三章


 かくりよ学園大学部の入学式が行われた日。

 入学式に一緒に出る気満々だった玲夜は、急な会議が入ったので行けなくなったと、それはもう不機嫌に報告してきた。
 玲夜は不満そうな顔をしているが、柚子としてはむしろ来なくて助かったなどと思っているとは言えない。
 きっと玲夜が来たら入学式どころではない騒ぎが起きそうだからだ。

 代わりに祖父母が出席してくれた。
 二度目となるもやはりその大きさと随所に見受けられるお金をかけた装飾には目を見張るものがあった。

 入学式ということで、この日のためにオーダーメイドしたスーツを着ている柚子。
 別にオーダーメイドなんてしなくてもよかったのに、玲夜に押し切られていつも玲夜が利用する高級店に連れていかれた。
 式用の一着があればよかったのに、なぜか最終的には十着も作ってもらうことになったのは今でも首を傾げるしかない。
 とは言え、生地から選んで柚子のサイズに合わせて作られたスーツは、市販品では味わえない最高の着心地だ。
 そんなスーツを戦闘服に入学式に挑む柚子は、保護者席に向かう祖父母と別れ、新入生の列に並ぶ。

 どこかに透子と東吉もいるだろうときょろきょろしている柚子は、なんだか周囲の人から見られているような気がしていた。
 肩には子鬼を乗せているのでそのせいかと思いながら歩いていると、トントンと背中を叩かれる。
 振り返るとそこには透子と東吉の姿が。

 無事に見つかってほっとする柚子。

「おはよう、柚子」

「おはよう、透子、にゃん吉君」

「おう」

「あーい」

「あい」


 子鬼たちも挨拶をして三人で列に並ぶ。


「よくこの中で私が分かったね」


 柚子は中々見つけ出せなかったというのに。


「私じゃなくてにゃん吉がね。柚子がこっちにいるって」

「なんで?」

「お前なあ、前にも言ったと思うが、お前からは強い鬼の気配がしてるんだよ。しかもその子鬼からも。だからすぐに見つけられたんだ。さっきから弱いあやかしが怯えてるの気付いてなかったのか」


 確かに先ほどから視線は感じていたが、自分とは思わなかった。しかも怯えられてたなんて。


「てっきり子鬼ちゃんを見ているのかと……」

「弱いあやかしほど強いあやかしの気配には敏感だ。すでに一部で要注意人物扱いされてるようだぞ」

「え、うそ!?」

「まあ、思ったより人間が多いから気付いているのは少ないけどな」


 言われて今度は注意して周りを見てみると、柚子を見てぎょっとした反応を見せた者もいれば、まったく気にも留めない者もいる。
 どっちかというと後者の方が多いのは、人間だからなのだろう。
 あやかしのために作られた学校と言われていたが、思ったより人間が多いことに柚子は少し安堵する。

 けれど、さすが入学金も授業料も高いかくりよ学園。
 見ているとその容姿の美しさで、なんとなくあやかしか人間か分かるのだが、人間と思われる人もどこか洗練されていて、本当に同じ新入生かと疑問を持ってしまうほどに大人っぽい。
 来ている服も上質だと分かるもので、玲夜に言われるまま作ったスーツだが、ちゃんとした所で作ってもらっていて正解だったと今なら分かる。

 人間も資産家の子が多いというのは本当のようだ。
 そんな上流階級の子が多い中で友人を見つけられるかと不安になる。
 庶民的な柚子と話が合う人がいるだろうか。

 とりあえず明日からはどんな服を着ていこうかと柚子は頭を悩ませた。
 せめて浮かない程度には柚子も大人っぽい服とメイクを勉強する必要がありそうだと、式の間中斜め上の心配をしていた。

 そんな問題はありつつも式は特に問題も騒ぎも起きずに和やかに終わった。