「この階段の1番上から見てると
さぁ、ヨミくんが 右に左って~
まるで、寄せては引いてく
波みたいにねぇ、僕が 置いた
『紅葉』を追いかけてぇ拾うの
がさぁ、見えるんだよねぇ。
それを、ここから 眺めてると
なんだかさぁ、幸せだった~」
そんな、
露にも 思わなかった 様子を
カミングアウトしながら、
彼は、
階段の1番上にある
この 部屋に 足を踏み入れ
るのですから、
質が悪いったら
ないですよ。
「ハジメオーナー?この部屋、
何か あるのですか?」
私は、俄に心に沸き上がる
面映ゆさを
そんなセリフで
誤魔化しますね。
もと
旧3号館とされた館内です。
坂の傾斜を 利用して
建築された、
階段廊下の南側に
宴会場として
極彩色の絵や彫刻に
装飾された
7つの部屋が 並びます。
作家が率いる画塾にですね
わざわざ 部屋
一つずつを任せまして、
女中と書生付きで
数年かけて完成させた
贅沢な作りの 部屋なのです。
とくに 下段の 3部屋は、
人を 感動の極みへ 誘うような
華やかな部屋でございますが、
この頂上の部屋は、
比較的
落ちついた 宴会部屋。
「意外かなぁ~?そうでもないん
だけどなぁ~。ほらぁ どう?」
そう、愉快そうに
かの貴公子は、当時と同じ
表情で、畳に無作法にも
寝転がりやがる
わけで。
「いったい、幾つになる 大人が
そのように、 お行儀の悪い事」
をと、続けようと
しまして、
ふと 思い着きましたよ。
独特の飴色細工障子。
ああ、
金沢の木虫籠みたいですね。
外の景色が綺麗に見える
細い間隔の花格子。
開けられた そこから、
青い豊かな緑、青紅葉が 見える
この部屋。
あら?
ベッドを置けば
昔の本館の部屋に 似てますね。
「それで、、、ですか。」
静寂さに 彼と私は
包まれながら、
外の緑に 止まる
鳥の声を 風のゆらぎの中に
しばし 心地よく
聴きます。
貴公子は、
元華族の母上と
決まって お2人で
お泊まりになってました。
お父上は
見た覚え、無いですね。
彼らは、
洋館が基本でしたけど。
お母上のお体の具合で、
最後らへんは、
本館にお泊まりでした
ものね。
ですから。
「洋館の一部や、旧本館のなごり
なら、中小の宴会室に あります
のに。、、見られますか?」
今は、さらにリニューアル
されて、全室がスイート仕様
なのですが、それでも
建築の明光は 残されて
います。
「ううん?いいよぉ。ここで~
十分だよん。あ、お茶したく
なったかも~?ヨミくんもどう」
よっと!と上体をお越した
彼に、私は、
手を差し出し
勢いよく 引き上げます。
すくっと、
麻スーツの貴公子は、何事もなく
立ち上がりましたよ。
本当に せっかくの
スーツが、皺になるでしょ!
「え?何~?」
「何も、ございません。が!」
無駄に鋭いオーナーですわね。
さて、
どうして、このような
坂を利用して、
段々に 宴会室を
作ったのかは、
もう、わかりませんが。
当時周辺には、
海軍の施設が沢山あり、
軍人さんを相手に
多く宴会を受け入れました。
作戦密談、
そのような配慮も
あったのでしょうか?
その推察を 後押ししますのが
かつての
旧館部屋につけられた
長門、陸奥、金剛、妙高、足柄
の 銘で ございます。
フフ、何の銘か お分かり
ですか?
