「うん。他には?」

「旨味の元である心白(しんぱく)が大きいこと。たんぱく質が少ないこと。吸水性、糖化性がいいことです」

「そげだな。たんぱく質が雑味の原因になるけん、たんぱく質は少ないほうがええ。吸水性は?」

「理想的な蒸し米は外硬内軟です。中まで吸水されることで内側が柔らかくなります」

「柔らかいとどうええんだ?」

「麹菌が繁殖しやすくなります」

「糖化性は?」

「酒母を管理しやすくするためです。大量の米を発酵させるには酵母を培養しなければなりません。糖化がスムーズに進めばそれだけ管理が楽になるともいえます」

「よう勉強しちょるの。実際には教科書どおりにいかんこともあるがな…」

「あくまでも無知なままでいるよりは知っているほうがいいと思って勉強しただけです。現場の仕事に慣れるのが一番大切だと思ってます」

親方は俺の意見を聞いても黙ったままだ。
何か、まずいことを言ってしまったのだろうか?
でも俺が嘘を吐いたとしても。
この人には見抜かれてしまう、と思う。
それなら本音を語るべきだとも、思う。

本音が親方の意向と合わないと思われるなら。
仕方ない。
飾った自分なんて無意味だ。
素の俺自身を見てもらわなくては。