誰しも叶えたい夢を持っている。叶えたい
からこそ、友達や家族に言って力になってほ
しいと思う。叶えたいという思いの裏腹に、
本当になれるのかと疑問に思う。私が意を決
して言った夢を友達や家族には、言葉に表さ
なくても目だけで分かった。
お前にはなれねぇよと。
そんなことわかっている。
……でもやっぱり、自分の夢は簡単に人に
話してはいけないのだ。
わかるはずがない。私の気持ちなんて。夢
はやはり自分のために胸に隠して、現実を見
よう。夢なんて、叶う訳ないんだから。
ただの夢だから。
夢を叶えたいと幼い頃から思っていた私は
中学生の頃から現実をきちんと見るようにな
った。
その頃からだったかもしれない。本当に叶
えたい夢をきちんと叶えたいという思いが湧
いてこなくなったのは。
空が変わりなく動いていて、周囲の人は私
以外悩みのない人に、あの頃は見えていた。
でも、あの人はもっと悩みのない人に見え
た。外見と内面は違うことに就活生の私は見
えていなかった。
「はあ―、もう嫌!」
「どうした? 陽琉(はる)」
私達は、山岡大学文学部四年生の就活生で
ある。私に心配そうに声を掛けてきたのが、
大学の友達夏帆(かほ)。つまらない長い講義
を終えて、休憩室で話をしていた。
夏帆は、しっかり者で大学一年生から交際
中の彼氏とは上手くいっていて、大手企業の
会社に就職出来たらしい。だが、私はあらゆ
る会社を受けても受からない。
何故なのだ、この差は何なのだ。
私は夏帆を見て、私の外見を客観視した。
「これじゃ受からないよな」
私は夏帆を無視して、独り言を呟いた。夏
帆の服装は、紺のスカ―トに白い長袖であっ
たが、なにかも透き通っていて、何も隠すこ
とがないような印象を受けた。
そこから、根本的に違うんだ。見た目。
服装によって印象は、違くなるから、着て
みなと勧められたことがある。だが勧められ
るとそうかなと納得してしまい、着てしまう
のが人間。そしてがっかりするのだ、自分に。
私は、ブスでも美人でもない。
どこにでもいる普通の女性の外見だ。
見た目は面接に左右する。スーツをピシッ
と着ても顔と経験が優先される気がして脇汗
と焦りが止まらない。
「大丈夫? 陽琉?」
私は我に返って、夏帆を見た。私は呆然と
立っていたのだ。
「……あ、うん。大丈夫。なんか疲れてるみ
たい。さっき帰るね、じゃあ」
夏帆は、苦笑いを浮かべてじゃあと私に言
った。夏帆と別れた後、私はバスに乗るため
に数分歩いた所にあるバス停に向かい、歩い
た。
何も考えたくなかった。
この頃、会社の面接ばかりやっているせい
かなんか頭が働かないし、内定ゼロという現
実を見たくなかった。
太陽が照らす中、バスを降り家に帰った。
すると、私が玄関を開けると、母親の声が
家中に響いた。
「陽琉? 帰ってきたの?」
母親は、リビングでくつろぎながら、私に
聞いてきた。
「帰ったけど」
私はそう言い、靴を脱いで綺麗に揃えた後、
リビングに向かった。
「なに?」
母親は、テレビを見ながら私に言った。
「あなたからきてたわよ」
母親はそう言い人差し指で指した方向はテ
ーブルであった。テ―ブルには一通の封筒が
置かれていた。その封筒を手に取ると、私が
こないだ受けたばかりのA会社であった。
A会社の面接は、別に受けるつもりなんて
なかった。
でも、就活生だけの説明会に行った時に、
実際働いている人に話を聞いた際、私なら続
けられる仕事であった。
また文具用品を扱っていることから少しだ
け私は関心があったので受けてみた。
本当に、最終面接まで受かると思わなかっ
た。私は、面接官を見ていたけど、面接官の
目は怖かった。
面接で言うことは大体私の頭の中で決まっ
ていて、自分が思っていることと反対に適当
な言葉を並べて言おうとしていた。
そう決めていたのに、あの面接会場へ行く
と空気が一変していた。気持ちに負けてしま
うほどの圧力を感じる。事前に考えてきた言
葉は頭から抜けて、私は思ったことをはっき
り言った。
