副女さんと、ハジメが
芸術祭の ボランティアで
顔見知りだった 事で、
受付仕事を まだ 続行する
母親達は
体よく、子ども達を
ハジメに 預けたわけで。
「ハジメさん、、
オレは、ユキノジョウです。
で、ユリヤに、アコ、なんで。」
『白鷺くんと、香箱ちゃん』の
呼び名の ままな、
ハジメに、ユキノジョウが
挨拶めいて、指摘する。
ハジメの運転する、
白のオープンカーの 助手席に
ユキノジョウが 座り、
後部座席は、
ユリヤと アコが 並ぶ。
見る事さえ 初めての 車形に
ユキノジョウと アコは
歓声を あげて、
「120キロだすと~、ジェット
コースターみたいだよん~」
との ハジメの 言葉に、
ユリヤは 悲壮な顔を見せた。
「え!白鷺くん、ユキノジョウ?
香箱ちゃん~、ユリヤ?~
凄いねぇ、ぴったりだねぇ。
それで、檸檬に いたのぉ?
自転車のってぇ 旅するぅ?
何 それぇ~!夏休みの
主人公 だなぁ~。文学~!」
島での 時速は 30キロ程度。
オープンカーの風が お互いの声を 遮るが、
聞こえない 程ではない。
「あの! 意味、わかんないん
ですけど!!なんなんですか!」
「あは!
白鷺→ユキノジョウ
ユキノジョウ→基次郎。
香箱→ユリヤ
ユリヤ→レモン→爆弾!
なら、アコ→お姫さまってする?
でぇ僕→お坊ん で、いいよん~
ね?、白鷺ぃくん~?」
ハジメは、
その タレ目を ユキノジョウに
ウインクさせて 悪戯に 笑う。
ユキノジョウは、
この瞬間に どうでも、
良くなって、サイドミラーごしに
後ろを見てみる。
ユリヤが、体を前に
出してきたからだった。
「ハジメさん。それ。
本の話、ですか。レモンの。」
「あれん?香箱ちゃん、本好き?
それもぉ、なかなか渋いセンス?
う~ん、
3分の1だけぇ 当たり~!!」
ユキノジョウが、
隣の席で、 不機嫌な顔を作る。
白の オープンカーは、
青空と 緑の 下り坂を、
爽快に 走り抜け、
道を行く 人の視線を 拐って走る。
『わ、オープンカー!!』
程なく
シャッター音。
きっと、青を 背景に
白く光る バックスタイルを
写真に 撮っているに、
違いない。
「じゃあ~、渋い~文学少女の
香箱ちゃんはぁ
3つの時代のぉ ベストセラー本
知ってるかなあ?」
「あ、文学少女じゃないです。」
ユリヤが、
前のハジメの 肩を 叩いた。
勝手に話が、進みそうだと
考えたのだろう。が、
「ユリヤちゃん!がんばって!
ハジメさん!ユリヤちゃん、
学校で 1番頭いいんですよ!」
ユリヤに ガッツポーズを
見せて、空気を 読まない アコが
ハジメに 鼻息を 荒くした。
気が付くと、オープンカーは
麓にある、別の港町を 走る。
港町というより、
島の漁村といった、
喉かな 集落は、
焼板の 黒壁が 太陽に 照らされ
低い建物の 姿が
独特の 港を
浮き上がら せる。
ユキノジョウが 見ると、
いくつも ゴールが ある
バスケットゴールに、
旅人が、ボールを 投げていた。
「ジャンジャン♪
日本の 時代別 3大ベストセラー
江戸時代の ベストセラー本はぁ
『安房のお姫と八犬士のお話 』
だよん~♪」
ユキノジョウと アコは
キョトンと していたが、
ユリヤは すぐに タイトルを
ハジメに告げる。
「当ったり~! さすがぁ。
ジャンジャン♪ならぁ
明治時代の ベストセラー本はぁ
『日本の1万円札になってる人の
自由・独立・平等を 新しい
価値にぃ
身分じゃなくて、学問って本』
わかるかなぁ? 10人に1人は
読んでいたんだよん~。」
これは、
ユキノジョウと、アコも
紙幣人物である
著者を 言い 当てて、
ユリヤが 著した本を
やはり、言い 当てた。
「みんな~やるねぇ。
香箱ちゃん、学校1番!
なるほど
さてぇ、でもラストは
分からないだろうから、答え
言っちゃうねん~。」
そんな、
やり取りをしている間にも、
オープンカーは
たまに 水田や、
幾つもの 漁船留まりの
海沿いを
走り抜けていた。
「ジャンジャン♪
大正時代の ベストセラー本は、
なんと、
この島に いた人が書いた本~。
戦前かな?
みんなの 住んでる 神戸で
貧しい人が住んでた街にも
いてた 人なんだよ 。
ガンジーと、シュヴァイツァーに
並んで『3大聖人』て、
世界じゃあ、有名だった人の本は
戦争のあった 時代なのに
200版も重版してぇ、100万部も
売れたんだよん。って、知らない
よねぇ。 まあ、香箱ちゃんがぁ
大人になってぇ、思い出して~」
そう言って、
ハジメは ハンドルを握りながら
アハハと、笑顔になる。
ユキノジョウは、
その ハジメの横顔が、
小豆島で 会った
農村歌舞伎の青年の 横顔と
重って、後ろの
ユリヤを 振り返る。
「あ!!お兄ちゃん!
田んぼに、
白くて、足が 長い鳥が いる!」
アコが、山側に広がる 水田を
指さして、叫んだ。
「日本に 昔からいる、メダカが
いるんだよ~。
それを、狙ってるのかなん?
お姫さま、目がいいねぇん。」
海沿いに森がそこだけ
コンモリしている 神社横の
なんとか 通れる道を行くと、
だんだん、
アスファルトは
砂利道に 変わっている。
「もう、すぐだよん~。」
そう、ハジメが オープンカーを
操りながら、予告をした時
「あの、ハジメさん、さっきの人
神戸のコープ、作った人、
ですよね、、、
お母さんが、
その人、戦争の時、
ここに トラワレテ、いたって 」
ユリヤが、
後部座席から 答える。
白のオープンカーは、
白い砂浜に出た。
道は、そこで途切れて、
広場になっている。
ハジメは、
ハンドルを切って
『キッ。』っと
ブレーキする。
「到着~。ピンポンピンポン♪!
香箱ちゃん、当たりぃ。
さすがぁ、副女さん~。
ど~ゆ~つもりでぇ、
この島に
来たんだろうねぇ?
