首都に在るホテルの貴公子~ギャラリストに成る前の彼と私の話~東京編


「ハジメオーナー!!
何故いつもいきなり消えるの
ですか!!いい加減にして
ください!!私を
過労死させたいのですか!!」

『武々1B』のギャラリスト
武久一は オーナー。

ハジメオーナーを 探しに探しに
回り、ようやく見つけた 私は
その 決して高くない 背丈の
麻スーツの背中に

容赦なく叫びます。

彼は、
やはり ここ 和室宴会場入口に
佇んでいましたか。

「ごめんねぇ、ヨミくん~。
ほらぁ、此処に来るとさぁ、
やっぱりねぇ 見たくさぁ
なっちゃうんだよねん~。」

タレ目をより、ハの字に
下げて、この謎のイケメンは
私に 儚く笑うから、

「はあー。一言いってくだされば
問題ないのですよ。
それだけです。貴方が、此処で
迷うなんて、
あり得ないのですから。」

私は、ついつい
許してしまうのです。
特に この摩天楼聳える場所では。


広重が 江戸百景にも描いた
紅葉や桜の名称のある谷だった
らしく、
今でも 至るところの 台地から
富士が見え隠れします。

駅の西口方面を出るでしょう?
広くなく、それでいて
風情もある 急な下り坂を
行きますでしょう?