私が言ったのは、この会社には最初受ける
つもりなんてなかったけど、関心を持ってい
る仕事内容であったため受けましたと。
内容的にはいいとは思うが、面接官の目は
そんな甘くないぞと言っているように感じて
本当のことを言うのではなかったと思い、反
省していたのだ。
そんなことよりも私は最終面接に残った。
それだけで私は希望を持ってた気がした。
最終面接は、明後日。
よし、頑張るかと私に言いきかせて、この
日は部屋に戻り、明後日の最終面接の準備を
し始めた。
一通の封筒が来てから、二日が経った。
今日がA面接の最終面接。今まで頑張って
きたことを今日全部やってきたことを吐き出
す。
部屋でス―ツを着て、鏡で私の姿を見て、
よしと襟を揃えて部屋を出た。
階段を降りて、玄関で靴を履き家に出よう
としたが、母親が私に声をかけてきた。
「頑張ってらっしゃい!」
母親は、私に行ってらっしゃいと言い、私
の手にのど飴を渡した。
「……なんでのど飴なのいつも」
母親は、なにかあればのど飴を私に渡して
くる。
「いいじゃない……別に」
私はため息をつき、仕方なくのど飴をカバ
ンにしまい、母親に行ってきますと言い、外
に出た。外に出て歩き始めたらカバンの中か
ら前にきた一通の封筒があるかを確認した。
そして、近くにあるバス停まで歩きながら、
一通の封筒の中身を見ていた。
すると、私は目を疑った。面接室で十時に
面接ですと書かれていた。
はい? え、ちょっと待ってよ、落ち着け
私。震える右手を左手で押さえて、左手首に
あった時計を見た。
今は、十時。
あれ? 十一時半じゃなかったっけ? も
う一回、封筒を確認した。
何回見ても、十時であった。だが、遅刻を
しているがまだ間に合うかもしれないとその
時の私は思った。
私自身もよく分からないが、A会社に行け
ばなんとかなると思ったのだ。
封筒をグチャグチャになりながらも無理や
りカバンに入れた。
早足で近くにあるバス停に向かい、もう結
果は決まっているのにA会社に向かった。
A会社に着くと、受付嬢に今日の十時の面
接にきた者ですが、面接は終わりましたでし
ょうかと聞いた。
すると、受付嬢は
「面接は、先ほど終わりました」
受付嬢は、ニコリともせずに私に言った。
不合格と分かり切っているのになんでバス
を乗り継ぎダッシュできたのだろう? と私
の行動に今更後悔していた。
受付嬢は、淡々と私に言っていたようだっ
たが、馬鹿にされている気がした。
私なりの仕事をきちんとやっているのに、
あなたは面接に遅刻して……ちゃんとしなさ
いと受付嬢に言われているような顔つきであ
った。
受付嬢に礼を言い、トボトボ歩き始めた。
下に俯いたら何度も面接に行っているせい
かヒ―ルが汚くなっていた。
下なんて見てなかった。下なんて見る暇な
んてなかった。でも、こんな汚いヒールを履
いていたら、受かるはずもない。
私はA会社を出た。
雲はひとつもなく、私の気持ちなんて関係
なく外は晴れていた。
真っ直ぐに家に帰りたくなかった。帰った
って、母親が無理に笑った表情や静かな家に
ある変な空気。見えない表情や空気は、私に
とっては辛い。
近くにあるバス停に乗らないで、何処に行
くあてもないが誰もいなく、広いところに行
きたくて、ひたすら歩いて探していた。
何時間経っただろうか。誰もいなくて、広
い草原が見えてきた。都会なのに草原がある
のは珍しいと思った。人工的に作られたのか
と思えたが、その場所は、近くには川があっ
て子供達が遊べるような公園もあった。ここ
は日本と疑うほどの広い草原であった。
「なに、ここ」
私はひとり呟いた。
私はこんな広い草原を見たことなかった。
そんなことを思っていたら、遠いところか
ら声が聞こえた。
「ピヨ、ピヨ、ピヨ」
「え? 誰!」
私はその声を辿り、歩き始めた。草をかき
分けて、その声の主を探した。
すると、声の主が現れた。
「ピヨ、ピヨ、ピヨ」
「あの―何してるんですか?」
声の主は、私を見て驚いていた。
「え? 誰?」
こっちが誰だよ!
