夏休みは境界。公開告白される君と3日間の旅~小豆島・豊島編

結局、朝に船に帰ってきた
ハジメは、

そのまま
石工房に、ゲストを案内して
無事に、工房での 体験も
終えるところだ。

『 今日も 島のアートを鑑賞する
のだけれど 、1番最後に
見るといい
場所とか、ありますか?』

そんな風に、ハジメが ゲストに
相談される。

ヨミと、シオンは 側で 聞きながら
ハジメが どう答えるか、
興味津々の 顔をしていた。


ハジメは 淀みなく
言葉を 紡いだ。

『 この島の最後を飾る アートを
1つ挙げるなら~、この場所で
しょうねん。その場所はぁ、
色で 例えるなら そうだなぁ

まるで~
現代の ポンペイ・レッドな館。

2000年前にぃ、ベスビオ火山噴火で灰に沈んだ都市の~
古代遺跡、赤の壁館を~彷彿と
させる アートですよねぇ』


そうして、
ユキノジョウ達は、この島で見る
最後のアートへと、進む。

午前とはいえ、
すでに 夏の太陽が照りつける
その 独特の 景観の野外から、

館に入った途端、
ユキノジョウは、
血のように真っ赤なガラスから

外の景色に
“あの世”を 見たみたいに
感じて、ユリヤの手を握った。


『黒い 古民家が、まるでぇ、
2000年の間ぁ~、鮮明な
赤の壁画 を時間と 風雨から
護ってぇ、
まるで シリカゲルの如くね
保存をした 灰や溶岩ドームの
ように~ 感じてしまうのは
館のアートの赤が
印象的だから でしょうねん~ 』


館を ユキノジョウ達は
その まま順路に 連なって行く。

どこか、あの世を並んであるく列に並んだ気分だった。

中を 行ってると、
ユキノジョウは 今まで 考えた事が
ないけど、
『生まれる』とか 『最後』とか
『生まれる前』とか『最後の先』

みたいな、
道徳の時間に 感じる
どうしたら、いいか わからない
気分になる。

怖いような、
必ずやってきて、
何回も 運動会で、スタートの合図
する ピストルを
聞くのを
くぐり抜けてきた気分に なった。


『生きているような 鮮烈な 赤とぉ
秘儀の間に~ 描かれたぁ
秘儀の絵をぉ
見た時に 感じた 背徳の美しさ
に 圧倒されたの時の 感動をぉ、
ふとねぇ 思い出しましたよ~』

そうすると ユキノジョウには、
いたるところの 赤が、
血のようなのに、

死神が いる場所には 感じなくて
その真逆な感じもある
不思議な 場所だと 思った。


『まるでぇ、
けだるい 夏の夜に見る
"生死の祝祭"みたいだとさえ
思ってしまうようなぁ
ファーストスペースがあってぇ』

ふと、
外をみたら 石の庭に
赤い川か 池みたいなところに
コイが 泳いでる。

大きいのに、
同じもようの 小さいのもいる。
小さいのは、
生まれた コイ だと
ユキノジョウは、わかった。

川は、円筒の建物と 交わって
流れている。


『次にはぁ 滝の塔があるんです~
そこは~
まるでぇ 上も下もない 無数の滝
みたいで、囲まれているとぉ、
ほらぁ ニュートリノの観測器の
中にでも 放り込まれたみたいな
感覚になる 塔なんですよぉ。』


塔の中に 入って
ユキノジョウは 驚いて、
もとの口に 戻りそうになる
円塔の中 には
何千もの "滝のポスト
カードの タイル"が
ぎっちりと 貼りつけられ
天井と床が 鏡になっている
だから 上から
下へに 流れる
滝の中 底なし井戸に
落ちそうだと

びっくりした。


『塔と川はぁ、男女なんでしょう
永遠に 怒濤にながルル 滝とぁ
鯉が泳ぐ 羊水 といったところ
でしょうかねん~。 死の祝祭で
ありながらぁ 生々しい
人のエネルギー。そんな 場所』


トイレ
さえも、
魔界で、
ユキノジョウは
こんな
トイレじゃ、
毎日 困ると、
ビミョーな
気分で、
用を足した。


『真っ赤な世界はぁ、
覗く彼の岸から
“この岸”を 見せてくれる。
そうしてぇ
信仰、生死のエネルギーを
思わせる 時間はぁ、
宇宙に漂う
僕をぉ 自由に解き放つ 体験を
させてぇ、現実に戻してくれる
うん!この島を
出る時に ふさわしい アートじゃ
ないかなって 思ってます~。』

ハジメの 答えに、
ヨミと シオンは

どうして そんな風に アートを
読み解けるのに、
いつまでも
『家庭的な嫁』を
追い求める
自分の姿を
読み解くが 難しいのか
と、

ため息をついた。

出来る事なら、ボスである
オーナーには 本人が望む
家庭的な結婚を
してもらいたい。

ギャラリースタッフの
ヨミも、シオンも
心から 願っているのを
全く 知りもせず

ハジメは、ゲストに
子どものように 本人のクセであるウインクをして
笑っていた。


「 ユキノジョウー!ハジメさん
っと 昨日は部屋、一緒だったん
でしょー?
どうだったー?
なんか、会ってすぐの
男の人と泊まるっていうの、
お母さん 意外だったよー?」


ユキノジョウ達 4人は
島で見る
最後の アートの 鑑賞を
終えて、
ユキノジョウの母親が
運転する レンタルした 軽自動車に
乗って、島を走っていた。

港で レンタルを している、
電気自動車は
2人乗りだけだったので、
ガソリンスタンドで、
借りたのだった。

「 なんか、モンスター大人じゃ
ないかって 思ってた。
けど、 ちゃんと 話
聞いてくれる へんな人。
まあ、いいヤツだよ。」

軽自動車は、思いの外
コンパクトで、 仕事で忙しい
母親を いつもより
近く感じる。

そもそも、母親は ここ1週間
不在で、父親の家に いてた
ぐらいなのだ。


ユキノジョウが 隣を見ると
ユリヤも、ユキノジョウを
見ていて、視線が合った。

とくに、お互い
何かを 言うわけでもないし、
もう、気まずくもなかった。

「ハジメさんの 非常識さは、
たまに、びっくりするけど、
基本、真面目な 男だよ。
まあ、『ぼんぼん』だからね、
モンスターVIPが 出たりある」

副女が 助手席から
ユキノジョウに 振り返って、
笑っている。

ハジメに出会ったボランティアの
チームで、その『ぼんぼん』さに
助けられ、
『モンスターVIP』に、
迷惑こうむった事から、
仲良くなったと 馴れ初めを
話す 副女。

大人になってからの、
男友達は 珍しいと。


ユキノジョウ達は
最後に 海に行く事にして、

島の南側にあるという、
『神ノ子浜』に 車を走らせる。

副女曰く、
里山がある 原風景の 島の北側と
違って、
島の南側は
白砂の 乾いた 海岸に、
オリーブが
ある山が
青い海まで迫って
まるで 地中海リゾート気分が
味わえると言う。

実際 リゾート浜化したが、
撤退して、施設が そのまま
残った 状況だとも 。

この旅に来て、
ユキノジョウは
いつもより ユリヤと居ている
はずが、
意外に 別行動が 多かったから、
漸く、
一緒に いる狭い車の
今、
とくに どこに行くでも 良く
全く 気にならない。

