「覚えてる? 私が小さいころ、おばあちゃんによくデパートに連れていってもらったでしょ。そこで食べるお子様ランチが大好きだったんだ。昨日おばあちゃんに会ったら急に思い出してさ。なんか再現したくなっちゃった」
「覚えてるさ。四葉はいつも、私にお子様ランチを分けてくれたんだよ」
「そうだったね! なつかしいなあ」

 藤子さんの声と、お皿を持つ手がかすかに震えていることに、四葉さんは気づいていない。

「あの……、聞いてもいいですか? 四葉さんだってお子様ランチが好きだったはずなのに、どうしていつもシェアしていたんですか?」

 昨日藤子さんの話を聞いたときに不思議だったことを、四葉さんにたずねてみた。藤子さんは、『自分がよっぽどうらやましそうにしていたから気遣ってくれた』と言っていたけれど、藤子さんは家族の前でも本心を隠す人みたいだし、そんな人のわずかな変化に子どもの四葉さんが気づくだろうか。

 私の質問に、四葉さんは照れたように頬をかいた。

「だって、おいしいものは大好きな人にも食べてほしいじゃない。あのころの私の〝おいしいもの〟の最上級がお子様ランチだったから、おいしさをおばあちゃんと共有したかったんだと思うな」

 へへ、とはにかむような笑顔。私たちが考えていたよりもずっと単純で、もっと愛情にあふれていた答え。

 それを聞いた藤子さんの顔は、泣くのを我慢しているように赤く険しくなっている。

「あ、大事なものが足りなかったね。なにか、代わりになるものはないかな……」

 きょろきょろ周りを見回していた四葉さんが「あ、そうだ」と言って自分のつけていた花冠を取る。そこから威勢よくぶちっと、一本の花を引き抜いた。

 ど、どういうこと? 四葉さんの奇行に、私たちは呆気にとられて呼吸を忘れた。

「な、な、なにやってるんだい」

 泣きそうになっていたところにそんなことをされて、藤子さんの感情はパンク状態だ。四葉さんはお子様ランチの皿に顔と手を寄せてなにかをしている。