何度目かの 終戦記念日。
旅人、ハジメは、
『ゲッセマネの園』の場所を
とうとう 知れたのだった。
第二次世界大戦終了あたりまで、
日本は長く 結核菌に
悩まされてきた。
結核は
『国民病・亡国病』とまで
今も 言われている。
飛沫や、空気中感染で、
長らくワクチンがなかった。
肺結核のイメージが 強いが
実は全身が 病床になる。
免疫細胞に 巣くうから
たまったもんじゃない。
骨の結核が、カリエスだ。
エジプトのミイラや、
弥生時代の骨からも 結核跡
カリエスが
発見され、
キリストの生きた時代も
貴族が 多くかかっている。
集団感染で、クラスターが
発生すると手が付けられない。
まさに 亡国の病だ。
人間だけでなく、
動物にも巣くう。
戦場での 厳しい徴兵にあって、
結核だけは、入念に検査
されていたほど。
そして、湿度を好むこの菌は、
日本の歴史に長く
疫災として
蹂躙してきた。
反対に
ペストは明治に開国と共に
港から広まった
外来菌病なのだ。
結核。
10世帯に1人は発病。
人口の1/3は 潜伏させている。
免疫がおちれば、
いつ、誰がなるか わからない。
それは、現代でも同じで。
ワクチンが
開発されてからは、
BCG接種を 国民は 幼少期に
受けるのだ。
ワクチン開発までの
手立ては、
サナトリウムでの静養しか
されなかった。
全国でも、海洋地域や、
高原地域に、サナトリウムは
戦前から作られてる。
湘南などは、
『サナトリウム銀座』と、
12もの私設サナトリウムが
あった。
潤沢な資金を持つ患者や、
そのようなパトロンが
いる患者が
多く 静養し、
その文学さえ生まれた。
サナトリウムが、その使命を
終わらせた 後に
リゾートホテルへ変容
しているのは、
いかに、『金食い病』
それらのサナトリウムが
豪奢か 想像できる。
そんな中に、異なる色、
公設サナトリウムが大阪に。
そして、
この島には、教会と併設して
あった。
もともと島に
患者を受け入れる
民宿が 昔からあった言うから
驚きだ。
隔離さえ、本土で行われるにも
関わらずの風評時に。
特攻警察に
監視され続けた
サナトリウム。
賢人と呼ばれた人が、
幽閉のごとくいた場所。
ハジメの目の前には、
もう 建物としては
機能していない
廃材の塊が あるだけだ。
考えれば
監視される この場所で
世界への平和や、
終戦の祈りを
捧げるのは
難しい。
ハジメは、さらに
雑木林へと 足を進める。
副女に注意された、
虫除けを たんまり
スプレーをする。
珍しく 強い臭いのする
虫除けに、
ふと、『センダン』の葉は
強い虫除けや、
漁毒としてモリに
付ける事を 思い出した。
ウイルスにもきくとかとも。
パタパタと、虫除けを
扇いで 乾かす。
そのまま、
獣道になる雑木林を
進む。
賢人は 密やか
朝早くに、
サナトリウムを 出て、
裏の稜線を 行っていた。
その先に
気持ち 開けているような
場所。
とわいえ、笹や木々が
鬱蒼としている。
時間の流れを感じるほどに。
その中に、
ひときわ、存在感を主張する
南国の巨木。
見つけた、、、
ハジメは、
その左右に大きく張り出した
針のような 葉っぱを
眺める。
この木が目印。
旅人ハジメは ようやく
『ゲッセマネの園』に着いた。
ここが、かの賢人が、
拓いた
グリーンチャペル。
それは、
建物のない、
ただ 青空の下、植物を整え、
丸太を椅子にするような
祈り場。
この場所に立つ。
不覚にも
沢山の人と、賢人の
祈りが染み込んでいると、
感じ
肌が 粟立つような、これは、
ふわり、
虫除けの センダンの 香り。
ああ、
どこだったか、
センダンは 獄門の首を
その木に指す木でも
あったはず。
どこか、
疫は人類の贖罪を 陰に
感じる。
旅人 ハジメは ぶるりと
足元から背中に抜けるような
感じを受けて、
ゾワゾワと 震えてしまった。
『すぐに、場所はわかるよ。
フェニックスが トーテムポール
みたいに 直下たってるから。』
どうして、彼女は
あんな原始的シンボルを
口にしたのか。
副女の声のままに、
『ゲッセマネの園』には
不死鳥から 名前をとられた
ナツメヤシ。
燃える火の中から
生まれ変わる 伝説の鳥に
なぞってつけられた名前。
キリスト教の復活の木。
フェニックスが
植えられていた。
「まるで、大きな存在が
ずっと、僕を 見つめている」
旅人ハジメは、
島の 青空の下
鬱蒼とした雑木林の
祈り場で
その手を組み、囁く。
「アーメン。」
「ハレルヤ。」
そして、
胸に手を当てて
感じてみる。
僕、旅人は、どうして
ここに来たのでしょうか?
わかるのかを
旅人、僕に問う。
ユキノジョウは、
サイコーに気分が 良かった!
きっとまだ 2ケタになった
ばかりの人生だけど、
1番 キゲンがいい!!
デッカイヨットの ジャグジーに
ユリと 2人で 遊んでる!!
これって、セレブってやつだ!
きっと、
こんな 夏休み、
あのギインジュニアの
『シンギ』だって、
出来ない はずだぞ!
ざまぁみろ。
ハジメさんのとこの
美人スタッフの、ヨミさんも
大人未来のユリ似シオンさんも
ジャグジーに
ふざけてだけど、
レモンと花を 入れてくれて、
今度は ジャグジーバブルの
素を 探してきてくれた。
初アワアワ風呂だぞ!
