夏休みは境界。公開告白される君と3日間の旅~小豆島・豊島編

『ウオオオオトッッーー!!!


青い空と
青い海の境目が
なくなったみたいな、道に

唯一
真っ白に
光るガードレールが

ユキノジョウに
ぐんと 大きく曲がるカーブを

知らせてくれる!!

電動のリミッターは
ゴーーーーって 開きっぱなしだ

ただの車輪になった
自転車で、

何んにも さえぎるモノがない
坂道を、

サルみたいに 笑
叫びながら

ユキノジョウは ノーブレーキで
爆下りる!!

サイコー↗️↗️↗️
サイコー↗️↗️↗️
サイコー↗️↗️↗️

このまま、青い海に
つっこむみたいな 道だぞー。

なんだ!ここ!
とんでもねー、道だなっ!!
とんでもねー、
とんでもねー、

あはは!
ハイパーテンション!

頭が さえるような
空気を 切って
ドンドン 走る
電動自転車のユキノジョウを

ユリヤが
ブレーキをかけながら
やっぱり 電動自転車で
追いかけ下りてきている、

背中に、気配を
ちゃんと、感じる。

ゴーーーーっと
下りる途中、
下に、穴が空いた
白いコンクリートのドーム
2つ。見えた!

そこ めがけて、
何も 考えないで
真っ白に
2人で つっこむ!


あれが、『島のキッチン』で
聞いた アートだ!!

『キキーッ』

駐車場の平地で
大きく ハンドルを切って
ブレーキ。

ユキノジョウは、
後ろからくる、ユリヤの姿を
ハンドルに方
ひじをついて
ニマニマと 待つ。





『あんたら、檸檬のホテルで
ボランティアか?ちんまいのに、
えらいなあ。ほれ、食べな。』

そういって、おばあちゃんは
メロン みたいな うりを
ユキノジョウと、ユリヤに
差し出してくれた。

『まくわうり。知らんか?』

知らない。
切ってる 見た目は メロン?
でも、うり?
うりは、生で 食べたことない。
きゅうりか?

タッパーの それを、
消毒した 手で つまんで
口にする。

「あ、あんまり、甘くない。」

となりで、ユリヤが
口を 押さえた。
思った味じゃない時の しぐさだ。

ついでに 言うと、
ユリヤは 余り甘ったるいのは
苦手な 女子。

「おー。ばあちゃん、さっぱり
した メロンみたいだぞ!」

ユキノジョウは、2個目に
手を のばしている。
メロンより、
しっかりしてる 食べごたえだな。

おばあちゃんは、ニコニコして、
ユキノジョウ達を 見ている。
子どもってのは、
得だなーって 思うよ。ほんと。

そんな風に してたら、
島の キッチンの人が 予約してた
お弁当を 持って来てくれた。
副女さんは、
ネマワシの天才だな!

「ユリ、オレらは ここで 食べて
から、レモンに持っていこーぜ」

ユキノジョウは、
もらった お弁当の1つを、
ユリヤにわたす。

「ごちそうさまでした。
ありがとうございます」

おばあちゃんに、ユリヤが お礼を
言って 頭を下げた。

「これから、お昼ごはん 食べる
の?おばあちゃん達。」

ユキノジョウが、聞くと

「もう、食べたんよ。このあと、
誕生日会が ここであるよって、
待ってる。あんたらも、出る?」

おばあちゃんは、わざわざ
さそってくれた。
あー、入り口に なんか
誕生日会ある よって、書いてたな

「ありがとう!でも、いいや。
食べたら、アートとか
見に行くし。あ、近くに なんか
あるんなら、教えてー。」

それで、おばあちゃんは
持ってた チラシのうらに、地図を
えんぴつで 書いてくれた。

島の キッチンは、
南国の家と、昔の家を
合わせた ような ところで、
風が 通って気持ちよかった。

あと、誕生日会の おりがみの
飾りつけが カラフルで 楽しい。
島で 野菜を 作った人とか
黒板に ある。

ユキノジョウは、
ユリヤと 島のキッチンで、
お弁当を 先に食べてから、

レモンのホテルで 受付の
ボランティアを している、母親と
アコに お弁当を とどけて、

教えて もらった場所に、
電動自転車を、
すっ飛ばして 来たのだ。

お誕生日会の時は、
少し アートの見学が すくって、
聞いた。




「ユリ、誕生日会出たかった?」

ようやく、追い付いて
顔を 赤くしてる
ユリヤに ユキノジョウが聞く。

全力で オレに、
着いてきたんだよなー。
とも 思う。

「ユキの誕生月じゃないよ。」

ユリヤが、ユキノジョウの隣に、
電動自転車を 止めて
笑顔で、言うから、

なぜか 満足になって 短く

「そっか。」と、答えて、

白いドームに 2人で 歩く。



島の 中腹の 空の下

棚田に 囲まれた 緑の絨毯に

60メーター広×20メーター高の
盛り土をして
網掛の 骨を 組み

白練り コンクリートで 覆う
2ヶ所の 大穴を 天に開けて

固まれば
盛り土を 抜いて
さらに
土を 掘り出し
下げる

内部を 白く 整え
深めの 床も 整え
床に 特別の 仕上げ

地中に 少し 埋まって
白の ドームが 出来たら

天に 明けられた
大穴に
風に たゆたう ほどの
1本の
長いリボンを 渡す

影牢の ように
空気に 揺れる へその緒 の様


さあ
足に
なって

特別に 仕上げられた
肌障りの よい 床を
子宮の口の ような
半トンネルから 上がると

目の前に 広がるのは


天に 明けられた
大穴から
青空が見える

白い 惑星の内部 だよ

ママ


歩みを 進めてる
!! 思わず 足を上げる

水が

水が 足もとに
生きている!!