ねぇ~
君たちの 大人はさぁ?」
シオンが付ける マスクごしから
わずかでは、あった。
汚泥、下水口、腐乱、硫黄
堆肥、古物埃、濁溝、悪焦
糞尿、咀嚼物 、瓦斯、死臭
そのどれとも違う 悪臭の種類は
廃棄臭。
収集車のイメージがして、
シオンは 申し訳ないけどと 思う。
1度、
独り暮らし用の 台所シンクの
排水が 詰まり
大家の手配で、修繕が あった時
午前中から、
午後まで 下水口が 空いたままに
なった事を
思い出す。
その 時間でさえ、
たった半径10センチにも 満たない
口から 漂う臭いに
自分の 部屋から
外に 弱冠 出たくなった。
シオンは、
建物の外に 出る。
出て 車に乗るけど、
電気自動車には
ガラスが 入っていない。
例えば
孤独に 亡くなって
見つからない ままの 部屋
マスクごしから する
臭いは、
そんな 風景を 思わせて、
シオンは
目の端に 涙を滲ませ
心ぼそく 吐きそうに なる。
せっかく
案内してくれる 人にも
先輩の ヨミにも
なんだか 島にも
申し訳ない 気持ちは、
初めて 感じる質の
背徳の 感情なのだ とも
理解するしかない。
電気自動車 から
送風を 流して、
朦朧とした 気持ちで
辺りの 環境を 目にすると、
帯ただしい、
白っぽい土の 平野が
かつての 産廃物の量を
シオンに、想像させる。
その中に、
四角い 人口の溜池が ある。
帯ただしい、白い平野に
わずかに、黒い土が
残っている。
海の風が 黒い土から
臭いを 運ぶと
それが 残る 汚土だと
シオンは 本能で わかった。
その 熱風の中
三半規管に 目眩が 起きると、
あるはずの ない、
廃棄物を 野焼きにする
黒い煙が
無数に
立ち上がって 空を汚す。
空からも、
焦げ臭い 火の雨が
心臓を握るような
不穏な サイレントと
一緒に なって 降ってくる。
臭いが 連れてきた
悲しい 蜃気楼だと、
シオンは 朦朧とした 意識に
沈められ
窒息しそうになる。
こんな 獄もあるのだなと。
目の端に溜まった 涙を
一筋 流した。
ぬるい水を
マスクが吸い込む。
この ぬるい水だけが、
無味無臭なのだとも、
シオンは 思った。
それでは あまりにも 人間は
悲しいじゃないか、、、、
瀬戸内海は、
『世界の宝石』『東洋の楽園』
と称される。
1950年頃の
島の 事件現場は、
コート・ダジュールに匹敵する
美しい場所だと、
写真で わかる。
その場所に起きた惨劇は、
世界に 類のない
有害産業 廃棄物 不法投棄事件。
通称 豊島事件。
1970年代の 作業期間を
含めれば
事件の 処理は、
未だ 続いていて、
土壌汚染の 浄化処理に 至っては
押しに押して
2025年を 目標だと 説明され
史上最悪の不法投棄事件の
難解さに
ヨミは、背筋が冷えた。
こんな 小さな島。
東京ドーム6個以上の敷地内に
770億円もの投資をしないと
処理できない 産廃量、
93万8000トン
膿のような
黒い汁水が 池溜まり
流れ出て、
悪臭健康被害、喘息の多発。
連日、低温でおこなう
野焼きは
ダイオキシンを 撒き散らし
黒煙を キノコ雲の ように
あげて、
海の向こうの
香川県庁から 見える ほど。
当初
廃棄物 処理の完了 予定は、
2017年で、
県が 回復処理の為 建てた
施設は 撤去の
予定だった という。
しかし、
どんどん 新らしく
発見される 産廃、汚染地下水。
未だ
浄化作業は
ヨミの 目の前で、続いていた。
ガラス張りで作業を見れる
悲しいかな
島で 唯一 近代エレベーターが
ある 処理建物とは 別に、
敷地の中に
ポツンと古びた
2階建ての 建物がある。
豊島住民資料館だ。
住民運動の 記憶を残す
手作りの 資料館は、
逮捕された
産廃業者の 事務所だった。
この資料館で さえ、
2017年の 処理完了と 同時に、
撤去対象だった らしい。
ここには
『剥ぎ取り』があった。
積まれる 廃棄物 壁をつけ
樹脂糊を吹きつけ、
剥ぎ取った
産廃の壁は
18mの 高さになる。
考えれば、東京ドーム 高さ
3分の1を
パンパンにして
6個集めた ゴミ。
その
豊島の 産廃標本だ。
ゴミの標本を作るのに、
970万円かけた。
『剥ぎ取り』は、
原爆ドームを 心に、
近代の 負開発の 悲惨を、
標本した。
『金も能力もない。
あるのは命だけ、
命懸けで、戦った。』
住人運動リーダーの声。
ヨミは思う。
今
車や家電を買い換える。
リサイクル料を払う。
車1台当たり1万円ぐらい?。
それが
当時 廃棄請け負いは、
驚愕の ダスト1トン車
100台当たり 1700円。
始まりは、高度経済成長期。
都市開発や工業化の中
まず
大量の 土砂が
都市や 工業地帯へと 運ばれる。
もちろん
土砂は 大規模 埋め立てには
絶対必要で、欠かせない。
しかも、
豊島の 地中には
ガラスの 原料にもなる
『珪砂←けいさ』も
あった。
コンクリート構造物に
『海砂』は 必要で、
大量に 採取されてしまう。
抉れた 大地に 今度は
近隣工業地帯、
遠くは 首都圏から
大量の廃棄物が 運び埋められた。
県が 責任を認め
撤去が 決まったのは、
2000年。
産廃が 隣の直島に
少しずつ 船で 運び込まれ、
直島製錬所で 溶融処理し、
汚染土壌は
福岡で、
セメント原料化の 処理を
してもらう。
処理事業は
目の前で
多くない 人数で
まさに、ヨミの 目の前で
続く。
住人の 言葉は、まるで
聖書の 格言に 思えた。
『この国は この島に
赤ん坊を捨て、
障害者を捨て、
老人を捨てた。
まだ飽き足らず、
今度はごみを 捨てるのかい?』
神話の 時代の 遺跡がある
青空に染まる 海の砂浜の上に
四角く、黒い建物は あった。
ユキノジョウ
ハジメ
ユリヤ
アコ達は、
四角い黒の
小さな小屋に入る。
そこには、『ノート』がある。
あと、モニターが見え
今流れる『心臓の音』が
何時、何処、何者、何様にかを
表示していた。
奥の扉を開ける。
壁に、
真っ暗黒く 塗る絵や、
墨写真の 様な ものが かけられて
暗い どこまでも のびる廊下には
異様な爆音といえる ほど
心臓の音が 振動していた。
ユキノジョウは、
自分が 大きな 生き物に
食べられた気分になる。
ランプが
廊下に 吊り下がって、
心臓の音に 合わせ点滅するのを、
ハジメは
いつかに 消えた
『心臓の波形』と重ねる。
ユリヤは、
音と共に
消えたりする 電球に、
『読破すると、1度は精神異常を
来たす』という奇妙な本の
冒頭を 思い出だした。
アコは、
壁の
アクリルの 黒い板が
学校で 撮った
レントゲン の様で、
何か 映りそうだと
怖くなる。
今 おなじ『 時間』と『空間』に
居て
同じ
『空気』を 『呼吸』する のに、
ユキノジョウ
ハジメ
ユリヤ
アコ達は
それぞれの
感覚や 記憶、情報、体験を
それぞれに
思い出していたが
それでいて、
4人ともが
『死』的な 感覚を
刺激されている という 事に
気付く事はなかった。
ただ 言葉にせず、
似ているけれども、
1人として 同じ音ではない
その、鼓動に 驚いて
大きく 迫る音の中
暗い廊下を 4人で 歩いた。
「みんなぁ、せっかくだから~、
心臓の音、残してみない?