母親達は、
ヨットの シャワーと 水着を
ハジメさん達にかりて、
図々しいけど
洋服を 洗濯まで
してもらってる。
しかも、
だ、水着パーティーだとか言って
ヨットんジャグジーのとこで、
大人女子で ケーキスタンドとか
いう、やつに
果物んとか、ちっさいケーキと
サンドイッチを
バカスカ食ってる。
「やっぱり アコちゃん
来たら、よかったね。」
1度、ジャグジーを止めて、
ユリが バブルの素を入れる前に
レモンと花を すくってる。
アコ?すっかり忘れてた。
「んー。そうかも。けど、アコも
今ごろ 海かもだし いいって。」
オレも、ユリを
手伝ったから 全部
レモンと 花をすくえたな。
じゃ、バブルの素いれるぞ。
大人女子ってのは、
スイーツがあれば、
たいていすぐ
仲良く出来るらしい。
オラオラで
シャンパン開けるとかって、
母親達と、お姉さん達は
キャーキャーいって
くっちゃべり
まくってる。
何話してんだか だな。
ろくでないぞ。きっと。
「あ、ユキくん、入れすぎ。」
しまった。よそ見してた。
「え!もう入れたから、ムリ」
ヨミさんに、袋の1/3だけで
十分足りるって いわれてたっけ。
「いいや、ユリこれでやろう!」
すぐ横にある、ボタンが
ジャグジーボタンだって。
こいつを、ON!!
『ボコボコボコボコボコボコ』
みるみる、ジャグジーが
細かいアワアワを作ってくぞ。
すげー!!キモチいー!!
あがるー!!?!?!?!
なんか、アワアワが
えげつなく なって、
とまんねー!!
「あー?!ユキノジョウ!液体
入れ過ぎでしょー!!」
あ、バレた?
母親がシャンパンのグラス
ふりまわしてる。
とちゅうで、
気がついてしまったか。
やっぱり入れすぎなんだ。
「わー!ユキノジョウくん、
ユリヤちゃん!アワが止まら
ないってー!! 止めて止めて」
ボタン止めろ!バカ!って
副女さん、
なんだよ。ひでーな。
なんか、
いつもの副女さんと、ちがーう。
アワアワが あふれて、
ボタンが わかんないんだよ!!
「ちょっとおぉ~!わ、泡で
柱立ってるよぉ。止めてぇ
止めてぇ~、なんでもいい~!」
あー、ハジメさん
帰ってきちゃったか。
て、アハハ、まじ おもしれー。
「ユキくん、ボタンあった。」
ユリが アワん中を手探りして
くれて、ボタン、おしたな。
ジャグジーが 止まった。
「「「「はぁ〰️。」」」」
大人達の すげー声。
ジャグジーの回りってか、
フロアが 真っ白のアワアワ
だらけに なってて、
風呂ん中は お湯が
全部アワになったんだな!
ほとんど なくって、
アワん中に、
オレと ユリは 立ってた。
「本当にぃ、そりゃ僕も よく
やった覚えあるけどぉ。
なかなか
この泡ってぇ 消えないよぉ」
ハジメさんが、腰に手を
やるポーズで
怒ってる?のかな?
「え、オーナーって子どもでも
モンスターチルドレンですか?」
シオンさんが、ハジメさんに
つっこんでたら、
ヨミさんが、
「わかってるなら、やめれば
いいのですよ、
オーナーお坊ちゃまは。」
って、ハジメさんを
にらんでる。
やっぱりハジメさんは、
子どもな、大人なんだな。
笑ってたら、
副女さんと、母親に
モップのぼうで、頭をこづかれた
「モップをしぼって、泡をつぶし
なさい。海に泡を 落としたり
しないようにね。ほら、2人で」
仕方ないか。
お風呂の中の アワアワは 水を
足したら、消えたから
外にはみ出した、アワアワを
モップで
ユリと つぶしていけばいい。
「ほらー、ユキノジョウくん、
ユリヤちゃん!またふざけて!」
オレもユリヤも アワアワ風呂に
いたから、水着が アワだらけ
なんだよな。
だから、水着から アワを
犬が ブルブルするみたいに
はらってたら、いわれたー。
あ、ハジメさんのスーツにも
飛んだや。
みんな またキャーキャー
さわぐ。
『リーーーーンリーーーーン』
ケーキスタンドとか並んだ
テーブルから、風鈴みたいな
電話の音。
あれって いっしゅん、
大人って、自分の電話か?って
なるよなー。
副女さんが、電話を持って
船の 1番はじっこに行く。
電波が届き
にくいんだなって
思ってたら、
「あ!リボン!」
目の前のユリん頭から
白いリボンが
風に 飛ばされた。
とっさに デッキの手すりを
使って 手をのばしたのが
ダメだな。
アワアワすべる!!
「ユキくん!!」
「「あ!」」
バランスくずしたオレは
白いリボンを
持って
海に
体がグラッて かたむく
スローモーションで、
グラス持ってるハジメさんとか
『白鷺くぅん~!』
て、呼ぶこえとか
まだゼリーすくってる
母親とかみえて、
『バシャーン』
海落ちる
まぎわに、
支えようと
手のばした
ユリが 上にみえて
『バシャーン』
となりの
海に落っこちた。
海の中に けっこう沈む
アワが ブクブクと
体から
上に のぼる。
あんなに 明るい青だと
思った海の中は、
水面はキラキラ
星の空みたいなのに
下は暗い青だ。
ホント
カッコワルい。
ユリまきこんだし。
上から ゴボッて
降りる ユリの 手を
たぐってつかんだら
上に泳ぐ。
にしても!!
ヨットって 手すり低いよー!
ー"壮絶か人生如何"
"それ始めの縁起とは如何"ー
僕がぁ、
『ゲッセマネの園』から
戻ってくると、
船ではアフタヌーンパーティーを
していた ?ようだよ~。
ー"過去の因縁が舞台"ー
何せぇ、ジャグジーデッキが
泡だらけでぇ、
ほんと
泡製造業機と化した
ジャグジーはぁ、
ー"雲偏に愛く波幕"
"吹く風揺らぐ"ー
『ボコボコボコボコボコボコ』
泡の柱を 作っていたんだよぉ。
え?何かの呪いぃ?って
思っちゃった~。
ー"因果因縁""諸行無常"ー
しかもさぁ~これって
水着パーティー?
