罪人となったルフスは、王国の役人に連行されていった。
残された両親はその責任を取らせられることになる。
彼の家も相当な名家だったようだが、これで家の名に大きな傷がついただろう。
一時の感情に任せると、身を亡ぼすといういい例だ。
その数時間ほど前に遡る。
路地で倒れている暗殺者たちは、まだ死んではいない。
気絶した彼らの額に触れ、情報を読み取る。
干渉魔術と言って、極めて特殊な属性魔術の一つだ。
「うむ、わかったぞ」
「どうでしたか?」
「君が予想した通りじゃよ」
「そうですか」
ここ最近の出来事を振り返っても、恨みをかうなら彼だからな。
予想通りとは言え、何だか複雑な気分だ。
「この者たちはワシの部下に任せよう。リンテンス君はワシと一緒に、雇い主の元へ行くとしようかのう」
「え、はい。ありがとうございます」
この人の名前はナベリウス・セロト。
サルマーニュ魔術学校のトップにして、数々の聖域者を育てた師でもある。
かくいう師匠も、この人から魔術を学んだとか。
話には聞いていたけど、会うのがこれが初めてだ。
ちょっと緊張するな。
「でも、学校長がどうしてこんな場所に?」
「なに、アルフォースからお願いされてのう。弟子に悪い虫がついておるから、何とかしてくれと」
「師匠が?」
「そうじゃ。自分が出て行くと余計ややこしくなるからと言ってな」
そうだったのか。
師匠はこの件に関して……
「ボクは狙われてないし、君に任せるよ~」
とか心無いことを言っていた癖に。
何だかんだで、俺のことを心配してくれていたのか。
よし、夕飯は肉も入れよう。
「さぁ行こうか」
「はい」
そうしてルフスの家に向い、先に父親に話を通した。
後はすでに見た通りの結末だ。
それから俺は、校長先生に連れられ、校長室に案内された。
歴代の校長の絵が飾られていて、奥には偉い人が座る椅子と机がある。
俺は手前の向かいあったソファーに座り、学校先生が対面に座る。
「いや、すまんのう。大変な出来事があった後だというのに」
「そんな、大したことはなかったですから」
「ほっほっほっ! あの手練れを相手にその感想とは。さすがアルフォースが弟子にとっただけのことはあるのう」
この言い方……もしかして途中から見ていたのか。
俺の感知には引っかからなかったし、師匠みたいに千里眼でも持っているのかな。
校長先生は紅茶をずずっとのみ、カップを置いて俺を見る。
「実はのう。君とは一度、こうして話してみたいと思っておったのじゃ」
「そうだったんですね。俺も、校長先生とは話してみたいなと思っていました」
「ほう、そうじゃったのか?」
「はい。師匠の師匠だった人ですから」
彼は生涯に三人の聖域者を育てている。
うち一人が俺の師匠アルフォース・ギフトレン。
現代最高の魔術師を育てた人だ。
どんな人なのかと、ずっと興味があった。
「ほっほっほっ! 何もワシが凄いわけではない。アルフォースを含め、彼らが努力した結果じゃ」
などと謙遜しているが、彼の指導は大きい。
偶然で三人も聖域者になることはあり得ないからな。
魔術師を育てることに関しては、この人より優れた指導者はいないだろう。
「師匠も呼べばよかったですね」
「いや~ あやつは呼んでも来んじゃろう」
「えっ、どうしてです?」
「君も聞いておるじゃろ? あやつはワシのことを何と言っておった」
そう尋ねられて、納得した。
「見た目は優しそうに見えるけど、中身は鬼か悪魔だ……と」
「ほっ! あやつめ変わらず悪態をつきおって。今回の連絡も顔を見せず、一方的な通信のみじゃったからのう」
それはたぶん、顔を見合わせると説教が始まるからだと思います……
師匠のスパルタは、この人譲りなのでは?
