王都の街にはモンスターが放たれ、魔術師団はその対処に当たっている。
魔術学校の校舎は、シトネたち四人の結界に守られていた。
その頭上で、アルフォースは悪魔二人と対峙する。
「私はエクトールと言います」
「オレはグレゴアだぁ」
「これはこれはご丁寧にどうも」
丁寧な話し方の悪魔がエクトール、四本腕の悪魔がグレゴアという。
「それにしても早かったね~ 僕の予想だと、もう少し遅いと思っていたのだけど」
「なーに言ってやがる。これでも遅れたほうだぜ」
「ええ。当初の予定では、戦闘後すぐここへ攻め込むつもりでしたから」
「へぇ~ そうなんだ」
アルフォースはじっと彼らを観察する。
聖域者二人と戦い、傷を負ったのは確かなのだろうが、今の彼らは傷一つない。
回復は完璧に終わっていると考えるべきだろう。
「現代の魔術師なんて大したことねーと思ってたんだがな~ さすが神の庇護を受けた人間だ」
「傷を癒すのに今日までかかってしまいました。あなた方の認識を改めるには良いテストケースでしたよ」
「そうかそうか。二人はちゃんと君たちを追い詰めたんだね」
「不覚にもな。が、勝ったのは俺たちだ」
「そうです。そして貴方は現代最強の魔術師。こちらは二人で、貴方を殺します」
エクトールが背後に方陣術式を展開。
グレゴアも、四本の腕それぞれにまがまがしい大剣を持つ。
戦闘態勢に入った二人に対して、アルフォースも杖を構える。
「やれやれ。僕としては、少しばかり手を抜いてくれると助かるのだけどねぇ」
「そいつは無理な相談だぜ!」
グレゴアが迫る。
四つの大剣を同時かつ、不規則に振るう。
アルフォースは杖で受け流しながら後方へ下がり、流れるように炎の渦を発生させグレゴアを攻撃した。
「おらぁ!」
炎の渦をグレゴアは大剣を一薙ぎすることで消し去る。
「それは魔剣だね?」
「当たりだぜ! ついでにいやー」
アルフォースの頭上。
無数の大剣が待機していることに気付く。
「全部俺の魔術で作ったもんなんだがな!」
降り注ぐ魔剣の雨。
一本一本が強力な魔力を帯びており、アルフォースの結界障壁を貫く。
当たる直前で回避したが、そこへ今度は魔力エネルギーの砲撃が襲い掛かる。
「おっと、今度は君かい?」
「ええ。我々は二人で戦うと言いましたよ」
「そうだったね」
エクトールの背後の方陣術式は、魔力エネルギーをビームのように発射できるようだ。
さらに足元で別の術式を展開。
黒い鞭がアルフォースに襲い掛かる。
「術式の並行処理は当たり前か。どれもレベルが高くてビックリだよ」
「お褒めに預かり光栄です。ですが、それならもっと驚いた表情をして頂きたいですね」
続けて巨大な氷柱がアルフォースに放たれる。
これを突風で弾き飛ばし、炎の玉を生成。
炎の玉をエクトール目掛けて放つ。
「させっかよ!」
隙ありと言わんばかりに切りかかるグレゴア。
魔剣で切り裂かれたアルフォースの身体は、白い花びらとなって散る。
「幻術か!?」
「その通りさ!」
放たれていた炎の玉が、アルフォースの姿へ変身する。
全てがアルフォースとなり、エクトールを惑わせる。
「ふっ、この程度――」
エクトールは頭上に術式を展開させ、鋭い針のような光の雨を降らせる。
接近していたアルフォースの分身は光の雨に貫かれ消滅していく。
「全て消してしまえば済むこと」
「だと思ったよ」
「何っ!」
エクトールの足元にアルフォースが迫っている。
先ほどの分身は全て囮で、本体は幻術で姿をくらませ、エクトールの足元に近づいていた。
光の雨も、術者自身にはかからないよう調整する。
ならば術者の足元と頭上だけは、安全なエリアになるということ。
「もらったよ!」
アルフォースが手を伸ばす。
確実に虚を突いた。
しかし――
「おっと?」
「危ないですね」
エクトールが一瞬で消えてしまった。
次に彼を見つけたのは、数十メートル離れたグレゴアの隣。
「なるほど。転移の魔術が使えたんだね」
「ええ。まさかこれほど早く使わされるとは思いませんでしたよ」
「はっはっはっ! 何だか今日は褒められてばかりだな~ 普段なら嬉しいけど、今は素直に喜べない」
互角の戦い。
どちらも一歩も引かない攻防を、結界を維持しながらシトネたちが見ている。