ー"輪廻転生""因縁の舞台"ー
大人女子会社だよねん。
ケーキスタンドに
果物、ケーキとサンドイッチ
なんて食ちゃってさぁ。
ー"寄せるる白波""断崖絶壁"ー
大人女子ってのは、
スイーツがあれば、たいていすぐ
仲良く出来るからぁ
ー"一羽の白鷺"
"飛び立つにて "ー
僕だけ 仲間外れだよん。
ー"なにが兆しか"ー
ハイハイ~みなさ~ん!
なんか、アワアワがぁ
えげつなく なってますよん。
ー"揺れる女衣や衣装達"
"柏木柏木"ー
オラオラで
シャンパン開けてるぅ?
キャーキャーってさぁ
これはねぇ
ろくな 話してないよねん。
ー"在業消滅"" 家族供養"ー
「わー!ユキノジョウくん、
ユリヤちゃん!アワが止まら
ないってー!! 止めて止めて」
ヒイイイ。早く気がついてよぉ。
ー"事の顛末"
"聞きし同情"ー
ボタン止めろ!バカ!って
副女さん、
やっぱり
いつもの副女さんと、ちがう?
ああ~
アワアワが あふれて、
ー"掌から出てきたは"ー
「ちょっとおぉ~!わ、泡で
柱立ってるよぉ。止めてぇ
止めてぇ~、なんでもいい~!」
ー"君が蓋"
"愛おし寺稚児や"ー
「ユキくん、ボタンあった。」
ナイス。
香箱ちゃん、
ボタン見つけてくれた~。
ジャグジー、止まった~。
ー"我が名書かれし"
"香箱の蓋!"ー
「「「「はぁ〰️。」」」」
大人達の声半端ない。
ジャグジーの回りがもう~
真っ白のアワアワだらけだぁ。
ー"ザンザと泡立ちかけ上がる"
"高僧の右手に香箱の身"ー
「本当にぃ、そりゃ僕も よく
やった覚えあるけどぉ。
なかなか
この泡ってぇ 消えないよぉ」
腰に手をやるポーズで
怒っておくよん!
「え、オーナーって子どもでも
モンスターチルドレンですか?」
はい、
シオンくん、つっこまない~!
「わかってるなら、やめれば
いいのですよ、
オーナーお坊ちゃまは。」
はい、
ヨミくんも。やめてぇ~
白鷺くんとぉ、香箱ちゃんは
仲良く
外に出た泡を モップで
片付けていくねぇ。
ー"客の波間に間に"
"香箱を咥えてゆらゆら"ー
「ほらー、ユキノジョウくん、
ユリヤちゃん!またふざけて!」
白鷺くんは、
犬が ブルブルするみたいに
泡を飛ばすって
ー"一羽の白鷺"
"スイ飛び立つて"ー
あ、僕のスーツにも
飛んだよぉ。ま、いいや。
2人のケンカも 仲直り
みたいだから~。
ー"清水寺の僧が姫に恋し"
"大破戒するが長き舞台"ー
女性陣は またキャーキャー
楽しそうだよん。
ー"静寂の境内に"
"始まりますわ幕開け"ー
『リーーーーンリーーーーン』
ケーキスタンドがのる
テーブルからぁ、風鈴みたいな
電話の音。副女さんの?
あれって いっしゅん、
自分の電話か?ってなるよね~。
ー"リーーーーンと"
" 音色の風鈴の声"ー
何気なくねぇ
副女さんが、電話を持って~
船の 1番はじっこに行く姿を
後ろから 見つめる。
電波が届き
にくいんだなって~
思ってたらね?
副女さんの背中が
強張った?気がして~
船の先端にぃ
終わった電話を 下ろしたまま
浜の向こう?
見ている事にさ
気がついてしまった~。
「あっちは、、ゲッセマネ?」
そう 呟いてしまったかも
しれない。
とたんにぃ、
副女さんは、膝をついて
両手を組む。
ー"神聖なりし仏の御名唱え"ー
あれはぁ、
祈りの姿勢?
まるで
必死に
組んだ手に 縋り付く様に~
ー"姫の身仏に近けんとす"
"『十念』の功徳 "ー
歯を噛み締めて
渾身でぇ 祈っているの?
何なんだろうか?。
ー"人の心とは摩訶不思議"
"所化や高僧浮かばれぬ"
"心の奥の波の音"ー
しばしぃ
唖然となる僕の耳に、
「あ!リボン!」
ふいに、
ー"来世で添い遂げるを願い"ー
ギンガムチェックの水着に
白いリボンをしていた
香箱ちゃん が、
デッキのふちに立って、
さけんだのが
聞こえたら
白いリボンが
風に 揺らめいて
ー"寺稚児ざんぶ海へ飛び込む"ー
その先に
デッキの手すりを
使って 手をのばしたのが
白鷺くんが
ー"愛せし寺稚児"ー
泡にすべり ながら
跳んだ?!
ー"潔し断崖投げ出し落ちる姿"ー
「ユキくん!!」
「「あ!」」
ー"ああ小さくなり姿"ー
バランスくずした 白鷺くんが
白いリボンを
持って、スローモーションで、
海に
吸い込まれる。
ー"顔面蒼白"ー
グラス持ちながら、
『白鷺くぅん~!』
ー"「白菊やぁい」"ー
て、呼ぶけど、
ー"寺稚児を探す声"
"遠きに聞こえしを"ー
『バシャーン』
ー"只只絶壁にて放心するが"ー
落ちたね。
ヨミくんと、シオンくんが、
「「ユキノジョウくん!」」
ー"仰天は所化"ー
ってハモって叫ぶと、
白鷺くんを 支えようと
手のばした 香箱ちゃんも
ー"荒れる波勢ぽちゃり消えし"ー
『バシャーン』
となりの
海に 落っこちたね。
ー"愛おし稚児"ー
仲良くてぇ、羨ましいよぉ。
って、思っちゃったねん。
副女さん達も、
落ちた 2人の上に
デッキから かけよって
「ユリヤ!ユキノジョウくん!」
海に 声をかけると、
2人の頭が浮かびあがったのが
見えた。
もう!!
