アザミちゃんに会うのは
あのエレベーター以来だからっ
一体何年ぶりだろう?

『飛んだ』後に届いた、、
エアメールは、『学校』を通して
届いたっけ?

その後も『学校』から
アザミちゃんの手紙は届いたよ。
アタシからも『学校』挟んで
アザミちゃんに手紙を
書いてた。

重厚でオーセンティックな
エレベーターの扉が 開く。

そんなやり取りをしてた
アザミちゃんの手紙がっ
『普通』にアタシんとこに
郵便されて、
アドレスをようやく
交換したんだよねーっ。

扉が開くと
そこは 豪華な白亜のエントランス
ホールだー。

うわあー。

西の公会堂で
最古の近代建築っていわれる
バロックとかね、
ネオロマネスク調の
場所が あるんだけど
そこをもっと 今風にした感じ?

サロンホールって、
なるほどねー。セレブリティー。
ブライダルでも
使うんだろうねっ。
いいなあ。

エントランスの左右に
廊下があるけど。
隣のファシリティの日本庭園が
ちょうど見えるホールが
ありそう。
そっちの方に行ってみよっかなー

廊下も天井がアーチで
ヨーロピアンスタイルかあー。
うん、本当に お城チック。
どこかクラシカルだし。


欧米の富裕層が
建築した 公共建築に、
感銘をうけた 明治の日本人が

自国にその文化形式を
持帰ったモノを
つぎ込んで
建てられた建築スタイルだねっ。


海外の賓客をもてなす場所。
いわゆる舞踏会とか
オペラとか出来る建物を
経済家とかが
共同出資して 建てるんだよ。

てっ!!
ほら、まるで そんな宮殿!
みたいなホール?

空いてる装飾ドアを
くぐるれば、、

ほの暗く照明を落とした中に
天井のダウンライトが
アーチに浮き彫りにして。

はあーーーーーー!!!
なんじゃっ?この天井!

天空に四大天使や
ケルビムだっけ?
天地創造だよね?このシンボルな
天井絵画ってやつだよー。

古代神話を天井にね、
壁には 豊穣神話っぽい
布画なんてっ。

ロマネスクの柱装飾がね、
シャンデリアのホールを
ぐるりと アーチ回廊で囲んでる。
んだよー!

あー、上ばっかり見上げてたら
口開けっ放しだわっ。

まるで、
宮殿の大広間だねっー。
モダンで豪華って、
天井の間接照明が天空を照らす
から、青い光なんだけど、、

それが四角いプールみたい。

黒に浮かび上がる
プールライト、、そうか
それは、ボールルームダンスの
本場じゃん。


『カツーン!カツーン!カッ』

大理石調の床に ヒールの音が
一定の音を響かせる。

どこか和洋折衷な
ステンドグラスが上部はまる
窓から差し込む

ネオン?まさかね。

ああ、向かいの日本庭園が
ライトアップされてるんだっ。

ほの暗く浮き上がる
ステンドグラスとライトアップに
シルエットを作りながら

ホールに ヒールを響かせる。

「アザミちゃん!!」

『カッ!カーーーツ!カツーン』

「アザミちゃん!!ってば」

『カツン、、』

丁度、シャンデリアの下

ロングヘアを後ろで束ねた
長身の彼女が

「気が付かなかったな。」

振り向いた。

「アザミちゃん、アザミちゃん!」

なんでだろ?
いろいろ 元気だった?とか
久しぶりとか、言えるはずなのに

馬鹿みたいに
名前だけ叫んでね。

アタシは 涙を生み出す事しか
出来なくて
言葉にならない。

「、。シオンちゃん。」

アザミちゃんも やっぱりそうで、
クロブチの眼鏡から
キラキラ 涙を 雫にしてる。

だから、

アザミちゃんに ハグして、
涙を お互いに誤魔化すね。

「あ、シオンちゃん。名前、
わたしさ、名前変わったの。」

出された、名刺には
このヒルズビレッジのブランド
ホテルと ホール部が
脇書きされて、

真ん中に

『田村 あさみ』 って、

印刷されている。


「あさみちゃん。なんだ。」

「悪いんだけどさ、
そーゆー 事で いいかな?」

改めて、名刺の名前と
アザミちゃんを 見比べるとね。

一見、アタシが知ってる
彼女と 印象が変わってるっ。

「そっか。ううん。いいよ。
アサミちゃん。だねっ。」

そうは、
言うんだけど、口がね
ワナワナってなる。
胸が 潰れそうなんだよ。
ダメだー。喋ると
泣きそうだよーっ。

ふと
壁画の 豊穣の女神が
ニンフ達と 輪舞しているのを
見つけた。

だから
「一曲いかが?」って、

それだけ精一杯に
我慢して
彼女に手を 差し出せたよ。

アサミちゃん。は、
眉を真ん中に寄せて
ハの字に下げながら
笑うように 手を取ってくれる。

2人で、礼をして

追憶をBGMに、
ゆっくりと2人で、
ワルツもどきを スタートさせる。

回路のアーチが影を伸ばす中

くーーーるーーんんん、、

ゆるやかにカーブを
滑るように ナチュラル
スピンターーーン

なんてね。

アタシは 見よう見まねで、
足運びも ままならない
のに、

彼女は 優雅にリバースターン。
リード
してくれるっ。

黄昏はもう 帳が降りて
並ぶ窓から 差し込む
ライトアップの光が
色鮮やかになる。

普通なら
薄暗くなって 心細くなる
ホールでしょ?
でも、
アタシ達には 馴染みの空気。

スローモーな流れで
つむじ風そのものになったような

アサミちゃんの体躯は
相変わらずで、静寂と
ダンスするみたいに、

心落ち着く。
懐かしいのかな。
それには、少し悲しい
共有の時間だったと思う。

走馬灯のように
回転灯篭みたいに
あの『シンデレラの隠れ家』での
時間とかが

ターーーンすると
目の前に揺れて、ホイスク?


頭上の大天使様が 見守る様で、
あの時の景色が 浮かぶ。

光る絹の糸を
針に通して、繋ぐレース。

手にしている
光沢の感触と 裏腹な
息を殺して生きる時間、、



シャッセもどき!って!
そんな 踊れないよ、アタシ。
アサミちゃん!
思わず 睨んじゃうって。

あ?流されたっ。

つーーーーん。だって

ナチュラル スピンターーーン。

シャンデリアが揺れる。

無言で 踊るしか
息抜き出来る事 なかったね。
あの頃。
だって、何にもないんだもん。

壁の妖精たちみたいに
ターーーン。する。

アサミちゃんは、泣きそうに
楽しそうに
また
ターーーン。

すると、
アタシの手をフワリと
放して そのまま タンタタンって
フリックして、カーテシー。

そのまま、佇む 2人。

踊ると 分かるよね。
いろいろな 気持ち。

だからアタシは、

「アザミちゃん。
幸せ、なれてる、かなあ、、」

そう 投げ掛けて、
彼女の胸に着けたままの
『田村 あさみ』
という ネームプレートを
見つめて しまったんだよね。