「凄い……さすがアルフォース様」
でも……
攻め切れていない。
悪魔二人には、まだまだ全然余裕が感じられる。
「このまま戦えば、体力が底をついてしまうぞ」
人間と悪魔では肉体の作りが異なる。
強度はもちろん、魔力量や体力も、悪魔のほうが圧倒的に上だ。
いくらアルフォースでも、持久戦になればいずれ体力が底をついてしまう。
長引けば長引くほど不利になる。
そうだとわかっていても、下手に踏み込み過ぎると命とり。
加えて下には守るべき校舎がある。
今の彼に出来ることは、リンテンスの修行が終わるまでの時間を稼ぐこと。
「こんなにも他人を恋焦がれたのは初めてだな」
激闘が続く。
怒涛のような魔術の応酬は、見る者を圧巻とさせるだろう。
「ちっ、やっぱこいつは別格だな」
「ええ。情報通りですね」
悪魔二人の攻撃にも、アルフォースは的確な対応を続けていた。
両者一歩も譲らない攻防が続き、僅かに呼吸を休める時間が生まれる。
「しかし妙ですね。思ったよりも消極的過ぎる」
「だな。なーんか企んでる感じしねーか?」
二人が疑いの目をアルフォースに向ける。
アルフォースは普段通りの表情で、冷静に返す。
「いやいや。対処するので精一杯なだけさ。君たちの攻撃があまりにも強いから、こっちは大変なんだよん」
「かっ! 白々しい演技だぜ。やっぱなんか企んでるじゃねーか」
「そのようですね。ですが、まだ時間がかかるようですよ」
「……」
おっと、もうその段階まで来たのか。
さすがに頭も回っているね。
となれば、ここからが本番というわけか。
アルフォースが杖を構えなおす。
「なぁエクトール、あれ使っていいか?」
「そうですね。このまま戦い続けても無駄な時間を使うだけですし」
「よし来た! んじゃいっちょ暴れるぜ~」
グレゴリが左腕の一本を前に出す。
「何だ?」
その腕には、黒くいびつな形をした腕輪が装備されていた。
アルフォースが目を細める。
グレゴリはニヤリと笑い、腕輪を強引に引きちぎる。
「――限定突破!」
破壊された腕輪が飛び散った瞬間、爆発的なまでに魔力が高まっていく。
結界を維持していた四人が、同時に身の毛もよだつ寒気を感じた。
魔術学校の校舎は、シトネたち四人の結界に守られていた。
その頭上で、アルフォースは悪魔二人と対峙する。
「私はエクトールと言います」
「オレはグレゴアだぁ」
「これはこれはご丁寧にどうも」
丁寧な話し方の悪魔がエクトール、四本腕の悪魔がグレゴアという。
「それにしても早かったね~ 僕の予想だと、もう少し遅いと思っていたのだけど」
「なーに言ってやがる。これでも遅れたほうだぜ」
「ええ。当初の予定では、戦闘後すぐここへ攻め込むつもりでしたから」
「へぇ~ そうなんだ」
アルフォースはじっと彼らを観察する。
聖域者二人と戦い、傷を負ったのは確かなのだろうが、今の彼らは傷一つない。
回復は完璧に終わっていると考えるべきだろう。
「現代の魔術師なんて大したことねーと思ってたんだがな~ さすが神の庇護を受けた人間だ」
「傷を癒すのに今日までかかってしまいました。あなた方の認識を改めるには良いテストケースでしたよ」
「そうかそうか。二人はちゃんと君たちを追い詰めたんだね」
「不覚にもな。が、勝ったのは俺たちだ」
「そうです。そして貴方は現代最強の魔術師。こちらは二人で、貴方を殺します」
エクトールが背後に方陣術式を展開。
グレゴアも、四本の腕それぞれにまがまがしい大剣を持つ。
戦闘態勢に入った二人に対して、アルフォースも杖を構える。
「やれやれ。僕としては、少しばかり手を抜いてくれると助かるのだけどねぇ」
「そいつは無理な相談だぜ!」
グレゴアが迫る。
四つの大剣を同時かつ、不規則に振るう。
アルフォースは杖で受け流しながら後方へ下がり、流れるように炎の渦を発生させグレゴアを攻撃した。
「おらぁ!」
炎の渦をグレゴアは大剣を一薙ぎすることで消し去る。
「それは魔剣だね?」
「当たりだぜ! ついでにいやー」
アルフォースの頭上。
無数の大剣が待機していることに気付く。
「全部俺の魔術で作ったもんなんだがな!」
降り注ぐ魔剣の雨。
一本一本が強力な魔力を帯びており、アルフォースの結界障壁を貫く。
当たる直前で回避したが、そこへ今度は魔力エネルギーの砲撃が襲い掛かる。