それでも、
昨日から いるこの島で、
今走る道の 様子は、
見たことがない。

あまりに
うっそうとした、
背の 高い草が 密集するように
両側を 囲う道。

不安になる。

軽自動車を 運転しながら
ユキノジョウの母親が 話す。

「それでも、全国をギャラリーで
移動するってー、どんな人って
感じだわ。名刺もらっとけば
良かったかも!しまったわ!」

と、少し車がバウンドした。

「ねぇ、、 道あってる?」

隣のユリヤの顔を 見ていた
ユキノジョウが
たまらなくなったのか
前の 大人達に 確認する。

いつの間にか
アスファルトが なくなって、
車を走らせているわけで。

「大丈夫だよ、だいぶ前だけど
来た事 あるし。でも、
まだ
リゾートの経営をしてた時
だから、
まだ、拓けてた感じなんだけど」

副女も、どこまでも
続く 草の伸びた道に、
自信が 揺らぎそう なのか、
車窓の風景に、苦笑だ。

「え?!なに!それー?
リゾートって、元リゾートって
こと?もしかして
向かうのって 廃墟の浜ー?」

電話を 地図案内機能に して、
ハンズフリーにセットをしている

ユキノジョウの母親は、チラリと
横目で
その 地図を 確認しつつ 嘆く。

「ごめんなさい。そうなるの
かもね。でも、海はキレイよ。
あ、
海に続く 桟橋も 残ってると
思うし、ほら 人少ないのも
ディスタンスってことでね。」

そろそろ、見えるんじゃ
ないかなー?と副女が
前を 指さして 言う。

さすがに 延々と
山道 みたいな 風景で、
前も 後ろも おんなじ 見えかた。

「えー?!海への道!
なんか いー感じじゃん!
オレ、全然いいよ 、その海!」

ガタガタと、
車体が 揺れるような 道。
本当に 道 あってる?
と、母親が呆れるが、
ユキノジョウは ユリヤに、

「あのさ、
ユリにっ、わたしたいの ある
から、海ついたら もらってよ」

そう 言うと、
ユリヤが、目を細めて
頷く。

ユリヤの家は、
父親が 単身赴任で
1年で 何回かしか、会えない。

誕生日と、お盆、クリスマスと、
年の瀬。

その時は 必ずプレゼントと、
お土産を ユリヤに
渡してくれると、前に
言っていたのを、

ユキノジョウは、思い出して、
次に 言う言葉を 口にしようと
して、

前方に、何か 看板が
見えたのか、前の2人に
遮られた。

「良かった!?案内でてきた!?
かな?」

副女が、目を細めて確認している

何か違うかも?とか いいつつも、

「 ユキノジョウ!生意気な事
言っちゃってー。
すっかり、男の子って感じじゃ
ない ?やだぁ、子どもの成長っ
て、早くないー?って、」

ユキノジョウの母親はからかう。

様子が 違う事に 気がつき
1度 軽自動車を、
止めて、看板を 見る。

「ねぇ、副女さん、
これ 道、
間違ってる? もしかして?」

┏一一一一一一一一一一一一一┓
┃この先は 立ち入り禁止┃ ┃事前に 見学は 以下に連絡を┃
┗一一一一一一一一一一一一一┛

副女と、ユキノジョウの母親は
道が 二股に別れていた、反対側 に
行けば良かったと
愚痴り、

Uターンして アクセルを
踏み込んだ。
ほどなく、ユキノジョウの母親が
副女に 聞いてくる。

「ねぇ、さっきの場所って、
奥に 行くと、
産廃事件の場所になるー?? 」


その問いかけに、
副女は 助手席から 答える。

「察しの通りよ。
今から 向かう『神ノ子浜』と
産廃の場所っ、ほんと近くって
その気になれば見えるぐらい。」

ユキノジョウは
よくわからないという、顔で

「副女さん、サンパイって何?」

聞いたのは、
ユリヤも あまり分かっていないと
察したからだ。

「あ、そうだね。ごめんよ。
産廃は、産業廃棄物で、ゴミ。
なんだけど、普通の家からでる
ゴミじゃなくて、会社・工場・
お店からでる 決まったゴミね」

軽自動車は、
道を戻って、二股に別れた
分岐点に ついた。
よくみれば、
うっそうとした 草の間に、
浜への道を示す
看板が ユキノジョウからみえた。

「日本ってね、世界でゴミの量が
1番に 多い国なんだよ。
こんなに、狭い島国なのに。」

ユキノジョウと ユリヤは
副女の言葉に、軽く驚いている。

「テレビで 日本って外国の人が
道にゴミが おちてないって、
びっくりするんじゃないの?」

そう ユキノジョウが 疑問を言う。

「そうだね。ゴミへの意識が 高い
から、街の道は 皆の意識で
キレイなんだろうね。
で、それでね、家のゴミは
市町村で 処理するのね。
でも、
産廃は別で、事業者が処理する。
ゴミの受け口が 別なのよ。」

ゴミの行方なんて、考えた事が
ない、子供達は ピンと
きていない。
そして、目の前の
伸びた草が 途切れて
建物が 幾つか見えた後

浜辺が見えて来た から、
気持ちも そぞろ になってしまう。

「まあ、そんな訳で 産廃が、ここ
から見えるぐらい近くに、
違法に、持ち込まれたのよ。

『神ノ子浜』はね、天皇一族に
纏わるの伝説 とか、
縄文弥生時代の 遺跡が
ある様な 島を代表するぐらいの
浜辺なのにね。あぁ、これは」

そう言って
軽自動車が 到着した場所は、
確かに
無人になった 白い リゾート浜だ。

真っ青な海に 向かって 何処までも
伸びて いそうな、
白い 桟橋も 廃墟さを
どこか 物語っている。

「ここって、」

まるで、無人島に
流された
気持ちに ユキノジョウは なって。


「つわもの共が 夢の後って浜ね」

副女が 囁いた。
『ウーーーーーーーッ ッ ッ ッ 』


ユキノジョウは、
いわれた ままに

目をつむって、海を向いて

これからも 世界が 平和なように
モクトウってのを
した。

浜には、ユキノジョウ達しか
いなくって、
完全プライベートビーチだ!!

「まあ、そんないいもんじゃない
プチっと廃墟ビーチだわ。
逆に、この島じゃ、嫌みやね」

後ろで、副女さんは
いうけど、気にならないな。

だって、海の家のあと?
テラスじゃない?とか

副女さんと、母親がいってる
白いハウスには、
塩で サビてるけど、ビーチチェア
テーブルだってあるし、
水の出ない
シャワーで、着替えれる。

てか!
誰もいねー!!サイコー
オレこんな
ぜーんぜんっ 人いねー海とか、
プールってさ
来たことないぞ!

いっつも、人いっぱいだし。
コミコミ ふつう。
なのに、誰もいねー!!!

まあな、
ちょっと 見た目アレだけど、
こーゆーテイストのインテリア
って思えば へーき。

アトラクションっぽい。
白い、ニセモノのヤシの木とか、
ハゲててさ、
夏の 明るいハロウィンだな!!


