ヒルズビレッジは、
旧財閥家が所有する
4つのエリアに 分かれた
都市区画。

アサミが勤務する
オフィスタワーの 向かいには、
リュクスな総合病院、
巨大な ホスピタルセンター
がある。

国内でも トップクラスの
外科チームがいる
ハイスタンダードな
総合医療機関で全室完全個室。

最高のホスピタリティーで
ホテル並みのサービスを誇る。

セレブなレジデンス住人基準
の為か、
病院食でさえ、
高級なコースメニューと
噂されるって、ケイトウが
前に話していたけど。

こんなところにさ、
入院でもしたらよ、幾ら払うか
わたしなんて、戦々恐々よ。

アサミは、執事姿のヤマモリに
連れられて、
院内の VIPフロアにまで
来ている。

このフロアは、廊下でさえ、
ホテル内装で、1つのドアを
入って 更に驚いた。

「病室というより、住めそう」

すぐにベッドがあるわけなく、
部屋にはバストイレ、
キッチンダイニング完備で、
ソファーセットの向こうに
大きめの 患者ベッドが
見えて、
チーク材のサイドテーブルに
肘を付く、褐色のマジシャンが
体を起こしていた。

「すごい、防弾ガラス」

オフィス並に大きい窓から見える
向かいの日本庭園を眺めて
アサミが コンコンと
ガラスを小突いた。

本当にさ、国賓クラス対応が
出来る病院だよ。

ベットを見直せば、

黒の前髪はボサボサに
降りていたけど

高かそうな、濃紺シルク地に
切り返しショール襟と、
袖が カフデザインされた、
艶やっぽいショートガウンの
ルームウエア。

眼鏡のない ケイが、
ニコニコしている。

そんなウエア
売ってるんだーー。
で、ケイって 似合うんだーー。

どーでもイイコトを思うぐらい
色気があってさ、
気が 遠くなるよ。

「アサミのお陰で、この国が誇る
ハイクラスな、Medical testを
体験できた。アバラにヒビだ。」

ウソ!!スゴい嫌みでさ
さらに意識が、ぶっ飛ぶ。

「それは、申し訳ない、です。
すいません、でした、ケイ」


隣で、やり取りを
聞いてる、ヤマモリさんがさ、
何とも言えない顔してるよ。
ひいぃ。

「アサミ、謝罪だが、「あの、
いくらかかりますか!慰謝料!
なんとか、します!」」

ケイの言葉に、アサミが
被せるように 遮る内容を聞いて

「費用は、、スポンサーがいる。
Do not worryだ。が、スムーズに
動けない。アサミのサポートが
欲しい。そうだAssistanceだな」

気だるそうな雰囲気を、匂わせて
ケイが 続ける。

「マジックのサポート、やり
ます。器用じゃ、ないですけど」

派手な事じゃなければと、
アサミが 決意するのを見て
さっきの表情を 崩して
ケイと、ヤマモリが 噴き出した。

何?変なことさ、わたし
言ってる?

「タムラさん。さすがに、
マジック助手は、主もさせない
でしょう。ヒビの治療は、コル
セット固定による安静と、痛み
止め薬だけですので、主は、
レジデンスのペントハウスにて
静養されます。そちらに、お越し
頂きたく、存じます。それでは」