「おっと、今度は君かい?」
「ええ。我々は二人で戦うと言いましたよ」
「そうだったね」
エクトールの背後の方陣術式は、魔力エネルギーをビームのように発射できるようだ。
さらに足元で別の術式を展開。
黒い鞭がアルフォースに襲い掛かる。
「術式の並行処理は当たり前か。どれもレベルが高くてビックリだよ」
「お褒めに預かり光栄です。ですが、それならもっと驚いた表情をして頂きたいですね」
続けて巨大な氷柱がアルフォースに放たれる。
これを突風で弾き飛ばし、炎の玉を生成。
炎の玉をエクトール目掛けて放つ。
「させっかよ!」
隙ありと言わんばかりに切りかかるグレゴア。
魔剣で切り裂かれたアルフォースの身体は、白い花びらとなって散る。
「幻術か!?」
「その通りさ!」
放たれていた炎の玉が、アルフォースの姿へ変身する。
全てがアルフォースとなり、エクトールを惑わせる。
「ふっ、この程度――」
エクトールは頭上に術式を展開させ、鋭い針のような光の雨を降らせる。
接近していたアルフォースの分身は光の雨に貫かれ消滅していく。
「全て消してしまえば済むこと」
「だと思ったよ」
「何っ!」
エクトールの足元にアルフォースが迫っている。
先ほどの分身は全て囮で、本体は幻術で姿をくらませ、エクトールの足元に近づいていた。
光の雨も、術者自身にはかからないよう調整する。
ならば術者の足元と頭上だけは、安全なエリアになるということ。
「もらったよ!」
アルフォースが手を伸ばす。
確実に虚を突いた。
しかし――
「おっと?」
「危ないですね」
エクトールが一瞬で消えてしまった。
次に彼を見つけたのは、数十メートル離れたグレゴアの隣。
「なるほど。転移の魔術が使えたんだね」
「ええ。まさかこれほど早く使わされるとは思いませんでしたよ」
「はっはっはっ! 何だか今日は褒められてばかりだな~ 普段なら嬉しいけど、今は素直に喜べない」
互角の戦い。
どちらも一歩も引かない攻防を、結界を維持しながらシトネたちが見ている。
「凄い……さすがアルフォース様」
でも……
攻め切れていない。
悪魔二人には、まだまだ全然余裕が感じられる。
「このまま戦えば、体力が底をついてしまうぞ」
人間と悪魔では肉体の作りが異なる。
強度はもちろん、魔力量や体力も、悪魔のほうが圧倒的に上だ。
いくらアルフォースでも、持久戦になればいずれ体力が底をついてしまう。
長引けば長引くほど不利になる。
そうだとわかっていても、下手に踏み込み過ぎると命とり。
加えて下には守るべき校舎がある。
今の彼に出来ることは、リンテンスの修行が終わるまでの時間を稼ぐこと。
「こんなにも他人を恋焦がれたのは初めてだな」
激闘が続く。
怒涛のような魔術の応酬は、見る者を圧巻とさせるだろう。
「ちっ、やっぱこいつは別格だな」
「ええ。情報通りですね」
悪魔二人の攻撃にも、アルフォースは的確な対応を続けていた。
両者一歩も譲らない攻防が続き、僅かに呼吸を休める時間が生まれる。
「しかし妙ですね。思ったよりも消極的過ぎる」
「だな。なーんか企んでる感じしねーか?」
二人が疑いの目をアルフォースに向ける。
アルフォースは普段通りの表情で、冷静に返す。
「いやいや。対処するので精一杯なだけさ。君たちの攻撃があまりにも強いから、こっちは大変なんだよん」
「かっ! 白々しい演技だぜ。やっぱなんか企んでるじゃねーか」
「そのようですね。ですが、まだ時間がかかるようですよ」
「……」
おっと、もうその段階まで来たのか。
さすがに頭も回っているね。
となれば、ここからが本番というわけか。
アルフォースが杖を構えなおす。
「なぁエクトール、あれ使っていいか?」
「そうですね。このまま戦い続けても無駄な時間を使うだけですし」
「よし来た! んじゃいっちょ暴れるぜ~」
グレゴリが左腕の一本を前に出す。
「何だ?」
その腕には、黒くいびつな形をした腕輪が装備されていた。
アルフォースが目を細める。
グレゴリはニヤリと笑い、腕輪を強引に引きちぎる。
「――限定突破!」
破壊された腕輪が飛び散った瞬間、爆発的なまでに魔力が高まっていく。
結界を維持していた四人が、同時に身の毛もよだつ寒気を感じた。