この家には座敷わらしが居る。

いつの間にやら住み着いたのだ。

わたしはこのことを誰かに話しても、
誰にも信じては貰えなかった。

わたしの居た家は商家で、
当時は世界中で恐慌の真っ只中だった。

例に漏れずわたしの居た家も、
経営難で既に傾きかけていた。

先代が急死して結婚間もない夫婦が、
二人三脚で家業を盛り返そうと
試行錯誤を繰り返していた。

経営の悪化した日々の中、
太鼓腹の耳たぶの大きな男が店に現れた。

新しい物好きな風変わりな男だった。

ただ男は買い物をしたに過ぎなかったが、
その日からわたしはひどく体調を崩した。

私が()せってしばらくすると、
この家に座敷わらしが現れたのだ。

座敷わらしの出現に商家の夫婦は大層喜んだ。

このわらしは両親から
家の宝として大切に扱われることとなる。

わらしに専用の部屋を設け、
家具を揃え、おもちゃを買い与えた。

この家で嫌われ者のわたしとは正反対の対応だ。

座敷わらしの評判に客足は伸び、
店の経営はみるみるうちに回復したが、
わたしはいたたまれなくなり家を離れた。

世の中が好景気にわき始めた空気に馴染めず、
わたしはあちこちを転々と移り住むことになった。

それから何年か経ったか、
わたしはいつの間にか商家に再び戻ってきた。

あのわらしは大人になって結婚式を挙げた。

幸せそうな顔をしたわらしは、
座敷わらしでは無くなっていた。

それから式にはあの耳たぶの福の神も来ていた。

この神と相性の悪い貧乏神のわたしには、
あの商家にもう居場所はなかった。