無数の水が 水玉に生まれ

意識を持つかの様に

床を 走る

水玉のまま

水玉と水玉が ぶつかり
合わさり

長い 水の生き物に
姿を 変えて

ピローっと 走った


1日をかけて
水玉は
たまに
また 床に消えたり しつつ

だんだんと
白い 惑星の中に
透明な
泉を 出現させる

天に 開けた 大穴から
体を出せば

緑と 鳥と 虫の声と
太陽の光を 浴びて

へその 緒の ような
リボンの たなびくを 眺める


白い 惑星の 端じっこに
行けば
天井は 体が入るか
どうかになって

そのまま床に 寝転がる

耳に わずかな
水の音

ここは 母体
子宮の中で みる
生まれる光

白い コンクリートの膜

その境に 体をつけると
外の棚田を 感じる

目を閉じる

水の音がして
安心する

水を辿ると
棚田に 意識は 出て
山際の
四角い清水に 着く

弘法大師が作った
湧水の社

水場は 古代から
枯れる事ない
水場で

白い母体に流れる
水の源
水は 島人により 日々
白い子宮に
水玉を 綿々と あらわす

1日かけて 泉をつくり

母体子宮を 流れた水は

地中に帰る

『 ねぇ ママ。 ここは、

そんな 美術館 です。』

生まれておめでとうございました。







明らかに、チャラそうなお兄さん

白いスーツを着て、
たれ目系の 『しけメン』だな。
ふつう顔 なのに、
イケメン風を そう 言うんだよ。


「あれ~?君達、白鷺くんと
香箱ちゃん だよねぇ。僕、
昨日 の 農村歌舞伎、見たよ~。
ここ でも、
ボランティアなんだぁ」


母親達が 受付の
休み時間を 奥で している 間
ユキノジョウと、ユリヤは
受付の 代わりを していた。

『レモンホテル』は、

黒い家が たくさんある集落、
島の キッチン 近くにある
アートの ホテルだった。

ホテルで、
体験の アートとかで、
昼間は アート体験の お客さんを
こうやって、
迎える。

で、
1日1組だけ 泊まれて、
その間も、アートの体験を
する みたい だけど、

支配人が
『泊まりの 間は、普段言ってない
気持ちを、言葉に するのが、
泊まる 人の ルールなんだよ。』

って、
言ってたから、ここは、
泊まっては いけない場所だ。

このダンジョンは
あぶない。

ユキノジョウは、
入ってきた、
お客さんに、

「こんにちわー。」
って、
あいさつを するユリヤを見た。


お客さんの
チケットかパスを 見て、
看板の せつめいを 見せる。

とりあえず 2人組になった
ペアに、

音声ガイドを わたす。

音声ガイドが、指令する まんま
進んでもらう。

だいたい、
受付の 仕事は
こんな 感じだ。

ホテルは レモンの飲み物 とか
飲むだけでも 出来て
さっき、
支配人さんが くれた
レモンサワーは
激シュワ おいしかった!

それで、
少し 人が切れてきたなぁって
ユリヤと アコと
さっき おばあちゃんに
地図を 書いてもらった
チラシを 見てたら、

「小学生ぃ?中学になるのかな?
昨日も 今日も ボランティアァ、
えらいねん~。」

なれなれしく、
話しかけてきた、白スーツ。

ユキノジョウも、
昨日の舞台の 1番うしろに、
白スーツがいたのは、
おぼえてた。

だって、
白スーツ。暗くなると、
よけい ボンヤリ 目立つだろ!

「ねぇ~。香箱ちゃんはぁ、
家庭的な 女の子なのかなぁ。
なんかね、
そんな 感じだよねぇ ~。」

?!!!っ!

「『おじさん』。ロリコン?」

こいつ、
ナンパ してきやがったぞ!!
ユリヤは ニブイから
わかってない 顔して
だまってる からな。

キケン!キケン!

「『おじさん』はやめてぇ。
きっと、20はぁ 離れてないよ
ん。まだ 『お兄さん』だよぉ。

あれ? もしかしてぇ、僕は、
おじさんに、なるのん~?!」

ざまぁみろ。
真っ青な マジ顔になった。

「じゃあ、『お兄さん』。
ペアの人と、この 音声ガイドを
つけて下さいよ。」

ユキノジョウは、
せつめいの 看板を 指さした。

「ええ~。今は、
1人なんだよん、
困ったなぁ~。」

白スーツしけメンめ、
全然 こまって そうじゃない。

「じゃあ、少し待って、
後から 来る人とかと、
ペアを お願いするとかに
なるんですけど、待ちますか?」

ユキノジョウは、
教えてもらった 言葉を 白スーツに
言っとく。 早口で!

まあ、どーしてもの 時は
1人で 回って もらうんだけどな。

なのに、
白シケメン野郎←これでいいや。

「あ!良いこと思いついたよん。
香箱ちゃん。僕と一緒に、回って
よ~。ほらペア誕生だよん。」

?!!っ!
こいつっ、キケン!キケン!
てか、母親達!フシンシャだぞ!

「ユリ、親達、呼んできて。」

タイキャク させるぞ!

ユキノジョウの言葉で
奥で まだ 休んでる
母親達を、呼びに ユリヤが 立つ。

と、
「おー兄さん!アコが ごいっしょ
しますか?」

すげー、いい顔して
アコのヤツが 白シケメン野郎の
白れースーツんすそを、
ひっぱった。

おぉ?!
グッジョブ?!か?
いや、妹を このフシンシャに
くっつけて、大丈夫なのか?
それとも、
時間かせぎ?

