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教室に入ろうとしたところで、安曇とばったり出くわした。
安曇は目許にくまをつくっていた。コンシーラーで隠そうとしているようだったが、そのくまの青さは隠しきれていなかった。
「……どいてよ」
「寝不足?」
「トイレ」
どうにも会話が噛み合っていない。
道を空けると、安曇は「サンキュー」と呟いて廊下を歩いていったが、その足取りも覚束ないものだった。
教室に入り、安曇の席を見遣ると、机の上にはノートと参考書、それから栄養ドリンクの瓶が並んでいた。希帆さんが見たら、きっと『体調管理、大事!』と叱るだろうな。
自席に向かいながら、周囲を見渡す。
「やべえ、結局全然勉強できてねー」
「私も一夜漬けー。超眠い……」
「この公式、絶対出るよな」
「あー、先生めっちゃ言ってたもんね」
テストに臨む態度も、準備も人それぞれだ。
単語帳を見ながら呟いていたり、ノートを見返していたり、勉強してませんよアピールに余念がなかったり、どこがテストに出るか予想しあっていたり、諦めの境地に至ったのか窓から空を見ていたり。
私がどうするかは決まっている。
自席に着き、スマホを取り出す。
『アイスト』を起動し、もう何度も見返したイベントをまた再生する。
深夜、独り机に向かうレネ。
『何で私、こんなにできないんだろう』と涙ぐむが、レネはペンを手放さない。
『努力が足りないからだ。だってみんなはちゃんとできてるんだもの』と、レネは泣きながら机にかじりつく。
この後のイベントでは、テストに受かり喜ぶ姿も見ることができる。
でも私はこのシーンばかりを再生している。
報われる保証も持たず、自分の無力は嘆いても他人のせいにせず、涙を流しながらも頭を働かせるその姿が、私に力をくれる。
……よし。
今から私は、臆病な自尊心と、尊大な羞恥心、その全てを懸けてテストに臨む。
それでも精神状態は普段と同じ。
いつも通りに机に向かう。
八時半のチャイムが鳴り、青木先生が教室に入ってくる。
先生は、一時間目のテスト用紙を既に脇に抱えている。
十分のホームルームの後、いよいよ期末テストが始まる。
教室に入ろうとしたところで、安曇とばったり出くわした。
安曇は目許にくまをつくっていた。コンシーラーで隠そうとしているようだったが、そのくまの青さは隠しきれていなかった。
「……どいてよ」
「寝不足?」
「トイレ」
どうにも会話が噛み合っていない。
道を空けると、安曇は「サンキュー」と呟いて廊下を歩いていったが、その足取りも覚束ないものだった。
教室に入り、安曇の席を見遣ると、机の上にはノートと参考書、それから栄養ドリンクの瓶が並んでいた。希帆さんが見たら、きっと『体調管理、大事!』と叱るだろうな。
自席に向かいながら、周囲を見渡す。
「やべえ、結局全然勉強できてねー」
「私も一夜漬けー。超眠い……」
「この公式、絶対出るよな」
「あー、先生めっちゃ言ってたもんね」
テストに臨む態度も、準備も人それぞれだ。
単語帳を見ながら呟いていたり、ノートを見返していたり、勉強してませんよアピールに余念がなかったり、どこがテストに出るか予想しあっていたり、諦めの境地に至ったのか窓から空を見ていたり。
私がどうするかは決まっている。
自席に着き、スマホを取り出す。
『アイスト』を起動し、もう何度も見返したイベントをまた再生する。
深夜、独り机に向かうレネ。
『何で私、こんなにできないんだろう』と涙ぐむが、レネはペンを手放さない。
『努力が足りないからだ。だってみんなはちゃんとできてるんだもの』と、レネは泣きながら机にかじりつく。
この後のイベントでは、テストに受かり喜ぶ姿も見ることができる。
でも私はこのシーンばかりを再生している。
報われる保証も持たず、自分の無力は嘆いても他人のせいにせず、涙を流しながらも頭を働かせるその姿が、私に力をくれる。
……よし。
今から私は、臆病な自尊心と、尊大な羞恥心、その全てを懸けてテストに臨む。
それでも精神状態は普段と同じ。
いつも通りに机に向かう。
八時半のチャイムが鳴り、青木先生が教室に入ってくる。
先生は、一時間目のテスト用紙を既に脇に抱えている。
十分のホームルームの後、いよいよ期末テストが始まる。