下りきれば目黒川になります。

その袂に 「昭和の竜宮城」と
呼ばれた場所が出て来て、
見上げると 玄関で
青銅の鳳凰が 迎えてくれる
のです。

何度か 時代の荒波と、
戦後最大の経済事件などにも
揺れたこの舞台は、
建物を替えながらも

変わらぬ内装を移築させて
創業の面影を 芸術品と共に
こうして
残してくれています。

「ほらぁ、この入口に来ないと
さぁ。なんだか~ここに来たって
気分にならないんだよねぇ~。」

そのハジメオーナーの気持ちは
痛い程に 私は わかりますから。
必要以上に、嫌味をいうのは
やめておきましょう。

ここの 宴会場入口は、
かつて 竜宮城の入口だったのです
ものね。

「ハジメオーナーは、
此処へ来て、大丈夫なのです
か?思い出が 在りすぎなのに」

私は、
彼の顔を見ることなく、
彼が 眺める入口を 並んで
見つめます。

「何故ぇ?だってさぁ、
僕とぉ、ヨミくんがぁ、
初めて 会った場所じゃない?」

ハジメオーナーは
そう言って いつもの癖、
タレた その目をウインクしました

そんな
彼の癖は、初めて出会った時へ
時間を戻す 魔法ですね。

その瞳には、螺鈿細工の光が
炎のように揺らぎ、反射して

私を過去の情景へと
射ぬき落とすのですから。



「ヨミさん、いつもの
『おぼちゃま』の確保。
よろしくお願い致します。」

当然のように
ゲストリレーションからですね、
業務をいいつけられますと
当時の私としましては、

どーしてこうも、
VIP様というのは 傍若無人
なのかと 辟易したものです。


「やだなぁ。僕にとってはさぁ、
家みたいなものでしょう?
ついつい好きな事しちゃう
年頃だっただけだよん~。」

今も、傍若無人さは
実に健在で
このタレ目 イケメンは
のたまわります。

「お陰様で、うら若き乙女が、
心の中で、中指を立てまして、
最上階フロアへのエレベータ
ーに飛び乗った ものです!!」

そう、
隣を歩く ハジメオーナーを
睨み付けます。

長い長い本館の廊下。

あの頃のハジメオーナーも、
私も、まだ 学生でしたわね。

当時 ハジメオーナーの
常宿とされた
別館の洋館ホテルは、
和風パレス様式で
それこそ
美術館に迷い込んだような
場所でした。

ともすれば、
まるで自分が、華族の令嬢に
なったかのような
心地に酔いしれます。

まさに、酔うようです。

広めの 洋エントランス。
そこには
芸術が そのまま施された 壁画。
廻廊をいけば
螺鈿細工で 美しく装飾された
これもまた、
美術品のようなVIPエレベーター

今は、式場に向かう
新郎新婦専用に
なっているようですが。

とにかく、
芸術品の洪水みたいな
洋館で。

「あの頃のヨミくんはさぁ。
ほんと~、僕のお目付け役だった
よねぇ。ホテルに学生奉公なんて
いい専属子守りになってたよ~」

そうケタケタと
笑って、
ハジメオーナーは
『百獣の獅子と百花の長牡丹』の
豪華絢爛なエレベーターへと
歩いて行きます。

「誠に、業界一族の 交換奉公
なんて時代錯誤もいい風習です」

私も彼の後を、
慣れた 足取りで 続きますね。

「ヨミくんはぁ、家業の修行
がてら見習いで こっちに来て
たんだよねぇ。僕と同じくらいの
君がさぁ、お仕着せ着て 僕を
捕まえにくるから~、最初はぁ
びっくりしたんだよねぇ。」

と、まぁ、呑気にこの
タレ目イケメンが その弓なりに
なった口で 言いますわ!!


このホテルの創始者は
