ここは、錦町に接する妖との境界。
ヒトとも接する歓楽街の界隈に、ほんの少し接しているのだが。ヒトから入るには、ある程度の資質を持つ者でしか訪れるのは叶わず。
たとえばそう、妖が好む霊力があるとすれば。
元地獄の補佐官だった猫と人のような姿をしている店主の営む小料理屋、『楽庵』に辿りつけれるかもしれない。
不思議な夢を見た美兎は、起きてすぐにいた座敷童子の真穂に話したのだが。
「夢占い? もしくは、真穂達妖の仕業だと思うの?」
「違うの?」
「ほら。夢って深層心理の現れとか、最近の人間も言うでしょ? 美兎や辰也のように、妖が守護につけれるくらいの霊力の持ち主だとー。霊力に流れている血の現れとかもあるんだー? だから、真穂が言うのが正解とも限らないわよ?」
「……そっか」
あれだけのリアルな夢。出てきた相手も相手だし、絶対何か美兎に関わりのある妖か何かだとは思っているのだが。一度目だし、何故今日なのかもわからない。
とりあえず、真穂からは気にするなと言われたので、美兎は身支度を整えるのに朝シャンならぬ昼シャンに入ろうとしたのだが。
鏡に映った変化に、勢いよく声を上げてしまった。
「ど、どどど、どしたの!?」
真穂が来てくれたら、思いっきり彼女に抱きついたのだった。
「目が……目が!?」
「ジ●リ?」
「違うの! 私の目が……! 鏡見たら、真っ青に!?」
「どれどれ?」
もう一度、鏡で見てみると。つい先程と同じく、両目とも瞳の色が真っ青。外国人顔負けくらいな、綺麗なオーシャンズ・アイだった。
真穂の目にもきちんと映ったようで、子供姿の彼女は髪をぽりぽりとかいていた。
「こ、これなんなの〜〜!?」
「考えられるのは三つ」
「三つも!?」
「うん。まずひとつ目」
鏡に向かったまま、真穂は指を一本立てた。
「ひとつめ?」
「真穂が守護についたことで、霊力がさらに覚醒したか」
「そうなの!?」
「まだ可能性よ。ふたつめは……火坑と恋人同士になったことで、霊力の質が変わった影響」
「火坑さんの?」
「キスくらい、あの日に済ませたでしょ?」
「な、ななな、なんで!?」
「なんでかは、この影響がその可能性大だからよ?」
「うう……」
よくも悪くも妖達には筒抜けなのは、今更ながら恥ずかしく思ってしまう。
正直にキスしたことを告げてから、真穂は最後の可能性を口にした。
「最後は。やっぱり、さっき美兎が見た夢を通じて、その妖が何かしたってことね?」
「それが一番可能性強くない!?」
火坑とキスをしたのも約二週間前なのに、今になって症状が出るのが不自然だ。が、真穂は首を横に振った。
「火坑との妖気が馴染んだ結果かもしれないわ。美兎の霊力は、前も言ったけど真穂達妖には美味しいんだもの。それくらい特別だから、時間がかかっても不思議じゃないでしょ? 真穂達が視えるようになったのも今年じゃない」
「……夢の人、ううん。妖さんは、すぐにわかるかもって言ってた」
「じゃあ、目以外の変化はないでしょ? しかも、鏡はなんであれ、真実を写す道具だもの。鏡を見るまでは反応がないようにさせてたかもだし」
時間も限られているから、急ごうと真穂に言われたので。
風呂場の鏡でも何度も見えた、自分の目の色は。
やはり、火坑とはまだ違う。綺麗なブルーアイになっていたのだった。