まっすぐに俺を見て、尾崎は続ける。
「そういうわけで、ウチ、しばらく園芸部に来れんかもしれんけえ、ハルちゃんと一緒におってあげて」
「え?」
川内?
「あの子、ほっといたらイジメられるかもしれんけえ。ウチのこと、庇ったことがあるんよね。それで先輩に目を付けられとる」
庇ったことがある?
先輩に目を付けられている?
それで、イジメられるかもしれない?
川内の姿を思い浮かべてみる。けれど、どうもそういうものと結びつかない。
たとえば、相手がクラスメートとかなら、気に入らないという理由で無視されたり、ということはあるかもしれない。川内は大人しいし、俯きがちだし、おどおどしすぎだから、悲しいかな、イジメの標的になるかもしれない、という気はする。
幸い、今は気の強い尾崎がべったりとくっついているし、うちのクラスは全体的にのほほんとした雰囲気だから、その心配はなさそうだ。
けれど、尾崎は先輩からのイジメを心配している。
「なにをやらかして目を付けられとるん?」
なので、そう訊いてみた。
「二年になってすぐなんじゃけど、ウチらの教室の階のトイレね、全部埋まっとって」
「はあ?」
いきなり話がすっ飛んだ気がする。なんでここでトイレ?
「それで、三年の階のトイレに行ったんよね。そしたら、中で捕まって。『ウチらの階のトイレ使いんさんな』って」
「……いや……ちょっとよく……」
なぜ三年の階のトイレを使ってはいけないんだ? 意味がわからない。
俺の言葉にクスクスと笑いながら尾崎は続ける。
「なんか、女子の間では、なんとなく決まっとるんよね。他の階のトイレ使っちゃいけんって。でもウチ、我慢できんくてさあ」
「……はあ」
「おまけに髪とか染めとるけえ、『生意気』じゃって言われて、囲まれて」
怖い。
のんびりした高校だと思っていたのに、そんなことがあるなんて。
「ほいでハルちゃんは、ウチが別の階のトイレに行こうとしよるのを見とったらしくて、心配になって付いてきたんと」
たぶん尾崎は、「わー、トイレ空いてなーい! 下行こー!」とか大げさに騒ぎながら移動したのではないだろうか。簡単に、想像できる。
それを見た川内が、心配になって、後をそっとついていった。それも、なんとなく、想像できる。
そしてなかなか出てこないことに不安になった川内が、中を覗き込むと。
尾崎が三年の先輩たちに囲まれていた。
「あんな小さくて、大きな声も出せんような子がね、ブルブル震えながら、『先生呼びますよ!』って」
くすくす笑いながら尾崎が言う。
「ほいで、すれ違いざまに先輩らが、『覚えときんさいよ』って言ったんよ。じゃけえ、ウチ、ずっとハルちゃんと一緒におったんよね。なんか申し訳ないじゃん?」
それで、系統がまったく違う二人が、ずっと一緒にいるようになったのか。
尾崎は部活まで付き合って、園芸部員になったのか。サボテンを枯らしたような女の子が。
「そんな経緯があったんか」
「そう。ハルちゃんは最初は遠慮しとったけど、まあなんか、ウチもあの子の傍は居心地がええんよね。ハルちゃんはどうかわからんけど」
そう言って、尾崎は肩をすくめる。
「いや」
だから、俺は言う。
「川内も、尾崎の隣が居心地がいいみたいに、見える」
俺の言葉に、何度か目を瞬かせた尾崎は。
口を笑みの形にして、そして小さく「うん、ありがとね」と言った。
「そういうわけで、ウチ、しばらく園芸部に来れんかもしれんけえ、ハルちゃんと一緒におってあげて」
「え?」
川内?
「あの子、ほっといたらイジメられるかもしれんけえ。ウチのこと、庇ったことがあるんよね。それで先輩に目を付けられとる」
庇ったことがある?
先輩に目を付けられている?
それで、イジメられるかもしれない?
川内の姿を思い浮かべてみる。けれど、どうもそういうものと結びつかない。
たとえば、相手がクラスメートとかなら、気に入らないという理由で無視されたり、ということはあるかもしれない。川内は大人しいし、俯きがちだし、おどおどしすぎだから、悲しいかな、イジメの標的になるかもしれない、という気はする。
幸い、今は気の強い尾崎がべったりとくっついているし、うちのクラスは全体的にのほほんとした雰囲気だから、その心配はなさそうだ。
けれど、尾崎は先輩からのイジメを心配している。
「なにをやらかして目を付けられとるん?」
なので、そう訊いてみた。
「二年になってすぐなんじゃけど、ウチらの教室の階のトイレね、全部埋まっとって」
「はあ?」
いきなり話がすっ飛んだ気がする。なんでここでトイレ?
「それで、三年の階のトイレに行ったんよね。そしたら、中で捕まって。『ウチらの階のトイレ使いんさんな』って」
「……いや……ちょっとよく……」
なぜ三年の階のトイレを使ってはいけないんだ? 意味がわからない。
俺の言葉にクスクスと笑いながら尾崎は続ける。
「なんか、女子の間では、なんとなく決まっとるんよね。他の階のトイレ使っちゃいけんって。でもウチ、我慢できんくてさあ」
「……はあ」
「おまけに髪とか染めとるけえ、『生意気』じゃって言われて、囲まれて」
怖い。
のんびりした高校だと思っていたのに、そんなことがあるなんて。
「ほいでハルちゃんは、ウチが別の階のトイレに行こうとしよるのを見とったらしくて、心配になって付いてきたんと」
たぶん尾崎は、「わー、トイレ空いてなーい! 下行こー!」とか大げさに騒ぎながら移動したのではないだろうか。簡単に、想像できる。
それを見た川内が、心配になって、後をそっとついていった。それも、なんとなく、想像できる。
そしてなかなか出てこないことに不安になった川内が、中を覗き込むと。
尾崎が三年の先輩たちに囲まれていた。
「あんな小さくて、大きな声も出せんような子がね、ブルブル震えながら、『先生呼びますよ!』って」
くすくす笑いながら尾崎が言う。
「ほいで、すれ違いざまに先輩らが、『覚えときんさいよ』って言ったんよ。じゃけえ、ウチ、ずっとハルちゃんと一緒におったんよね。なんか申し訳ないじゃん?」
それで、系統がまったく違う二人が、ずっと一緒にいるようになったのか。
尾崎は部活まで付き合って、園芸部員になったのか。サボテンを枯らしたような女の子が。
「そんな経緯があったんか」
「そう。ハルちゃんは最初は遠慮しとったけど、まあなんか、ウチもあの子の傍は居心地がええんよね。ハルちゃんはどうかわからんけど」
そう言って、尾崎は肩をすくめる。
「いや」
だから、俺は言う。
「川内も、尾崎の隣が居心地がいいみたいに、見える」
俺の言葉に、何度か目を瞬かせた尾崎は。
口を笑みの形にして、そして小さく「うん、ありがとね」と言った。