セリカも含めて」
「そっか。無理するなよ」
「君のほうこそ」
学校の校舎前でグレンとセリカと別れ、俺とシトネは屋敷への帰路へつく。
「シトネはどうするんだ? 休み中」
「どうって?」
「みんなみたいに故郷へ戻ったりとかだよ」
「あぁ~ 私はするつもりないかな。ほら、前にも話した通りだし」
シトネは先祖返りだ。
その影響で、村の大人たちからは偏見の目で見られていた。
彼女の両親も含めて……
後になって、良くないことを聞いてしまったと反省する。
「だからさ。もしリンテンス君が嫌じゃなかったら、休みの間も屋敷にいさせてほしいなって」
「嫌なわけないよ。俺もシトネがいないと寂しいから」
「本当?」
「ああ」
「えっへへ~ ありがとう、リンテンス君」
シトネが嬉しそうに笑って、俺も笑い返す。
しかし、とはいっても休みの間、俺には大してやることがない。
あれだけの戦いがあった後で、やることがないなんて贅沢だとは思う。
それでも仕方がない。
師匠はずっと忙しくしていて、ほとんど屋敷へは戻っていない。
何か手伝えることがないか聞いても――
「まだ大丈夫だよ。君はもうしばらく、学生らしく日々の生活を楽しみたまえ。青春は過ぎてしまうと取り戻せないぞ」
とか意味深な発言だけ残して、関わらせてはくれなかった。
師匠のことだから、何か企んでいるのだろうけど、お陰様で俺はずっと暇だ。
悪魔の侵攻は止まっている。
続いていた英雄扱いも、一月前くらいから落ち着いて、普段通りの日常がゆったりと過ぎていた。
平和なことに文句を言う。
やはり贅沢だと思いつつ、何かないかと探している。
そんなことを考えていると、目の前は自分の屋敷だった。
結局何も思いつかなくて、はぁと大きなため息を漏らして玄関を開ける。
すると――
「ん?」
「何か落ちたね」
「ああ」
玄関のポストから、一通の封筒がヒラリと床に落ちた。
ゆっくり拾い上げて送り主を確認する。
封筒の表面には、ギルド会館王都支部と書かれていた。
「ギルドからか」
「ギルドって冒険者の?」
「ああ」
「そっか。リンテンス君って冒険者としても活動してたんだよね」
その通りだが、最近は全く顔を出していない。
自分でも忘れかけていたことを、一通の封筒で思い出せられた。
気になった俺は、さっそく中身を見てみることに。
「えーっと。リンリン様、この度は突然のご連絡失礼します……リンリン様?」
「え、あぁ……」
シトネが目を丸くして俺を見つめる。
そっちも忘れていたな。
というか、忘れたままでいたかったよ。
「リンリンってリンテンス君のこと?」
「ああ。正体がバレないようにって、師匠が勝手に登録した偽名」
「そういうこと! ビックリした~ リンテンス君らしくない名前だから」
「俺もそう思うよ」
ため息をつく。
師匠のネーミングセンスには困ったものだ。
加えてあの衣装……また思い出したくないことを思い出した。
「続きはなんて書いてあるの?」
「ん? ああ、えっと……」
手紙の内容を簡単にまとめる。
長々と丁寧な文章が並んでいたが、端的に言えば、俺宛の依頼が大量に溜まっている。
そろそろ受注するか破棄するか決めてほしい。
という感じのことが書かれていた。
「現状で百を超えました……そんなに溜まってるのか」
「凄いね! リンテンス君はギルドでも大人気なんだ!」
それにしても溜まり過ぎでは?