あー、ちげーな。これ。アコ、、
単に、シケメンも 好きってか。

「あれ~?こんなに可愛いレディ
なんてぇ 隠れていたのかい?
光栄だなぁ~。ペア~成立~。」

いや、いや、いや、
まて、まて、
なんで、
他に お客さん こないかな!!

げ!白シケメン野郎!
ふつーに、腕を出すとか
チャラい全開か?

アコが、
ハジメが くの字に出した
方腕に、なんの ためらいなく
手を 回す。

「お兄ちゃん!音声ガイド!」

アコが、ユキノジョウに
仕事を進めた時、
横から 副女さんの 声がした。

「ハジメさん? 久しぶりです。
今日もボランティアですか?」

「あれ~?副女さん? お久しぶり
ですねぇ。こちらは 副女さんの
お子様達でしたかぁ。奇遇~。」

ケラケラと、ハジメは
副女に 笑いかけた。

じと顔の ユキノジョウに、
副女さんが、
ハジメとは
芸術祭 ボランティアの 先で、
よく 顔を 会わせて、
馴染みに なったと
説明される。

まだ、
なっとくできない、
ユキノジョウを よそに、
ユキノジョウの 母親も、のんきに

「わ、アコ!さっそく、イケメン
ゲットね。」

「いや、会計女さん、DNAいなめ
ないでしょ。コレは 。」

とか、
やりとりを したり、
副女さんに、指摘されながら
よゆーで、アコを 送り出した。

白シケメン野郎が、
うれしそーな アコと
腕を組んで

ヒラヒラと、手を振って

音声ガイドの指示で
『レモンホテル』の 道順に
消える。
パーティーかよ。


結局、
この後 コーフン気味の アコと
戻ってきた 白シケメン野郎は、

母親達の 同意のもと

後半の空き時間を、
一緒に アートを
ユキノジョウ達も こみで、

見に行く事に
なって しまった。

決して 広く ない
島で
『袖ふれあう仲』 になると、

えんえん そこかしこで、
出会うという、

『島あるある』 ループの
ターンに、

ユキノジョウと、ハジメは
入った。

① 次に、進む
② 一旦セーブ

①を選択


副女さんと、ハジメが
芸術祭の ボランティアで
顔見知りだった 事で、
受付仕事を まだ 続行する
母親達は

体よく、子ども達を
ハジメに 預けたわけで。

「ハジメさん、、
オレは、ユキノジョウです。
で、ユリヤに、アコ、なんで。」

『白鷺くんと、香箱ちゃん』の
呼び名の ままな、
ハジメに、ユキノジョウが
挨拶めいて、指摘する。

ハジメの運転する、
白のオープンカーの 助手席に
ユキノジョウが 座り、

後部座席は、
ユリヤと アコが 並ぶ。

見る事さえ 初めての 車形に
ユキノジョウと アコは
歓声を あげて、

「120キロだすと~、ジェット
コースターみたいだよん~」

との ハジメの 言葉に、
ユリヤは 悲壮な顔を見せた。



「え!白鷺くん、ユキノジョウ?
香箱ちゃん~、ユリヤ?~

凄いねぇ、ぴったりだねぇ。
それで、檸檬に いたのぉ?
自転車のってぇ 旅するぅ?

何 それぇ~!夏休みの
主人公 だなぁ~。文学~!」

島での 時速は 30キロ程度。
オープンカーの風が お互いの声を 遮るが、
聞こえない 程ではない。

「あの! 意味、わかんないん
ですけど!!なんなんですか!」

「あは!
白鷺→ユキノジョウ
ユキノジョウ→基次郎。

香箱→ユリヤ
ユリヤ→レモン→爆弾!

