そして美術部に入るのもあっさり決めた。
 元々絵を描くのが好きだったし、重色高校の美術部は割と真面目な活動をしているようだった。
 部の活動もコンスタントにあって、デッサンやクロッキーなどという基礎的な練習も多い。技術を学ぶのも大事なことなのだ。好きな絵ばかりを描いているわけにはいかない。
 技術がなければ表現したいこともうまくできない。だから基本を学ぶのはとても大事なことなのだった。
 小学校では図画工作の時間が好きだったし、その中でも工作よりは絵のほうが好きだと思っていた。
 中学校でも美術部に入った。そこで浅葱の絵の基盤ができたのだと思う。
 少しずつ技術を習っていくのは楽しかった。小学校で図工の時間に思うがままに描いているのも楽しかったけれど、もっとうまく表現できるようになっていくのだ。楽しいに決まっていた。
 ちなみにイラストはあまり得意ではない。漫画も読むのは好きなので興味はあった。けれど描いてみたときあまり向いていないようだと思った。
 かわいい女の子を描いたりするのは楽しい。けれど漫画にするためにストーリーを考えるのは自分のやりたいこととはちょっと違うと思ってしまった。
 それよりは純粋にモノや風景を描きたい。それもじっくりと。そう思って、中学校の後半あたりからはイラストはほとんど描かなくなっていた。
 やりたいのはあくまで絵画。油絵やアクリル絵の具を使うポスターや……あるいは色鉛筆など。ちょっと固いといわれてしまうこともあるようなもの。
 画材に特にこだわりはなかった。どれを使ってもそれぞれ楽しい。
 油絵の、上へ上へと色を重ねてこってりと塗っていくのも楽しい。
 アクリル絵の具の、ぱきっと場所を分けてマットに、平面で表現するのも楽しい。
 或いは色鉛筆。様々な色を少しずつ塗っていって、その重なりで微妙なニュアンスを出していくのも楽しい。
 そういうふうに新しい画材や描き方を知っていって、絵画の世界が広がっていくことを浅葱はとても楽しんでいた。
 重色高校に入ってからは高校生ということでより専門的なことも教えてもらえるようになって、部活動がとても楽しくなっていた。
 現在、夏休みも明けてしばらくした秋。ここまで先生や先輩から色々と教わって、世界はどんどん広がっていくところ。一枚絵が仕上がるたびに自分の上達を感じられてその度に感動してしまうのだった。
 勿論重色高校で楽しんでいるのは部活動と絵だけではなかった。
 学校生活も楽しい。中学校から一緒だった親友の綾とは今も同じクラスで、毎日のようにお喋りしたりお弁当を食べたり、休日は遊びに行ったりしていたし、それ以外にも高校で知り合った友達もたくさん。
 浅葱はクラスの中心的存在なんてものではなかったけれど、少なくとも暗い性格ではない。派手でも地味でもない普通の女子生徒なのだった。
 現在はいじめなどもない平和な学園生活が続いていた。絵に集中して楽しめてしまうくらいには。