保健室を出た足で、そのまま少しグラウンドの周りを散歩してみる。少し暑さが和らいで、すり抜けていく風が心地いい。まだ試合が行われているグラウンドからは歓声が聞こえてきて、青春を一心に吸収しているみたいだ。

大きく深呼吸をして何となく辺りを見回せば、少し離れたところにジャージ姿の女の子が立っているのが見える。首にかけているのはストップウォッチで、マネージャーの子だろうか。さっき話したのとは違う子だ。
そのまま通りすぎようとしたけど、彼女が静かに目元を拭っているのが見えて。

「・・・これ、よかったら。」

ハンカチを差し出せば、彼女は少し驚きながらもペコリと頭を下げてハンカチを受け取る。その目はやっぱり赤くなっていて、大きな瞳からは絶えず涙が溢れていた。

「・・・ずっと、憧れてたんです。」

小さな声で話し出した彼女の視線はグラウンドに向かっている。

「でもやっぱり駄目でした。そんなの言う前から分かってたけど、実際言われるとキツイです。」

自虐的に笑って、でもその目からは更に涙がこぼれる。静かに彼女の背中をさすれば、その顔は徐々に歪んで。

「あーー、もう。本当に好きだったのになあ。」

そう言って泣きながら笑う。その声が、その言葉が切なすぎて私は彼女の背中をさすり続ける事しかできなかった。彼女の事は何にも知らない。何年生かも分からない。彼女の好きな人の事なんてもっと知らない。でも、2人とも幸せになりますように、そう心の底から願った。



「まさか本気で迷うとは思わなかったわ。」
「だから迷ってたわけじゃないんだって。」
「そんな恥ずかしがらなくていいんだよ、秋山ならあり得るから。」
「1ミリも恥ずかしがってないですからね、さっきの私の説明聞いてましたかね春原くん。」
「あんたはおせっかいすぎるのよ。」

そう言ってさっちゃんがため息をつく。返す言葉もございません。
2人がいる場所に戻る頃には引退試合は終盤に差し掛かっていた。最後の一試合。塚田くんが一生懸命走り回って、パスを出す。そのパスを受け取ったのはたけのこみたいに尖った髪型をした男の子で、満面の笑みで走り回っていた。

「・・・いいなあ。」
「ん?」

何か言った?と不思議そうな顔をするさっちゃんに小さく首を振る。

・・・部活が全てだとは思わない。運動部が良いとか文化部が駄目だとか、そんなことを考えたことも一度もない。ただただ、頑張ってる人はとてもかっこいい。何か目標に向かって、憧れに向かって頑張っている人はとてもキラキラしている。そのキラキラを私は今日いくつも目にした。

声を枯らして応援する保護者の姿も、あがる黄色い歓声も、土にまみれたユニフォームも、汗も、照り付ける日差しもキンキンに冷えたスポーツドリンクも選手の涙も、全てが眩しくて、かけがえのない時間だ。

それぞれの憧れを抱きしめて、
きっとこれからも進んでく。