まだ、愉快そうな
口元を隠しながら、
手続きをしに行くと、
ヤマモリが 出て行きかけた。

アサミは、サッと引き止め、
メモを、書いて渡す。

今度は、
ヤマモリの片眉が上がる。

「合わせて、少々電話を掛けて
参ります。タムラさん、主を
お願いして宜しいでしょうか?」

まるで
何もなかった様にさ、執事姿の
ヤマモリさんは、
ケイに、承諾を取って
今度こそ部屋から消えたよ。

今日さ、、決まった
イベントの日付だよ。察し、
たよね。

「アサミ、喉が渇いた。」

ヤマモリさんがさ、
消えたドアをね
ぼーっと眺めてたらさ
ケイが早速
2人きりを、利用してきた。

「お水いれます。」

仕方ない。

アサミは観念して、
ベットテーブルの 蘭の横に
あった
水差しから コップに
水を注いで、ケイの前、
距離をとりつつ
サイドテーブルに置いた。

吸い口ではないから、
手で持てるんだろうと、
思ってたら

コップを手にした途端に、
ケイが
「うっ」
と呻いて、 胸下を抑える。

「ケイ!大丈夫!ごめん、そんな
に痛むの?!一体何本ヒビいっ」

慌てて
ケイの胸元と、背中に
手を当てて、ケイの痛がる
場所をさすろうとする

アサミの片手が
ケイに、取られ。た。

グイッと引き寄せられて、

「アサミは、High defenseなのか
Un protected か、わからないぞ」

ケイは アサミの
頬を撫で上げて、
取った
手に 薄い唇を落とす。

ほんの数秒の時間。なのに
身体中に 熱が廻るような
感覚に、
アサミは 固まってしまった。

こんな奴だって解って
警戒した
矢先だったのに!

本当にさ、この人、誰だよ!

挙げ句、指を舐め上げ
られるって、、

「とんださ、ケガ人ですよね!」

手を、思いっきり 振り放して、
取られた手を 隠すように
してたのに、

また伸ばされた、ケイの手が
アサミの耳に掛かる。

うっ。

アサミは そのまま部屋から、
一目散に 逃げた。

怪我人じゃなきゃ、思っ切り
足を踏み抜いてるよ!
そう、きっと、そう!

アサミは、
異常に上がった 自分の息を
廊下で なんとか落ち着けて、
病院離れした
VIPルームフロアの廊下を
とにかく 外に出ようと
足早に歩いた。

普通の病院なら 人も多いだろうに
このフロアは、
静かで、人にも出会わない。

本当、何かあっても 誰かが
来そうにないよ!もうう。

ヤマモリさんに連れられてさ、
きたけど、なんだか広いフロア。
でも確か、
エレベーターは こっちだよね。

アサミが
見つけたエレベーターは、
丁度上がってきた事を知らせる
ランプの点滅が見える。

アサミは、急いで
扉の前に立つ。

スッと開いた、扉の向こうに、

カサブランカの花が立って
いた。かのように、
豪華な花束をたおやかに
抱える
柔らかなムースグリーンの
着物が、目に入る。

この人。

入れ違い
横切る ハーフアップヘアはさ、
間違いようない。
モールで
ケイと歩いていた令嬢だよ。

エレベーターから、

歩いて行く先を
見つめれば、
さっき自分が 飛び出してきた
部屋のドアに、ノックを
礼儀程度にして
入る、令嬢の横顔が

見て取れて、

さっきの部屋で
ベットテーブルに生けられた
蘭の花達を
アサミは思い出した。

エレベーターが
閉まると、まだ
さっきのカサブランカの花束。
その華やかな薫りが残っていて、

何故か悲しくなって
気分が悪くなってしまった。

通り過ぎるフロアナンバー。

わたしは、あの令嬢が
羨ましくて、泣けるのか、

それともさ、
ケイにね、
翻弄されて泣けるのか?。

出来るなら、
契約を強制終了したかった、
なのにさ
介助しなちゃ
いけなくなった事に
わたしは、泣いてる?

解らないよ。

考えたら、あの令嬢が
ケイの事をさ、
甲斐甲斐しく
介助するんじゃないの?

それで、いいんじゃないの?

なんだか、自分が
わからなくなって
ようやく 医療センターの外に
でれた。

はあーーー息が出来る。
そう安心したら、

白い羽ばたきが 頭上でして、
スノーホワイト。
オカメインコ『ティカ』が
頭を傾げて、
わたしの肩に止まった。

小さな頭を撫でるとさ、
擦り寄せる仕草に、
ササクレた気持ちが
柔らかくなるよ。

明日ティカを、
連れて行くのを理由に
レジデンスに
行く自分を見つけて

わたしは 自分に驚いてしまった。