あの廊下にも、心臓の音、
流してくれる みたいだよん。」
廊下を通り抜けて、
出てきた
驚くほど 穏やかな海の
見える 四角い 白い部屋で
ハジメは、
ユキノジョウ達に 提案した。
「やる!やる!ハジメさん、
やろ、やろ!」
アコが、ピョンピョン飛びそうな
勢いで、喜んだ。
「ハジメさん、ここ、初めてじゃ
ないって、言ってただろ!
もう、 録ってんじゃねーの?」
心臓の音を録って、残せる部屋で
聴診器を 手にして
ユキノジョウは、ハジメを見る。
「やだなぁ。1人で来てだとぉ
寂しいから~、録ってないん
だよん。ほら~
今度、島に来る時は、きっと
聞くのが、楽しみになるね~」
アコが、ふざけて
ヘッドホンは自分に、
ハジメの胸に 聴診器を当てて、
録音のスイッチを 入れる。
ハジメが、意趣がえしと
今度は、ユキノジョウの胸に
聴診器を当てて、
録音のスイッチを 入れた。
ユキノジョウが、ユリヤの胸に
ユリヤが アコの胸に
聴診器を 当てて
心臓の音を リレーで
採録を しあった。
ユキノジョウが 耳にあてた
ヘッドホンからは、
小鳥が リズムに 身をまかせ
ノックを するような
音が 聞こえる。
ユキノジョウは
ここは、
心臓の音の 図書館なんだと思う。
ハジメが 言うとおり、
ここは 心臓の音という形で
自分の存在を
保護して、蓄積して、
友達や、家族に 残しても おける。
全然 赤の他人が
明日、
残した 音を 聞いて
ユキノジョウが
島に 存在した事も、
知れるの だろう。
もしかしたら、
自分が いなくなって
自分の 子供が 聞くかもしれない。
でも それ以上に
聴診器を 当てている
時間を 一緒にする
今が 嬉しい。
4人で、
もう1度 心臓の 廊下に 戻る。
あんなに、
居心地が 悪かった 暗い空間に、
自分や、
今 一緒にいる 相手の鼓動と、
闇を
一瞬 照らす光に 包まれると、
その廊下は
今から 生まれる為に
歩く 場所の ようで、
暖かな 『生』の振動を
じんじんと 肌に 感じた。
そうして、
4人は
「なんか、おやつ 食べたい。」
と、頭を使ったから とか、
生きてる からとか、
笑い ながら
神話の時代の遺跡がある
青空の浜辺に 戻る。
船は、
新たな ゲストを乗せて、
島の北側を ゆっくり 進む。
今日、クルーズギャラリーに
乗船するゲストも
海外ゲスト。
そして、国内常連客。
オーナーであるハジメが、
合流するのは まだ後である。
豊島は、中央にそびえる
壇山を境に、
北側と南側で、
風景が異なる 。
まるで
四国島を
縮小したような
その 特色は
北側は緑が濃く、
山裾に広がる平地が
独特の、
里山の世界を作る。
今、まだ合流しない
ハジメオーナーの 代わりに、
ヨミが
ゲストの出迎え、
海を 散歩する クルーズ船の
ギャラリーサロンを案内する。
今回企画テーマは
瀬戸内海での芸術祭期間中もあり
『マドンナ・ブルー』。
碧と、女神のイメージを
彷彿とさせる品が 揃えられている
「瀬戸内海は、島の至るところで
目にします様に、巨大観音像
キリシタン遺構などが
多くありますが
この豊島も キリシタン
文化に 纏わる モノがあります」
ヨミは ゲストに 語りながら
石の女神の 前に立ち、
「豊島石です。
キリシタン灯籠に使われた
豊島石は、
柔らかく、粘りある粒子で、
手彫り加工しやすい特質から
多く 採掘され 流通し、
かつては、米 以上に
島の財源と なった 石です。」
先ほどの
産廃処理見学棟で、
体調を崩した 後輩を、
船室に 休ませ、
ヨミは
1人で ゲストに 応対 している。
が、特に 問題ない。
『豊島千件、石工千人』
江戸時代から 石の島 としても
この島は、名を馳せている。
『御影や、花崗岩ではないの?』
国内の 常連客から 質問される。
「豊島石は、『角礫質凝灰岩』
なのです。
とても、柔らかく、
水に 浸されやすい。
ところが、熱に強いので 灯籠に
向いているんですね。
水を 石に 含みやすい ので、
苔に むしやすく、味が出ます。
桂離宮や 住吉神社、大阪城で
使われて 来ましたし、
今も庭園に
重宝される 石なの ですよ。」
説明をしながら、
ヨミは オーナーの連絡を待つ。
『"唯一 の、豊島石の 体験工房
なんだけどねぇ、営業してるか
先に見て 来ようと思う~。"』
まあ 何かしらの用事が、
オーナーにも 有っての ついで
現場 確認なのだろうが。
ヨミは、
1つ息をつく。
国内の 常連客は、
華道を 嗜まれるから、
鉢に 興味を、持たれるはず。
島の 旅時間を 過ごす
思い出にと、
石の 手彫りを 提案するのだろう。
ゴツゴツとした
自然石の 風合いを
残した鉢に すれば、
和の インテリアグリーンになる。
水を含む 性質から、
特にシダ植物とも 相性がいい。
苔がつけば
なおさら 詫び錆び だろう。
巡礼好きの 海外ゲストにも、
手彫りは 良い体験になる。
『大谷石の、地下の採掘場跡
みたいな場所が あるの?』
海外ゲストは、きっと栃木の
採掘跡みたいなと、イメージして
聞いているのだろうと、
ヨミは 感じ、
「そうですね、
豊島石の 採掘場も、
縦穴15メートルに 奥は
250メートルで 4つが並び、
とても 不思議な 雰囲気で
面白い様です。でも今は
一般に 開放されて ません。」
海外ゲストは 残念そうだ。
「ですが、島には、珍しい石垣、
香川で最古の鳥居、至るところ