ー"出でたる黒子"
"二人を七変化"ー
「「「「はあー、」」」」
だよ~。
「もうぅ、
夏の映画みたいな 事~
やめてくれるかなぁ。」
そんな僕の 非難めいた言葉に
副女さんが、
カラカラと 笑ってくれた。
にしても!
ヨットって
手すり低いよーねー!
シオンくんが、豪語してるよん。
はあ、って息をついたらさぁ、
さっきの 副女さんを
思い出してぇ、
ー "僧の衣と姫の衣引っ張るや"ー
「ねぇ、さっきの電話ぁ?
何かあったのぉかな~。」
聞いたら、反対に
「ハジメさん、この後さ、
船で、アタシ達を 神戸まで
送ってって、言ったら怒る?」
って、笑顔で言われた~
ー"現れる前幕の衣装"ー
「ええ~、そんな義理ないよぉ」
丁重にお断りしますだねん。
そしたらさぁ、
副女さん、テーブルに
電話おいて
さっき白鷺くん達が
落ちた手すりに 駆け寄って
「車かしたし、チャペルだって
ヒントあげた。何より、答え!
聞きたくない?!」
ー"追って荒海に"ー
「へ?」
ー"いけや所化!今いけ!"ー
『ザッパーーーン!』
そう言ってさぁ、
海へ!ダイブしたよ!!
そしたらさぁ!
「あ!副女さん 待ってー!」
ー"出奔出奔"ー
って、白鷺くんのママさんも
躊躇なくさぁ。
ー"2つ合わせて"ー
『ザッパーーーン!!!』
貴女もダイブぅ?!
水着だからって 淑女は 怖いなぁ。
ー"ダダンダダンと柏木柏木"ー
あぁ?、
シオンくんだめだよ~!!
ダイブはぁ!!
ー"怖気け躊躇し"
"死に遅れ生き残りし"
"何故に身投げ出来ぬか"ー
「後輩ちゃん!!着衣でダイブ、
やめときなさいって!!」
「えー!楽しそうじゃない
ですか!ヨミ先輩も
行きましょっ。」
やれやれだ。
『ハジメさーーん!港で合流
しましょう!!よろしく!』
ー"神場の社へと消え失せる"
"断崖絶壁 "
"死に遅れ生き残り"ー
海に浮かんだ 淑女の頭、
その1人から、叫ばれたのを
ヒラヒラと 手を振って応える。
ー"只只絶壁"
"秒読みか"
"在業消滅"
"迫る舞台に "
"リーーーン""リーーンと"ー
ー"音色の風鈴の声"ー
ユキノジョウと、ユリヤは
船から落ちたものの、
すぐ浮き上がり、船に
戻ろうと 泳ぎ始めたところ、
今度は
母親達が、
勢いよく 飛び込んできて、
目を点にしていた。
そんな子供達を尻目に、
副女は、
ユキノジョウと ユリヤに、
浜に戻るように 言いつける。
先を 泳ぐ、副女に
ユキノジョウと ユリヤ。
そして、最後に 会計女と 続く。
海から 今生まれたように、
戻った4人は、
廃墟のビーチにセットしたモノを
片付けて、
ハジメから戻された
軽自動車に、水着のまま
タオルを巻いて 乗り込んだ。
その性急さに、
ユキノジョウと ユリヤは、
不測の事態が 起きた事を
予感する。
すぐに、
戻るのだ。
自分達の、
学校に。
それは、母親である 会計女も
感付いていると、
ユキノジョウは
後部座席から 伺い知る。
押し黙る車内。
軽自動車は、朝を過ごした
元は 乳児院のゲストハウスに、
アコを 迎えに戻り、
その足で、車をレンタルした
ガソリンスタンドへ行き、
さらに、
置いてた
電動レンタルサイクルに、
乗って、
港に来た。
それは、まるで
急ピッチで 行きの島での行動を
巻き戻したような
慌ただしさだった上に
ユキノジョウの予想の上を
行く事態だと
思わせたのは、
港に ハジメ達が
メガヨットで 待って
合流した事だった。
いかに、早く戻る事態かを
嫌でも感じる。
それでも、緊急災害ではない。
もし、そうなら、
すぐにでも
副女は、
子供達に伝える。
ならば、
大人の事情か、
規模は学校まで。
ハジメが 再び ユキノジョウ達を
船に迎え、
水着のままの4人に、
もう1度シャワーを促した。
先に、ユリヤとユキノジョウ。
その後に、会計女。
皆がシャワーをする間も、
副女は、
充電器を電話にさしたままに、
何軒も電話をかけている。
ハジメには、
子供達も 全員揃ったら、
状況を 話すと 約束をして。
慌てて、出向する船は
島を後に、一路神戸へ舵を切る。
「会長からね、電話あったのよ。
今すぐ旅行から
出来るだけ 早く帰って来いって」
「今日、PTA査問委員会の臨時
召集がかかった。会長と女性副
会長である、私が対象者。要する
に査問会議にかけられるって、
電話だったのよ。」
「査問の嫌疑は、予算の横領。
やだ、PTA会費とか、学校予算
とか勘違いしないでね。向こう
は、そう勘違いを望んでいる
んだろって思ってるけどね。」
「正確な横領嫌疑は、PTA役員会
運営予算の横領ってことみたい
ね。ああ、あまり馴染みがないと
思うから、説明すると、学校の
予算って全くPTAの管轄じゃない
のね。これは、もちろん理解して
もらえると思う。それでPTA会費
っていうものが、別に1家族
とか、1児童とか、1親家族とか
で いろいろ規定を設けて、学校
関係と一緒に引き落としされる
んだけど、これがPTA予算ね。」
「これも 理解しやすいと思う。
で、実はもう1つPTAには予算柱
があるのよ。それが、PTA役員
運営予算。これは、地域団体や、
役員、OBからの行事祝儀という
名の、寄付で設けらているのね。
学校とも、一般PTAとも全く離れ