「先に ゲストハウスで作ってきた
サンドイッチ食べようか?ほら」

時計を 副女さんが
母親に見せて、お昼を 出してる。

ユキノジョウの母親は、
どっかから、
くたびれたパラソルを
見つけてきた。

「そうしよっかー。じゃ、食べて
海に行く?ユキノジョウ 、
ホテルの紙袋に、水着買ってる
の 入ってるし。ピンクの」

げっ!ピンクのバナナの絵とか
じゃないだろな!

ユキノジョウは、
昼のサンドイッチが、広げられる
のを、見もせず

車の荷物から、紙ふくろ
を出して 見る。

ピンクに、バナナじゃなく、
ピンクに、ネズミのキャラだ。

よしと、しよう!

そうして、
荷物を 持って もどると、

浜に、はじっこが
ちぎれた パラソルが さしてた。

パラソルのくいも、
のこってたか。

その、パラソルん下で
副女さんが、

「今日は、終戦の日だからね」

っていって、時間に
モクトウを したのだ。


それから、ボロテラスで すわって
お昼をする。

「「いただきまーす!」」

ユキノジョウとユリヤは、
ラップになっている
サンドイッチを 口にした。

「あ、なんか 普通に挟んだだけの
サンドイッチやのに、美味しい」

ユキノジョウの母親が、
声にしたみたいに、
なぜか おいしく感じる。

「本当。マヨネーズとか、チーズ
が違うんだろうけど、野菜が
新鮮やし。凄くわかる。」

副女さんも、ユリヤも
おどろいた顔を していた。

ゲストハウスで作ってる
レモンウォーターも、
すごく レモンのすっぱさと、
においがして、
ユキノジョウは、
ゴクゴク
飲めてしまった。

でも、
1番おどろいたのは、

いつもスクール水着キテルのしか
見たことなかった
ユリヤにだ!

ギンガムチェックっていう
赤と白の むねんとこに
フリルってのが ついた
水着か!

おわった。

「わあ、ユリヤちゃん!可愛い
水着にあわせて、白のリボンも」

「でしょ。もう中学なるし、
スクール水着もないしね?
相変わらず、髪は おだんごに
するとこが、授業まもるユリヤ
っぽいとこだから、リボンでね」

学校なら、
水泳ぼうに、女子は
かみをいれないと、おこられる。

「もう、中学なるもんね。
頭に 水中メガネして、外でも
泳ぐの、今年で 終わりかー。」

ユキノジョウの母親は、
フフーっと、ユキノジョウと
ユリヤの 頭に着けてる
メガネを 指さした。

そっか、
中学って 外のプールじゃ メガネ
しないのか。忘れてた。

じゃあ、水着のポケットに
入れたヤツ、
ユリヤは どこに入れるんだ?

水中メガネの いいとこは、
お金とか、ポケットがわりに
入れれる とこなのに。

ユリヤは、もともと 食べるのが
少ないし、
ユキノジョウは サンドイッチを
バクバク食べて

浮き輪に空気をいれる。

大人2人は、のんきに、
お昼を しながら
ビーチチェアに ねそべって
しゃべってる。

ボロテラスには、
ちゃんと 屋根があるから、
日カゲなって、海から風もある。
かいてき なんだろ。

ユリヤが 日焼け止めを
ぬっているのを、
ユキノジョウも 手伝って

サンバシが伸びてる、
真っ白い 砂浜の 海に
泳ぎに 出た。

ちゃんと、
リゾートの浜をしてた時は、
サンバシに、クルーザーが
直接きて

ビーチハウスで、
今 流行ってるみたいな
グランピングっぽいのが

早くに やってたって
副女さんが、教えてくた。

そのサンバシは
ちょと ガタツイてるけど、
アーケードもある。

あそこで、
ユリヤに ポケットのを
わたそう。

ユキノジョウは、
波にゆられて
浮き輪につかまる
ユリヤと、
サンバシを 見ながら

キゲン良く 遊ぶ。
何を残すの?


少しずつ目指す、浜に向けて
ハジメ達を 乗せた
船は、
ゆっくりと 青の波を
進む。

午前中の ゲストを
石工房に連れて、

そのまま
ゲスト達は それぞれ
この島を堪能 すれば
次の島へと
キャラバンの様に
移動していく。

「この島の東って、まるで
南国ですね!
白い断崖の 間際まで、緑が
あんなに 迫ってますよ!」

スタッフのシオン君が、
凄い勢いで、デッキまで降りて
直下たつ 海岸を 仰ぐ。

「東側になるんだけどねぇ。
こっち側の島影を見れるのはぁ
釜山の航路客ぐらいだよねぇ。」

東西南北~、こんなに島の印象が
変わる所も 珍しいよねぇ。

「オーナー。東周りで、島の南へ
向かうでよろしいのですか?
南は、消滅集落と墓地が ある
ぐらいですが。」

ハジメと、シオンと並び
ヨミも デッキに出てきている。

「見事に北側はぁ、人の生活も、
アート振興も進でいるのにねぇ」

南はねぇ、亜熱帯的な植物が
多いためかな~、
かつてはさあ、
リゾート開発される 兆しも
少しはあったんだよ~

「南のリゾートっぽい話も~
撤退してぇ、そのまんまみたい
だからねぇ。ちょっと見たいん
だよねん~。わがままだよね~」

そして、ハジメは
出来れば 昨日、
牧師に 聞いた場所に 行って
みたいのだ。

港からさあ、 車を走らせても~
構わなかったんだけどねん。

ふと、この東の海岸線を
船から 見たかったのと、

南に残った 桟橋を
使ってみたい『悪戯心』が
ハジメに、湧いてきたのも
あった。

「もう、芸術祭が始まってー
どれぐらいなんですかね?
島のアートも 増えてますけど、
たまに、そのままになっている
作品も、年季入ってたりしてー」

ボランティアさんの
メンテナンスも まめにあるって、
聞いてますけどと、
ヨミに 話す シオンの声が
ハジメにも 聞こえる。

初期なら
打ち上げ花火のような
作品も あるのかも
しれない。

管理なければ、
廃材に なりうる モノも
あるだろう。

維持と持続の 不安定さを、
人は どれぐらい
想像できるだろうか?

