今城想という男は人間観察が趣味である。

 何の知識も無いくせに、多額の資金もないくせに、学校を運営し、ドット絵の人間を何時間も見続ける。


 そして、資金を増やす。


 生徒に無理難題を突き付け、鬼のような授業を数秒間受けさせ、実績を上げる。

 彼は、ほんの少し指を動かすだけで、それを成し遂げてしまう。


 必要なのは、ずっと見続ける根気と、時間だけ。

 今城想という男は学校運営ゲームが何よりも好き。そして、自分の運営する学校に通う生徒の、人間観察が趣味である。


 例えそれが、今の彼にとっての、現実になっても──








「美味しいですか?」


 賞味期限、消費期限なんてものはない。冷蔵庫の中で保管されている「栄養満点おにぎり」を、先生は無言で口の中に運んでいる。


「普通」


 一緒に食べようと言った割に、随分そっけない対応だ。新聞から目を離す気配もない。別にいい。


「……不味い」


 私が不味いと感じているのだから、「普通」という彼の言葉は半分嘘だ。おにぎりは「普通」、食べられる味。牛乳は「不味い」。飲めるけど、飲みたい味ではない。


 私が顔をしかめると、先生は楽しそうに笑いだす。

 いつの間にか新聞から顔を上げていた。


「私に自我があることを喜んでくださっているのですね」