石が用いられ、雰囲気が
ありますよ。
島で、首のない地蔵 や。
石の蘭塔を
覗き見する 恵比寿像も
ありますし、イースター島以上
ミステリアスに 感じれます。」
ここで、オーナー直伝の
魅惑のウインクを
ヨミは
ゲスト達に、してみせた。
島の 南部の岸には、
古い共同墓地があり、
もちろん、豊島の墓石が並ぶ。
それは
まるで、ストーンサークル。
この墓地には、
十字の刻まれた
切支丹墓がある のだ。
小さな島で、
隠れれたの だろうか。
けれど、
他の島のような ひどい弾圧は
記録では 見つからない。
また、
島の 恵比寿像 は
『盗んできた恵比寿には
特別に 利益がある』といわれ、
度々盗難にあったからか、
豊島石の 重い 屋根の祠や、
覗き穴から参拝する ような
蘭塔に 入っている。
追いやられたり、
盗られたり。
石1つにも、
様々なストーリーが
ある 島。
大袈裟ではなく
どこまでも
考え深い 島で、計り知れない。
そこに、ヨミの電話画面に、
連絡内容が 浮かび上がる。
それを、見て
「例えば、たくさん島に ある
『首なし地蔵』に首を 掘って
あげると、願いが叶うという
話もあるのですよ。
どうでしょう、手彫りなど
やってみませんか?」
そう言いながら、
ヨミは 空を 手で掘る真似をした。
あ、そういえば
船室で 寝てる 後輩ちゃんが
面白い事を アドバイス
くれていたんだわ。
「と、
その前に、ほどなく
お泊まりになる
お宿の 浜が 見えて来ました。
宿の近くに、オーシャンビュー
レストランが あるので、
そちらで、お食事をされる事に
なりそうですが、」
海外のゲストが 泊まる
1棟貸しの 宿は、
キッチンシンクや 浴槽
玄関にまで、ふんだんに
豊島石を 使って
建てられている。
船の前に
緑 一色の島と、
真っ白で、真一文字の 横長な
建物が 見える。
紺碧の海に 浮かぶ 緑の島。
真ん中には
テラスとして
黒く 四角い口を 開けている。
「ご覧下さい。
かつて、千人の 石工がいる
千件の 石屋が並んだ浜に、
建てられレストランが、
まるで
緑の古墳に 佇む石の祠 みたい
だと 思いませんか。
それは、女神が 統べる
この 海から だけ見える、
遺跡の島の
もう1つの顔 なんです。」
皮肉かな、
豊島石。
近代建築の コンクリートの台頭と
アジア海運技術の 向上による、
安価石材の輸入で、
千人いた 石工は
島から 消えた。
ユキノジョウ達と ハジメは、
結局 『何か おやつ』を
島のキッチンで
調達する事に 決めた。
「誕生会の おばあちゃんが
いたら、『まくわうり』もらえる
かも しんない からな!」
そう、ユキノジョウは
やたら 期待していたが、誕生会は
とうの昔に お開きになり、
島のキッチン で作られた
みかん の パウンドケーキ を
全員で 頼んだ。
豊島の みかんで作られた
焼き菓子には、
同じく 島産みかんのジャムが
かかっていて、
甘い中に 皮のほろ苦い。
男性の ハジメにも 美味しく
食べれて、
御満悦の 様子だった。。
「いやぁ、若者達に 囲まれて
おじさん 1人も楽しめたよん」
優しい黄色。
檸檬のホテル、受付。
「そんなに 美味しいなら、
受付仕事する、私達に お土産
してくれて、良かったんですよ」
副女さんは、
ハジメに 軽い嫌味を 聞かせる。
母親達は
無事に、
予定の受付け ボランティア時間を
終了し、
後続の ボランティアに、
引き継ぎを 終わらせた。
支配人の 心配りで 差し入れされた
レモンのサワーを
受付にある ダイニングテーブルで、なぜか 全員
御相伴に 預かっている。
「ああ~!!本当にぃ!あ、でも
残念ながら、パウンドケーキは
僕らので、売り切れ~。
他の スイーツはねん、
テイクアウト 出来ないってぇ」
悪びれるもなく、
ハジメは 両手両肩を そびやかし
sorryと ジェスチャーをした。
それから、
まだ 時間が あるのか、
副女さん達 大人は
ダイニングテーブルで 話を
続けている。
アコは、
少し 疲れたのか テーブルに
うつ伏せて 半分 寝惚け眼だった。
ユキノジョウと ユリヤは、
せっかく 芸術祭のパスポートを
持っているのだからと、
檸檬のホテルを、
2人で アート散策する事にした。
『ペアになってますね。じゃあ、
音声ガイダンスを 耳に付けて、
聞こえる指示に 従って 体験
アートを、楽しんでください』
母親達から、引き継いだ
後続のボランティアは、
当たり前だが、
ユキノジョウ達の受付より、
よっぽど プロっぽいと
思ってしまった。
後続ボランティアは、
このまま 夜受付の 後に
檸檬のホテルに 宿泊するのだと
母親達に、話していた。
「ユリ、イヤホン入れるよ。」
ユキノジョウは、
ユリヤの片耳に、ガイダンスの
イヤホンを 突っ込んで
そして
自分の耳にも スタンバイすると
案内のスイッチを 入れた。
そこに、
副女さんから
「電話の 写真を使う
事がある から
その時は、これを 使いな。」
と、
インスタントのカメラを
簡単に使い方を 言われながら
投げられた。
夏の夕方は 昼間の様に
まだ 全然、明るい。
夕食に向けてか、
新たに 体験にくる 旅人も
まだ、レモンのホテルには
現れそうにない。
つまり、
ユキノジョウと ユリヤは
2人きり。
指示される ままに、 進む。
優しい黄色の光に
ホテルは 包まれて いる。
大人なら、