「ああ~そろそろ
島の南側にぃ なるねぇ~。」

何回目かになる 芸術の祭典。

今回も
島内の海岸や
古民家や路地なども
舞台となっている。

瀬戸内の独特の風景、
集落の建物、
土地の歴史を 内包して、
それを 特色とした
トリエンナーレに 成長した。

近年は、
美術館鑑賞という、
形式で展覧してきた 企画展と
一線引いて きている。

島からインスパイアを受け、
島の為に創られ
設置され、

その島でしか見れない、
まさに 島限定の
インスタレーション作品が
島の芸術祭の特徴と
なった。

『サイトスペシフィック・ワークス』

アーティストが直接来島し
島や建物、
土地を見て
『場』を選んで、
プラン立て、制作する手法だ。

その為か
野外作品も多く、
作品専用の建屋でも
設置として
メンテナンスが
必要に なると
開催年を 重ねると
目につく。

「あれ!もしかして、産廃の
半島ですか?! 海から見る
なんて 思わなかったなー。」

シオンくん、いつの間に
双眼鏡を 覗いていたの かなぁ

ハジメは、
シオンが 指さした 方向を見る。

長年 隣の島へ 搬出され
産廃処理の仕上げを
されてきた作業も、

押しに押して、
今は 土壌汚染の
復帰に 務めている
らしい。


科学の発達で、エコで環境に
配した 資材が増え、
100年単位で 朽ちない、
ノーメンテナンスな素材も
年々開発されて。

アートの世界にも
新素材は進出しては いる。

ただねぇ~、
『サイトスペシフィック・ワークス』なアートはぁ
規模が大きいから
新進の素材を潤沢にさぁ
使用するってぇ 珍しいんだよ~。

「シオンくん~、ちょ~っと
その双眼鏡~かしてくれるぅ?」

そう、
シオンから 渡された モノを
覗いて、桟橋を
ハジメは 確認しようとする。


島ならではの、
塩害による塗料の剥げに
対応するのも
課題だろう。

また、
有名アーティスト依頼となると、
メンテナンスが
ライセンス問題で出来ない事も
ある。
アートと建物が一体した作品なら
なおさら。

建築家に依頼した建物の、
劣化をメンテナンスした
オーナーが 訴えられる事も
あるのだ。

「うん~、やっぱり残ってる~」

そして、
アートだけでなく、
昭和、バブル期、リーマン前夜にあった
別荘、セカンドライフ時流に
起こったリゾート開発にも
同様に見える。

今 目の前浜に 迫ってきた場所も、
遠目には、白いテラスハウスが並ぶ元ビーチリゾートで、

桟橋も 撤去されず
双眼鏡に 映る。


「お陰でぇ、船を 付けれるけど」

って、桟橋に 誰か人の影が
見えるんだけどぉ~。
あれ~。
管理人も いない
不毛のビーチのはず?だよねん。

双眼鏡を そのまま 手に
桟橋に どんどん 船が近づく
ハジメの耳に、

浜から~?
絶叫~~~?
まだぁ 誰かいるのか?なん?

「オーナー?到着地点に、係員が
いてますけど?良かったですか?
あら?でも 閉鎖してましたね」

ヨミも シオンも 近づく浜辺の
異変に
ハジメの隣で、
不思議がっている。

あれ?れ?
よくみるとぉ~

もしかしてぇ、
「白鷺くん、香箱ちゃん?」

「「???」」

船は ゆっくり 廃墟な桟橋に
寄っていく。

呆然とする3人に
突然 目映い 反射がした。

わぁっ!!なんか 眩しい光~!
この キラキラって何~?

そして まるで、
船寄せをする
港員のように 佇む姿を
2つ捉えて、投げられたのは

昨日から
何回目かの 迎合を果たしてきた、
男の子の声だった。

「やっぱり、ハジメさんの船か。
タイミングわりーよ。」

ユキノジョウと、ユリヤが

朽ち始めようとする
桟橋の上から

船を 扇いでいた。

えぇ、凄い不機嫌だねぇ。

睨まれるハジメの心中を
無視して、
隣から 呑気な シオンが
ハジメに 揶揄している。

「あれって、白鷺くんじゃない
ですか?やだー!
オーナー、約束してたんですね」

いや、心底びっくりしてるよん。

ハジメが ヒラヒラと手を振る。

見ると、さっき
ハジメの目を 直撃した 光が
ユリヤの手から
また、放たれてた。

「あ~、そうかぁ、
なんかキラキラあげたらって
言ったの僕だよねん~。って、
何?香箱ちゃん 持ってんの?」

船の上から、
叫ぶ ハジメに

ユキノジョウが ユリヤの
手をつかんで
掲げた。

ユリヤに 渡したのであろう
その手のモノを見せる。

ハジメと、ヨミ、シオンが
グッと身を乗り出して
覗き込む。

ユリヤの 白い手には
小さな
ガラスの靴が
キラキラ
輝いていて、虹を創る。

「ダイヤモンド?」
ヨミが 呟くと、
シオンが、ハジメの 双眼鏡を
取り上げ 覗く。

「ガラスの靴に、スワロの小石が
付いてて、それが反射してるんで
すね!凄い、あの小ささで、
こんなに光るなんて!!
夢の国の お土産 恐るべしっ!」

いやいや~、シオンくん、
夢ないよぉ、その解説ぅ。しかも
何処の 商品かも わかるってぇ。

何よりさぁ~

「それぇ~?!」

なんだよぉ、そのぉ~
恋愛力のぉ ツヨサ~ぁ。

言ったさぁ、言ったけどぉ
君はぁ
僕の~アドバイス
斜め上いく 強者だねぇ 白鷺くん。

「参ったねぇ これが勝ち組?~」

僕は、その場に
ハハハハハ。はは。 はァ~。
って
笑って
へなへなと座ってしまう。

「あの。オーナー。
後ろから、凄い勢いで、
女性達が、走ってきます!!」

あ、ほんとだぁ。


『コラーーーーーーーーー!!』
『あんた達ーー、へんなのに
ついていっちゃダメーーー!!』

アハハ、
桟橋を 脱兎の如く、

ずぶ濡れの砂マミレの
妙齢のレディ2人が

鬼の形相で 渡ってきたよん。

『『あ?ハジメさん?』』

「ヨミくん~、奪衣婆だよ~」
『誰がじゃ!うおらららっっ!』

どうやら~、副女さんには
聞こえちゃった らしいねん。


私が
副女に なった日。

『とうとう、号数が住所につくような 家が 会長、副会長になる時代になったのか。嘆かわしい。』

開口一番に放たれた
挨拶への 返事が、これだった。

いや、
それは こちらが 言いたい。
そんな本音を 飲み込んで
会長の 後ろで、
頭を 垂れるのみ。

そもそも、
このような状態が 真しやかに
行われている事実を、
普通と言われる
家庭の 人間は
知らないだろうが。

なんの因果か、
私みたいなモノが、
この PTA役員をやるのが、
非常事態なのだと

うちは、転勤族の主人が
借りてる マンション親だ。

目の前の 地域の重鎮達に
叫んでやりたい。
なんなら、
お宅達の親族が
本来なるべき役だろうが!

それを、やりたがらない
事に、なったのを
重く肝に命じろよ。


この国で1番大きな組織とは?

その間違いない1つは
PTAだろう。

しかも、生きた動脈を持つ組織だ。100%ボランティアでだ。
これは 驚くべき事じゃないか。

そして、
この力は 非常に見えにくい。
故に、一般なら やりたがらない。
普通なら。

にも関わらず、
『Pの家』という家がある。
代々役付きに入る家は、里子を
とってまで その役に持ち回りで
入ってくる。

私達の校区のように、
各県には Pの目からみて、
勢力の強い校区がある。

これは、セレブとか、政治的とか
純粋に マウントの天辺に
ある校区だけではない。

福祉区、裏商業区、歴史的差区、寺社区、公務区、外国区。

社会的な パワーバランスを担う
ような人が 集まりやすい区も
確固たる長の元で住み所ごと
統治されている。

『子供』という キーパーソンだけ
その世界は、横並びに連携
されるのだから、恐るべし。

ともすれば、
有名私立学校が 注目のされるが、
そんなグループ程度の組織に
なんの意味もない。

公立学校の組織は、
国内隅々まで連携されるのだから

『子供』の後ろには、
世界への扉が ある。
その『子供』の親は、あらゆる
親がいるのだ。
テレビ局の親?裁判官の親?
組の頭をしていたり、
刑期を過ごす親もいる。
開発をする親、原子力を動かす親、漁船を持つ親、戦闘機に乗る親。
ごく普通の親なら 五万といる。
それは大きな力を持つ。

貴方は、まだまだ この日本は
学力社会だというけど、
偏差値のない県だって あるのだ。

当たり前が、
じつは当たり前ではない。
『子供』がいれば、
必ずやらなくては いけない
PTA。
貴方は、まだ ほんの一面しか
しらない。

私は、普通の親だった この日、
女性副会長になった。

ちょうど、
全国で 学級崩壊が 社会現象に
なっていた。

我が1人娘が、小学校に入学する
時、誰がそんな 憂き目に
あうと考える?

