美味しい。
何もかもが全部美味し過ぎて。
田城真衣は初体験の波に揉まれてしまいそうだった。
同期で友人でもある湖沼美兎の彼氏である、猫のような人のような不思議な妖怪らしい火坑と言う料理人。
彼が手がけたもの全てが、人間の場で食べるもしくはそれ以上の美味揃いだったのだ。
今食べている猪を使ったカレーも。何度か行ったことがあるインドやネパール専門のカレー店とは一線を画していた。
日本人好みのカレー。しかも、ジビエを使った異色のカレー。
なのに、味わいは口の中で蕩けるようで。角煮同様にいくらでも食べれそうだ。
この合間に飲む、これまた自家製らしい梅酒のお湯割りもいい。度数がキツいはずなのに、ごくごくと飲めてしまいそうだった。
「美味し! もう、全部美味しいです!」
「ふふ、お粗末様です」
猫の顔なのに、実に人間らしい表情をする不思議な妖怪。
だから、美兎は彼に惚れたのだろうか。会社で美兎を狙う男達が知ったらどうなるか。真衣は美兎の友人なので、そんな馬鹿なことはしない。
何せ、真衣の彼氏になってくれた、火車の風吹との仲を取り持ってくれたのだから。むしろ、恩人に近い。
彼は、ここに来るのだろうか。
「ねぇ、美兎っち」
「んー?」
「不動さんってここ来るの?」
「うーん? 一度相談持ちかけられた時だけかな?」
「相談?」
「えっと……三田さんって清掃員のおじさんわかるよね?」
「うんうん」
「あのおじさんがサンタクロースさんで。相談に乗ってくれないかって頼まれたの」
「へ? サンタ??」
「実在してたのね?」
「ああ、あの御大かい? 本当だとも。日本にはまだいるようだが」
世間は狭い、狭過ぎる。
まさか、妖怪だけでなくサンタクロースまで実在しているだなんて。
頭の容量が越えてしまいそうだったが、まだ話は終わってないので続きを聞くことにした。
「で。真衣ちゃんに……ある意味一目惚れだったんだって」
「! ふふ……んふふ。そっかあ」
「幸せ者ねえ?」
風吹も一目惚れ。
真衣も一目惚れ。
こんな素敵な縁があっていいだろうか。
残ってたカレーを平らげていると、美兎が火坑の前に両手を差し出していたのだ。
「さて、今日はどうしましょうか?」
何を、と思っていると。
肉球のない手を美兎の手の上でぽんぽんと軽く叩き。
一瞬光ったかと思えば、何もなかった美兎の手に袋詰めの焼きそばのような麺が出てきた。
「な、なにそれ!?」
思わず立ち上がってしまったが、先輩の沓木は平常心でいた。
「ここの。特に人間の代金の支払い方法らしいわ。妖怪の栄養分になる、魂の欠片。文字通り、『心の欠片』だそうよ」
「……栄養分?」
「あなたも、妖怪とかが視えるようになったから、出来るんじゃない?」
「……食べ物がお代?」
「こちらでの換金法もきちんとありますので、赤字ではないんですよ?」
試しに、と真衣も同じようにしたら。
真衣の手の中に、何故か可愛らしいシャーペンが出てきて。もう一度叩かれると、小さめの半玉キャベツが出てきた。
あとで、沓木もすると。そちらはネギだった。
「……出てきた」
まさか、本当に出てくるとは思わなかった。
ちょっと触ってみると、たしかに本物の食材。
これをどうするかと思うと、なんと料理してくれるのだそうだ。
「そうですね……米を召し上がっていただきましたが。オム焼きそばとスッポンのスープでラーメン。どちらがよろしいでしょう?」
「悩みます!」
「いいねえ?」
「むー、どっちも濃いけど」
「ん〜〜……」
全員が悩みに悩んで。
結局、オム焼きそばになったのだった。
何もかもが全部美味し過ぎて。
田城真衣は初体験の波に揉まれてしまいそうだった。
同期で友人でもある湖沼美兎の彼氏である、猫のような人のような不思議な妖怪らしい火坑と言う料理人。
彼が手がけたもの全てが、人間の場で食べるもしくはそれ以上の美味揃いだったのだ。
今食べている猪を使ったカレーも。何度か行ったことがあるインドやネパール専門のカレー店とは一線を画していた。
日本人好みのカレー。しかも、ジビエを使った異色のカレー。
なのに、味わいは口の中で蕩けるようで。角煮同様にいくらでも食べれそうだ。
この合間に飲む、これまた自家製らしい梅酒のお湯割りもいい。度数がキツいはずなのに、ごくごくと飲めてしまいそうだった。
「美味し! もう、全部美味しいです!」
「ふふ、お粗末様です」
猫の顔なのに、実に人間らしい表情をする不思議な妖怪。
だから、美兎は彼に惚れたのだろうか。会社で美兎を狙う男達が知ったらどうなるか。真衣は美兎の友人なので、そんな馬鹿なことはしない。
何せ、真衣の彼氏になってくれた、火車の風吹との仲を取り持ってくれたのだから。むしろ、恩人に近い。
彼は、ここに来るのだろうか。
「ねぇ、美兎っち」
「んー?」
「不動さんってここ来るの?」
「うーん? 一度相談持ちかけられた時だけかな?」
「相談?」
「えっと……三田さんって清掃員のおじさんわかるよね?」
「うんうん」
「あのおじさんがサンタクロースさんで。相談に乗ってくれないかって頼まれたの」
「へ? サンタ??」
「実在してたのね?」
「ああ、あの御大かい? 本当だとも。日本にはまだいるようだが」
世間は狭い、狭過ぎる。
まさか、妖怪だけでなくサンタクロースまで実在しているだなんて。
頭の容量が越えてしまいそうだったが、まだ話は終わってないので続きを聞くことにした。
「で。真衣ちゃんに……ある意味一目惚れだったんだって」
「! ふふ……んふふ。そっかあ」
「幸せ者ねえ?」
風吹も一目惚れ。
真衣も一目惚れ。
こんな素敵な縁があっていいだろうか。
残ってたカレーを平らげていると、美兎が火坑の前に両手を差し出していたのだ。
「さて、今日はどうしましょうか?」
何を、と思っていると。
肉球のない手を美兎の手の上でぽんぽんと軽く叩き。
一瞬光ったかと思えば、何もなかった美兎の手に袋詰めの焼きそばのような麺が出てきた。
「な、なにそれ!?」
思わず立ち上がってしまったが、先輩の沓木は平常心でいた。
「ここの。特に人間の代金の支払い方法らしいわ。妖怪の栄養分になる、魂の欠片。文字通り、『心の欠片』だそうよ」
「……栄養分?」
「あなたも、妖怪とかが視えるようになったから、出来るんじゃない?」
「……食べ物がお代?」
「こちらでの換金法もきちんとありますので、赤字ではないんですよ?」
試しに、と真衣も同じようにしたら。
真衣の手の中に、何故か可愛らしいシャーペンが出てきて。もう一度叩かれると、小さめの半玉キャベツが出てきた。
あとで、沓木もすると。そちらはネギだった。
「……出てきた」
まさか、本当に出てくるとは思わなかった。
ちょっと触ってみると、たしかに本物の食材。
これをどうするかと思うと、なんと料理してくれるのだそうだ。
「そうですね……米を召し上がっていただきましたが。オム焼きそばとスッポンのスープでラーメン。どちらがよろしいでしょう?」
「悩みます!」
「いいねえ?」
「むー、どっちも濃いけど」
「ん〜〜……」
全員が悩みに悩んで。
結局、オム焼きそばになったのだった。