アースラは横にあった記録メモを確認する。

「ああ、『屋上』としか書いてないけど」
「誰が拾ってくれたのかは分かりますか?」
「さあ、私が預かったわけではないから分からないわね。届けた人の名前は特に聞かないし」
「そう……ですか」

その人にも読まれてしまっただろうか? 
まあ拾ったら普通は中を見るよな。

誰が見てしまったのだろう。
それを考えていたらまた恥ずかしくなってきた。

ハアッと大きなため息をつきながらパラパラとノートをめくる。
そこで僕は思わず手が止まる。

物語の最終ページのあとに見慣れない字でメッセージが書かれていたのだ。


        ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


   勝手に中を見て読んでしまったことを先に謝ります。
   ごめんなさい


何だ、これ? 
僕が書いたんじゃない。


それは丁寧だが、とても遠慮がちに小さな文字で書かれていた。
その筆跡から書いた人の控えめな性格が見てとれる。
どうやらこの人に僕の小説(はなし)を読まれてしまったようだ。


         ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


   これはあなたが書いたものでしょうか。とても感動しました。
   ヒロインが死んでしまうシーンは思わず泣いてしまいました。
   でも彼女はきっと幸せだったと思います。
   読んだあと、とても暖かい気持ちになれました。
   表現が下手でうまく書けないんですが、この物語に出逢えてよかったで   す。ありがとうございました。



僕は何とも言えない思いだった。
恥ずかしい気持ち。
嬉しい気持ち。

僕の心はいろいろな気持ちが交錯する複雑な状態になった。
なんと言っても僕にとっての初めての読者だ。

いったい誰なんだろうか? 

名前は書かれていなかった。
ただ、名前の替わりかとうかは分からないが、文章の最後に可愛いらしいペンギンのイラストが描かれていた。

この人はペンギンが好きなのだろうか?

僕の話を読んで感動してくれた。

人に感動してもらえることがこんなに嬉しいなんて……僕は物語を創る楽しさを改めて感じていた。

僕は心は舞い上がった。
僕は居ても立っても居られなくなり、そのメッセージのあとに夢中で返事を書いた。