「煮イカです。イカ焼きは売っていたのに見当たらなくて」
「煮イカって……ジャガイモを入れて作る煮物のこと? 屋台で売ってるものなの?」

 響さんはキュウリを上品にかじりながら首をかしげる。

「いえ、それではなくて……。丸々一杯のイカを煮たものなんです。食紅で色づけしてあるから、赤い色をしているんですよ」

 酢イカのような鮮やかな赤色をした、あっさりしょうゆ味が恋しい。ビニール袋に入って、単品のものと三杯ひと袋のものが売っていて、母と夏祭りに行ったときは三杯セットを分けて食べたっけ。

「赤いイカ……? うーん、私はイカ焼きしか知らないわね」
「そうなんですか。私は夏祭りでよく買っていたんですけど」

 知らない人もいるんだなあと驚いていると、一心さんはさらに驚くような事実を口にした。

「響が知らないのも無理はない。煮イカはご当地グルメだからな」
「え、そうなんですか!?」
「確か、茨城と……あとは栃木くらいじゃなかったか。煮イカが祭りで売られているのは」

 なんだかカルチャーショックだ。一心さんの料理の知識が屋台メニューにまで及んでいることもびっくりだけど。

「全然知りませんでした……。人気の屋台メニューだったし、全国的に有名だとばかり。それなら、見つからないはずですよね」
「煮イカが食べたいなら、今度まかないで作ってやる。俺は食べたことがないから、屋台の味にはならないかもしれないが」
「えっ、本当ですか?」
「まあ、こういうのは祭りで食べるからいいんだと思うが」
「そんなことないです。うれしいです!」

 はしゃいだ声を出すと、響さんとミャオちゃんがじっとこちらを見ていた。観察するような視線は、私の一心さんへの気持ちが見透かされているようで居心地が悪い。響さんはともかく、ミャオちゃんも朝からなんだかおかしい。なんなのだろう、一体。