夏休みに入る頃、
見事に 学校の半分以上の
クラスが、
学級崩壊を 起こして、
娘のクラスも それになる。

あげく、
臨時教員に、
スクールハラスメント疑惑。

「あの、ユリヤちゃんと うちの
娘って、いつも 放課後 先生に
呼ばれるって、知ってます?」

プール当番で、
トイレに 立った私に、1人の
お母さんが 話かけてきた。

あの時に、声をかけてきた
お母さんと、
それから 毎日教室まで
ユリヤを迎えに行く事にした。

本当に忌々しい 出来事だ。

あの頃は、
私達だけじゃなかった。

放課後に、教室へ行けば
他の学年の保護者が、
録音機を片手に、
廊下に 潜んでいるのを
見かけて、驚いたものだ。

保護者と 学校の 信頼は
破綻していて、
そりゃ 学級崩壊するだろう。

毎日学校へ 迎えにいく。
そんな1年の終わりに、
今の会長に 声を 掛けられた。
全然、知り合いじゃなかった。


悩んだが、
PTA役員の了承をした。
そしたら、副会長だ。
せいぜい、書記か、監査だと
勝手に思っていたから。

私は、
副会長の話をされた時、
自分の兄の事情を
会長に 伝えた。

兄は、何度も刑務所に
入っているような 人間だ。
よりによって 薬の売人として。

そのせいで、結婚するまでは、
近所からも白い目を投げられ、
刑期を終えて 出て来ても
すぐに売人にもどる為、
刑事が 家を張り込むのも
普通だった。

早く家を出たかったから、
転勤族の主人と 出会ってすぐ
結婚で、ユリヤが 小学校に
なるまで、全国を転々とした。

この学校は 地元ではないけど、
同じ県。
どんな風かして、
知れてしまうか わからないと、
伝えた。

会長は、兄の名前を 知っていた。
驚いていたが、
それでもと、副会長に
名前を連ねる事を、お願いされた

それからは、
PTAの本丸たる世界を
見せられ、驚きの2年だった。

会長は、地域の重鎮達からは、
非常事態時に、学校へ入れられる 危機回避専門の役員として
遣わされる人物だった。

今回は上手く、
外の子供を 認知したばかりで、
小学校へ 入れれるという
人としては どうか?
な タイミングで、会長派遣。

こうして、
県内一流校区に、
『Pの家』からどころか、
アウトサイダーな 人物が
役員組織を 作る事になり、
5年を過ぎる。

Pに入るにあたり、
会長からは、
「やるからには、日Pまで行く。
小学で、市P。中学で県Pで、
高校で日Pのつもりでな。」

お分かりか?
要するに 11年PTAコースだ。

会長を PTA外交に出す間は、
学校の内向きを守るのが
副会長だ。

特に女性副会長は
大奥と同じ。

保護者は、もちろん、
校長、教頭、教職員、管理員、保健員、給食員を 預り、多数の地域組織と円滑な 信頼を築く。

学校の中には、多数の派もあり、
敷地の管理も 派がある。

自分の学校だけでなく、
近隣と上下学年学校ともだ。

さらに、行事があり、行政も
絡む。
365日総動員で、
将棋をさすように 駒を 進める。

その先にあるのは?

学校の平和で、
住む町の 平和なのだ。

当たり前の平和を 維持する為。

一流校区が、一流校区である為
それが、地域重鎮の願いだが、
私みたいな 『普通』を
全うする為の人間には、

ユリヤが
今日も 平和に
学校生活を過ごせる

それだけだ。

そんな 3年目。
監査に声をかけたのが、
彼女だった。

私は基本、占いとか、信じない。
いや、兄のせいで
祈る事さえ 意味があるのか
と 思っていた人間だ。
兄の事で、結婚するまで
社会を ずっと呪っていた。

そんな 私が まっとうな
フリヲシテ
副女をしている。

その心の汚泥を、
会って初めての彼女が、
見事に 暴いたのだ。

「副女さんて、こんなに世を呪っ
ていたんですね。お兄さんで、
苦労したのは 分かります。
でも、必ず、人の思いは、
積もります。いつか、掃除して
下さいね。その方が未来がある」

