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「朝葉、起きろ」
勢いよくカーテンが開かれて、部屋に降り注ぐ日差しの眩しさに顔を顰める。
「遅刻しても知らないからな」
「ん……お兄ちゃん?」
私を起こしに来たのは、珍しく寝坊しがちな四つ年上の兄だった。今日は家を出るのが早い日なのか、部屋着からきちんと着替えている。
「おーい、早く起きろって」
ベッドの横に立ち、呆れたように私の掛け布団を剥ぐ。まだ頭は冴えないけれど、上半身を起こして、大きなあくびを漏らす。
電気をつけたまま寝落ちしてしまったからか、疲れが完全に取れていない気がする。
「高校になってもバスケ続けてんだっけ? バイトとかしないのか?」
「バイトはしたいけど、でも部活の休みあまりないから」
休部していることはお兄ちゃんにも話していない。話したら両親に伝わってしまいそうなのと、お兄ちゃんはそこまで私に関心がないように思うので、打ち明けられても困らせるだけだ。
「高校の部活ってそんなハードだっけ」
「うちの高校のバスケ部は練習量多いんだよね」
平日の休みは一日だけで、それでも時折ミーティングが入る。土日もほぼ練習三昧だ。部活を続けていたらバイトをするのは難しいだろう。
「朝葉が好きで続けてんならいいけどさ」
「え?」
「母さんの言いなりになってるだけなら、好きなこと選んでした方がいいんじゃない」
お母さんとお兄ちゃんは昔から折り合いが悪い。人に決められることを嫌がるお兄ちゃんは、お母さんが勧めた偏差値が高い高校ではなく、偏差値の低くても自由が校風の高校に進んだ。高校生の頃は、特にふたりの衝突が絶えなかった。
「朝葉がバスケ始めたのって、母さんが進めたからだろ」
「それは、そうだけど」
元々バスケ自体は嫌いじゃなかったけれど、バスケ部に入ったのはお母さんにスポーツ系は後に進路のときに役立つかもしれないから入りなさいと言われたからだ。
「母さんの人生じゃなくて、朝葉の人生なんだから好きに生きろよ」
「……お兄ちゃんは好きに生きすぎだよ」
「うわ、痛いとこつくなよなぁ」
お母さんはお兄ちゃんに大学に進んでほしかったようだけど、お兄ちゃんはお母さんではなくお父さんと話をして、音楽関係の専門学校に入学した。そのときもお母さんとお兄ちゃんで、揉めて大変だった。
その後、音楽関係のバイトはしているらしいけれど、専門を卒業したお兄ちゃんはフリーターをしている。お母さんはそれも不満なようだった。
「でも、朝葉。まじでさ、母さんに自分の選択肢を与えるのは、やめたほうがいい」
「……選択肢」
「それじゃあ、なにかを自分で決断しなくちゃいけないときに、なにもできなくなる」
今度は私が痛いところをつかれた。お母さんに勧められるがまま、高校も部活も決めてきた。けれど今、部活を辞めるか続けるか、自分で選択をしなければならなくなり、決断ができないでいる。
先延ばしにしてはいけないことは、わかっているけれど、未だに動けないでいた。
「ちゃんと自分で選ぶ癖をつけた方がいい」
黙り込む私にお兄ちゃんは、「責めているわけじゃない」と苦笑して私の部屋から出ていった。