そんな過去を思い出しつつ深いため息を吐き出して、ビルの間から覗く夜の空を見上げる。そこには真ん丸な月がぽっかりと浮かんでいて、どうやら今日は満月らしい。

 そろそろ駅の入口が見えてきた。ここから千葉市内にある自宅までは電車を一本乗り換えて一時間以上はかかる。そのくらいの時間があれば右頬の腫れも今よりは少し引くかな……いや、引かないか。

 ああ、本当にどうしよう。

 やっぱりこんな腫れた頬のまま家には帰れない。

 こういうときは……。

 私は駅を素通りすると、ここからもう少しだけ歩いた先にある地下鉄の入口へと向かう。

 目的地変更。

 今日は、ここから二駅ほどの距離にあるセカンドハウスに泊まろう。