「ここデスヨ」
 クリスティーンは隣の家の前に三人の日本人を案内した。家の前でどうしたものかと手をこまねいていると、
「ワッツ?」
 家の主であろうご婦人が、家から出てきた。その流暢な英語を聞いたナカさんとおユキちゃんはすくみ上がってしまう。ミケ太を救うと息巻いていた威勢はどこへやら、急に借りてきた猫のようにおとなしい。そんな二人に成り代わって、作太郎が流暢な英語でこの家の者と会話をする。
「ミケ太?」
「そ、そうや! ミケ太や! あんた、ミケ太、知らんか?」
 外国人の放った『ミケ太』と言う単語にとりあえず反応したナカさんだったが、その言葉が通じている訳もなく、異人のご婦人は眉根を寄せている。
「ナカさん、ナカさん。この家の猫は、ミケ太とは違うみたいだよ」
 苦笑しながら言う作太郎に、ナカさんはそんな訳あるか! と息巻いている。
「中、見せてもろてもいい?」
「えっ? ナカさん、それはいくらなんでも強引じゃありませんのっ?」
「おユキちゃん。怖かったら、ここで待っててえぇんやで」
 ナカさんの言葉におユキちゃんの表情がこわばる。この人なら、きっとやりかねない。異人さんの家だろうが、勝手に上がり込んでしまうだろう。
 どうしたものかと考えている時だった。
「何事だい?」
「マーク!」
 隣の家から一人の紳士が、騒ぎを聞きつけてやってきた。その紳士こそ、クリスティーンの夫のマークである。キッチリと燕尾服に身を包んだその紳士然としたマークは、隣のご婦人とクリスティーンから事情を聞いた。
「なぁ、兄ちゃん。何か心当たりあるか?」
 ナカさんの言葉に、マークは心なしか顔色が青ざめているように見える。これは何かあると踏んだおユキちゃんが、
「マークさん。何かご存知ですのね?」
 鋭く切り込むと、マークはぐっと言葉に詰まった。そして、
「こ、ここではなんだから、ワタシの家で話しましょう」
 そう流暢な日本語で言うと、クリスティーンとマークの家へと三人の日本人を招待するのだった。