青春の 酸っぱさや、
爽やかさを、その色味の世界に
感じるのだろう。
けれど、
青春真っ只中の
登り坂を これから 上がる
幼い 2人は、
流れる 指示を、ゲーム感覚。
未知への 予感に
ワクワクと 進んでいく。
ある指示は
外の遊具で 並んで とか、
外の 檸檬色の 布で 戯れてとか。
いろいろ 指示されて。
そして、
優しい 黄色の 縁側まで 来た。
目の前には、
たわわに 実る レモンの木。
最後の指示で
ユキノジョウと ユリヤは
『ほほ檸檬』なるモノを
指示された。
「ほほレモン?何?それ?」
ユキノジョウが 呟く。
指示の場所には
籠盛りされた レモン。
1つ
ユリヤが 手に取り、
お互いの ほほで レモンを
挟むのだろうと
言った。
なので
ユキノジョウと ユリヤは、
特に 躊躇いもなく
『ほほに檸檬を 挟む』んで、
カメラのシャッターを切る。
星空は、レモン距離で だった。
「で?」
最後のミッションを
あれで、
難なく 終わらせたと
言うことなのだと、
気がついて、
ユキノジョウは レモンを 弄び
ユリヤを 見投る。
「終わり。」
ユリヤは、
にっこり として 伝げた。
「何これ。」
最初
ワクワクで
始まった感覚は
普段、学校で 遊ぶような
じゃれあいの指示に、
いつもと なんら
変わらない シーンの
再現ように 只只 感じて、
ユキノジョウには ???だった。
「アート体験だって。」
ユリヤも、瞳をパチクリと
していたが、
年の差1つ分は
何かを 理解しては いる
笑顔を している。
「ふーん。そっか。昼間ユリが
言ってた、『レモンの本』も、
こんな 感じの 本なのか。」
大人なら、『ほほに 檸檬』も、
もっと 違う感覚を 持てたのだろう
けどと、思いながらの
ユキノジョウの問いかけに
ユリヤは、頭を 傾げた。
少し、考えた風にして
「全然ちがう。、、、
でも、
もしかしたら、お母さんが
教えてくれた事、似てるかも」
そう 言って、
ユリヤも、1つ籠から
レモンを 手に した。
「『檸檬の本』にね、
このレモンを
『爆弾』って ことにして、
本屋さんに 主人公が、レモンを
おいて 出ていくって書いてる」
そして、
渡された インスタントカメラを
本に見立てて、
ユリヤは レモンを カメラに置く。
ユキノジョウが、
戯けて
そのレモンが 『ボン!』と、
爆発的する
みたいな
ジェスチャーを して見せる。
「それ、すげー!面白いな!」
ゲラゲラ アハハと
2人で 笑って、ユリヤが
「でね、京都に 、あるんだって。
その本屋さん。だから、本当に
その本に、レモンを 置く
お客さんが いるって、
お母さん 教えてくれた。」
ユキノジョウは、
ユリヤの言葉を 聞いて
レモンを 見つめると、
恐る恐る
自分の頭に、
レモンを 乗せた。
「本は ないから、頭ん上。」
ユキノジョウを 見て
ユリヤも 自分の頭に
レモンを 乗せて、
並んで、 写真を 撮る。
ふと、
ユキノジョウは
ユリヤの 頭のレモンを 見つめる。
自分に乗せた
レモンを、
手に して
ユキノジョウは
「ユリ!
もう1度 『ほほレモン』しよ!」
と、手のレモンを ユリヤの顔に
近づける。
ユリヤは、自分の頬を
ユキノジョウに 出した。
そうして、
ユキノジョウは
手にした レモンを ユリヤの頬に
添えて、
ユリヤは まだ 頭に
レモンを 乗せて カメラを構える。
「撮るね。」
ユリヤが 合図をする。
シャッターが 切れる音がして、
ユリヤの頬に 添えられた
レモンが 消え
ユキノジョウの口が
ユリヤの頬に 寄せられた
感触に
ユリヤの頭から
レモンが 落下する。
地面に 落ちたレモンは
破裂して
2人は
爽やかな
酸っぱくて 甘い 香り に
包まれる。
ユキノジョウは、
人差し指を 口に当てて
破裂したレモンを
目の前の レモンの木の 根元に
隠して 置いた。
そして
たわわに実る レモンを
1つ もぐと、自分の手のレモンも
ユリヤに 渡して、
2つのレモンを
籠に 戻させた。
ユキノジョウは
あれ?っと思うが、
インスタントの カメラには
何が 撮れて いるかは
予想が つかなかった。
『君のことがすきです!』
顔を 真っ赤に 染めて、
6年生カラーの名札を 付けた
シンギが 叫んでるのを、
いつも ユキノジョウは、
見ていた。
「ユリヤちゃんは、5年3ヶ月の
公開告白ですか。トータル何回に
なりますか?しかも
シンギくんは
そのまま 逃げるというお約束、」
そんなこと
階段の とちゅうで、
非常用の 何かを 数えてた
会計男さんが、いってたっけ。
「ハアー。」
セミ、うるさいなって、
この島にきて、
はじめて 思ったかも。
いつもならと、
ユキノジョウは ボンヤリ
思い出す。
『うわあー!!!!!!』
恥ずかしいの だと、
顔を両手で かくした シンギが、
やじ馬達の 壁をぬけて、
告白された ユリヤを
ほったらかして、
走りぬけて いくのが、
いつもの事。
「ハアー。」
暑いから なのか
思わず ゴクリって 息のんだ。
ユキノジョウは、
1人
さっきから 優しい黄色の 縁側。
実を 取った 枝が そのままの
レモンの木が 見える。
日影で、ため息を大きく つく。
ユキノジョウが かくした、
レモンの やぶけたヤツ
かくせてねーじゃん。
アレ、ちゃんと言わなきゃ
いけないんだろうか?
どの 大人に?
こわしたから、
ベンショーなのか?