彼女の言葉を、聞いた時

ストンと 肩から荷物が
落ちたような 感覚がした。

それまで、
何かあれば、兄の影に怯え
人に 心で 毒を吐く。
そのくせ、
出来た 副女の皮を 被り着る。
絶対、誰にも 明かした事ない
真の自分。

一目で、見抜いた彼女は
本当にスピリチュアルな
力のある 人間だと 確信した。

この駒は、
必要だ。

どうせ、この悪腹も 見抜かれて
いるなら、引き込もう。

彼女は、その日から
監査女になった。



真っ白砂浜に、紺碧の海。
地中海のリゾート島にいるような
緩やかな 時間。
瀬戸内の海、島時間。

風も凪いで、
日差しも照らす。

プチ廃墟の テラスに、
放置されたままの ビーチチェア。
朽ち始めた ウッドテーブル。
千切れた リゾートパラソル。

砂浜に残された杭に、
ボロパラソルを指して
禿げビーチチェアと、ウッドデッキを
引っ張ってきた

副女と会計女が
リクライニングを倒したチェアに
寝転がっている。

ユキノジョウと、ユリヤは
壊れたシャワールームで
買ったばかりの 水着に
着替えたのだろう、

2人と 浮き輪で、
誰もいない、波に入って行った。

「ライトセーバーもいない
海 だけど、大丈夫かな。
やっぱり
ちゃんとしたビーチに
行かせれば良かったかもね。」

副女が、今更気がついた事を
呟いた。

「どっちにしても、今年は、
海開きしてない 浜ばっかり
なんだから、一緒じゃない?
それより、クラゲに気を付けてる
ように 言い忘れたわー! 」

会計女が、カラッと笑う。

2人の子供達は、寄り添って
波の動きに 遊んでいる。

「もう、お盆だからね。
クラゲ出てるか。頃合いみて、
声かけないと、さされたら
やっかいだわ。
こんな廃墟ビーチで 何もない」

副女は、海を見ながら
傍らの水筒を取り出す。

ユキノジョウの頭から、
水飛沫が上がって 波に消える。

浮き輪の ユリヤが
体を 沈ませると、波に向かって
バシャッバシャッしているから

ユキノジョウが
潜って、ユリヤの足を 引っ張った
のだろう。


「お盆も過ぎたら、もう夏休みも
すぐ終わるしねー。そしたら、
卒業なんて、あっという間ね?」

副女から 渡された、
水筒のハーブウォーターを
自分の プラコップに入れて、
会計女は 口にした。

「次の役員に、挨拶行かないとね
うちと、会長は 卒業なるからね」

次の中学も引き続き、下の役員
やるから
引き継ぎしないと、と副女が
ため息をつくと、

「もう、次の会長とかって、
決まってんだー。なら、純血統
から次は、役員選出されるね。
ちょうど、いいやー。」

何?1年休憩出来るって事?
ちゃんと、迎えに行くからと、
副女が 会計女を 見る。

「そう言えば、夏祭りで 初めて
会計女さんのご主人に
挨拶されたわよ?どういう、風の
吹き回し?今まで、Pには 寄り
付きもしなかったご主人がさ?」

副女が、
揶揄するように、会計女に
何気なく 放った。

会計女は、
一瞬、言葉を切っている。

ユキノジョウの頭が
浮き上がると、
波に揺れる
浮き輪のユリヤを、
浜に向かって 引っ張り 泳ぐのが

見える。
1度浜に戻るのか。
クラゲを言っておこう。

副女は、口の前に、両手で
拡声の形を とる。

「旦那とね、正式に離婚したの。
2学期から、旦那の彼女が 、
あの子達と住む事になるのー。」

クラゲ!っと言いかけた
副女が、
会計女の 言葉に、
声を 詰まらせる。

「・・・・」

「だからさ、これからは旦那も
積極的にPに参加すると 思う。
アタシの代わりに、2学期からは
彼女を ヨロシクって意味よ。」

「・・」

「そんな訳だから、子供達の事
よろしくね。あと、今まで 、」

会計女が そういって 隣の
副女に 頭を下げようとして、

「会計女さん。何?子供達も
Pの仕事も、そのまま 次の
彼女さんに スライドするから、
ヨロシクって、意味なの?」

冷ややかな、副女の声に
遮られた。

「ねぇ、子供達は それ、
知ってるの?まだ言ってないよね
先に、子供達に まずは 話てよ。
会計女さんに、子供達だって、
付いていきたいに 決まってる」

何で、先に 私に言うかなー。
副女が、やれやれと
頼むよと セリフにした。

「この旅行が、終わったら
ちゃんと、ご主人も 交えて
1度話し合いは した方が いい
別れるにしても、子供達と」

副女は、浜に上がってきた
ユキノジョウと、ユリヤに

「ごめん、お盆だから クラゲいる
だろうし、波の流れにも
気を付けてよ。ユキノジョウくん
スイミングで 泳ぎかなり出来る
だろうけど。ユリヤ気を付けて」

ハーブウォーターを、
渡しながら 注意する。

ユキノジョウは、水中めがねを
頭にあげて、
プラコップを、後ろのユリヤに
渡した。

「さきいってよ!クラゲいる!」

やっぱりかー。ごめんねー。
副女が、もう1つプラコップを
ユキノジョウに渡した。

波に濡れて、
子供達の髪から キラキラ
雫が 落ちている。

「あれさ、あのサンバシって、
ユリと見に行っていい?!」

ユキノジョウと、ユリヤが
コップを 禿げウッドテーブルに
戻して そのまま 向かう。

「ユキノジョウ!ビーサン履きな
足、焦げるから!」

会計女が、
裸足で 走り出した ユキノジョウを
引き留めた。

「ユキくん、ビーサン、テラス」

ユリヤは、
ユキノジョウに テラスの荷物に
ビーチサンダルが
入ったままなのを 指さした。

子供達は、
熱くなり始めた 砂浜を
裸足で 渡って
廃墟テラスを 目指して
また 消える。

子供達が
離れるのを 見送り 会計女が
口を開いた。

「けっこう長い付き合いやのに
初めてよねー、こんな風に旅行。
ちょうど、良かったよ。
ユキノジョウも、アコも、
いい 思い出になると 思うし。」

会計女の言葉に、

「まあ、いつもならこの季節、
夏休みでも 忙しいもんね。
本当ならさ、
次の委員長さんとか、役員の
補充に、声かけとか、根回しに
フル回転だしね。
今年みたい
に、次の会長が決まってると、
次期会長が、組織固めするから。
お盆が休みなんて、
もう、何年ぶりかしらよね。」

