差し出された作業着を手に取ってみる。
その重みに比例して責任感もいや増してくる。

「サイズは大丈夫だと思うが」

「はい」

「アンタ、日本酒は少しだけ勉強したと言ってたが?」

「はい…。本当に基本的なことだけですが…」

「原料や製造工程なんかか?」

「そうですね。それと…一年かけて大切に丁寧に造られる日本酒に懸ける皆さんの情熱には感動しました。でき上がるまではほとんど休みがなかったり早朝から蔵に入ったり…」

「そげだな…。今は昔ほどではないが…思うように進まん時は寝ずに見守るちゅうこともある」

「それだけの苦労を経て酒が完成したら…感激すると思います」

「毎年同じように造っているつもりでも、気候が違えばできる酒米が違う。酒米が違えば仕込む水の量もなんもかんも、そのときの米に合わせて変えないけん。そいでも酒の味はまったく同じにはならんけんの。微調整が必要になるんじゃ。それから酵母も同じだ。温度や湿度の変化が命取りになるけんの」

「本当に奥深いと思いました」

「…まずは…酒を作る人間の思いを知る。アンタはそれについては合格だの」

「えっ?」

「酒造りで一番大切なのは作り手の心だ。愛する我が子のように慈しんで育てにゃならん。酒に対する愛情がなけにゃええ酒は造れん」

きっと娘に向ける愛情のように。
この人は酒を愛し、造り続けてきたのだろう。