石川県出身の方でございます。

当時は、東京の銭湯というのは
新潟、富山、石川の方が
経営の独壇場だったそうで、
創始者も 初めては
銭湯経営をされていました。

それが
自分の邸宅を まず料亭にし、
成功されまして
この土地にも
2店舗目として 開業されます。

『教養人・趣味人が1日
いても飽きぬ』を意趣に

『誰もが大臣 気分』の
場所としての本館内は、

2500以上の 花鳥美人画や、
彫刻、螺鈿といった芸術品が
飾られ、
現在もミュージアムホテルの
異名もつ、
憧れの館でした。

そして別館は
芸術家による壁画を描がかれた
まさに ホテル自体が美術館。

「私も、まさかホテルに住む
噂の貴公子に 振り回されるとは
思いもしませんわ。
本当に、乙女の青春時代を
返してくださいよ。」

そう、憎まれ口を叩きますが、
もし この場所に身を置いて
いなければ
彼も 私も 今の生業を
していたでしょうか?

この場所に、
文字通り 『芸術品を纏う』ような
肌から一流を吸収する
パワーのある場所で
生きていたから

その後の未来を、
彼も私も 歩いているように
思えます。

残念ながら
バブル期
美しい壁画ごと
別館は壊されてしまい
ましたが、それほど
芸術と館が表裏一体した
館が、
ハジメオーナーの
常宿で ございました。

装飾された
エレベーターのボタンを
静かに押しながら

「あの頃の僕はさぁ、1年の
4分の1をここで過ごしてたから
もう家みたいに
なっちゃってたんだよねん~。」

彼は、懐かしそうに
どこか
淋しそうに 私に あの頃へ
タイムスリップさせる
呪文を 語るのです。


昭和期一流の芸術家、
庭師、左官師、建具師、
塗師、蒔絵師
もうそれは集結しての
豪華絢爛。

内装だけでなく
珍しい本格北京料理に、
もちろん日本料理もだせる
料亭だけでなく
国内 初めて結婚式場や、写真館。

孔雀や熊までいる庭園、
錦鯉が泳ぐ川。

華美に装飾され、温泉より
水を運び沸かす
『百人風呂』

それはもう一大テーマパークで。

館付近には 目黒不動、
山手七福神や 大鳥神社が座し、
お参り信仰熱く
それらがリンクして眩暈する。

絢爛 物珍しき空間は、
非日常を過ごせる
江戸っ子の娯楽場。
今より、ずっと客人が入り乱れ。

『デザイン・装飾の百貨店』とも
『元禄文化風、どぎつさ屋敷』とも
称される存在での時間を
彼と私は
共有していましたね。

私は、
エレベーターに 入りながら

「だからといって、館中を
悪戯して回ってもいい理由には
なりませんよ。いくら、超VIPな
『おぼちゃま』であってもです」

逆上せたように、
あの別館での 日を思い出します。

家業として、
やはり 別系列ホテルを経営する
家門の子女である
私は、奉公人よろしく
大型休日には
学生にも 関わらず
放り込まれておりました。

そんな
私が 噂に聞いていた
『ホテルに住まう貴公子』の
悪戯を回収する担当に
なるなんて。

「それでさぁ、悪戯して
バトラーに お小言もらいたく
ないからぁ、逃げ回る 僕を
いつも、捕まえるのがぁ、
ヨミくんは 上手かったよね~」

彼は、そう 呟いて
エレベーターがついた先の
天井を仰ぐのです。

そこには、急な階段と
花鳥画が描かれた天井が
今もちゃんとあります。

「簡単で ごさいましょ?
貴方の通った後には 左右に
点々と 目印が 置かれてたの
ですもの。
どうして、誰も
気が付かないのか、そちらが
不思議でしたわ、私は。」