た所にある資金なのよ。」
「そこを横領したと嫌疑が掛け
られているって話ね。
まあ、どうしてそんな嫌疑になる
のかを、詳しく話すると、
けっこう細かい事を言わないと
いけないから、何なんだけど。」
「この嫌疑も 割りと予定調和な
のよ。ただ時期が悪いかな。
ほら、まだ記憶に新しいと思う
けど、ニュースにもなったよね。
総理の伴侶が1私立学校の行事に
出向いた事から不動産の便宜を
計らったとか忖度されたとか。」
「あの話以降、Pの運営費の流れ
を精査する動きが 割りと全国で
起きている最中なのよ、今も。
まあ、
そこにこじつけてきたわけね」
「もともと、あの総理婦人の
一件も、回りの公Pが動いて
リークしたんでしょ。原理は
同じ。出過ぎる杭は 打ってくる
のよ。1私立が目立つなってね。
メディア関係者の保護者に噂話
リークなんて、
手法は常套手段 だから。」
「それは、いいとして。
ようは、うちも目立っただけよ。
それも足元から頭を殴られたって
のが、本当に嫌ね。
男の妬みって。
そういうこと。うちの会長が
県知事の相談役に実質
なってる 事がバレたのよ。」
「会長は、県Pから日Pで役付き
になる事で、名実になれば
出る杭もなく、利権要求に切り
替えてくるから、それまでは
内密で相談役をしてたんだ
けどね。ふだんなら、こんな
ミラクル戦法は ないわよ。」
「けど、今の知事は 政党から
出てないし、支援政党も新進
気鋭の党だから、
現場の第三者委員会に参入し
やすい位置に入ってたからね。
力と、シップとれれば かなり
太い相談役よ、うちの会長。
残念なのは、
純血統じゃない事よね。」
「だから、なるべく目立たず
だったんだけど。それを、私が
壊してしまったのよね。
申し訳ないわ。
でも、後悔はしてない。」
「これはそうね選択の運命かな」
「春前に東の方に停泊予定の船で
新型ウイルスが発症したでしょ?
あの一報が報じられる前に、Pで
は船内状況を 掴んでいたのよ」
「これはもう、人海戦術じゃない
けど、子供がいる場所なら
どこでもネットワークは繋げ
てるって言えばわかるかな?」
「この国はね、これまで何回も
水際で疫病と対峙してきた。
ニュースにならないけど、
港の学校地域がロックダウンする
事も 十年に1回ぐらいあるのよ。
知られてないだけで全国に情報
の網を持っていて初めて見えて
くる国の姿ってあるのよ。」
「まあ、それで 春先の件では海上
航路中に私にも薄く流れてきた
のね。どれだけの緊急性がある
かわからない段階。でも会長に
お願いをしたのよ。」
「私達の地域にある港は、1日に
何十と船がくる。
それを、一旦 止めて欲しい
って。そうしている間に、件の
船内で起きている事がニュース
されて、うちの
寄港を回避できるからってね。」
「そりゃ会長に、何寝言いって
るんだって、言われたわよ。
それに、そこまでの
権限は Pには ないって」
「例え、そうなっても 港なんて
他にもある。もっと震源国から
くる船や飛行機もあるなら、
多かれ少なかれ 蔓延もある。
性急な動きは異質視されるって」
「でも、今、海上の懸念情報を
P保護者からもらっていて、
これまでロックダウンを学校で
してきた歴史もPでは共有して
いる。うちの地域が惨事になる
可能性があるって、」
「何より、県の港には 研究機関が
多い、二次災害の被害の懸念を
訴えたら会長だってわかってる
事案だから、折れてくれたの。」
「もし、会長の動きで 県が
動けば、今過分な行使力を
持っていると見なされる。
会長から、きっと 打たれる
ぞとも警告された。」
「それは、申し訳ないわね。
だって、それは私だけじゃ
なくて、会長もなんだから。
そうなれば、もう生け贄同然で
役員になった私達なんだもん、
すぐにでもお払い箱になる。」
「しかも、P社会からの抹殺を
噂に嫌疑の尾ひれを付けて、
リークされる。ってお土産つき」
「冤罪による籠の中の殺処分、
そうなるって覚悟してたわ。」
「だから、今更、査問会議って
言われて驚かない。」
「ハジメさん、どうして
あの島の あの園に
行った のかって聞いたよね。」
「アタシが かの場所を探した
経緯には、刑務所を出たり
入ってりする、自分のどうしよう
も兄から聞いた話にもよるん
だけど、
自分が、理不尽な嫌疑をかけら
れて糾弾される未来を、
告げられたのもあるのよ。」
「こんな未来を選択するかも
しれないと、告げられた時、
話に聞いた人物が 祈った
島へ行ってみたくなった。」
「スラムで 無縁仏を慈悲で火葬
して、幽閉する国の為に祈る
人物に興味が湧いてね。」
「笑うわよね。
島にいけば 私の薄暗い思考が
晴れるかもしれないって。」
「でも、そんな簡単な
奇跡はなかったわよ。」
『さっきまではね。』
船は、速度を早めに 港に
向かっている。
走行中は、ライフベストを
全員着用させられた。
お揃いの オレンジベストを着て、
副女さんの告白を聞いた全員は、
只只、驚いていた。
「あー。でもやっぱり1番困る
のが、服だわ。さすがにスーツ
持ってきてないし。港で買うにも
きっと時間がないし。迎えが直接
回されてるみたいだから。」
副女は、そう肩をすぼめてみせた。
「え、そんなに時間ないの?
