老人が買ったラジオから、
亡くなった孫の声がすると言うのだ。

話を聞くと、その孫娘は
数年前に亡くなったそうだ。

老後の蓄えで最新機種のラジオを買った。

外見はアナログのレトロなデザインの
安物ラジオだが、液晶モニタがあり
無線LANにも対応している。

最新モデルというのが(うた)い文句だ。

ラジオは災害時でも情報が取得でき
役立つので、持っていて損はない。

そんなラジオがノイズ混じりではあるが
舌足らずな喋りの少女の声で、
ラジオの前の相手に話しかける。

――おじいちゃん、今日はどうだった?
――学校たのしかったよ。
――最近わたしがハマってるのはね…。
――それでおこづかいが足りないの。

――最近は雨ばっかだね。
――腰の調子はどう?
――この前はありがとう。
――長生きしてね、おじいちゃん。

孫の声から察するに、
こちらの様子がわかっている風である。

しかしこれらは最近良くある詐欺の手口だ。

遠く離れた家族、疎遠になった子ども、
むかしの友人、亡くなった妻など、
相手に合わせて他人を(よそお)
ネットでお金を振り込ませる。

自宅からのネット振り込みであれば、
銀行窓口で注意されて邪魔されることもない。

携行可能なラジオに隠されたカメラで
相手からこちらの様子が分かり、
振り込みの案内も容易となる。

今回の標的は独居老人であった為に、
事件を未然に防ぐことはできなかった。

ラジオの購入者リストから割り出したこの老人は、
事件として取り扱うことを固く拒んだ。

老人であっても受け答えはしっかりしており、
初めて見る相手の顔や名前も覚えて記憶力も高い。

振り込んだ金額の複雑な計算も
暗算ですらすらと答えるほどで、
認知症の症状があるわけでもなかった。

だがこの老人の身辺を調べてみると、
そもそも結婚をしておらず
当然ながら孫も居なかった。

亡くなった孫の設定を演じる相手と会話し、
お金を振り込む関係を楽しみにしていた。

この時ばかりはそういう老人も居るのだと、
警察は納得するほか無かった。