「あの―、なにか探しているんですか? 声
が聞こえたので……」
声の主は目から涙を浮かべて私に言った。
「そう、ピヨちゃんがいなくなったんだ。俺
の大事なネコちゃんが」
人間じゃなくてネコかいと言いたくなった。
「あ、そうでしたか。どこにいるんでしょう
ね?」
「あなたも探してくれる? 俺のために」
私の手を掴み、声の主は輝いた目で私を見
たので断ることも出来なかった。
「……あ、はい」
私は声の主に言った。声の主曰く、毛がフ
ワフワで目が丸くて、小さくてかわいい白い
ネコだそう。そんな大ざっぱの説明でわかる
はずがない。
「ピヨ、ピヨ、ピヨ」
探しているネコは、ピヨという名前らしい
ので私もピヨと呼び、探した。
「ピヨ、ピヨ、ピヨ」
声の主は、ピヨどこへ行ったんだと叫んで
いた時だった。
ニャ―という声が遠くから聞こえた。
声の主は、その声が聞こえないのか、まだ
ピヨ―と呼んでいる。ニャ―、ニャ―、ニャ
―という猫の声が近くでした。
ガサガサと草原をかき分けて、ピヨの方へ
向かった。
「ピヨ――」
私が呼んだら、ニャーと私に甘えるような
声が近くで聞こえたので、周囲を見渡したら
私の足元にネコがいた。
「ピヨ?」
ネコは、ニャーと言い、私の足元をスリス
リしてきた。ピヨと確認したので、そのネコ
を確保した。
「……捕らえた!」
「ピヨ、見つけました―!」
遠くにいた声の主に私は言った。声の主は、
うれしそうに私に叫んだ。
「本当だ―ピヨ――!」
声の主は、私の方に急いで走ってきて、私
の手にあったピヨを声の主に渡した。
「ピヨ! どこに行ってたんだよ――」
声の主は顔や服が汚くなっていて、もう泥
まみれだ。子どもみたいに手も足も汚れてい
た。
「……やっと見つけた!」
声の主は、嬉しそうにピヨを抱き上げてい
た。
「……はあ、もう探したんだぞ」
ピヨに顔を近づけて、声の主はよしよしし
ていた。
「ありがとうございます。本当に助かりまし
た」
「いえいえ、此方こそ」
声の主は、本当にありがとうございますと
頭を下げた。
「…あの名前は?」
「…小松陽琉です」
「さっきは、ありがとうございます。俺は、
松岡陽和(まつおかひより)です」
「ネコ見つかって、良かったですね」
私は、ネコの話の話題に変えた。
「はい。本当にありがとうございます。あ、
そうだ。お礼に俺の家に来ませんか?」
「いや、ただ私はネコを探しただけですから」
松岡陽和という男は、私に強い眼差しを向
けてきた。
彼はカジュアルスタイルの服装。金髪で目
が小さく、細マッチョ。身長は約一八〇㎝で
あろうか。年齢は、三十歳くらいかな。
本物の外国人がいるように思えた。こんな
イケメン今まで見たことがない。
「いや、是非家に来てください」
だから、私そんな気分じゃないし。
「いやいや、申し訳ないですから」
いや来てくださいと彼は強い口調で言って
きたので私は断ることができなかった。
「い、いえ、あ、あ、はい。分かりました」
「よし、行こうぜ!」
彼は私の右手を掴み、左手にはピヨを持っ
て歩き始めた。
「どこに住んでいるんですか?」
「歩いてすぐのところだよ」
彼はピヨもうすぐ着くから待ってろよと言
って、私に話しかけてきた。
「え―と、陽流さんだっけ?」
彼は、私の脚から顔まで全身を見渡して言
った。
な、そんな見ないでよ。
私は顔を赤らませながら俯いていた。
「就活生?」
「は、はい」
「ス―ツ、俺のせいで汚くなったな。悪い」
私は自分の全身を見た。
今まで分からなかったが、脚には土がつい
ていて、ス―ツにも草があちこちに付いてい
て汚れていた。
「あ、大丈夫です」
私は脚やス―ツを手ではらった。
「良ければ、俺の服を貸しますけど……?」
「いえ、悪いです」
「でも、そのスーツで歩くの?」
う、図星だ。
彼に苦笑いを浮かべた。
「……図星でしょ。着いたら、服貸すから」
そう言った後、私を構わずにピヨと会話を
していた。
「着いたよ。この家だ」
その家は古本屋と書かれていて、古ぼけた
看板が掲げられていた。その看板の下には、
何かが書かれているが字が薄くなっていてな
んて書いてるのか分からなかった。
外観は、何年前に建てたのだろうか。看板
や玄関などがボロボロであった。
「古本屋?」
彼はピヨを左手で持ちながらドアを鍵で開
けて言った。
「そうだよ、俺の家。仕事は、古本屋やって
んだよ」
ガチャとドアを開けると、微妙に埃っぽい
匂いがした。
ちらっと古本の棚を見ると
近代文学、漫画、学術書、写真集、小説等
のある特定のテ―マに沿ってそろえていた。
様々なニ―ズで揃えられていて、価値のあ
る本もあるように見えた。
本がたくさん並べてあり、会計スペースや
自由に本が読めるようにテーブルがいくつか
あった。
店の中は綺麗に本が並べられていて、ネコ
の写真がいくつか壁に貼られていた。
まさに古本屋であった。
「入って。ピヨはおとなしくこれ食べてな」
彼がポケットに持っていたと思われるえさ
をピヨに食べさせていた。
「陽琉さんは、そこに座って、待ってて」
彼は私に言い靴を脱ぎ、居間があると思わ
れる所へ行ってしまった。
「あ、はい」
左手でスカ―トをめくりあげて椅子に恐る
恐る座った。
キョロキョロと周りを見渡して、テ―ブル
にはネコのグッズが沢山あった。