桜ヶ丘(さくらがおか)高校。

そこの高校二年生になる今日という日。
窓から見える桜は、半分以上散っている。

始業式が始まる前の教室で、私、七桜詩織(ななざくらしおり)は、自分の机を見てため息をついた。
机の上には一枚の紙。

『組長』『薬中』『人殺し』──。

心ない言葉がこれでもかと連なっている。

──私は、ウチは、『七桜(ななざくら)組』は、そんなんじゃないもん。

心の中で一人つぶやく。

察した方もいるかもしれないが、私の家はヤクザである。名は『七桜組』。そして、私はそこの一人娘にあたる。

それは動かぬ事実だ。

…今、私のこと『ヤベェ人』って認識した人。違うから。
『七桜組』は『ヤベェ組』ではない。殺しも薬も御法度の健全な組だし、街の平和を支える正義の味方みたいなもの!

…でも、そのことを知ってる人は少なかったりする。

だから、こういうイジメもどきは日常茶飯事だ。
慣れてるし、してくる人は一部だから、別にいいんだけど、高校生にもなってよく飽きないねとは思う。

イジメもどきに慣れているというところから分かる通り、私自身、今の家に生まれたことに後悔はない。
ただ、私の家庭環境、そして、両親からの遺伝で真っ白な髪と真っ赤な瞳を人々は恐れていて、友達が一人もいたことがないのはちょっぴり悲しい。

「お嬢。大丈夫ですか?」

いつまでも先に座らない私に、二代目ボディガード、同級生の松浦葵(まつうらあおい)が声をかける。
葵は、顔がいい、家事もできる、格闘技も完璧の三拍子。
私に近づく男にうるさいお父さんも葵だけは許している。
この人がいるのも私が目立つ要因だろうな…。
というか、友達はいないのにボディガードはいる。どんな皮肉だ?

「平気だけど…。お嬢って人前で呼ぶのやめてって。これで何回目よ…。」

「あ!すみません!つい癖で…。」

頭をかく葵も悔しいが様になっている。
今年も、葵関連でも、こういうイジメもどきをされるんだろうなぁ…。『葵くんから離れろ!』とか。
まぁ、そこも去年通りなんだけど。

…こんな普通とは言い難い私の日常だからこそ、普通の高校生活というものに憧れはしてみたりする。
そして、それは絶対に叶わないことにもどかしさを感じ、私はため息をつくのだ。