ユキノジョウと、ユリヤが
連れだって
サンダルを履いて、
朽ち始めた 桟橋へ
走っていくのが見える。

沖には、ヨットが見えてきた。
もしかしたら、
このビーチが 閉鎖ビーチだと
知らないのかもしれない。

副女は、ふと
沖のヨットを 確認して思う。

「ねぇ、桟橋、行っといた方が」

船から 人が降りてくれば、
子供達も ややこしいだろう。

会計女に副女が 提案しようと
腰を 上げた。

すると 会計女は、
チラリと、海側を見る。

そして、悪戯顔で

「ごめんねー。アタシ、今日で
あの子達の母親やめる。彼氏の
両親に挨拶して、すぐ結婚する」

立ち上がった副女に
座ったまま 会計女が、そう
軽やかに 言い放つと

『バシャッ』

会計女の 顔に
容赦なく ハーブウォーターが
浴びせられた。

副女の震える手 には
空になった 水筒が
ぶら下がる。

ヨットの姿は どんどん 桟橋に
近寄っていた。
「ユリ!そこの手すり、こわれてるから、さわんなよ。」

ユキノジョウと ユリヤは、
海に出て 浮きわで遊んで
いたけど、もぐってみると
思ってたより クラゲが 出てたから
あわてて、浜に戻った。

「お盆だもん、クラゲいたね」

ユリヤの ことばに、
それでも この海キレイだなって
思いながら

クラゲにさされるのは
かんべんだぞと、

「やっぱ 夏休みも 終わるもんな」

と 答えた。

ユキノジョウは サンバシの床を
よく 見ながら歩く。

穴が空いてたら
ユリヤが はまるといけない。
ボーッとしてるからな ユリは。

『ちょっと!!副女さん!
何すんの!服びしょ濡れ!!』

浜から、
ユキノジョウの母親の叫ぶのが
見えた。

『頭!冷やしなさいよ!2度と
そんな事、言うなってのよ!!』

そんな ヤジで、
サンバシから、
ユキノジョウと ユリヤは
さけびあう 親達を
見る。

「ユキくん、なんか お母さんたち
水のかけあいしてるね。」

「だな。暑いし、ダレもいねーし
親でも 海って遊べるのな。」

おたがい、見合わせてみるけど
サンバシは、長くて
ズンズン 歩いて
先まで進むと、そんな 母親たちの
声も とぎれてくる。

『何で、よりによって、ここで』

副女さんが 何かいいながら
プラコップで、海の水を
ユキノジョウの母親に
かけて、

ユキノジョウの母親も
同じように プラコップで
水を飛ばしてる。

それでも、遠いから
2人とも 人ごとで、
あせる感じも、出ない。

「なんか、おこってるみたい」

後ろの浜で、
海の水を ガバカバ かけあう
母親達を
ユリヤが、見る。

「大丈夫だろ。
ユリ、ここ、床ぬけてる」

ユキノジョウは、穴があいた
サンバシを 指さして
ユリヤの手を 引っぱった。

海は、カモメも 飛んでない。
おだやかだ。

「うん。アコちゃん、
来たら 良かったのにね。」

ユキノジョウは、そのまま
ユリヤと手をつないで サンバシの
真ん中まで来た。

「アコは、アコで 遊んでるって」

アイツは、どこでもすぐに友達
出来るからな。
母親に似てるんだよ。

穴を2人でさけて、
ゲートみたいな 所に ついた。

真ん中は、少し高くなって、
そこに
白い鉄のゲートが ついている。

なぜか 山形に サンバシが
作られてたから、
さっきまで
ヤミに ゆるーい、
のぼり坂だったのだ。

白い ゲートには、
カンバンが ついていて、
『welcome』って
風にゆれている。

ユキノジョウと、ユリヤは
息をついて、

後ろの浜を
ふりかえって 見た。

白いテラスハウスの並びは
ここまでくると、
一見、無人には見えないくらい、
空と 緑に 白く 映えてた。

日本じゃない みたいだぞ。


いかにも 夏のリゾートっぽい。
そんな ところで、
母親達は、
水の かけあいと、
いい合いを していて。

『どいつも、こいつも、いいかげんにしろっ!クソがっー』

ときたま
副女さんの デカイ声が した。

「なんか、いつもとちがうくね?
ユリんとこの 母さん。」

さすがに、あれは、どーした?

と、
「「あ」」2人が 止まる。

「あれ、母さんキレたな。」

ユキノジョウの母親が
副女さんに、砂をかけたのが
見えた。

「ドロ試合だね。」

いい大人が、砂と水をかけあい
している。

ドラマで、『フリンのシュラバ』
ってやつみたいだけど。

なんだか、へんな
夢みたいに ユキノジョウは
見ていた。

「ユキくん、くれるモノ、何?」

ふと、
ユリヤが 浜で
ユキノジョウが いったのを
思い出したのだろう。

「うん。忘れてた。じゃ、
サンバシのはじっこで、やる」

いつもの 親達とちがうのに、
ボーッとしていた、
ユキノジョウと ユリヤは

また、サンバシを歩していく。

白で 太陽を てり返してるけど、
サンダルの足が サンバシの熱で
あつくなってきた。

「ユリ、足あつくね?海に足つけるか?」

山形に 真ん中が高くなった
サンバシも、ゲートを
こえると、
だんだん 低くなる。

海がみちると、半分は
海ん中になるのかもしれない。

「大丈夫。ね、船?」

ユリヤが、ユキノジョウに
返事をして、前を見る。

ユキノジョウも、
サンバシの床を気にしていた
目を 海に向けた。

「船?」

サンバシの1番先に
とうとう来た 2人は、
波のまだ向こうに いる
船を 見つける。

ここまで来たら、
もう 浜の声は 聞こえない。

サンバシは、海近くまで
低くなっている。

サンダルの足を おたがい、
手をつないで 支えて、
海に冷す。

「そだ、これ。ユリにやるよ。」

ユキノジョウは、
海水パンツのポケットの
ジッパーを 開けて

ユリヤの手に 中のモノを
入れこんだ。

ユリヤが、静かに
手を開けると
光るとうめいの 小さいモノが
ある。

「ガラスのくつ?」

「うん。水着買ったとこで、
お土産 うってたやつ。ユリに
やろって買っといた。やるよ」

「かわいい。ユキくん、
ありがとう。」

サンバシに 立ったまま
ユリヤが、ユキノジョウに
頭をさげる。

「あ、いいよ。別に。いつも
いっしょにいるから、たまには
だって。これからも、よろしく」

いっしゅん、
ユリヤが 目を丸くした気が
ユキノジョウにはした。

「ユキくん。
半年したら 中学だよ、、」

「じゃ、オレ、中学いったら
また、よろしくな、、」

そう笑うユキノジョウに、
ユリヤは 手のひらの
モノを 太陽に かざした。

とたんに、太陽の光を 反射させて
波に 虹をつくって、
2人が 声をあげた時。

遠くにあった
船が すぐそこに来ていたのに
気がついた。

そして、
ユキノジョウが 思ってた
顔が、船に見える。

「あ、ハジメさん?
タイミング悪りーよ。」

白しけメン
ハジメが
ヒラヒラと、手をふるのが
みえた。

同時に、
サンバシの 向こうに、
ユキノジョウとユリヤの
他に ゆれる感じが 伝わる。

ハジメが 船から
さけぶのが 見えて

ユキノジョウは
ユリヤの手を 高く見せた。

どうだよ!ちゃんと
キラキラするもの わたしたぞ!

ユキノジョウが
ハジメに そうサンバシから
さけぼうとしたら、

『コラーーーーーーーーー!!』
『あんた達ーー、へんなのに
ついていっちゃダメーーー!!』

後ろから、
ものすごい 顔した
副女さんと、ユキノジョウの母親が つかみかかってくる
いきおいで 走ってきた。

さすが 運動会で
『ほごしゃリレー』で
毎年 走るだけあるよ、
あんたら。

なら、
行きの船も 走れたぞ!!


いやぁ~、あれはさぁ、ビックリ
だよねん~。本気でぇ奪衣婆って
思っちゃったよぉ。

ハジメが今 運転しているのは、
白いオープンカーではなく

副女から強奪した、軽自動車だ。
副女達の 荷物も そのままに
積みながらで、
後部座席には、
浮き輪やら、
ごちゃごちゃしている。

『はっ!!その 船のケツんとこ
載せてんのは、アンタの
たいそーなVIPカーだろーが!
それ乗ってけや!!』

って副女さん。あれはないよぉ。
かなりご機嫌ななめだったね?
アハハ。

もちろん、
船の底辺デッキには、
白いオープンカーを登載して
いたが、
ハジメは 下ろすのを
面倒がったのだ。

何かあったのかなん?

「あっちが、副女さんの素なんだ
ろうねぇ。まあ~いいんだけど」

廃墟テラスハウスの
横に停めていた
レンタルの軽自動車を、
ハジメは 副女から借りて、

手入れされていない
海岸線の道を
少し走る。

前職の経験から、山の中も
平原でも、
衛星マップの航空景色で、
頭に入れるから、道をみるのに
迷いはない。

『ユリ!すげー!ジャグジー
ある!これ入っていい?!』

朽ちた桟橋から
手を振る 子供達と、
鬼の形相の母親達を

ハジメは、
船に迎えて、
見学をさせた。

「そろそろ、左手に道だろね~」

たまに、石に乗り上げるのか、
アスファルトでも
軽自動車が バウンドする。

『昔はね、長老がいたから、
挨拶したら 案内してくれたけ
ど、今は 家と畑も
半移住っての?人に貸して
島にいないよ。まあ。
上手く、貸してる人に
会えたらさ、声かけたら?』