なら、アコ→お姫さまってする?
でぇ僕→お坊ん で、いいよん~

ね?、白鷺ぃくん~?」

ハジメは、
その タレ目を ユキノジョウに
ウインクさせて 悪戯に 笑う。

ユキノジョウは、
この瞬間に どうでも、
良くなって、サイドミラーごしに
後ろを見てみる。

ユリヤが、体を前に
出してきたからだった。

「ハジメさん。それ。
本の話、ですか。レモンの。」

「あれん?香箱ちゃん、本好き?
それもぉ、なかなか渋いセンス?
う~ん、
3分の1だけぇ 当たり~!!」

ユキノジョウが、
隣の席で、 不機嫌な顔を作る。

白の オープンカーは、
青空と 緑の 下り坂を、
爽快に 走り抜け、
道を行く 人の視線を 拐って走る。

『わ、オープンカー!!』
程なく
シャッター音。

きっと、青を 背景に
白く光る バックスタイルを
写真に 撮っているに、
違いない。


「じゃあ~、渋い~文学少女の
香箱ちゃんはぁ

3つの時代のぉ ベストセラー本
知ってるかなあ?」

「あ、文学少女じゃないです。」

ユリヤが、
前のハジメの 肩を 叩いた。
勝手に話が、進みそうだと
考えたのだろう。が、

「ユリヤちゃん!がんばって!
ハジメさん!ユリヤちゃん、
学校で 1番頭いいんですよ!」

ユリヤに ガッツポーズを
見せて、空気を 読まない アコが
ハジメに 鼻息を 荒くした。

気が付くと、オープンカーは
麓にある、別の港町を 走る。
港町というより、

島の漁村といった、
喉かな 集落は、
焼板の 黒壁が 太陽に 照らされ

低い建物の 姿が
独特の 港を
浮き上がら せる。

ユキノジョウが 見ると、
いくつも ゴールが ある
バスケットゴールに、

旅人が、ボールを 投げていた。


「ジャンジャン♪
日本の 時代別 3大ベストセラー
江戸時代の ベストセラー本はぁ
『安房のお姫と八犬士のお話 』
だよん~♪」

ユキノジョウと アコは
キョトンと していたが、
ユリヤは すぐに タイトルを
ハジメに告げる。

「当ったり~! さすがぁ。
ジャンジャン♪ならぁ
明治時代の ベストセラー本はぁ

『日本の1万円札になってる人の
自由・独立・平等を 新しい
価値にぃ
身分じゃなくて、学問って本』
わかるかなぁ? 10人に1人は
読んでいたんだよん~。」

これは、
ユキノジョウと、アコも
紙幣人物である
著者を 言い 当てて、
ユリヤが 著した本を
やはり、言い 当てた。

「みんな~やるねぇ。
香箱ちゃん、学校1番!
なるほど
さてぇ、でもラストは
分からないだろうから、答え
言っちゃうねん~。」


そんな、
やり取りをしている間にも、
オープンカーは
たまに 水田や、
幾つもの 漁船留まりの
海沿いを
走り抜けていた。

「ジャンジャン♪
大正時代の ベストセラー本は、
なんと、
この島に いた人が書いた本~。

戦前かな?
みんなの 住んでる 神戸で
貧しい人が住んでた街にも
いてた 人なんだよ 。

ガンジーと、シュヴァイツァーに
並んで『3大聖人』て、
世界じゃあ、有名だった人の本は

戦争のあった 時代なのに
200版も重版してぇ、100万部も
売れたんだよん。って、知らない
よねぇ。 まあ、香箱ちゃんがぁ
大人になってぇ、思い出して~」

そう言って、
ハジメは ハンドルを握りながら
アハハと、笑顔になる。

ユキノジョウは、
その ハジメの横顔が、
小豆島で 会った
農村歌舞伎の青年の 横顔と
重って、後ろの
ユリヤを 振り返る。

「あ!!お兄ちゃん!
田んぼに、
白くて、足が 長い鳥が いる!」

アコが、山側に広がる 水田を
指さして、叫んだ。

「日本に 昔からいる、メダカが
いるんだよ~。
それを、狙ってるのかなん?
お姫さま、目がいいねぇん。」

海沿いに森がそこだけ
コンモリしている 神社横の
なんとか 通れる道を行くと、
だんだん、
アスファルトは
砂利道に 変わっている。

「もう、すぐだよん~。」

そう、ハジメが オープンカーを
操りながら、予告をした時


「あの、ハジメさん、さっきの人
神戸のコープ、作った人、
ですよね、、、

お母さんが、
その人、戦争の時、
ここに トラワレテ、いたって 」

ユリヤが、
後部座席から 答える。

白のオープンカーは、
白い砂浜に出た。
道は、そこで途切れて、
広場になっている。

ハジメは、
ハンドルを切って

『キッ。』っと

ブレーキする。


「到着~。ピンポンピンポン♪!

