会うのは、着物デートで偶然会った以来か。
美兎はLIMEで紗凪とは時々連絡は取り合っていたが、会う機会がなかなか無かった。
美兎とは違い、飲食店のウェイトレスをしている紗凪の職場は。このご時世でも、それなりに繁盛しているらしく。
だが、美兎の個人的な主観としては。紗凪だけでなく、スタッフのほとんどが美形だからだと思う。紗凪自信もとても可愛いらしいが、少しネットで調べたら彼女のいる店のスタッフの写真がそうだったので。
一度行ってみようかとは思っているが、栄とは近所の伏見でもなかなか出先で寄る機会が無くて。ずるずると着物デートで偶然会った以降も、行けずにいたのだった。
紗凪は恋人である烏天狗の翠雨と一緒に楽庵に来て。
美兎と目が合えば、紗凪はこちらに来て美兎の手をぎゅっと掴んできた。
「この間ぶりだね!!」
「そうだね!」
「て言うか、本当にかきょーさんって猫さんだったんだ!!」
「ふふ。驚きましたか?」
「驚きました!! けど、声はまんま!!」
「紗凪、とりあえず落ち着け。今日はここの客になりに来たでござろうが」
「はーい」
翠雨に促されて、紗凪は美兎の左側の席に腰掛けた。
右には、座敷童子の真穂が腰掛けていたからだ。今日は本性の子供サイズである。
「元気ねぇ?」
「ね?」
「? 子供……じゃ、ないよね?」
「はじめまして? かしら。座敷童子の真穂よ、美兎の守護についているの」
「ざしきわらし?」
「んー。大人の姿にもなれるけど、こっちがほんと。家の妖怪とも呼ばれてて、憑いた家の幸運を導く存在ともされているわ」
あと、美兎の兄・海峰斗の彼女だとも告げれば、紗凪は可愛らしい目を丸くしたのだった。
「へー!? 美兎ちゃんのお兄さんも!?」
「色々あってね?」
「さ。先付けの卯の花和えです。市販のより甘さは控えめですよ?」
火坑が先付けの小鉢を二人に差し出してから、酒などの注文を聞いていく。翠雨は冷酒、紗凪は焼酎の梅干し入りのお湯割りだった。
「? ここってメニューないんだ?」
酒が来てから、紗凪は首をキョロキョロとさせたが。見つからないので、少し不思議そうでいた。
「基本、僕のお任せで出させていただいてますが。リクエストがあれば受け付けますよ?」
「へー? やっぱり和食?」
「そうですね。メインとなるのは、スッポンや季節のジビエ……猪肉とか鹿肉ですが。今日だとスッポンや鰻が出来ます」
「……スッポンって、どう言う料理が出来るんですかー?」
「僕のところだと、スープに脚肉の生姜醤和え、〆の雑炊ですね?」
「……んー? すーくん、美味しいの?」
「ああ。鶏肉のようで美味いでござる」
「じゃ、スッポン料理で!」
「かしこまりました」
ただ、スッポンの解体作業の時に、美兎は紗凪も直視出来ないと思っていたのだが。
「え、生きてる!?」
「ふふ。今から捌いていきます」
「目の前で見れるんだー!?」
と興味津々で。
美兎が顔を隠している間、紗凪が子供のようにはしゃぐ声が店内に響いていくのだった。