学外研修後半初日。
 準備運動でぐるっと森を一周させられた後、俺たちは建物の中に集められていた。
 全員が注目しているのは一点。
 説明している先生、ではなく、その横に侍るモンスターだ。

「これは魔道具によって生成された疑似モンスターだ。能力は元となったモンスターを模しているが、攻撃力はほとんどない。あくまで訓練用に開発されたものだ」
「へぇ~ 便利な魔道具もあるんだな」
「ああ、僕も初めて見るよ」

 話に聞く限り、最近になって新しく開発されたものらしい。
 最先端の魔道技術を用いられるのも、魔術学校の生徒に与えられた特権だ。
 
 先生が続けて内容を説明する。

「今からチームに分かれ、森に入ってもらう! 森には百の疑似モンスターが放たれているから、それを全て討伐してほしい」

 一年生では全部で四十二チームある。
 今回はチームごと、さらに六つのグループに分かれて行う。
 モンスターにはそれぞれポイントが割り振られており、模したモンスターの強さでポイントも異なる。
 百体全てが討伐されるまで続け、最終的にチームごとに撃破数、ポイント数を競いあう。
 大体のルールはこんな感じか。
 ちなみに、各人には専用の腕輪が配布される。
 ポイントの換算の役割とは別に、モンスターから一定以上攻撃を受けると光り、リタイアとなる仕組みだ。

「最初の七チームは前へ!」
「俺たちだな」
「ああ。今回は競争……というわけにはいかないな。残念だが」

 ガッカリそうにするグレン。
 相変わらず負けず嫌いな奴だと笑ってしまう。

「待機者はここで戦闘の様子が中継される! 見ることも大切な訓練の一つだ。自分たちの番に活かせるよう、しっかり観察するように」

 待機室には巨大な四角い版がある。
 森には使い魔が飛んでいて、視界をここに映し出せる。
 それを聞くと、シトネが不服そうな顔を見せてぼそりと呟く。

「み、見られるのかぁ」
「今さらだろ? 特に俺たちにとってはさ」
「あー確かにそうかも。じゃあいっぱい倒して目立っちゃおうよ」
「ははっ、そうだな」

 俺もシトネも、悪い意味で注目を浴びてきた。
 この間の親善試合で、俺に対する周囲の視線は緩和されたが、シトネに対してはまだまだ微妙だ。
 特にシトネにとっては良い機会だろう。
 俺だけじゃなくて、彼女も魔術師として優秀などだと、周囲に教えるために。

 今回の訓練ではもちろん魔術が使える。
 ただし、他チームを傷つけたり、妨害してはならない。
 それさえ守れば、あとは好きなように戦って良い。

「リンテンス、目標はどうする?」
「う~ん、とりあえず半分は狩りたいかな」
「半分か。ならば休んでいる暇はなさそうだな」

 そうして訓練が開始される。
 バラバラのスタート地点から森へ入り、出会ったモンスターを狩る。
 モンスターは種類豊富だ。
 ゴブリン、ウルフ、ワーウルフ、ジャイアントマンティス、グレートスネーク。
 森に生息しているモンスターを模していて、基本的に大きい個体のほうが強いから、ポイントもそれに合わせて決められている。
  
「皆様、前方よりウルフとゴブリンの群れが接近しております」
「後ろからマンティスが来てるよ!」

 セリカとシトネが接敵を知らせてくれた。
 前後を挟まれた形になっている。

「僕とセリカで前を」
「じゃあ後ろは俺とシトネで任せてくれ」
「ああ、任せた」

 簡単に割り振りをして、各々の敵に目を向ける。
 ジャイアントマンティスは、その名の通り巨大なカマキリだ。
 見た目も能力も、カマキリを大きくしただけだが、強靭な鎌は岩をも斬り裂く。
 とても強力なモンスターだ。

「藍雷――二刀」
「二匹きてる。私が左と戦うね」
「了解、右は俺だな」

 俺は藍雷で剣を作り、シトネは腰の剣を抜く。

「いくぞ!」
「うん!」

 俺とシトネは同時に突っ込む。
 接近により振り下ろされる鎌を回避し、懐にもぐりこんで鎌の付け根を狙い斬りする。
 鎌は強力だが、これを無力化できれば勝ったも同然。
 あとは逃げられる前に、腹と頭を斬り裂き倒す。

 対してシトネは剣を使っていた。
 入学試験では使わなかった変わった形の剣。
 名前は刀というらしい。
 シトネは刀でマンティスの鎌を受け、流れるように付け根へ刃を届かせる。
 うっすらとだが、刀の刃が光を纏っていた。
 光属性の魔術によって切れ味を高めている。
 さらに――

旋光(せんこう)!」

 斬撃が光をそのまま纏い、マンティスの胴体を斬り裂いた。
 あれこそシトネが独自に編み出した術式。
 光を斬撃として飛ばしたり、鞭のようにしならせて攻撃したりできる。
 彼女自身の剣技と合わせれば、どんな敵にも対応可能という汎用性の高い術式だ。

「倒したよ!」
「こっちも終わった。さすがだな、シトネ」
「えっへへ~」

 俺が褒めると、シトネは嬉しそうに尻尾を振る。
 パチンとハイタッチした様子も、クラスメイトは見ているのだろうか。