「そうですね。それでは
滝のみえる ラウンジに 参り
ましょうか?おぼちゃま?」
私も、微笑みますね。
寄せては返す、
波の形に、
かの貴公子が 紅葉を
並べて、
私は それに
惹かれるように、
形を 辿る。
彼は、
それを 上から 見ているだけで、
幸せだったと
言いいました。
1/fゆらぎ。
彼という、
ニューロンが
生きている 信号として
掌の形をした パルス
を発すると
その間隔を
波のようなゆらぎで、
私が 共鳴する。
私を通して
その ゆらぎを
彼は 五感いっぱいに
抱き締めて
外界から の 繋がりを
感知する。
そうして彼は
彼が生きていると
世界に共鳴でき、
ようやく
幸せを 感じれた
のかもしれない。
洋館ホテルに
かつて住まう 彼は、
私が思っていた以上に
人恋い焦がれた
孤独な 貴公子だったと、
今日、貴公子自身に
明かされたように
思います。
「ヨミくん~?どうしたのん?」
急に、私の目の前に、
手をヒラヒラさせる
ハジメオーナーの姿が
現れます。
あら、少し意識が
深みに沈んおりましたわ。
「いえ、もしかして、今日も
紅葉の目印を 置いていかれる
のでしょうかと、思いまして」
自身の思考を
探られないように、
苦し紛れな事を
ただ、口ばしっただけなのに
ハジメオーナーは、
その タレた目を
見開いて、
スーツのポケットから、
それを、
出されたのです。
「凄いねぇ、ヨミくんには
かなわないやぁ~。ハイ~。」
掌には、青紅葉、ですか。
「これは、これは、
悪戯の回収 、ですわね。」
思いもかけない 種明かしですわ。
彼の掌から 回収した
青紅葉を、
手帳に そっと 挟みます。
「ヨミくん~、
紅葉の花言葉。 知ってるぅ?」
私の様子を、
見ながら ニコニコと彼は
謎を かけてきます。
「『美しい思い出』ですよね?」
「そう~、伊呂波紅葉のねん。」
そうして、ハジメオーナーは
「いろはにほへと」と、
指を上下に
波うたせて
紅葉の形を
私の
目の前に
描き出したのです。
私は、この人の かける
魔法には
敵いませんね。
さぁ、ヨミくんが 右に左って~
まるで、寄せては引いてく
波みたいにねぇ、僕が 置いた
『紅葉』を追いかけてぇ拾うの
がさぁ、見えるんだよねぇ。
それを、ここから 眺めてると
なんだかさぁ、幸せだった~」
そんな、
露にも 思わなかった 様子を
カミングアウトしながら、
彼は、
階段の1番上にある
この 部屋に 足を踏み入れ
るのですから、
質が悪いったら
ないですよ。
「ハジメオーナー?この部屋、
何か あるのですか?」
私は、俄に心に沸き上がる
面映ゆさを
そんなセリフで
誤魔化しますね。
もと
旧3号館とされた館内です。
坂の傾斜を 利用して
建築された、
階段廊下の南側に
宴会場として
極彩色の絵や彫刻に
装飾された
7つの部屋が 並びます。
作家が率いる画塾にですね
わざわざ 部屋
一つずつを任せまして、
女中と書生付きで
数年かけて完成させた
贅沢な作りの 部屋なのです。
とくに 下段の 3部屋は、
人を 感動の極みへ 誘うような
華やかな部屋でございますが、
この頂上の部屋は、
比較的
落ちついた 宴会部屋。
「意外かなぁ~?そうでもないん
だけどなぁ~。ほらぁ どう?」
そう、愉快そうに
かの貴公子は、当時と同じ
表情で、畳に無作法にも
寝転がりやがる
わけで。
「いったい、幾つになる 大人が
そのように、 お行儀の悪い事」
をと、続けようと
しまして、
ふと 思い着きましたよ。
独特の飴色細工障子。
ああ、
金沢の木虫籠みたいですね。
外の景色が綺麗に見える
細い間隔の花格子。
開けられた そこから、
青い豊かな緑、青紅葉が 見える
この部屋。
あら?