副女は、そう言って
会計女から 車のキーを もらい
ハジメに 投げつけた。

『さっき、変な誤解して、ごめんね。拉致られると 思ったから』

と、言葉を付け足して。

ほんと~、何怒ってるんだかぁ。
あれは、僕のせいじゃないよん。


「せっかく?シャワーと水着ぃ
貸してあげたのにさぁ。
扱いが、酷いよぉねぇ~!!」

何故か
砂でドロドロになった、母親達は
不振な 船から、子供達を
守るため、猛ダシュで
走ってきた。

笑えたぁ。
そして、羨ましい。

ハジメ達が、船をチャーター
しているのを 知るのは
ユキノジョウだけだから、
副女の様子は仕方なしだ。


でも、もし、
ハジメ達が 拉致船だとしたら、
あの 母親達は
やっぱり
死に物狂いで 子供達を
守るのだろう。

親ってねぇ。いろいろでも~、

「すごいよお、ねぇ、、」

『どうせ、あそこに
行くんでしょ?荷物に 虫除け
積んでるから、使いな。』

バックミラーで、
後部座席のカラフルな
荷物を チラリと 確認する。
と、
突然、左手に 畦道のような
農道が 見えた。

畑や、果樹の植えた畝も
見える。

ここだろうねぇ。
ハジメは、ハンドルを切る。

『アタシが行った時でも、
もう 荒れ果てた建物だったし、
ゲッセマネの園も、
笹とか木が 覆ってきてたけど、
目印があるから、わかるはず。』

行ける所まで、
車を走らせて、道がなくなれば
車から 降りるつもりだ。

「しかしねぇ、副女さんは
どうして ここに来たんだろう」

先に、
会計女にシャワーを 譲って
待ちながら、
ハジメのゲストに レンタル
する水着を 借りると、
選らぶ 副女。

『それにしても、どうして
ハジメさんは、ゲッセマネに
行くの?もう 誰もいないし、
サナトリウムも 廃墟だよ。』

ハジメは、その時の
副女の目を 思い出して
笑う。

「そんなの!!自分はどうなのさ
ってさ。言えなかったねぇ。」

この僕がさぁ。

道が途切れる頃、
目の前には 家が 出てきた。
どうやら、
今は留守のようだと、
ハジメは 車を停めた。

頭の中に、
航空地図の画面を 拡大
展開して、
家とは 反対を 伺う。

更に細い 畝の奥。
目星をつけていた辺りに
建物らしいモノが
見えた。

かつて、この島にあった
賢人がいた『サナトリウム』
というモノ。

ハジメのタレた目が 大きく
光る。

「どうしてぇ、僕は ここに来た
のかなんてぇ。僕にも、わから
ないなんてぇ、
あの人には 言えないなぁ。」

まずはぁ、
行ってみる。

「それからだよ。」


何度目かの 終戦記念日。

旅人、ハジメは、
『ゲッセマネの園』の場所を
とうとう 知れたのだった。


第二次世界大戦終了あたりまで、
日本は長く 結核菌に
悩まされてきた。

結核は
『国民病・亡国病』とまで
今も 言われている。

飛沫や、空気中感染で、
長らくワクチンがなかった。

肺結核のイメージが 強いが
実は全身が 病床になる。
免疫細胞に 巣くうから
たまったもんじゃない。
骨の結核が、カリエスだ。

エジプトのミイラや、
弥生時代の骨からも 結核跡
カリエスが
発見され、
キリストの生きた時代も
貴族が 多くかかっている。

集団感染で、クラスターが
発生すると手が付けられない。
まさに 亡国の病だ。
人間だけでなく、
動物にも巣くう。
戦場での 厳しい徴兵にあって、
結核だけは、入念に検査
されていたほど。

そして、湿度を好むこの菌は、
日本の歴史に長く
疫災として
蹂躙してきた。

反対に
ペストは明治に開国と共に
港から広まった
外来菌病なのだ。

結核。
10世帯に1人は発病。
人口の1/3は 潜伏させている。
免疫がおちれば、
いつ、誰がなるか わからない。

それは、現代でも同じで。

ワクチンが
開発されてからは、
BCG接種を 国民は 幼少期に
受けるのだ。

ワクチン開発までの
手立ては、
サナトリウムでの静養しか
されなかった。

全国でも、海洋地域や、
高原地域に、サナトリウムは
戦前から作られてる。

湘南などは、
『サナトリウム銀座』と、
12もの私設サナトリウムが
あった。
潤沢な資金を持つ患者や、
そのようなパトロンが
いる患者が
多く 静養し、
その文学さえ生まれた。

サナトリウムが、その使命を
終わらせた 後に
リゾートホテルへ変容
しているのは、
いかに、『金食い病』
それらのサナトリウムが
豪奢か 想像できる。

そんな中に、異なる色、
公設サナトリウムが大阪に。

そして、
この島には、教会と併設して
あった。

もともと島に
患者を受け入れる
民宿が 昔からあった言うから
驚きだ。
隔離さえ、本土で行われるにも
関わらずの風評時に。

特攻警察に
監視され続けた
サナトリウム。

賢人と呼ばれた人が、
幽閉のごとくいた場所。

ハジメの目の前には、
もう 建物としては
機能していない
廃材の塊が あるだけだ。

考えれば
監視される この場所で
世界への平和や、
終戦の祈りを
捧げるのは
難しい。

ハジメは、さらに
雑木林へと 足を進める。

副女に注意された、
虫除けを たんまり
スプレーをする。
珍しく 強い臭いのする
虫除けに、

ふと、『センダン』の葉は
強い虫除けや、
漁毒としてモリに
付ける事を 思い出した。
ウイルスにもきくとかとも。

パタパタと、虫除けを
扇いで 乾かす。

そのまま、
獣道になる雑木林を
進む。

賢人は 密やか
朝早くに、
サナトリウムを 出て、
裏の稜線を 行っていた。

その先に
気持ち 開けているような
場所。

とわいえ、笹や木々が
鬱蒼としている。
時間の流れを感じるほどに。

その中に、
ひときわ、存在感を主張する
南国の巨木。

見つけた、、、

ハジメは、
その左右に大きく張り出した
針のような 葉っぱを
眺める。

この木が目印。

旅人ハジメは ようやく
『ゲッセマネの園』に着いた。

ここが、かの賢人が、
拓いた
グリーンチャペル。

それは、
建物のない、
ただ 青空の下、植物を整え、
丸太を椅子にするような
祈り場。

この場所に立つ。

不覚にも
沢山の人と、賢人の
祈りが染み込んでいると、
感じ
肌が 粟立つような、これは、

ふわり、
虫除けの センダンの 香り。

ああ、
どこだったか、
センダンは 獄門の首を
その木に指す木でも
あったはず。

どこか、
疫は人類の贖罪を 陰に
感じる。

旅人 ハジメは ぶるりと
足元から背中に抜けるような
感じを受けて、
ゾワゾワと 震えてしまった。

『すぐに、場所はわかるよ。
フェニックスが トーテムポール
みたいに 直下たってるから。』

どうして、彼女は
あんな原始的シンボルを
口にしたのか。

副女の声のままに、
『ゲッセマネの園』には

不死鳥から 名前をとられた
ナツメヤシ。

燃える火の中から
生まれ変わる 伝説の鳥に
なぞってつけられた名前。

キリスト教の復活の木。

フェニックスが
植えられていた。

「まるで、大きな存在が
ずっと、僕を 見つめている」

旅人ハジメは、

島の 青空の下
鬱蒼とした雑木林の
祈り場で
その手を組み、囁く。

「アーメン。」
「ハレルヤ。」

そして、
胸に手を当てて
感じてみる。

僕、旅人は、どうして
ここに来たのでしょうか?
わかるのかを
旅人、僕に問う。