夜の 噎せる 薫りで、
さ迷う棺から目覚めれば、
なーんて事ないのねぇ。

ほら、三人の子供達が、昔話しているじゃないの。
待ちくたびれましたよぉ。

だから、頑張って 蓋を開けようと思ったら、すり抜けちゃって、自分が 驚いたわねぇ。

ちゃーんと 選んどいた 写真使ってんじゃない。偉い偉い。

独りになると、いざという写真。
常見から 選んで置くようになるのは、どういう『性』なのかしら?

二人共、最近の顔なんてもう、わかんないでしょ?だから

二人が、出て行った頃の写真、選んでおきました。
感謝なさい。
帰ってこない事も、
養子反対した事も、
放っといた事も、、

全部、許してあげましょ。
いくつなるでも、子供って、親は思うのねぇ。

心筋梗塞だって。
適当な自分と、普通の自分が
バランス、分からなくなってたかもねぇ。
新しい家、
何も 想い出がないと、思い入れなくて、ダメだわ。
お父様が一回でも 来てくれたらねぇ。

お棺の中の顔。こーんな顔だったかしら? 自分て、一番わからない、それも、いいけどねぇ。 あのままだと、どうなるかと思ったし。

ま! お父様のお葬式で、着た喪服!
オーダーしたやつよぉ。懐かしいわぁ。良く着た喪服は、この後、作ったやつだから、久しぶりだわ。
やだ、エンディングドレス、忘れてたわぁ。



覚えている、お父様のお葬式。

自分が出した お式で一番よねぇ。
昔の業界さんも、飲食さん に職がえしてからの弔問のお客さんも 多くて、色々変更したの。

けど お父様を、送り出せて 胸張れると思ったわぁ。

案外自分も、早かったけど。
やだ、副会長さんより、早いなんてねぇ。

このお椀!通夜おうどん?食べたねぇ?。偉い、偉い。

やーねぇ、そんなに 寒いかしらねぇ。こっちは、暗いから、三人の顔、よく見えるわぁ……。

意外だけど、自分の式だと、
そんなに拘りないのね。
母になると、こんなもんかもしれませんねぇ。



あれだわねぇ。

三人って、つくづく、お父様を三で割った子供達だわ…。
この娘は、この肌の白だもん、きっと覚醒遺伝よぉ。息子二人は、お父様から一番近い孫だし。

どうしようもない、血の濃さかしらねぇ。
自分も そう思うわぁ。

だって、そうでしょ?
臓器に記憶があるかもしれない、なら、血にも、意識、あるでしょうよ?

三人見てると、
お父様に似た筋を 生めたなら、女の生も 良かったのかもねぇと思うわ。
ついでに、あの娘も、子供にしたかったけど。どうして、だったかなあ?ああ、そうか。



本当は ずっと、男に生まれたかった。不思議だわぁ。血の意識かしら?

男として、お父様の様になりたかったし。お父様の横に居たかったのかもしれないしねぇ。

まあ、友達には、ファザコンって呼ばれたけど、そんな 緩い 想いじゃないわね。

妹に、男を 取っ替え引っ替えっていわれたけどね、当たり前でしょ?お父様みたいな男性をどれだけ探していたか!

だから? 旦那様が亡くなって、お父様もいないし、少し、詰まらなくなったかもねぇ。

あんまり眩しい光を見ていたから。

昔のお父様の事、大お婆様が生きてらした時、聞いてたのよぉ。
ちゃんと、跡継ぎに伝えるための話わね、奥の仕切りの使命。

どうも 無駄になるのかしら?ねぇ

お父様は 子供から見ても、素敵な人。お母様が一目惚れで、押し掛けるの分かる。人を惹き付けるのね。
お母様は、外からお嫁で苦労したけど。生まれて決まる、婚約を越えての位置でしょ?代償ね。ふふ


だいたい、洋菓子職人が、一流老舗企業の本社食堂コック兼、相談役に請われるって、えぐいわぁ。
あはは。

そうそう、よく お父様、見たくて 食堂に手伝いも行ったのよ!

そしたら、『イケオジ大叔父』も、ベストに蝶ネクタイ姿で鍋を回していて、お父様の シェフ姿と相まって、社員食堂の厨房は、もう人がね、凄いの。
あれね、『元、日勤別家頭』は違うわ。
インテリお父様とイケオジの 制服萌えコラボが へんに耽美で、脳内インフレ!羨望の光景だったわぁ。なーんてねぇ。

さておき。ね。

お父様、。妹んのとこへ金庫、送ってたのね。

全然知らなかったわ。
娘に宛てたんでしょうけど。
聡い娘ね。よく、調べたと思うの。
でも、さすがに 靭公園前に立つ あのビルの昔は知らないか?それで、ここまで着たなら及第点ね。偉い、偉い。

娘、欲しかったかもねぇ。
いえ、嫁なら、自分にだわ。
男ならだけど。あは!

これから先、知ってる人もいないのなら、此処で知らせるのが、良いんだろうけど。今出たら、怖がるわよねぇ。

ケーキ屋していたビル、確かに一族のオーナービルよ。それだけでないのよ。

第一大戦が終って、日本は酷い
デフレになった上、関東大震災が東京を襲ったの。東京の西洋建物は、破壊したそうよ。

その戦災害の不況を 本家は、大坂に西洋建築を経済事業として建てることで経済救出するのね。当時5階の、意匠を凝らしたデザインは、有名になったでしょ。。

同時期、三菱さんが莫大な資金で国産板ガラスの生産に成功したのを、使用して、国内産物の広告も兼ねた工事だったの。ふふ

大坂拠点と、1階を舶来煙草と、カフェを楽しめるサロンでオープン。『初代の酔雪楼』を近代的に復元したのね。起業家や芸能文化人が集まる社交の場となるの。

ビルの強固さは、皮肉にも 第二大戦で焼け残った事で証明されたわ。
物流の長を引退した、お父様は 曾て、サロンだったビルでケーキを焼いて、当時珍しい スイーツのケータリングを始めるのよ。
その後、請われて企業の社員食堂のコック兼相談役。 大大大阪時代のモーレツサラリーマンの胃と知識を満たした半生だったわ。

そういうわけで、弔問のお客様多かったのよね。
黎明期の西企業は、ほとんど知り合いなんだもの。

社食に住む、オバケ よ。ふふ。
可笑しいわ。現実は、ドラマね。

そうだ、ビルは残ってるの。新しい東京のタワーが立った年、店子のレストランが移転しちゃって、廃墟みたいだけど。もったいない。一族最後の救済建築。

何回か行った。お父様がケーキ、焼いてた頃と同じだった。

社食のコックになるって、ビルを手放した時に、一部のステンドグラスを持って行ったのかしら?

お父様の考えは計れない。手伝いだって、厨房での 算段があったみたいだし。

早さが問われる商人は、人の動きの先読みもするって
『元右腕の大叔父様』が教えてくれたもんよ。色々皮肉だわ。ふ。

あはは、まあ!何か始まって、三人楽しそうねぇ。ふふ 偉い、偉い。

ガンジガラメかしら。
三人の事も、きっと そうだわね。
お父様の、深淵な愛。ちゃんとね。
落ちるところへ、落ちますね。

夜が明けるかしらねぇ。太陽の匂いが立ち込め始めるのねぇ。

なら、また 夜が明けるまで
休みますよぉ。ええ。

次は 男かしらがいいかしらね?
性別とか年齢層とか 関係ないわ。
ただ、次も お父様に、会いたい。

稀代の 長。どんな形でもね。
そんな人と 走れるならね。

そんなもんでしょ?

きっと、救われる。



神さま


常しえに