「ねぇねぇ、今日でしょ」

「なにが?」

友だちの阿野麻耶が、私に声をかけてきた。麻耶とはこの高校で出会って、すぐに仲良くなった。なんでも言い合える仲であり、悩み事にも相談にも乗ってくれる。つまり、私のすべてを知っている親友だ。

「忘れたの?転校生だよ、転校生。先生、今日言ってたでしょこのクラスに、転校生がやってくるって」

「あー。そういえば、そんなこと言ってたけ。」

興奮して話す麻耶の言葉を聞いて、私はてきとうにあいづちをうつ。

「ちょっと、結衣。全然興味ないって顔してるじゃん。さっきから、空ばっかり見上げてるし‥‥‥」

「え、そんなことないよ。男性かな?女性かな?楽しみー」

教室の窓際の近くで、私はあえておおげさな反応を見せた。外からは雨音がうるさくきこえており、梅雨真っ盛りの不安定な天気が続いている。