時を遡る。
今からざっと数千年以上前の話だ。
世界は今よりずっと平和で、今よりもっと栄えていた。
人口も現在の倍以上いて、国や街の数も多かった。
多数の種族が共に生き、助け合いながら生活していたという。
しかし、そんな平和を脅かす存在が地獄より現れてしまった。
「それが悪魔……地獄っていうのは?」
「おっと、そこも説明していなかったね」
うっかりしていたという感じに話す師匠。
そのまま続ける。
「実はこの世界ってね? 四つの世界が重なって出来ているんだよ」
四つの世界?
そんな話は聞いたことがない。
いろんな文献を読んでいるけど、チラリとも見かけなかった。
師匠は続けて説明する。
「四つの世界。昔は行き来も簡単だったらしいけど、今は事情が変わってしまったようだね。天使や神々が住まうという天界。僕たちが生きる現世。死した魂が還る冥界。そして、悪魔たちがいる地獄だ。彼らは地獄から現世に侵攻を開始した」
「目的は何だったんですか?」
「単純だよ。現世を支配することだ」
「何のために?」
「そこはいろんな事情が絡んでいるよ。まぁ当時の支配者が、支配欲に溺れていたことも原因だろうね」
地獄には三人の支配者がいる。
皇帝ルシファー、君主ベルゼビュート、大公爵アスタロト。
彼らは絶大な力を有し、荒れ狂っていた地獄をまとめ上げた。
地獄の統一を成し遂げた彼らが次の標的に定めたのが、現世だったという。
「侵攻は突然始まった。平和だった世界は一瞬でひっくり返ってしまったよ」
三大支配者を筆頭に、部下の悪魔たちによる大侵攻。
服従するなら慈悲を与え、抵抗するなら容赦なく殺す。
利用価値が低い老人は、服従の意思を示しても、モンスターの餌にされた。
「酷い……」
シトネから声が漏れていた。
非情、残忍、冷酷……その言葉がピッタリくる存在なのだろうと、俺は頭の中で想像する。
想像するだけで、吐き気がしそうな悪だ。
人々は抵抗した。
種族同士で手を取り合い、悪魔たちと戦った。
しかし、悪魔たちの力は常軌を逸していた。
特に三大支配者と、その直轄の部下である【六柱】と呼ばれた悪魔たちは、たった一人で大国を滅ぼせる力をもっていた。
そんな彼らに対抗できたのは、神々の加護を受けた者たちだけだった。
「今でいう聖域者。僕たちのような存在が、当時にもいたんだよ。彼らを主軸として戦い、何とか退けていた。たくさんの犠牲を払いながら……ね」
挑めば死ぬ。
それが当たり前のように、プチプチと踏みつぶされる命。
こんなにも命は軽かったのかと思い知らされるような光景だった。
そう、師匠は受け継いだ記憶を覗きながら話す。
「劣勢が続く中、神々の助力が得られることになった。ようやく重い腰をあげたんだ。もっと早くしろって、僕なら直談判に行っていたよ」
呆れながらそういう師匠。
師匠なら本当にそうしそうだ。
神が相手だからって、いつもの通りに振舞いそうな予感すらある。
「ともかく助力を得て、形勢は持ち直した。一瞬で逆転とはいかなかったようだけど、徐々に押し戻して、最終的に地獄と現世の境界で、最後の戦いが起こったんだ」
当時の聖域者たち七人と、三大支配者による激闘。
激しい戦いは三日三晩続いたという。
そうして勝利を納めたのが、聖域者たちだった。
三人の支配者を倒したことで悪魔たちは地獄へ撤退していった。
そして――
「全ての悪魔が戻ったあとで、聖域者たちは神々の協力の元、地獄に大きな蓋をしたんだ」
「蓋? 魔術的な結界とかですか?」
「大体そんな感じかな。僕もその辺りの記憶はあいまいでね。とはいえ、その蓋によって悪魔たちは現世に来れなくなった」
「なるほど……でもじゃあ、今いる悪魔はどこから来たんです?」
「無論地獄からだよ。何千年と経っているからね。蓋は緩んできている。一人や二人が出てくるくらいは出来る程にね。まぁそれと、三人の支配者が復活したことも関係しているかな?」
「えっ、復活……したんですか?」
「うん。間違いないね」
師匠はキッパリと言い切った。
師匠曰く、悪魔には完全な死は存在しないらしい。
一度滅んでも、長い年月をかければ復活できる。
そもそも蓋は、彼らが復活することを見越して作られたものだろうと師匠は付け加えた。
「とはいっても、今の状況では現世に来れない。緩んだ蓋の隙間も、絶大な力をもつ彼らでは小さすぎて通れないのさ。ただ、蓋を維持しているものを破壊すれば、その限りではない」
「じゃあ彼らの目的は、蓋の核を破壊することですね?」
「その通り。だからこそ、彼らは無作為に人々を襲い、二人を呼び寄せたんだ」
その時、頭に電流が走ったような感覚がした。
師匠の言葉と、過去の歴史。
それらをまとめると、彼らの狙いは――
「もうわかるよね? 聖域者こそ、蓋を維持する核なんだ。彼らの目的は聖域者の全滅と、聖域者を生み出す装置の破壊。つまり……」
「ここ?」
魔術学校に、悪魔が攻め込んでくる。
今からざっと数千年以上前の話だ。
世界は今よりずっと平和で、今よりもっと栄えていた。
人口も現在の倍以上いて、国や街の数も多かった。
多数の種族が共に生き、助け合いながら生活していたという。
しかし、そんな平和を脅かす存在が地獄より現れてしまった。
「それが悪魔……地獄っていうのは?」
「おっと、そこも説明していなかったね」
うっかりしていたという感じに話す師匠。
そのまま続ける。
「実はこの世界ってね? 四つの世界が重なって出来ているんだよ」
四つの世界?