上から下まで 木造の階段。

昭和の初期。
国内では
クオリティの高い数寄屋建築
文化が花開いた時。
この階段は 国内でも
傑作と謳われました。

木目の波が ゆらぎ
静賓でいて
細かい細工が華 をそえる。

そんな厳かでいて
艶やかな段差にも、
当時の彼は
自分の印を
残していたから、
それを ゆるゆると
辿れば
自然と彼に 私は
たどり着いただけ。

「点々と廻廊の左右に
『紅葉』が置かれていれば、
不思議に 思うでしょう?」

「気がついてぇ、くれたのはぁ
ヨミくんだけだから~、君だけが
僕を捕らえれたって事だよん」

やだ!

かの日に、
この階段を 左右に追いながら
拾う紅葉の先で、

頬杖をついて 座った
貴公子の姿を
思い出すような
笑顔だわ。

ゆっくりと 99段の1段目を
上がる 彼が
振り向いて 投げた
表情に 私は
隠れて 息を飲み込んだ。
「この階段の1番上から見てると
さぁ、ヨミくんが 右に左って~
まるで、寄せては引いてく
波みたいにねぇ、僕が 置いた
『紅葉』を追いかけてぇ拾うの
がさぁ、見えるんだよねぇ。

それを、ここから 眺めてると
なんだかさぁ、幸せだった~」

そんな、
露にも 思わなかった 様子を
カミングアウトしながら、

彼は、
階段の1番上にある
この 部屋に 足を踏み入れ
るのですから、
質が悪いったら
ないですよ。

「ハジメオーナー?この部屋、
何か あるのですか?」

私は、俄に心に沸き上がる
面映ゆさを
そんなセリフで
誤魔化しますね。


もと
旧3号館とされた館内です。

坂の傾斜を 利用して
建築された、
階段廊下の南側に

宴会場として
極彩色の絵や彫刻に
装飾された
7つの部屋が 並びます。

作家が率いる画塾にですね
わざわざ 部屋
一つずつを任せまして、

女中と書生付きで
数年かけて完成させた
贅沢な作りの 部屋なのです。

とくに 下段の 3部屋は、
人を 感動の極みへ 誘うような
華やかな部屋でございますが、

この頂上の部屋は、
比較的
落ちついた 宴会部屋。

「意外かなぁ~?そうでもないん
だけどなぁ~。ほらぁ どう?」

そう、愉快そうに
かの貴公子は、当時と同じ
表情で、畳に無作法にも
寝転がりやがる
わけで。

「いったい、幾つになる 大人が
そのように、 お行儀の悪い事」

をと、続けようと
しまして、
ふと 思い着きましたよ。

独特の飴色細工障子。
ああ、
金沢の木虫籠みたいですね。

外の景色が綺麗に見える
細い間隔の花格子。

開けられた そこから、
青い豊かな緑、青紅葉が 見える
この部屋。

あら?

ベッドを置けば
昔の本館の部屋に 似てますね。

「それで、、、ですか。」

静寂さに 彼と私は
包まれながら、
外の緑に 止まる
鳥の声を 風のゆらぎの中に
しばし 心地よく
聴きます。

貴公子は、
元華族の母上と
決まって お2人で
お泊まりになってました。
お父上は
見た覚え、無いですね。

彼らは、
洋館が基本でしたけど。

お母上のお体の具合で、
最後らへんは、
本館にお泊まりでした
ものね。

ですから。

「洋館の一部や、旧本館のなごり
なら、中小の宴会室に あります
のに。、、見られますか?」

今は、さらにリニューアル
されて、全室がスイート仕様
なのですが、それでも
建築の明光は 残されて
います。

「ううん?いいよぉ。ここで~
十分だよん。あ、お茶したく
なったかも~?ヨミくんもどう」

よっと!と上体をお越した
彼に、私は、
手を差し出し
勢いよく 引き上げます。

すくっと、
麻スーツの貴公子は、何事もなく
立ち上がりましたよ。

本当に せっかくの
スーツが、皺になるでしょ!