ベッドを置けば
昔の本館の部屋に 似てますね。
「それで、、、ですか。」
静寂さに 彼と私は
包まれながら、
外の緑に 止まる
鳥の声を 風のゆらぎの中に
しばし 心地よく
聴きます。
貴公子は、
元華族の母上と
決まって お2人で
お泊まりになってました。
お父上は
見た覚え、無いですね。
彼らは、
洋館が基本でしたけど。
お母上のお体の具合で、
最後らへんは、
本館にお泊まりでした
ものね。
ですから。
「洋館の一部や、旧本館のなごり
なら、中小の宴会室に あります
のに。、、見られますか?」
今は、さらにリニューアル
されて、全室がスイート仕様
なのですが、それでも
建築の明光は 残されて
います。
「ううん?いいよぉ。ここで~
十分だよん。あ、お茶したく
なったかも~?ヨミくんもどう」
よっと!と上体をお越した
彼に、私は、
手を差し出し
勢いよく 引き上げます。
すくっと、
麻スーツの貴公子は、何事もなく
立ち上がりましたよ。
本当に せっかくの
スーツが、皺になるでしょ!
「え?何~?」
「何も、ございません。が!」
無駄に鋭いオーナーですわね。
さて、
どうして、このような
坂を利用して、
段々に 宴会室を
作ったのかは、
もう、わかりませんが。
当時周辺には、
海軍の施設が沢山あり、
軍人さんを相手に
多く宴会を受け入れました。
作戦密談、
そのような配慮も
あったのでしょうか?
その推察を 後押ししますのが
かつての
旧館部屋につけられた
長門、陸奥、金剛、妙高、足柄
の 銘で ございます。
フフ、何の銘か お分かり
ですか?
「そうですね。それでは
滝のみえる ラウンジに 参り
ましょうか?おぼちゃま?」
私も、微笑みますね。
寄せては返す、
波の形に、
かの貴公子が 紅葉を
並べて、
私は それに
惹かれるように、
形を 辿る。
彼は、
それを 上から 見ているだけで、
幸せだったと
言いいました。
1/fゆらぎ。
彼という、
ニューロンが
生きている 信号として
掌の形をした パルス
を発すると
その間隔を
波のようなゆらぎで、
私が 共鳴する。
私を通して
その ゆらぎを
彼は 五感いっぱいに
抱き締めて
外界から の 繋がりを
感知する。
そうして彼は
彼が生きていると
世界に共鳴でき、
ようやく
幸せを 感じれた
のかもしれない。
洋館ホテルに
かつて住まう 彼は、
私が思っていた以上に
人恋い焦がれた
孤独な 貴公子だったと、
今日、貴公子自身に
明かされたように
思います。
「ヨミくん~?どうしたのん?」
急に、私の目の前に、
手をヒラヒラさせる
ハジメオーナーの姿が
現れます。
あら、少し意識が
深みに沈んおりましたわ。
「いえ、もしかして、今日も
紅葉の目印を 置いていかれる
のでしょうかと、思いまして」
自身の思考を
探られないように、
苦し紛れな事を
ただ、口ばしっただけなのに
ハジメオーナーは、
その タレた目を
見開いて、
スーツのポケットから、
それを、
出されたのです。
「凄いねぇ、ヨミくんには
かなわないやぁ~。ハイ~。」
掌には、青紅葉、ですか。
「これは、これは、
悪戯の回収 、ですわね。」
思いもかけない 種明かしですわ。
彼の掌から 回収した
青紅葉を、
手帳に そっと 挟みます。
「ヨミくん~、
紅葉の花言葉。 知ってるぅ?」
私の様子を、
見ながら ニコニコと彼は
謎を かけてきます。
「『美しい思い出』ですよね?」
「そう~、伊呂波紅葉のねん。」
そうして、ハジメオーナーは
「いろはにほへと」と、
指を上下に
波うたせて
紅葉の形を
私の
目の前に
描き出したのです。
私は、この人の かける
魔法には
敵いませんね。