無我夢中に走っていたら校舎裏まで来ていた。
校舎の壁に背中をつけ、ずるずるとへたりこむ。手のひらが湿っぽい。ペットボトルを持ったままだった。水滴が手首を伝い、身震いする。
「……もうやだ……」
好きだった。
たしかに好きだったのに。
リョクくんとケイちゃんがキスしてたから? たった一瞬でこんなにも苦しくなるの?
「ねえ」
うずくまっていると、頭上から低音が降ってきた。ヒュッ、と息をのむ。
……ちがう。この声はリョクくんのじゃない。
ためらいがちに視線だけ上げていく。
「体調、微妙じゃなくなった?」
「え」
目の前にいたのはノブくんだった。
どうしてここに?
ぱちくりとまばたきをするだけのわたしに、ノブくんは目線を合わせるようにしゃがみこむ。
「もっと悪くなった?」
「……う、ううん、別に、」
「ほんと?」
「……お茶、ありがと」
話を強引にそらした。
そもそもこれは体調がどうとかの問題ではない。
今は考えたくない。頭を空っぽにしたい。
「これわたしの好きなやつなの」
「ん、きーた」
「?」
聞いたって誰に……って、話したとすればケイちゃんしかいないか。
会話に困ったのか知らないが、見知らぬ女子の話題を出して困らせただろうに。
「飲めば?」
「え……う、うん」
混乱しながらも、言われるがままペットボトルのふたを開ける。泡立った液体をひと口流し入れ、胃の中のモヤモヤを鎮めていく。