「え?何~?」

「何も、ございません。が!」

無駄に鋭いオーナーですわね。


さて、
どうして、このような
坂を利用して、
段々に 宴会室を
作ったのかは、
もう、わかりませんが。

当時周辺には、
海軍の施設が沢山あり、
軍人さんを相手に
多く宴会を受け入れました。

作戦密談、
そのような配慮も
あったのでしょうか?

その推察を 後押ししますのが
かつての
旧館部屋につけられた
長門、陸奥、金剛、妙高、足柄
の 銘で ございます。

フフ、何の銘か お分かり
ですか?

「そうですね。それでは
滝のみえる ラウンジに 参り
ましょうか?おぼちゃま?」

私も、微笑みますね。


寄せては返す、
波の形に、
かの貴公子が 紅葉を
並べて、
私は それに
惹かれるように、
形を 辿る。

彼は、
それを 上から 見ているだけで、
幸せだったと
言いいました。

1/fゆらぎ。

彼という、
ニューロンが

生きている 信号として
掌の形をした パルス
を発すると

その間隔を
波のようなゆらぎで、
私が 共鳴する。

私を通して
その ゆらぎを
彼は 五感いっぱいに
抱き締めて

外界から の 繋がりを
感知する。

そうして彼は

彼が生きていると
世界に共鳴でき、

ようやく
幸せを 感じれた
のかもしれない。


洋館ホテルに
かつて住まう 彼は、
私が思っていた以上に

人恋い焦がれた
孤独な 貴公子だったと、

今日、貴公子自身に
明かされたように
思います。

「ヨミくん~?どうしたのん?」

急に、私の目の前に、
手をヒラヒラさせる
ハジメオーナーの姿が
現れます。

あら、少し意識が
深みに沈んおりましたわ。

「いえ、もしかして、今日も
紅葉の目印を 置いていかれる
のでしょうかと、思いまして」

自身の思考を
探られないように、
苦し紛れな事を
ただ、口ばしっただけなのに

ハジメオーナーは、
その タレた目を
見開いて、
スーツのポケットから、
それを、
出されたのです。

「凄いねぇ、ヨミくんには
かなわないやぁ~。ハイ~。」

掌には、青紅葉、ですか。

「これは、これは、
悪戯の回収 、ですわね。」

思いもかけない 種明かしですわ。

彼の掌から 回収した
青紅葉を、
手帳に そっと 挟みます。

「ヨミくん~、
紅葉の花言葉。 知ってるぅ?」

私の様子を、
見ながら ニコニコと彼は
謎を かけてきます。

「『美しい思い出』ですよね?」

「そう~、伊呂波紅葉のねん。」

そうして、ハジメオーナーは

「いろはにほへと」と、

指を上下に
波うたせて
紅葉の形を
私の
目の前に
描き出したのです。

私は、この人の かける
魔法には
敵いませんね。

「ヨミくんはぁ、マロウティー
僕も同じのでぇ~」

吹き抜けの アクアリウム
人口滝に、
瓦のファサードが
異国情緒ある空間。

「オーナー。一応、オーダーを
私に聞いて頂いても、
よろしい のですのよ。」

席で、
ハジメオーナーの勝手な
メニュー決めに
否を投じます。

「えぇ、いつもマロウ
ティーでしょ~。あ?スイーツ
頼むぅ?スタンドのやつ?」

「いえ、けっこうです。
オーナーの言うとおり、
マロウ 一択で。」

「なんだよぉ。ならいいじゃん」

BGMは 取り巻く
結界水路のせせらぎと、
ピアノの ゆらぎ。

「そういえば、オーナー。
先ほどの 頂上のお部屋って、
確か 昔は 開いてませんでした
よね?
倉庫にしてたとか聞きますが」

カップに、
真っ青な色の茶と、
檸檬の輪切りが
添えられ

私達の前に 並べられます。

「そう言われるけどぉ。どうかな
美術品の倉庫にさぁ、黒柿の
床柱なんて、設えないよぉ。」

ハジメオーナーは、
檸檬の輪切りを
真っ青なカップの海に
入れます。

「でも 確かに、私がいた時、
あの部屋は、開かずの間でした」

私も、真っ青のお茶に
檸檬の輪切りを
浮かべ。

「ヨミくんは分かると思うよぉ?
あの階段を 登りきってもぉ、
実は地面でしょ?」

カップの青は、
手品か、ローズカラー。
その鮮やかな
変身に 微笑みます。

「ええ、階段は、坂の傾斜を
利用してますから、
1番上に、登っても、そこは
坂の上。地面ですわ。それが?」

タレ目の彼が
唇をニッと
上げましたわ。

「階段を99段までしかぁ、
上がれない者は~、そのまま
下界へ降ろされるけどぉ。
中には 100段目を上がる人間が
いたのだよん。わかるぅ~?」

確かに、99段、突き当たりは、
外の坂。出口。

100段となると
頂上の間に上がれば?

「さてぇ、その下の部屋って~
もちろん
ヨミくんは覚えてる?」

簡単。
カップをスプーンで
混ぜれば
より赤く水色が 変わり。

「茶室風の部屋ですね。書院風
茶室といった感じですよ。
入り口の障子には、富士細工が
設えて、、もしかして?黒柿、」

顎に手を当て
考えます。

「ご名答~。僕はねぇ、その下の
部屋はぁ、京の離宮。茶室はぁ、
京の書院。そしてぇ
頂上はぁ 大和の倉を 意してると
思うんだよねん。全部~黒柿。」

?!。

「さすが、ギャラリスト探偵の
異名を持たれるオーナーですね」

「僕がぁ探偵ならぁ、ヨミくんは
相棒だねん~。あはは~。」

そう、
有名な探偵の
居場所を、屋号にしてますし。

メタモルフォーゼの お茶は、
檸檬の酸っぱさが
口に広がり。

「大和の倉なら、天皇、
現人神の 管轄ですわね、」

私は 息をつきます。

「富士山の さらに上は、
仙人の住みか だからねん。
黒柿は150年齢、仙人で
ないと拝めない~。」

あら、貴公子の顔で
返され。

「なるほど、仙人のいる場も、
かの倉の中も、人類の宝物が
あります わね。」

「100わねぇ、『王』の数字。
それに、本来の依頼画家が、
亡くなってより、
浄土になったのかもね」

ハジメオーナーは、
そうして
私を 磔るのです。

「ヨミくんはぁ、金比羅の
奥書院 行った事あるよねぇ?」

ええ、天空に届きそうな
階段を登りつめた先にある
浄土の花園の院。

「ええ、花書院と
向こうの空に浮かぶ讃岐富士が
、素敵な?!寄せてですか、、」

この才能は 何を
私に見せるつもり!