香箱ちゃん、当たりぃ。

さすがぁ、副女さん~。
ど~ゆ~つもりでぇ、
この島に
来たんだろうねぇ?
ねぇ~
君たちの 大人はさぁ?」





シオンが付ける マスクごしから
わずかでは、あった。

汚泥、下水口、腐乱、硫黄
堆肥、古物埃、濁溝、悪焦
糞尿、咀嚼物 、瓦斯、死臭

そのどれとも違う 悪臭の種類は

廃棄臭。

収集車のイメージがして、
シオンは 申し訳ないけどと 思う。

1度、
独り暮らし用の 台所シンクの
排水が 詰まり
大家の手配で、修繕が あった時
午前中から、
午後まで 下水口が 空いたままに
なった事を
思い出す。

その 時間でさえ、
たった半径10センチにも 満たない
口から 漂う臭いに
自分の 部屋から
外に 弱冠 出たくなった。


シオンは、
建物の外に 出る。
出て 車に乗るけど、
電気自動車には

ガラスが 入っていない。

例えば
孤独に 亡くなって
見つからない ままの 部屋

マスクごしから する
臭いは、
そんな 風景を 思わせて、
シオンは
目の端に 涙を滲ませ
心ぼそく 吐きそうに なる。


せっかく
案内してくれる 人にも
先輩の ヨミにも

なんだか 島にも

申し訳ない 気持ちは、
初めて 感じる質の
背徳の 感情なのだ とも
理解するしかない。

電気自動車 から
送風を 流して、
朦朧とした 気持ちで
辺りの 環境を 目にすると、

帯ただしい、
白っぽい土の 平野が
かつての 産廃物の量を
シオンに、想像させる。

その中に、
四角い 人口の溜池が ある。

帯ただしい、白い平野に
わずかに、黒い土が
残っている。

海の風が 黒い土から
臭いを 運ぶと
それが 残る 汚土だと

シオンは 本能で わかった。

その 熱風の中
三半規管に 目眩が 起きると、

あるはずの ない、

廃棄物を 野焼きにする
黒い煙が
無数に
立ち上がって 空を汚す。

空からも、
焦げ臭い 火の雨が
心臓を握るような
不穏な サイレントと
一緒に なって 降ってくる。

臭いが 連れてきた
悲しい 蜃気楼だと、
シオンは 朦朧とした 意識に
沈められ
窒息しそうになる。

こんな 獄もあるのだなと。

目の端に溜まった 涙を
一筋 流した。

ぬるい水を
マスクが吸い込む。

この ぬるい水だけが、
無味無臭なのだとも、

シオンは 思った。

それでは あまりにも 人間は

悲しいじゃないか、、、、
瀬戸内海は、

『世界の宝石』『東洋の楽園』
と称される。

1950年頃の
島の 事件現場は、
コート・ダジュールに匹敵する
美しい場所だと、
写真で わかる。

その場所に起きた惨劇は、

世界に 類のない
有害産業 廃棄物 不法投棄事件。

通称 豊島事件。


1970年代の 作業期間を
含めれば
事件の 処理は、
未だ 続いていて、

土壌汚染の 浄化処理に 至っては
押しに押して

2025年を 目標だと 説明され

史上最悪の不法投棄事件の
難解さに

ヨミは、背筋が冷えた。

こんな 小さな島。
東京ドーム6個以上の敷地内に
770億円もの投資をしないと
処理できない 産廃量、
93万8000トン

膿のような
黒い汁水が 池溜まり
流れ出て、

悪臭健康被害、喘息の多発。
連日、低温でおこなう
野焼きは
ダイオキシンを 撒き散らし
黒煙を キノコ雲の ように
あげて、
海の向こうの
香川県庁から 見える ほど。