そんな話は聞いたことがない。
いろんな文献を読んでいるけど、チラリとも見かけなかった。
師匠は続けて説明する。
「四つの世界。昔は行き来も簡単だったらしいけど、今は事情が変わってしまったようだね。天使や神々が住まうという天界。僕たちが生きる現世。死した魂が還る冥界。そして、悪魔たちがいる地獄だ。彼らは地獄から現世に侵攻を開始した」
「目的は何だったんですか?」
「単純だよ。現世を支配することだ」
「何のために?」
「そこはいろんな事情が絡んでいるよ。まぁ当時の支配者が、支配欲に溺れていたことも原因だろうね」
地獄には三人の支配者がいる。
皇帝ルシファー、君主ベルゼビュート、大公爵アスタロト。
彼らは絶大な力を有し、荒れ狂っていた地獄をまとめ上げた。
地獄の統一を成し遂げた彼らが次の標的に定めたのが、現世だったという。
「侵攻は突然始まった。平和だった世界は一瞬でひっくり返ってしまったよ」
三大支配者を筆頭に、部下の悪魔たちによる大侵攻。
服従するなら慈悲を与え、抵抗するなら容赦なく殺す。
利用価値が低い老人は、服従の意思を示しても、モンスターの餌にされた。
「酷い……」
シトネから声が漏れていた。
非情、残忍、冷酷……その言葉がピッタリくる存在なのだろうと、俺は頭の中で想像する。
想像するだけで、吐き気がしそうな悪だ。
人々は抵抗した。
種族同士で手を取り合い、悪魔たちと戦った。
しかし、悪魔たちの力は常軌を逸していた。
特に三大支配者と、その直轄の部下である【六柱】と呼ばれた悪魔たちは、たった一人で大国を滅ぼせる力をもっていた。
そんな彼らに対抗できたのは、神々の加護を受けた者たちだけだった。
「今でいう聖域者。僕たちのような存在が、当時にもいたんだよ。彼らを主軸として戦い、何とか退けていた。たくさんの犠牲を払いながら……ね」
挑めば死ぬ。
それが当たり前のように、プチプチと踏みつぶされる命。
こんなにも命は軽かったのかと思い知らされるような光景だった。
そう、師匠は受け継いだ記憶を覗きながら話す。
「劣勢が続く中、神々の助力が得られることになった。ようやく重い腰をあげたんだ。もっと早くしろって、僕なら直談判に行っていたよ」
呆れながらそういう師匠。
師匠なら本当にそうしそうだ。
神が相手だからって、いつもの通りに振舞いそうな予感すらある。
「ともかく助力を得て、形勢は持ち直した。一瞬で逆転とはいかなかったようだけど、徐々に押し戻して、最終的に地獄と現世の境界で、最後の戦いが起こったんだ」
当時の聖域者たち七人と、三大支配者による激闘。
激しい戦いは三日三晩続いたという。
そうして勝利を納めたのが、聖域者たちだった。
三人の支配者を倒したことで悪魔たちは地獄へ撤退していった。
そして――
「全ての悪魔が戻ったあとで、聖域者たちは神々の協力の元、地獄に大きな蓋をしたんだ」
「蓋? 魔術的な結界とかですか?」
「大体そんな感じかな。僕もその辺りの記憶はあいまいでね。とはいえ、その蓋によって悪魔たちは現世に来れなくなった」
「なるほど……でもじゃあ、今いる悪魔はどこから来たんです?」
「無論地獄からだよ。何千年と経っているからね。蓋は緩んできている。一人や二人が出てくるくらいは出来る程にね。まぁそれと、三人の支配者が復活したことも関係しているかな?」
「えっ、復活……したんですか?」
「うん。間違いないね」
師匠はキッパリと言い切った。
師匠曰く、悪魔には完全な死は存在しないらしい。
一度滅んでも、長い年月をかければ復活できる。
そもそも蓋は、彼らが復活することを見越して作られたものだろうと師匠は付け加えた。
「とはいっても、今の状況では現世に来れない。緩んだ蓋の隙間も、絶大な力をもつ彼らでは小さすぎて通れないのさ。ただ、蓋を維持しているものを破壊すれば、その限りではない」
「じゃあ彼らの目的は、蓋の核を破壊することですね?」
「その通り。だからこそ、彼らは無作為に人々を襲い、二人を呼び寄せたんだ」
その時、頭に電流が走ったような感覚がした。
師匠の言葉と、過去の歴史。
それらをまとめると、彼らの狙いは――
「もうわかるよね? 聖域者こそ、蓋を維持する核なんだ。彼らの目的は聖域者の全滅と、聖域者を生み出す装置の破壊。つまり……」
「ここ?」
魔術学校に、悪魔が攻め込んでくる。