いまごろ、なんだか セミの声が
うるさいって 思う。
もう1度、ユキノジョウは
大きく 息をついた。
『ユキ君。』
そう言った まま
ユリヤは 困ったみたいに 、
2つの レモンを かごに
おいて
行ってしまった。
いつもの 『公開告白』
ルールなら、
ユキノジョウが 叫んで
逃げて、ここから消える。
そしたら、
ユリヤが やじ馬達の
目を気にもしないで、
後から スタスタと 歩いて
来るんだ
さっきまで、告白されていた事が
嘘っぱちみたいに。
そうして、
体育館の上に 続く
階段を登るのが、
公開告白の ある時の 『いつも』だ。
体育館じゃなくて、受付か。
セミの声は 消えて、
夕方の まだ明るい太陽が
動いたのか
空気が ヒンヤリした。
レモンのホテルは
まだ 人もなくて
静かだった。
まるで、ユキノジョウと、
ユリヤしかいない世界。
と思っていた。
それで
母親達のもとに 帰った
ユリヤと 同じところに
もう1度 戻ろうと 思う。
ユキノジョウは、くるりと
回われ右をして、
受付にのある スタートに、
ゆっくりゆっくりと歩き始めた。
そうすると、前から
声をかけてくるのは
ハジメで、
こいつ、もしかして
知っているんだろうか?
と、ユキノジョウは
軽く にらむ。
「ユキノジョウくん~、
お帰りなさいだねん~。」
思ったより、受付で その声が
イヤミに ひびいた。
ユキノジョウは 受付の
ボランティアさんに、
ユリヤと 使った 音声ガイドを
出して わたす。
『ありがとうございました。』
お礼を、言われて アート体験完了
ダイニングテーブルに
ユリヤが 座ってるのは
なんとなく わかった。
まだ、さっき もらった
レモンサワーの香りが
残ってる。
立ったままの ユキノジョウに、
副女さんが
「ユキくん、今日も いろいろ
ありがとうね。」
ニッコリ お礼を 言ってきた。
また セミの声が
ミーンミーンとうるさいと、
ユキノジョウは 思う。
ほっといて くれよな。
つい、
思った 時
「わ!!仕事のスタッフがぁ~
いい加減に 戻ってこいってぇ
怒ってるよん!!怖い!!」
どうしよう!!と ハジメが
電話の表示に 気がついて、
さわぎ まくった。
「じゃあ、今度こそ お土産持って
スタッフさん達に、あやまる
しかないですよ?イケメンさん」
ユキノジョウの母親が、
ニッコリして、ハジメを
これは、いじめてるよなあ。
ユキノジョウは、大人達を
観察だ。
「はあぁん、やっぱり~。じゃあ
みかんパウンドケーキ焼いて
もらわないと~。今から お願い
するしかないよねん~。」
この ひとことに、
全員で 『はあ?』ってなる。
この人。
もしかして、、神戸で ゴネてた
あの 大人じゃないか?マジ?
「ハジメさん!パウンドケーキは
売り切れだって!ダメだよ。」
アコが ハジメに 大人対応をみせる
さすがに、起きたんだな 妹よ。
アコ、グッジョブ!
ユキノジョウは、
アコを見て 合図を 送っといた。
「え~。だって、島にスイーツ
他にまだ 残ってるかなぁ?
ほら~、カフェも テイクアウト
出来ないスイーツも 多いのに」
ハジメは、子どもみたいに、
このまま じゃ、怒られるよんと、
真っ青になる。
この人、大人じゃないなぁ。
そんな風に
まだ 立ったまま、ハジメを見てた ユキノジョウの服が
ひっぱられた。
「ユキくん、あのチラシ。」
ユリヤが いつの間にか
となりにいて、
指で 四角の形を 作る。
「あ!ハジメさん。オープンカー
乗せてもらったから、
これ あげるよ。ここ 行ってよ」
そう言って
ポケットに しまってた
チラシを テーブルに 広げた。
島のキッチンで、
『まくわうり』のおばあちゃんに
近くのアートを 書いてもらった
地図のチラシだ。
レモンのホテルに 戻って
ユキノジョウ達で、
他に 行けないか 相談して
裏を 見ていたのを、
ユリヤは 覚えて いたんだろう。
そこには、
『夕方 ミサ。教会には、牧師さま
お手製のケーキが たくさん。
カフェだけでも、気軽に 来て』
の 文字が 並んでる。
ハジメの目が キラキラと開いた。
そして、
何故か
副女さんを 見ている?
その視線を 受けて、
副女さんは、カバンをガサゴソ
し始めて、
「これ、持って いきなよ。
持ち帰りの 入れ物が あるか
わからない でしょ?ほら。」
ハジメの前に、
昼の お弁当の容器。
キレイに 消毒。
洗って、水気も ふいた
その時の 容器を 2つ出したのだ。
さすがだ、
子供会とかでも、お祭りには
段ボールの お盆を 作って、
屋台のテントに 並んだりする。
こーゆーとこでは、
ゴミを 出さないよう、
使えるものは リサイクルなのだ。
ユキノジョウは、
やっぱり 副女さんは、
食えない 大人だと 感心する。
ハジメも、それを 喜んで
手にしている。
と、
いきなり ハジメが、
「副女さん~。
幻のグリーンチャペルの話ぃ
もしかしてぇ何か知ってる?」
ユキノジョウ達には
ちんぷんかんぷんな セリフを
言ってきた。
何言ってんだ?
そんな
よくわからない ハジメの
言葉に、副女さんが
テーブルに 広げられた
シワシワのチラシを
指で コツコツしながら、
「島の『ゲッセマネの園』って、
ここで 聞いたら
いいんじゃない かしら?」
と ハジメを まっすぐ
見つめて 答えてる。
「あたしも、探してたの」
副女さんが言うと、
ユキノジョウは 思い出した。
そういえば
ハジメは、言っていたのだ。
『到着~。ピンポンピンポン♪!
さすがぁ、副女さん~。
ど~ゆ~つもりでぇ、
この島に
来たんだろうねぇ?