当初
廃棄物 処理の完了 予定は、 

2017年で、
県が 回復処理の為 建てた
施設は 撤去の
予定だった という。

しかし、
どんどん 新らしく
発見される 産廃、汚染地下水。

未だ
浄化作業は
ヨミの 目の前で、続いていた。



ガラス張りで作業を見れる
悲しいかな
島で 唯一 近代エレベーターが
ある 処理建物とは 別に、

敷地の中に
ポツンと古びた
2階建ての 建物がある。

豊島住民資料館だ。
住民運動の 記憶を残す
手作りの 資料館は、

逮捕された
産廃業者の 事務所だった。

この資料館で さえ、
2017年の 処理完了と 同時に、
撤去対象だった らしい。

ここには
『剥ぎ取り』があった。

積まれる 廃棄物 壁をつけ
樹脂糊を吹きつけ、
剥ぎ取った
産廃の壁は
18mの 高さになる。

考えれば、東京ドーム 高さ
3分の1を
パンパンにして
6個集めた ゴミ。

その
豊島の 産廃標本だ。

ゴミの標本を作るのに、
970万円かけた。

『剥ぎ取り』は、
原爆ドームを 心に、
近代の 負開発の 悲惨を、
標本した。
   
『金も能力もない。
あるのは命だけ、
命懸けで、戦った。』

住人運動リーダーの声。

ヨミは思う。

車や家電を買い換える。

リサイクル料を払う。
車1台当たり1万円ぐらい?。
それが
当時 廃棄請け負いは、
驚愕の ダスト1トン車
100台当たり 1700円。


始まりは、高度経済成長期。
都市開発や工業化の中

まず
大量の 土砂が
都市や 工業地帯へと 運ばれる。

もちろん
土砂は 大規模 埋め立てには
絶対必要で、欠かせない。
しかも、
豊島の 地中には
ガラスの 原料にもなる
『珪砂←けいさ』も
あった。

コンクリート構造物に
『海砂』は 必要で、
大量に 採取されてしまう。

抉れた 大地に 今度は
近隣工業地帯、
遠くは 首都圏から
大量の廃棄物が 運び埋められた。

県が 責任を認め
撤去が 決まったのは、

2000年。

産廃が 隣の直島に
少しずつ 船で 運び込まれ、
直島製錬所で 溶融処理し、

汚染土壌は
福岡で、
セメント原料化の 処理を
してもらう。

処理事業は
目の前で
多くない 人数で

まさに、ヨミの 目の前で

続く。

住人の 言葉は、まるで
聖書の 格言に 思えた。

『この国は この島に
赤ん坊を捨て、
障害者を捨て、
老人を捨てた。
まだ飽き足らず、
今度はごみを 捨てるのかい?』


神話の 時代の 遺跡がある
青空に染まる 海の砂浜の上に

四角く、黒い建物は あった。

ユキノジョウ
ハジメ
ユリヤ
アコ達は、

四角い黒の
小さな小屋に入る。

そこには、『ノート』がある。

あと、モニターが見え

今流れる『心臓の音』が
何時、何処、何者、何様にかを

表示していた。


奥の扉を開ける。

壁に、
真っ暗黒く 塗る絵や、
墨写真の 様な ものが かけられて

暗い どこまでも のびる廊下には

異様な爆音といえる ほど
心臓の音が 振動していた。

ユキノジョウは、
自分が 大きな 生き物に
食べられた気分になる。

ランプが
廊下に 吊り下がって、
心臓の音に 合わせ点滅するのを、

ハジメは
いつかに 消えた
『心臓の波形』と重ねる。

ユリヤは、
音と共に
消えたりする 電球に、

『読破すると、1度は精神異常を
来たす』という奇妙な本の
冒頭を 思い出だした。

アコは、
壁の
アクリルの 黒い板が
学校で 撮った
レントゲン の様で、
何か 映りそうだと
怖くなる。

今 おなじ『 時間』と『空間』に
居て
同じ
『空気』を 『呼吸』する のに、
ユキノジョウ
ハジメ
ユリヤ
アコ達は

それぞれの
感覚や 記憶、情報、体験を

それぞれに
思い出していたが

それでいて、
4人ともが
『死』的な 感覚を
刺激されている という 事に
気付く事はなかった。

ただ 言葉にせず、

似ているけれども、
1人として 同じ音ではない
その、鼓動に 驚いて
大きく 迫る音の中

暗い廊下を 4人で 歩いた。



「みんなぁ、せっかくだから~、
心臓の音、残してみない?
あの廊下にも、心臓の音、
流してくれる みたいだよん。」

廊下を通り抜けて、
出てきた

驚くほど 穏やかな海の
見える 四角い 白い部屋で
ハジメは、
ユキノジョウ達に 提案した。

「やる!やる!ハジメさん、
やろ、やろ!」

アコが、ピョンピョン飛びそうな
勢いで、喜んだ。

「ハジメさん、ここ、初めてじゃ
ないって、言ってただろ!
もう、 録ってんじゃねーの?」

心臓の音を録って、残せる部屋で
聴診器を 手にして
ユキノジョウは、ハジメを見る。

「やだなぁ。1人で来てだとぉ
寂しいから~、録ってないん
だよん。ほら~
今度、島に来る時は、きっと
聞くのが、楽しみになるね~」

アコが、ふざけて
ヘッドホンは自分に、
ハジメの胸に 聴診器を当てて、
録音のスイッチを 入れる。

ハジメが、意趣がえしと
今度は、ユキノジョウの胸に
聴診器を当てて、
録音のスイッチを 入れた。

ユキノジョウが、ユリヤの胸に
ユリヤが アコの胸に

聴診器を 当てて
心臓の音を リレーで
採録を しあった。

ユキノジョウが 耳にあてた
ヘッドホンからは、
小鳥が リズムに 身をまかせ
ノックを するような
音が 聞こえる。

ユキノジョウは
ここは、
心臓の音の 図書館なんだと思う。

ハジメが 言うとおり、
ここは 心臓の音という形で

自分の存在を
保護して、蓄積して、
友達や、家族に 残しても おける。

全然 赤の他人が
明日、
残した 音を 聞いて
ユキノジョウが
島に 存在した事も、
知れるの だろう。

もしかしたら、
自分が いなくなって
自分の 子供が 聞くかもしれない。

でも それ以上に
聴診器を 当てている
時間を 一緒にする

今が 嬉しい。

4人で、
もう1度 心臓の 廊下に 戻る。

あんなに、
居心地が 悪かった 暗い空間に、

自分や、
今 一緒にいる 相手の鼓動と、
闇を
一瞬 照らす光に 包まれると、

その廊下は
今から 生まれる為に
歩く 場所の ようで、

暖かな 『生』の振動を
じんじんと 肌に 感じた。

そうして、
4人は

「なんか、おやつ 食べたい。」

と、頭を使ったから とか、
生きてる からとか、
笑い ながら

神話の時代の遺跡がある
青空の浜辺に 戻る。





船は、
新たな ゲストを乗せて、
島の北側を ゆっくり 進む。

今日、クルーズギャラリーに
乗船するゲストも
海外ゲスト。
そして、国内常連客。

オーナーであるハジメが、
合流するのは まだ後である。


豊島は、中央にそびえる
壇山を境に、

北側と南側で、
風景が異なる 。

まるで
四国島を
縮小したような
その 特色は

北側は緑が濃く、
山裾に広がる平地が
独特の、
里山の世界を作る。


今、まだ合流しない
ハジメオーナーの 代わりに、

ヨミが
ゲストの出迎え、
海を 散歩する クルーズ船の
ギャラリーサロンを案内する。

今回企画テーマは
瀬戸内海での芸術祭期間中もあり
『マドンナ・ブルー』。

碧と、女神のイメージを
彷彿とさせる品が 揃えられている

「瀬戸内海は、島の至るところで
目にします様に、巨大観音像
キリシタン遺構などが
多くありますが
この豊島も キリシタン
文化に 纏わる モノがあります」

ヨミは ゲストに 語りながら
石の女神の 前に立ち、

「豊島石です。
キリシタン灯籠に使われた
豊島石は、
柔らかく、粘りある粒子で、
手彫り加工しやすい特質から
多く 採掘され 流通し、
かつては、米 以上に
島の財源と なった 石です。」


先ほどの
産廃処理見学棟で、
体調を崩した 後輩を、
船室に 休ませ、
ヨミは
1人で ゲストに 応対 している。
が、特に 問題ない。



『豊島千件、石工千人』

江戸時代から 石の島 としても
この島は、名を馳せている。


『御影や、花崗岩ではないの?』

国内の 常連客から 質問される。

「豊島石は、『角礫質凝灰岩』
なのです。
とても、柔らかく、
水に 浸されやすい。

ところが、熱に強いので 灯籠に
向いているんですね。
水を 石に 含みやすい ので、
苔に むしやすく、味が出ます。

桂離宮や 住吉神社、大阪城で
使われて 来ましたし、
今も庭園に
重宝される 石なの ですよ。」

説明をしながら、
ヨミは オーナーの連絡を待つ。

『"唯一 の、豊島石の 体験工房
なんだけどねぇ、営業してるか
先に見て 来ようと思う~。"』

まあ 何かしらの用事が、
オーナーにも 有っての ついで
現場 確認なのだろうが。
ヨミは、
1つ息をつく。


国内の 常連客は、
華道を 嗜まれるから、
鉢に 興味を、持たれるはず。

島の 旅時間を 過ごす
思い出にと、
石の 手彫りを 提案するのだろう。

ゴツゴツとした
自然石の 風合いを
残した鉢に すれば、
和の インテリアグリーンになる。

水を含む 性質から、
特にシダ植物とも 相性がいい。
苔がつけば
なおさら 詫び錆び だろう。

巡礼好きの 海外ゲストにも、
手彫りは 良い体験になる。


『大谷石の、地下の採掘場跡
みたいな場所が あるの?』

海外ゲストは、きっと栃木の
採掘跡みたいなと、イメージして
聞いているのだろうと、
ヨミは 感じ、

「そうですね、
豊島石の 採掘場も、
縦穴15メートルに 奥は
250メートルで 4つが並び、
とても 不思議な 雰囲気で
面白い様です。でも今は
一般に 開放されて ません。」