とか思いながら、俺は乾いた笑いを見せる。
すると、校長先生は不意に切なげな表情を見せ、改まって俺に尋ねてくる。
「アルフォースは元気かのう?」
「はい。元気だと思いますよ」
「そうか」
何だか深みのある声色だった。
しみじみと思い出にふけっているようにも見える。
もしかすると、師匠とこの人の間では、他にも色々とあったのかもしれない。
「あーそうじゃった。リンテンス君、合格おめでとう」
「ありがとうございます」
「素晴らしい成績じゃったな。首席とも僅かな差であったが、今年の一年生は粒ぞろいじゃ。一緒に居った先祖返りの女の子ものう」
「シトネですか? ええ、独学であそこまで鍛え上げるなんてすごいですよ」
「ほう! 独学じゃったのか! なればこの先もっと伸びるのう」
校長先生は楽しそうに語っていた。
シトネのことも褒めているし、偏見とかはなさそうでホッとする。
当たり前か。
師匠の師匠なんだから。
「さて、君はこれから大変じゃな。他の者たちよりも、道は過酷じゃろう」
「はい。わかった上でここに来ましたから」
「弟子の弟子だからと言って、贔屓するつもりはないからのう?」
「わかっています。俺は自分の力で、聖域者まで上り詰めて見せますよ」
「ほっほっ! 期待しておるぞ」
夜の対談はこうして終わる。
ハプニングがきっかけで、思いがけず嬉しい時間が過ごせたな。
まぁもっとも……屋敷でお腹を空かせている師匠のことは、途中まで忘れていたのだけど。
残された両親はその責任を取らせられることになる。
彼の家も相当な名家だったようだが、これで家の名に大きな傷がついただろう。
一時の感情に任せると、身を亡ぼすといういい例だ。
その数時間ほど前に遡る。
路地で倒れている暗殺者たちは、まだ死んではいない。
気絶した彼らの額に触れ、情報を読み取る。
干渉魔術と言って、極めて特殊な属性魔術の一つだ。
「うむ、わかったぞ」
「どうでしたか?」
「君が予想した通りじゃよ」
「そうですか」
ここ最近の出来事を振り返っても、恨みをかうなら彼だからな。
予想通りとは言え、何だか複雑な気分だ。
「この者たちはワシの部下に任せよう。リンテンス君はワシと一緒に、雇い主の元へ行くとしようかのう」
「え、はい。ありがとうございます」
この人の名前はナベリウス・セロト。
サルマーニュ魔術学校のトップにして、数々の聖域者を育てた師でもある。
かくいう師匠も、この人から魔術を学んだとか。
話には聞いていたけど、会うのがこれが初めてだ。
ちょっと緊張するな。
「でも、学校長がどうしてこんな場所に?」
「なに、アルフォースからお願いされてのう。弟子に悪い虫がついておるから、何とかしてくれと」
「師匠が?」
「そうじゃ。自分が出て行くと余計ややこしくなるからと言ってな」
そうだったのか。
師匠はこの件に関して……
「ボクは狙われてないし、君に任せるよ~」
とか心無いことを言っていた癖に。
何だかんだで、俺のことを心配してくれていたのか。
よし、夕飯は肉も入れよう。
「さぁ行こうか」
「はい」
そうしてルフスの家に向い、先に父親に話を通した。
後はすでに見た通りの結末だ。
それから俺は、校長先生に連れられ、校長室に案内された。
歴代の校長の絵が飾られていて、奥には偉い人が座る椅子と机がある。
俺は手前の向かいあったソファーに座り、学校先生が対面に座る。
「いや、すまんのう。大変な出来事があった後だというのに」
「そんな、大したことはなかったですから」
「ほっほっほっ! あの手練れを相手にその感想とは。さすがアルフォースが弟子にとっただけのことはあるのう」
この言い方……もしかして途中から見ていたのか。
俺の感知には引っかからなかったし、師匠みたいに千里眼でも持っているのかな。
校長先生は紅茶をずずっとのみ、カップを置いて俺を見る。
「実はのう。君とは一度、こうして話してみたいと思っておったのじゃ」
「そうだったんですね。俺も、校長先生とは話してみたいなと思っていました」
「ほう、そうじゃったのか?」
「はい。師匠の師匠だった人ですから」
彼は生涯に三人の聖域者を育てている。
うち一人が俺の師匠アルフォース・ギフトレン。
現代最高の魔術師を育てた人だ。
どんな人なのかと、ずっと興味があった。
「ほっほっほっ! 何もワシが凄いわけではない。アルフォースを含め、彼らが努力した結果じゃ」
などと謙遜しているが、彼の指導は大きい。
偶然で三人も聖域者になることはあり得ないからな。
魔術師を育てることに関しては、この人より優れた指導者はいないだろう。
「師匠も呼べばよかったですね」
「いや~ あやつは呼んでも来んじゃろう」
「えっ、どうしてです?」
「君も聞いておるじゃろ? あやつはワシのことを何と言っておった」
そう尋ねられて、納得した。
「見た目は優しそうに見えるけど、中身は鬼か悪魔だ……と」
「ほっ! あやつめ変わらず悪態をつきおって。今回の連絡も顔を見せず、一方的な通信のみじゃったからのう」
それはたぶん、顔を見合わせると説教が始まるからだと思います……
師匠のスパルタは、この人譲りなのでは?
とか思いながら、俺は乾いた笑いを見せる。
すると、校長先生は不意に切なげな表情を見せ、改まって俺に尋ねてくる。
「アルフォースは元気かのう?」
「はい。元気だと思いますよ」
「そうか」
何だか深みのある声色だった。
しみじみと思い出にふけっているようにも見える。
もしかすると、師匠とこの人の間では、他にも色々とあったのかもしれない。
「あーそうじゃった。リンテンス君、合格おめでとう」
「ありがとうございます」
「素晴らしい成績じゃったな。首席とも僅かな差であったが、今年の一年生は粒ぞろいじゃ。一緒に居った先祖返りの女の子ものう」
「シトネですか? ええ、独学であそこまで鍛え上げるなんてすごいですよ」
「ほう! 独学じゃったのか! なればこの先もっと伸びるのう」
校長先生は楽しそうに語っていた。
シトネのことも褒めているし、偏見とかはなさそうでホッとする。
当たり前か。
師匠の師匠なんだから。
「さて、君はこれから大変じゃな。他の者たちよりも、道は過酷じゃろう」
「はい。わかった上でここに来ましたから」
「弟子の弟子だからと言って、贔屓するつもりはないからのう?」
「わかっています。俺は自分の力で、聖域者まで上り詰めて見せますよ」
「ほっほっ! 期待しておるぞ」
夜の対談はこうして終わる。
ハプニングがきっかけで、思いがけず嬉しい時間が過ごせたな。
まぁもっとも……屋敷でお腹を空かせている師匠のことは、途中まで忘れていたのだけど。