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「家に戻ってくる気はありませんか?」
佐藤夫婦が旅立った後、娘の佐藤は俺の家に住まうことになり、荷物の整理、段ボールの箱を開けながら突拍子もなくそんなことをぼやいた。
敬語、疑問形。この家の中には佐藤旭を除いて俺しかいない。九十九パーセント俺に向けられた言葉だろう。顔は向いていないけど。
「それはつまり、やっぱり自分家の大きい屋敷で暮らしたいと? 小さな俺の家がいいって言ったのはお前だが、心変わりしたのならまだ間に合うから段ボールの蓋は開けるな。直ぐに荷物をまとめなさい」
「違います! 帰りたいのでも、佐藤先生に屋敷で一緒に暮らして欲しいわけでもありません。戸籍的に戻ってきませんか、という話です」
「お兄ちゃんと呼んでくれるなら……」
「ふざけないでください」
私はまだ、あなたを兄とは認めていません。
黙々と作業を続ける彼女の姿がそう言っているように感じた。戸籍上で家族になれば、納得出来るからその提案をしたのだろう。けれど少し深刻そうに、沈んだ彼女の目を見て、何か他に理由があるという可能性を捨て切れず、聞いてしまった。
それはビンゴだった。
「戻ってきて、佐藤先生が家を継いでくれれば、私が継ぐ必要はなくなります。そうなれば私は、結婚しなくて済みますから」
「結婚、したくないのか」