海外ゲストは 残念そうだ。

「ですが、島には、珍しい石垣、
香川で最古の鳥居、至るところ
石が用いられ、雰囲気が
ありますよ。
島で、首のない地蔵 や。
石の蘭塔を
覗き見する 恵比寿像も
ありますし、イースター島以上
ミステリアスに 感じれます。」

ここで、オーナー直伝の
魅惑のウインクを
ヨミは
ゲスト達に、してみせた。

島の 南部の岸には、
古い共同墓地があり、
もちろん、豊島の墓石が並ぶ。
それは
まるで、ストーンサークル。
この墓地には、
十字の刻まれた
切支丹墓がある のだ。

小さな島で、
隠れれたの だろうか。
けれど、
他の島のような ひどい弾圧は
記録では 見つからない。

また、
島の 恵比寿像 は
『盗んできた恵比寿には
特別に 利益がある』といわれ、
度々盗難にあったからか、
豊島石の 重い 屋根の祠や、
覗き穴から参拝する ような
蘭塔に 入っている。

追いやられたり、
盗られたり。

石1つにも、
様々なストーリーが
ある 島。
大袈裟ではなく
どこまでも
考え深い 島で、計り知れない。

そこに、ヨミの電話画面に、
連絡内容が 浮かび上がる。
それを、見て

「例えば、たくさん島に ある
『首なし地蔵』に首を 掘って
あげると、願いが叶うという
話もあるのですよ。

どうでしょう、手彫りなど
やってみませんか?」

そう言いながら、
ヨミは 空を 手で掘る真似をした。

あ、そういえば
船室で 寝てる 後輩ちゃんが
面白い事を アドバイス
くれていたんだわ。

「と、
その前に、ほどなく
お泊まりになる
お宿の 浜が 見えて来ました。

宿の近くに、オーシャンビュー
レストランが あるので、
そちらで、お食事をされる事に
なりそうですが、」

海外のゲストが 泊まる
1棟貸しの 宿は、
キッチンシンクや 浴槽
玄関にまで、ふんだんに
豊島石を 使って
建てられている。


船の前に

緑 一色の島と、
真っ白で、真一文字の 横長な
建物が 見える。

紺碧の海に 浮かぶ 緑の島。

真ん中には
テラスとして
黒く 四角い口を 開けている。

「ご覧下さい。
かつて、千人の 石工がいる
千件の 石屋が並んだ浜に、
建てられレストランが、
まるで
緑の古墳に 佇む石の祠 みたい
だと 思いませんか。

それは、女神が 統べる
この 海から だけ見える、
遺跡の島の
もう1つの顔 なんです。」

皮肉かな、
豊島石。

近代建築の コンクリートの台頭と
アジア海運技術の 向上による、
安価石材の輸入で、

千人いた 石工は
島から 消えた。


ユキノジョウ達と ハジメは、
結局 『何か おやつ』を
島のキッチンで
調達する事に 決めた。

「誕生会の おばあちゃんが
いたら、『まくわうり』もらえる
かも しんない からな!」

そう、ユキノジョウは
やたら 期待していたが、誕生会は
とうの昔に お開きになり、

島のキッチン で作られた
みかん の パウンドケーキ を
全員で 頼んだ。

豊島の みかんで作られた
焼き菓子には、
同じく 島産みかんのジャムが
かかっていて、
甘い中に 皮のほろ苦い。

男性の ハジメにも 美味しく
食べれて、
御満悦の 様子だった。。

「いやぁ、若者達に 囲まれて
おじさん 1人も楽しめたよん」

優しい黄色。
檸檬のホテル、受付。

「そんなに 美味しいなら、
受付仕事する、私達に お土産
してくれて、良かったんですよ」

副女さんは、
ハジメに 軽い嫌味を 聞かせる。

母親達は
無事に、
予定の受付け ボランティア時間を
終了し、
後続の ボランティアに、
引き継ぎを 終わらせた。


支配人の 心配りで 差し入れされた
レモンのサワーを
受付にある ダイニングテーブルで、なぜか 全員
御相伴に 預かっている。

「ああ~!!本当にぃ!あ、でも
残念ながら、パウンドケーキは
僕らので、売り切れ~。
他の スイーツはねん、
テイクアウト 出来ないってぇ」

悪びれるもなく、
ハジメは 両手両肩を そびやかし
sorryと ジェスチャーをした。

それから、
まだ 時間が あるのか、
副女さん達 大人は
ダイニングテーブルで 話を
続けている。

アコは、
少し 疲れたのか テーブルに
うつ伏せて 半分 寝惚け眼だった。

ユキノジョウと ユリヤは、
せっかく 芸術祭のパスポートを
持っているのだからと、

檸檬のホテルを、
2人で アート散策する事にした。

『ペアになってますね。じゃあ、
音声ガイダンスを 耳に付けて、
聞こえる指示に 従って 体験
アートを、楽しんでください』

母親達から、引き継いだ
後続のボランティアは、

当たり前だが、
ユキノジョウ達の受付より、
よっぽど プロっぽいと
思ってしまった。

後続ボランティアは、
このまま 夜受付の 後に
檸檬のホテルに 宿泊するのだと
母親達に、話していた。

「ユリ、イヤホン入れるよ。」

ユキノジョウは、
ユリヤの片耳に、ガイダンスの
イヤホンを 突っ込んで
そして
自分の耳にも スタンバイすると

案内のスイッチを 入れた。

そこに、
副女さんから
「電話の 写真を使う
事がある から
その時は、これを 使いな。」
と、
インスタントのカメラを
簡単に使い方を 言われながら
投げられた。