ねぇ~ 君たちの 大人はさぁ?』
あの時のは、
こーゆー事 だったのか。
副女さんの 言葉で、
また 大きく開いた
ハジメの タレた目を
ユキノジョウは 見つけた。
地球中に一気に蔓延した、
新型ウイルスの脅威は
日本の神戸で
無事に稼働完成した
メガコンピューターの天文学的
データ計算によって 有効薬品を
算出され、
原材料となる 有役植物を
再構築し
治療薬と、体内排出薬を
生み出すことによって
終焉を迎えた。
人類は 今回も
地球上に存在する事を
許されたのだろう。
それは、とても些細な そして、
密度の高い波紋だった。
それは、1つではなく、
些細な1石が 波紋を重ねるように
1つが投じられる事で
必ず 次々も投じられる
些細で、重度ある
波紋。
私は、今の場所で 『監査女さん』と呼ばれる。
そして私は、彼女を『副女さん』
と呼ぶ。
宇宙中には無数の選択肢がある。
それは、
神様により造られた
慈悲プログラムなのだろう。
初めて 出会った 副女さんは、
斜め上 ばかり見る 私を
真っ直ぐに 正面から 見つめて、
『貴女いつも斜め上と話すよね』
直球に事実を 脳天に撃ち込んで
困った風に
彼女は 微笑んだ。
「私の事 誰かに聞いたんですか」
必ず用意されている、
網目の中に 組み込まれた
存続の
百千万億那由他阿僧祇劫%の
出会なのだろう。
私は しがない 能力者だ。
本来なら、
流派に属して 修行すべきだけど
この先も そのつもりは無い。
能力者の世界にも 派閥があり
宗教界にも 権威や大きさへの、
いや、やめよう。
『貴女、誰と話す時も、何か見る
時も、斜め上に視線あるから、
きっと、ここを見てないの
かもって、思っただけ。違う? 』
「気味が悪いって、言われるん
ですけど。私、見えるタイプ
なんですよ。 信じます?」
『見えるって、どこらへん?』
「!」
この一言は、正直驚いたかも。
目の前の彼女は、
きっちり
『チャンネルの概念』を
知ってる 人間で、
私は そんなタイプには
初めて 会ったからだった。
「副女さんって、凄い精神暗殺者
なんですね。今までの人が
まんま、
やり返して 来てますよ。」
その、相手の様子や 見かけを、
彼女に 伝えると、彼女の顔が
衝撃的に 強張ったのが わかった。
『あら、貴女、凄いわ。』
とても、冷静で 感嘆の声色で、
彼女は 私に 返事する。
私の見えるモノは
変則的だ。
子供の頃から 変わらない。
だから、本来は
能力の体系化をするべく、
修行が必要なのだろう。
けれど、人はとても
流されやすい
ほんの少し 自我が入れば
見える 世界が 影響される。
何かに 属するのは、
その 影響下に 入りやすい。
なら、属しないのが
1番 影響されずに 見える。
でも、
見える ことは、
大した事 じゃない。
聴く事の方が 遥かに 難解。
読み解く事。
聴く事が出来れば、
話せる。話せれる存在ならば
見える事の整合性が高くなる。
見える事は、
あまりにパズルなのだ。
『監査女さんって、総合委員女
さんの事、惹かれてるよね?』
彼女の誘いで、
見えるモノの組織ではない、
普通のPTA役員に入った。
彼女は、
好奇心や、損得ではない、
けれど 私の存在も 認める。
「総合委員女さんの、魂の
キラキラが尊くて、ボーッと
してしまうだけです。」
オーラ見える。
魂の色、見える。
前世、見えるけど
何回めのかは?
人や物、場所の念、見える。
アカシックレコード
わずか見える
未来、予言、断片たまに見える。
相手の行いの残像、見える。
幽体、生き霊、見える。
守護霊、先祖霊、見える。
悪魔、見える。
宇宙人、妖精、見える。
天使、1年に1回見えるかどうか。
仏様、神様、見たことない。
しがない者では、無理。
『大切な事 だって監査女さんが
思った事だけを、知らせてくれ
たら いいよ。
あとは、些細な話だ。』
最初に 副女さんが
私に 言ったルールだ。
この世界には、たくさんモノが
存在していて、私が見る日常は
密度が濃くて 思考が 困る。
どうして、
電車の 優先座席に、
宇宙の人が
某ファストファッションメーカー
のTシャツを 着て、
大手ハンバーガー店の 袋を、
匂い させながら
座ってる?
そのお金は?
水道料金とか 払って住んでる?
突っ込みたい 気持ちが 一杯で、
どうしても ガン見てると、
向こうも気が付いて、笑う?
副女さんに 大切だと思った事を
いつに 伝えたかは、
覚えていない。
見える時間軸が 多過ぎて
実際のカレンダーが
どうしても、疎かになる。
「副女さん、1ついいですか?」
今日も、
この居酒屋のレジには
『ちっさいおじさん』が
店のお酒を 飲みまくっている
のが、見える。
県P交流会は、
鼻血が また出そうだった。
見える残像がヒドイ。
不倫横行とか 体罰とか あと、
いや、やめよう。
そういや、あそこの体育館。
若い霊がいたけど、
あいつは 最低だな。
若い ミニスカ お母さんとか、
キモイ 目でみて、
スカート 覗くって!
しになさい!って、しんでるか!
何万回でも 逝きなさい!!