確かに半年以上放置してるけどさ。
というかギルド側で断ってくれても良いと思うんだけど。
「やれやれだな」
「どうするの?」
「どうせ暇だし、久しぶりにギルドへ顔を出すよ。エメロード家からの援助もなくなったし、そろそろ資金調達も必要だからな」
「私も一緒に行ってもいいかな?」
「え、手伝ってくれるのか?」
「うん! 迷惑じゃなければだけど」
「もちろん良いよ。むしろありがたい」
ということで、休み期間中にやることは決まった。
シトネも一緒なら、昔より楽しくなりそうだ。
そして後になってから気付く。
ギルドに行くということは、あの格好を披露しなければいけないという事実に……
教室に集まった俺たちに向けて、担任の先生が清々しい笑顔でそう告げた。
魔術学校では毎年、新学期から約三か月後に長期休暇を設けている。
期間は一か月で、その間は簡単な課題が出されるのみで、他は何をしていても良い。
遠く離れた地から来ている者にとっては、久々に故郷でゆっくりできるありがたい期間だ。
「休みって言われてもな~」
「僕は忙しいよ。この時期は特にね」
「そうなのか?」
「ああ。一応は貴族だから、食事会とか色々出席しないといけなくてね」
「なるほど」
俺には必要なくなった行事だな。
「じゃあ休み中はあんまり自由もないのか?」
「ああ。残念ながらね」
「そうか。暇なら訓練相手を頼もうと思っていたんだけど」
「すまない。僕もぜひお願いしたいところだが、こればっかりはうるさくてね。次にちゃんと会えるのは、もしかすると休み明けになるかもしれないよ。セリカも含めて」
「そっか。無理するなよ」
「君のほうこそ」
学校の校舎前でグレンとセリカと別れ、俺とシトネは屋敷への帰路へつく。
「シトネはどうするんだ? 休み中」
「どうって?」
「みんなみたいに故郷へ戻ったりとかだよ」
「あぁ~ 私はするつもりないかな。ほら、前にも話した通りだし」
シトネは先祖返りだ。
その影響で、村の大人たちからは偏見の目で見られていた。
彼女の両親も含めて……
後になって、良くないことを聞いてしまったと反省する。
「だからさ。もしリンテンス君が嫌じゃなかったら、休みの間も屋敷にいさせてほしいなって」
「嫌なわけないよ。俺もシトネがいないと寂しいから」
「本当?」
「ああ」
「えっへへ~ ありがとう、リンテンス君」
シトネが嬉しそうに笑って、俺も笑い返す。
しかし、とはいっても休みの間、俺には大してやることがない。
あれだけの戦いがあった後で、やることがないなんて贅沢だとは思う。
それでも仕方がない。
師匠はずっと忙しくしていて、ほとんど屋敷へは戻っていない。
何か手伝えることがないか聞いても――
「まだ大丈夫だよ。君はもうしばらく、学生らしく日々の生活を楽しみたまえ。青春は過ぎてしまうと取り戻せないぞ」
とか意味深な発言だけ残して、関わらせてはくれなかった。
師匠のことだから、何か企んでいるのだろうけど、お陰様で俺はずっと暇だ。
悪魔の侵攻は止まっている。
続いていた英雄扱いも、一月前くらいから落ち着いて、普段通りの日常がゆったりと過ぎていた。
平和なことに文句を言う。
やはり贅沢だと思いつつ、何かないかと探している。
そんなことを考えていると、目の前は自分の屋敷だった。
結局何も思いつかなくて、はぁと大きなため息を漏らして玄関を開ける。
すると――
「ん?」
「何か落ちたね」
「ああ」
玄関のポストから、一通の封筒がヒラリと床に落ちた。
ゆっくり拾い上げて送り主を確認する。
封筒の表面には、ギルド会館王都支部と書かれていた。
「ギルドからか」
「ギルドって冒険者の?」
「ああ」
「そっか。リンテンス君って冒険者としても活動してたんだよね」
その通りだが、最近は全く顔を出していない。
自分でも忘れかけていたことを、一通の封筒で思い出せられた。
気になった俺は、さっそく中身を見てみることに。
「えーっと。リンリン様、この度は突然のご連絡失礼します……リンリン様?」
「え、あぁ……」
シトネが目を丸くして俺を見つめる。
そっちも忘れていたな。
というか、忘れたままでいたかったよ。
「リンリンってリンテンス君のこと?」
「ああ。正体がバレないようにって、師匠が勝手に登録した偽名」
「そういうこと! ビックリした~ リンテンス君らしくない名前だから」
「俺もそう思うよ」
ため息をつく。
師匠のネーミングセンスには困ったものだ。
加えてあの衣装……また思い出したくないことを思い出した。
「続きはなんて書いてあるの?」
「ん? ああ、えっと……」
手紙の内容を簡単にまとめる。
長々と丁寧な文章が並んでいたが、端的に言えば、俺宛の依頼が大量に溜まっている。
そろそろ受注するか破棄するか決めてほしい。
という感じのことが書かれていた。
「現状で百を超えました……そんなに溜まってるのか」
「凄いね! リンテンス君はギルドでも大人気なんだ!」
それにしても溜まり過ぎでは?
確かに半年以上放置してるけどさ。
というかギルド側で断ってくれても良いと思うんだけど。
「やれやれだな」
「どうするの?」
「どうせ暇だし、久しぶりにギルドへ顔を出すよ。エメロード家からの援助もなくなったし、そろそろ資金調達も必要だからな」
「私も一緒に行ってもいいかな?」
「え、手伝ってくれるのか?」
「うん! 迷惑じゃなければだけど」
「もちろん良いよ。むしろありがたい」
ということで、休み期間中にやることは決まった。
シトネも一緒なら、昔より楽しくなりそうだ。
そして後になってから気付く。
ギルドに行くということは、あの格好を披露しなければいけないという事実に……