少しは、服とりに行けるん
じゃない。あんまりでしょ。」
会計女が 唇を青ざめさせて
副女に 応えるけど、
「向こうは、そんな猶予を与える
時間はくれないみたい。
なるべく
反撃の時間を やりたくないんで
しょうよ。そんな気もないけど」
副女と会計女の やり取りを、
聞いていた ハジメが 声をかける。
「あのさぁ、そんなに服装って、
大事なのん?学校の外の会議な
だけならぁ、急に呼ばれても
揃えられない事だってぇ、
あるもんなんでしょ~。」
ヨミと、シオンも ハジメの意見に
同意するように、
頷いている。
けれども、副女と会計女は、
「例えば、お葬式が入れば
何がなんでも、喪服で参列する
よね?それと同じなんだよ。」
ため息交じりに、返事をして
会計女は、
「アタシ、持ってる荷物に、
使えそうな服ないか、考えるよ」
と、鞄の場所に移動した。
それを聞いた ハジメは、
眉毛をハの字に下げる。
「そんなに~大事なのかぁ。
参ったなぁ。水着とか、リゾート
パレオならさぁ、用意してるけど
ドレスって訳にいかないよねん」
ユキノジョウも ユリヤも、
その話を 真剣に聞いていた。
もう何年も 行事を見てきている。
正装とか、着物、袴、
ありと
あらゆる 服装の規定を
肌で感じている。
今、リゾート気分満載の洋服しか
無い事の 重大さを
子供ながらに、
感じていた。
再び、船内の空気が
重くなるかと 思った時
「あ!!オーナーっ!あれ!」
シオンが、ハジメのスーツを
引っ張った。
「あれを、リメイクしたら、
グレーのワンピースとか なる?
かも?しれないですって!!」
シオンの言葉に、ヨミも興奮して
「そうよ!オーナー。あれです。
シスターグレー!!使いましょ」
シオンと同じく、ハジメの
スーツを引っ張ってくる。
「なにぃ?皺になるからぁ。
やめてよぉ。シスターグレー?
そんなのあったっけ?って、
あぁ~~~あれ?!あれか~」
興奮する3人に、
ユキノジョウ達は ???な
表情だ。
「乗りかかった船だよぉん。
副女さんに、上手くいけばぁ、
最高の衣装を、着せれるかも」
そう言って、タレた目をウインク
する。
「さあぁ、みんな!サロンへ、
ご招待するよん。我がクルーズ
ギャラリーに~。いらっしゃい」
そう言うや、
デッキの奥の階段に、
ユキノジョウ達を 案内する。
「ハジメさん。
下行ってもいいの?」
アコが 興味津々で、ハジメに
聞いている。
ジャグジーがあるデッキは、
半オープンデッキで、 その奥に
シャワー室があった。
このデッキのオープンに、
ジャグジーが設備されていて、
半分には ビーチソファーセット、
ガーデンテーブルセット、
バーカウンターがある。
このデッキまで 直接上がってきた
ユキノジョウ達は、
まだ 下のサロン階には
入っていなかったからだ。
「オーナーがOKと言ってますから
ぜひ、どうぞ。その代わり、
貴重な物がありますから、
気をつけて下さいね。いい?」
ヨミが、
波形の細工ツルを 、指先で
押し上げて、アコに笑う。
3層になる 2階は、サロン階。
今回の移動する
ギャラリーとして 内装している
と、ハジメが ドアを 開けた。
「「「うぁ。・・・・」」」
子供達が 思わず歓声をもらす。
中は、青いステンドグラスの
教会を模倣した、装飾に
絵画や、美術品、アート作品
宝飾、骨董等が 部屋を
構成している。
「なに、、これ」
船の中が、
まさか こんな風になっている
とは、露にも思わない。
湿度や温度の管理も厳重なのか、
青い室内のせいか、
一層ヒンヤリとする
サロン。
その真ん中に、ガラスの箱が
テーブルの様に横たわる。
「シオンくんはぁ、これの事を
言ってたんだよね?でも~、
そのまんまじゃ、ダメじゃない」
ハジメが、そのテーブルを
指さした。
「基本、服ですもん。直しは、
長袖を、半袖に。トゥニカの
丈を詰めて、ウインプルを
ケープ襟でつければ 大丈夫っ」
シオンが、前のめりで ハジメに
提案する。
「なるほどね。それなら、
グレースケリーが着てそうな
スーツワンピースになるわ。」
2人の会話に、ヨミも賛成する。
ユキノジョウ達は、
そんな会話でも、あまり
ピンとこない。
「ほらぁ、来て見てごらん~。」
ハジメに呼ばれて、テーブルを
上から見て、
ユキノジョウは、ギョッとする。
ユリヤも、後ろから
覗き込んだ。
「人?」
ユリヤの声に、アコも飛んで覗く
「うあ!、お母さん!人がいる」
何それ?!と、母親達が
ガラステーブルに近づいた。
「?!デス、マスク、?」
副女の呻き声に、
ハジメが 口を弓なりにした。
「そうぅ~デスマスクアート。」
ガラスのテーブルの中に、
草花の造花に納められた
修道服のデスマスクが ある。
まるで、水中の オフィリーヤだ。
「うぃ、、」
会計女の眉間に皺がよる。
「オーナー、意地悪して遊ぶ暇は
今はないと思われますけど。」
ヨミが、ハジメを嗜めた。
「ごめん、ごめんよぉ~。本物の
デスマスクじゃあないんだよねん
『デスマスク調』のアート~。
だから、体もないけどぉ、ほら」
ガラスのテーブルだと思ったのは
ガラスの棺ケースだったのか、
蓋をハジメが 『キィン』と
開いた。
「体は、修道服に綿を入れて
形を作ってたんですっ。これ!