「とても、大事な話です。」
『じゃあ、個人としての会に』
副女さんの瞳が 光った。
そうして、
たまに、打ち上げで来る
居酒屋に、私は副女さんといる。
『ちっさいおっさん』がいる
飲食店は、美味しいから
間違いはない。
あれは、座敷わらしと妖精の
ハイブリッドだから。
「パーツでの自由選択肢です。
きっと、副女さんの意思が
尊重されます。ただし、これが
貴女の最後の 選択になります」
私は、
見える限りを、まんまに
彼女に 伝える。
パズルの断片では、
私にだって、何が いつ、
もしくは、
もう前世に 起きた事かも
しれない事。
わからない。わからない。
でも、伝える。
副女さん、とんでもない人だ。
私は、
ビールの泡が 弾ける音や、
焼き鳥の 甘しょっぱい
匂いがする
居酒屋の 青空席で 夕方の凪を
顔に受け止めながら、
宇宙中にちらばる
無数の選択肢の中から
神様により造られ、
掬い上げられた 釈迦の掌にある
マスターの慈悲プログラムだと
感じる 選択のビジョンを、
彼女に伝えた。
きっと、
これが 今世の 私の役目。
それは、とても些細な そして、
密度の高い波紋。
1つの 投石が
1つの 投石を救い
その 投石が 成される 事で、
大事な 投石が 成就する。
そして、水面自体が 存続
出来る。
世界は、私達しだい。
「そうかぁ。グリーンチャペル
では わからないはずたよねぇ。
もっと~、本質のところで
聞けば 良かったんだぁ~。」
ハジメは、
オープンカーを 走らせながら
1人ごちる。
キャンプに、
最近なら、グランピング。
ボーイスカウトなんかの
野外活動。
その概念は、開国後に
キリスト教によって
もたらされた文化。
英会話学校の 走りも
キリスト教による所が 発祥だ。
そして、 グリーンチャペル。
野外礼拝場。
そうかぁ。そうだったの~。
失念していたよん~。
真っ白い オープンカーの
ハンドルを握り、
ハジメは 思わず 苦笑する。
まだ 国内の移動が 緩和な時、
本土から 島に
ある 宗教者のもとへと
ミサに 参加していた
話のままなら
グリーンチャペルに参加していた と、 口伝される だろう。
けれど、戦後、その人が
荼毘に伏して
グリーンチャペルが
現行して いなければ、
もっと 別の 記憶文言に
変化している 可能性を、
考慮すべきだった。
記憶になるよう、
苛烈な 名称へと。
「こ~ゆ~のを、焼きが回るって
言うんだろうね~。やだやだ」
今と なれば、
昔の仕事の 癖。
今の仕事の 延長。
そこに 好奇心と
趣味心が 加わっての 偶然だ。
「だからと言ってぇ、見つけて
僕は どうするってわけじゃあ
ないんだよねん~。
埋蔵金でも ないからねぇ。」
ただ。
ただ、決して大きくない島なのに
あまりに、事象が 集まりすぎる。
「事象がぁ ブラックホールに
吸い寄せられ 集まる みたい
だよねぇ。
その先に、何が あるのか~?」
ただ、
ただ、生まれた疑問を 解いて
見たい。
今、
人口も 金融も、経済も
パワーバランスを 日本地図に
落としてみれば、
主要都市に 大きくマーキング
されるだろう。
悲しいかな、
ウイルス拡大地図でもだが。
それを、少し
要項を変えてみると、
その 場所が 変化する。
例えば、時間軸を変える。
とたんに、
地方に マーキングが変わる事が
多々あるのが 面白みとなり、
人は
歴史を 研究するのかもしれない。
金、人、税。
面白い事に 比例していない
矛盾が 地図にすると
明確になる 軸がある。
良いも悪いも 人の営みだと
それが ハジメに 警鐘を 鳴らす。
この嗅覚が、
前職では、大いに役立ち
今職では、
アイデアや 扉を開く鍵になる。
ある 要項に当てる。
とたんに、離島や島に移る
パワーバランス。
分かりやすいのは、人口密度。
今の東京なんて 及ばない
密度を叩き出す 島がある。
真っ白い オープンカーは、
港の 集落を ぬけて、
少し 山に 向かう。
「始めはぁ、研修レポートから
かなぁ。まだまだ駆け出しの
頃なら~、何年前かな~?」
この島には 昔から
島の 年予算を越える
石の産業があった。
それほど
資質の良い石材だったのだろう。
石職人の優秀さは、
城はもちろん、
国会議事堂をも 作った事から
理解できる。
「ほらぁ~、この時点で
国レベルで 渡りあう軸がある
んだよねぇ。 あれ、確か1回
首都が 広島に移った時も、
議事堂も 広島に移ってるかぁ。
きっと『議院石』の石工でも
仕事してるよねん。明治天皇も
広島に 移ってるから~。」
ああ、本当にねぇ。
土木事業っていうのはぁ、利権も
いいところだよ~。
それが 面白そうで、
着眼したわけ だけどねぇん。
あの頃は 若かったなあ~。
今もだけどぉ。
ハジメは、ちらりと
ハンドフリーに セットした
電話の案内書を 確認する。
「迷いそうにない~ 1本道だよ」
そんな島に 戦時中1人の思想犯
として、宗教家が 閉込められた。
「不思議だよね、巣鴨プリズンが
あった場所と同じ漢字なのはぁ」
本土決戦の際に、
世界に 名の通った その人。
交渉戦略に
差し出す計画さえも あった人物。
大正の時代を代表する
ベストセラー本を 出し、
ノーベル文学賞候補や
ノーベル平和賞候補に なった
人物でも ある。
伝説や 批判も多く 真の姿は
今となれば 計る事は、
ハジメにも できない。
それでも、
時代の渦を 造るような モノを
この島は 引き寄せるのは
結果に 明らか。
かつて、思想犯と呼ばれた
『世界の三賢人』を 引き寄せ、
『未曾有の産廃』を
呼び込んだ 宿命の島。
「さらに 呼び寄せるは、
『不死身の長官』と『平成の鬼平
弁護士』 なんだよねん」
世界的にも 罪悪となった
産廃事件の訴訟は、
1人の産廃業者のみならず、
認可した 県をも相手となり
泥試合になる。
それを 他県である
兵庫県警本部が 詐欺まがい
産廃の不法投棄容疑で 業者を
摘発したのだ。
青天の霹靂だった。
そこから、事態は
大きく 動いた。
担当官は、
後に 警察庁長官に まで なり、
カルト教団に 狙撃される人物だ。
「地方警察に いても~敏腕は、
敏腕 だったんだよねん。
でもぉ、
当たらないで有名なパイソンで
3発当てるスナイパーも すごいけ
どぉ、3発受けて 生きてるとか
不死身さ すごいんだけどぉ。」
あわせて、
『平成の鬼平弁護士』と呼ばれた
人物が弁護をすることになり
『豊島事件』は
ようやく 潮目が変わった。
取り調べで、
産廃者は、服役 経験があり、
刑務所の 囚人に、
産廃のカラクリを 教えられたと
供述している。
産廃犯罪の メソッドだ。
若き日のハジメの
好奇心は、闇と背中合わせの
スラムだった地域に
無邪気な 足を 運ばせた。
「そこで 耳にしたのがぁ、
スラムで無縁仏の火葬をする~
賢人の話だったんだよねん。」
ゴミを 焼いて
黒煙を あげる島には、
慈悲の 火葬をする
『切り札』という名の贄 がいた。
これを
神は 何と 見ていたのだろうか?
かくして、
ハジメは 世の陰と光を 1つに
集めた 島に興味を持つように
なった。
白いオープンカーは、
街では 想像がつかない
小さく 黒い家の 前に着く。
そこには、
夕方のミサと、
カフェを していると 書いた
手書きの 黒板が ポツリとある。
「さてぇ、何の お土産を持って
帰ることが~出来るかなん~」
ハジメは、
開けられた、建物の入り口を
くぐる。