夏の夕方は 昼間の様に
まだ 全然、明るい。

夕食に向けてか、
新たに 体験にくる 旅人も
まだ、レモンのホテルには
現れそうにない。

つまり、
ユキノジョウと ユリヤは
2人きり。

指示される ままに、 進む。


優しい黄色の光に
ホテルは 包まれて いる。

大人なら、
青春の 酸っぱさや、
爽やかさを、その色味の世界に
感じるのだろう。

けれど、
青春真っ只中の
登り坂を これから 上がる
幼い 2人は、
流れる 指示を、ゲーム感覚。

未知への 予感に
ワクワクと 進んでいく。

ある指示は

外の遊具で 並んで とか、
外の 檸檬色の 布で 戯れてとか。

いろいろ 指示されて。

そして、
優しい 黄色の 縁側まで 来た。
目の前には、
たわわに 実る レモンの木。


最後の指示で

ユキノジョウと ユリヤは
『ほほ檸檬』なるモノを
指示された。

「ほほレモン?何?それ?」

ユキノジョウが 呟く。
指示の場所には
籠盛りされた レモン。

1つ
ユリヤが 手に取り、
お互いの ほほで レモンを
挟むのだろうと
言った。

なので
ユキノジョウと ユリヤは、
特に 躊躇いもなく

『ほほに檸檬を 挟む』んで、
カメラのシャッターを切る。

星空は、レモン距離で だった。


「で?」

最後のミッションを
あれで、
難なく 終わらせたと
言うことなのだと、
気がついて、

ユキノジョウは レモンを 弄び
ユリヤを 見投る。

「終わり。」

ユリヤは、
にっこり として 伝げた。

「何これ。」

最初
ワクワクで
始まった感覚は

普段、学校で 遊ぶような
じゃれあいの指示に、

いつもと なんら
変わらない シーンの
再現ように 只只 感じて、
ユキノジョウには ???だった。

「アート体験だって。」

ユリヤも、瞳をパチクリと
していたが、
年の差1つ分は
何かを 理解しては いる
笑顔を している。

「ふーん。そっか。昼間ユリが
言ってた、『レモンの本』も、
こんな 感じの 本なのか。」

大人なら、『ほほに 檸檬』も、
もっと 違う感覚を 持てたのだろう
けどと、思いながらの

ユキノジョウの問いかけに
ユリヤは、頭を 傾げた。

少し、考えた風にして


「全然ちがう。、、、

でも、
もしかしたら、お母さんが
教えてくれた事、似てるかも」

そう 言って、
ユリヤも、1つ籠から
レモンを 手に した。

「『檸檬の本』にね、
このレモンを
『爆弾』って ことにして、
本屋さんに 主人公が、レモンを
おいて 出ていくって書いてる」

そして、
渡された インスタントカメラを
本に見立てて、
ユリヤは レモンを カメラに置く。

ユキノジョウが、
戯けて
そのレモンが 『ボン!』と、
爆発的する
みたいな
ジェスチャーを して見せる。

「それ、すげー!面白いな!」
ゲラゲラ アハハと
2人で 笑って、ユリヤが

「でね、京都に 、あるんだって。
その本屋さん。だから、本当に
その本に、レモンを 置く
お客さんが いるって、
お母さん 教えてくれた。」

ユキノジョウは、
ユリヤの言葉を 聞いて
レモンを 見つめると、
恐る恐る
自分の頭に、
レモンを 乗せた。

「本は ないから、頭ん上。」

ユキノジョウを 見て

ユリヤも 自分の頭に
レモンを 乗せて、

並んで、 写真を 撮る。

ふと、
ユキノジョウは
ユリヤの 頭のレモンを 見つめる。

自分に乗せた
レモンを、
手に して
ユキノジョウは

「ユリ!
もう1度 『ほほレモン』しよ!」

と、手のレモンを ユリヤの顔に
近づける。
ユリヤは、自分の頬を
ユキノジョウに 出した。

そうして、
ユキノジョウは
手にした レモンを ユリヤの頬に
添えて、

ユリヤは まだ 頭に
レモンを 乗せて カメラを構える。

「撮るね。」

ユリヤが 合図をする。
シャッターが 切れる音がして、

ユリヤの頬に 添えられた
レモンが 消え

ユキノジョウの口が
ユリヤの頬に 寄せられた
感触に

ユリヤの頭から
レモンが 落下する。

地面に 落ちたレモンは
破裂して
2人は
爽やかな
酸っぱくて 甘い 香り に
包まれる。

ユキノジョウは、
人差し指を 口に当てて

破裂したレモンを
目の前の レモンの木の 根元に
隠して 置いた。
そして
たわわに実る レモンを
1つ もぐと、自分の手のレモンも
ユリヤに 渡して、

2つのレモンを
籠に 戻させた。

ユキノジョウは
あれ?っと思うが、

インスタントの カメラには
何が 撮れて いるかは
予想が つかなかった。