このグレーの修道服をリメイク
したら、正装ワンピースっぽく
なりますって、絶対!!」
シオンが、デスマスクを
外して、体にしていたという
グレーの修道服を持ち上げた。
「それにしてもさぁ、シオンくん
別にデスマスクにぃ体は作ら
なくて良かっんだよん~。」
確かに、夜にサロンに入るのが、
とか、ヨミが 愚痴を言う。
ユキノジョウと ユリヤの
顔色が 悪くなった。
アコは、すでに離れている。
「だってですねっ、自分の
エンディングワンピのイメージを
ちょっとしたかったんですよ!」
シオンが、副女に 修道服を当てて
直し丈を 見ながら応える。
副女も、これを直せたら、
助かりますとか 礼をして、
会計女に、どうかと 聞いている。
「だから、後輩ちゃんは 先に
ウェディングドレスを
考えなさいよ。いつもいうけど」
ヨミが ジト目で シオンを
手伝う。
「あの、ハジメさん。本当に
いいの?これ、商品なんじゃ。」
副女が 修道服を当てられながら
ハジメを見やると、おやと、
「デスマスク演出のディスプレイ
扱いだからねぇ~、何本も金額は
しないんだけどぉ。アンティーク
ではねぇ、あるんだよねぇ。」
顎に、手をやり考えるポーズに、
「アタシ達でも 船の移動中で
直したら、服で 助かるのは
助かるけど、、、、」
副女の言葉に ハジメは、
また口を弓なりにした。
「高いよん。でもねぇ金額では
ないんだよねん。
こ~ゆ~時の 相場はねぇ。」
「今すぐは無理だけど、戻ったら
振り込みするよ。ってそんなに
高いの?マジで?うそ?でも、」
副女の言葉を 遮り、ハジメが
ユリヤを見て言ったのは、
「香箱ちゃんのぉ、ポケットに
入っている大事なぁモノ。
それを、担保にしてもらう~」
だった。
「ユリヤのポケット?」
副女と、会計女、アコは 意味が
わからない顔をするが、
他の4人は、ハッして意を汲む。
「いや、オーナーそれは無し
ですよっ。いくらなんでも!」
シオンが 顔色を悪くする。
自分の提案が 意外な結末を
招く 予感がしたのだ。
「えぇ~。これ程担保に向いた
素敵なモノはないよん~。
それに、これなら、どんなに
時間かかっても いいけど~。」
ヨミも、
「いくら、前が 絶対担保になる
モノの 目利きだった からって
悪魔の所業ですよ、オーナー!」
と、非難する。
その様子に、副女が ユリヤを
心配して
「ユリヤが嫌なら、いいから。
この話は、なかった事にして」
と、ユリヤの肩を ポンポンと
柔らかに あやした。
ユキノジョウは、
そんな 副女とユリヤを 見つめ
ながら、
走馬灯のように、これまでの
行事で 慌ただしく着替える
副女と、手伝う ユリヤを
思い描く。
入学式や卒業式の着物に、
離着式の 袴。夏祭りの挨拶回りに
浴衣を 着付けて、
行事の 挨拶には、何タイプも
礼服を 用意して、
急な 葬式に 対応するのに
ロッカーに 喪服を入れて。
それは、式服という
武装 だったはずだ。
今、最後の最後に 戦いに出る
戦闘服が ない。
ユリヤも そう 考えていると
ユキノジョウは わかったから、
「ユリ、オレはいいよ。」
と、ユリヤに 伝えた。
その声に、肩を揺らして
ユリヤが ポケットに手を当てる。
ユキノジョウは、
ユリヤの目をみて、
頷いた。
それを、合図に
ユリヤは、黙って ポケットから
それを ハジメに
差し出す。
と、
白く
小さな手を開くと、
青い教会のサロンに、
ステンドグラスからの光を
受けて、
ガラスの靴が
オーロラの虹を パァンと、
青い
天井に
作った。
大人達が、
「「「「へぇ!」」」
っと、その光が作った
波の揺らぎのような
プラネタリウムに 間抜けな声を
あげる。
「ママ。ユキくんに さっき
もらった。これを、服にして」
ユリヤが
半泣きになって、副女に
すがった。
「ユリヤちゃん、、」
会計女が、声を漏らす。
「副女さん、それ、お金払ったら
返してもらえるんだよね!
オレも 払うから 使ってよ!」
ユキノジョウも、強い目をして
副女を 助けると、
会計女も、アタシも払うよ!っと
叫んでいる。
そんなやり取りを
ハジメは 聞きながら、
差し出された
ガラスの靴を
傍らにあった、シルバートレイに
大切な様にして 置く。
「じゃあ~、交渉成立~。」
ハジメは、口を弓なりのままに、
ユキノジョウに 語る。
「この靴にぃ、もしもだよ?
意味が無くなった時はぁ、
服の金額をね?踏み倒す事も
出来るからねん。覚えててね?」
そんな、ハジメの言葉に
ユキノジョウと ユリヤは、
目を瞬きだけする。
女性陣の非難の視線は、
半端がない。
「では、みなさん!早速 戦闘
開始ですよ!服を直します!」
ヨミが、パンと手を叩いて
各々のこれからを、
次々に指示する。
「後輩ちゃんと、白鷺くんママは
服の直しを、私とします。
袖を後輩ちゃん、裾を白鷺ママ。
襟ケープを私で。よいかしら?」
女性陣が ふざけて
『ラジャー!!』と
返事をする。
「オーナーと、副女さんは、
服の売買契約を 、オーナー?」
ヨミは、すちゃっと、
指を立てて、ハジメに言う。
「はぁ~い。鬼軍曹~。」
そんなヨミに ハジメが応えると
「何が、鬼軍曹ですか!よっぽど
オーナーの方が 奪衣婆です!」
シオンがやり返した。
「子供達は、炊き出しです!
