「一心、もっとやれ」
「両思いだったんだから、男を見せなさいよっ!」

 ミャオちゃんと響さんは、応援をしてるのかジャマをしているのか、やいやいとヤジを飛ばしてくる。

 一心さんは、ふう、と息をついて、三角巾を外した。

「あいつらが見ている前なのが癪だが……。おむすび」
「は、はい」

 一心さんが大きく前に一歩踏み出して、板前服の胸元が近づいたと思うと、視界がそれしか見えなくなった。

 背中に感じる、一心さんの腕の感触。聞こえてくる、一心さんの胸の鼓動。

 私、今、一心さんに抱きしめられてる。

 やっとこの、あったかい場所にたどり着いた。もうずっとこの腕を離さない。
 まぶたが熱くなるのを感じながら、私も一心さんの背中に腕をまわした。

「おむすび、すまない。さっき、ちゃんと伝え忘れていた」

 一心さんの胸に顔をうずめたまま、耳元でささやかれる。

「えっ?」
「好きだ」

 ぎゅうっと、抱きしめられている腕に力がこもる。こぼれて止まらない涙で、一心さんの板前服を濡らしてしまう。

 初めてこころ食堂に来たあの日から、一年半。あのときはこんな幸せな未来なんて、予想できなかった。まるでおとぎ話みたいなハッピーエンド。

「――はい」

 私がやっとのことで返事をすると、ミャオちゃんと響さんの歓声が、遠くから聞こえた。