「天空の讃岐富士と、茶室、
地の清方富士。芸術家なんてさ
伏線被せる 意図なんてぇ、
どこで でもするよん。
金比羅は船乗りの聖地~」

はい、妄想として おきます。

「ひどいなぁ。強ちだよん?
罪人は神を目指し落とされた。
名実共にぃ、錬金する部屋さ。」

銀行から数千億もの資金を
絞りとり 闇に消した

戦後最大の
経済事件ね。
あれがなければ
『失った10年』は起きなかった
とも仮説されるけど。

因果な舞台の波紋。

そんな 扉の前で 私達は
出逢ったのですか?。

続けて
私は 口にするのです。

「だから、、、ですか。」

彼が あの部屋で
懐かしそうに
寝転がる
先ほどの姿が
蘇って。

「昔からぁ、別館に良く似た?
それ以上の美しく薫りがする~
ってさぁ、お気に入りだったよ
。扉前ってさぁ。」

美術品の洪水のような
貴公子の別館の
移り香を、的確に
彼は
掴んでいたのですね。

「『ナサケ』天職ですわね。」

音にして
しまったと 思って
見ると、

タレた目が
ハの字になってます。

「昔の話だよぉ。」

あの部屋は、
『パンドラの扉』

「まるで、予定調和ですわね。
後輩ちゃんも、
パンドラを 開けたとか。」

ここも『パンドラ』でしょ。
マロウティーを
飲み干し
視線をやります。

「へぇ、そこには、何が入って
たのかなぁ~?『希望』?」

弓なりの口をして、
ハジメオーナーが 呑気に笑うので

「錬金術の跡が。」

と言ってやります。

「それは、、因果だね」

オーナーに、私は
押し黙り 首を縦に 振る
のみ。

「せっかくだしぃ、胎内めぐり
しておくかな~、ここは
そう~ 邪気祓いしよう~!」

オーナー、逃避しましたね。
己が宿命を 自覚ですよ。
諦めましょう。

貴方は、
時代の波に
足を囚われる 質なのだとね。

もしも、彼のパンドラは
どこかと聞かれれば、
それは
あの日
なのではないかと、

会計を終わらせ 庭に出る
彼を 見つめて
思うのです。

私は、
貴公子の家族を
お母上以外
見た事がありません。


滝の裏
洞窟に 入ると、
薄暗い中に、
ゆらぐ
滝の音が木霊し、

彼の 見慣れた背中から
私は 過去に

戻るのです。


『ヨミさん、おぼちゃまの部屋を お掃除お願いします。』

ゲストリレーションからの
指示で

あの日
ノックし、入った 洋館。

貴公子の 部屋は
大惨事の跡

荒れ狂って
部屋中が、服が、調度品が、
粉々にトグロを巻いて。


死んだ目の
貴公子が

『引き払う。セットアップ
出来たら、
すぐ チェックアウトするよ。』
淡々と 放つので

『洋館の幽霊達が出ましたか?』
としか、
返せなかった。

噂のゴースト達が
ポルターガイストでも
起こしたのだと 思うほどの
部屋。

でも、
シャワーする
貴公子の 着替えを
散乱群から
見つけ出す中、

貴公子が
肉親を亡くし
世界で 1人になった
事実を見つけて
しまい。

部屋中の
荒れ狂う悲しみがある
今の部屋は
貴公子のパンドラだと。
涙が
流れました。


滝の裏側に
たどり着くと、

彼は、
手を組んで祈ります。

高僧に恋せし 乙女が
会いたさに
火付けの罪を犯し処された
伝えある場。

僧は、乙女の為に
祈り
その光明が柱となり
時折、滝に現れると
崇められいます。

「やっぱり落ち着く~。
胎内で聞く音に
近い音なんでしょ? 」

彼、もと貴公子で、
ギャラリスト探偵とも呼ばれる
オーナーには、

光明の柱が
見えると いいですね。

人が神を乞うように、
乙女が高僧を恋うように、

今も
何処か寂しい彼は
まだ
孤独から
抜け出せてないから。

「熱心に 祈らたのは、家庭的な
女性との出逢いですか?」

皮肉だと
解っていて、
どうして
こんな台詞を
形に
するのでしょう。

「う~ん。どうかなぁ。それより
これから 会いにく、船長を
鮮やかに口説けるようにってね」

ハジメオーナーは、
肩をそびやかします。

「あら、今度は 戦艦でも
動かされ、逃亡しますか?」

私は、
眼鏡のツルを 指で押し上げ
ます。

「そう~。お江戸恐ろし、
我らは 急げ退散だよん。ここは
昔の知り合いがぁ多過ぎ~。」

今度は、
波の上だよん。
と、ケタケタと
笑って、ホテルの玄関に
歩き出す

その頭に
青い紅葉が
左右に
揺れながら
落ちて、

私はそれを
手にします。

「いつも 有り難うねぇ~」

「私しか、おりませんしね。」

参りましょう。

彼が描く 波の形を
また 私が
辿る 旅へ。




『首都のホテルに住まう貴公子
~ギャラリストに成る前の彼と
私の話』

2020年8月15日~18日脱稿。
さいけ みか

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