炊飯器ありますから、おにぎり
作れますか?お味噌汁と。」
ユキノジョウと、ユリヤは
大きく頷く。
「子ども会の夏祭りで、いつも
豚汁やるから、大丈夫だぞ!」
アコが、手を叩いて
手伝うーと 喜んだ。
「じゃ、全員配置にすぐつく!」
ヨミが 号令をかけると、
全員が
息を合わせて
『ラジャー!!』と応えた。
修道服と、裁縫道具を 持って
サロンを 出る女性陣を
見送り、
ハジメと 副女は 契約の作成に
入る。
ふと、ユキノジョウと ユリヤが
まだ サロンに残る。
ハジメが、
「キッチン~ 案内まだだったね」
と、声をかけると、
ユリヤが
「あ、最後に、ガラスのくつ
見ていいですか?ちょっとだけ」
控えめにお願いをする。
ハジメは、もちろんと
シルバートレイに乗せたモノを
2人の前に 置く。
ユキノジョウと、ユリヤは
触る事せず、名残惜しそうに
そのモノを 見つめる。
『白波5人男はなあ、天下の大
ドロボウ一味 なんだぜ。』
カイトの言葉を ユキノジョウは
思い出して、
副女に 書類を出す
ハジメを見る。
そして
青いサロンから
ユリヤと
出て行った。
ハジメは、そんな2人の
オレンジのライフベストを
そっと 見つめて、
自分のオレンジの それを見ると
なぜか、
満足げに 微笑んだ。
船は 港へ 走る。
まだ、
夏の日の高い夕方は
真昼のように
明るい 港。
現れた メガヨットに、
埠頭の人は
写真を撮っている。
その閃光の中、
ヨットのデッキが
開いて、
人が降りて来る。
白いスーツの男性が、
レディファーストで
デッキハッチを
開けて、
片手を次に降りてきた
修道女に
手を差し出した。
いや、
グレーのワンピースの女だ。
「じゃあ~、お嬢様ぁ。
お手をどうぞ。いよいよだねぇ」
ハジメの言葉に、
副女は 笑顔を
返す。
「気障だね、有り難うハジメさん
あと、ヨミさんとシオンさんも」
副女の後からは、
会計女が続き
ユキノジョウとユリヤ、アコと
並んで 下船する。
「会計は、アタシなんだし、
アタシも、一緒に行っていい?」
会計女の
そんな 言葉には、
副女は
頭を振って
「もともと、会長と私が 対象。
会計女さんの気持ちは 嬉しい
けど、今回は 私だけだよ。」
それよりと、
会計女の
手を握り
「どんなに嫌でも、血が繋がる
者同士って、切れないんだから
何処にいても、
親だってこと、肝にしとけ!」
っといって笑う。
そんな副女に、
泣き顔の 会計女が
白い幅広の 帽子を
かぶせた。
「行きのホテルで買ったやつ。」
副女は、会計女の言葉に 無言で
頷く。
そして、
ユキノジョウに、
握手を求め
「ユキノジョウくんの お蔭で
服を調達できたよ。サンキュ
これから先、何かあれば また
島で合流しよう。約束はしない
けど、また ね。」
と、出された
ユキノジョウの
右手を 掴んで、ブンブンとして
離した。
副女が 前に 向き直ると、
港に
黒い車が 留まっている。
中から、スーツ姿の会長が
出てきたのが、
ユキノジョウには
見えた。
その奥には、ユリヤの父親が
いる。
副女が、
連絡をして 唯一の
お盆休みで
帰省した所に、
ユリヤを迎えにと、呼んだのだ。
ユリヤは、1度
ユキノジョウに
振り返り、その口が動いたけど、
父親に走る。
また、学校でと
言った気が、したのに、
ユキノジョウには、
ユリヤが 遠くに 感じた。
再び、
ハジメに 副女が向き合うと、
「まるでぇ、その帽子~、
コルネットみたいだねん。」
笑って
ハジメが
揶揄しながら、右手を
差し出している。
その手を、
握ったまま 意を決した様に
「ハジメさん。私は、、、、
『パルム・ドール』をきっと
手にしたよ。演じるべき、
役が もうすぐ終わるってね。
だから 今、全てが 、、昇華
された。ありがとう。」
それでいて 静かに
副女が
宣言をした。
「『パルムドール』、、て、」
ハジメのタレた目が
副女を
射ぬく。
そんな ハジメの手を
放して、
副女は、黒い車に歩く。
横を通り
すぎながら、
「家族を見つけな。神様は、
大丈夫な貴方を 待ってくれる。
その時はじめて、
貴方も 目の前に、
『パルム・ドール』をその手に」
ハジメに囁いたのが、
風にのって
ユキノジョウにも
聞こえた。
それは、呪文のようで、
副女の
後ろ姿は、
まるで 主演女優の ようで、
「それは~?!シスターグレー!
断罪人の予言~?!」
と、ハジメが
叫ぶ姿は やっぱり子どもだと、
ユキノジョウは 思った。
なのに、
副女は
振り返らずに、
「それが、最終の答え➰」
って
手を ヒラヒラと
振っただけだった。
ドアが閉まる 黒い車。
それが、
ユキノジョウと ユリヤの
最初で最後の
夏休み3日間の旅の
終演。
メガヨットに、佇むの家族達の、
その心を知らずに、
港の他人が
まだ船を撮る、
写真閃光が
続く。
ユリへ、
去年の夏休みが おわって、
ユリが
学校から いなくなったのを
知ったのが、
2学期の敬老かいが、
新しい役員さんで やってるのを
見て だったんだ。
PTA室に いって、ドアがしまった
まんまだから、
へんだなって 思ってたけど。
事ムさんを 見つけたから、
ユリんとこの 住所 聞いた。
でも、お父さんについて 行ってる
から、手紙が とどかない時が
くるかもって、教えられた。
うちの、母さんと 父さんは
別れて、父さんの彼女 って人が
新しい母親に なったけど、
なんか へんな感じだな。
アコは なじんでるけどな。
だから、母さんにも 会えなく
なったぞ。
たまに、体育館の うらに、
シンギが 立ってるのを 見たけど、
あいつも 進学の男子校に もともと
いくって みんないってたからな。
卒業式なれば シンギも 見ないし。
オレが 中学いっても、あいつも
いないしな。
あと、オレちゃんと ハジメさんに
お金 返してるんだ。
船下りるときに、ハジメさんが
返しか方 教えてくれたから。
今は こづかいからだけど、
バイトできる 学年なったら
もっと 返せると 思う。
あと、何かなー。
始めに行った島の、カイト。
あいつが、また島に来いって、
バスん乗る時、いったんだよ。
夏なれば、ホタルも 出るし、
アートの祭も あったら、
またボランティアに来いって。
オレだけじゃ、
まだいけねーから、もっと
1人で 行けるように なったら、
島で話してくれた、あのお兄さん
みたいにさ、
オレは 行こうって 思う。
ちゃんとさ、行き方覚えてるし。
もしかしたら、
副女さんが 言ってたみたいに
また、島で 会えたら
いいよな。
あー。副女さんじゃないか。
ユリの母さん だな。
だから、
待ってて下さい。
オレは、元気だよ。
ユキより。
夏休みは境界
『公開告白される君と
3日間の旅』
終。
2020年6月1日~8月14日
脱稿。
さいけ みか