Weathering With You ~After Story~

帆高:(違う。やっぱり違う。あの時僕は…。僕達は確かに世界を変えたんだ。)
帆高:(僕は選んだんだ。あの人を、この世界を、ここで生きていくことを。)
帆高:陽菜さん!
陽菜:帆高!
(陽菜が帆高に飛びかかり、それを帆高は優しく受け止め、抱きかかえる)
陽菜:帆高っ、どうしたの?大丈夫?
帆高:…。陽菜さん、僕たちは、きっと、大丈夫だ。

陽菜:??。大丈夫なんだ。よかった。んーさては、三年ぶりに私に会えて嬉しかったんだね?
帆高:う…うん。陽菜さんがこうして暮らしている世界を選んだことは間違ってなかったんだと思えて…。
陽菜:んー君ぃ、大げさ過ぎる。そしてメソメソしない!
帆高:ご、ごめん。でも俺、ずっと考えてたんだ。雨が止まなくなった東京で陽菜さんがどんな風に暮らしているんだろうって。
陽菜:あ、そっか。あの当時私スマホ持ってなくて、帆高には連絡先教えてなかったもんね。
陽菜:心配かけちゃってごめんね。でも今は大丈夫。(ごそごそ)、これ私のスマホ。後で番号教えてあげるね。
帆高:…そうなんだ。ありがとう。
陽菜:あ、そうそう。何でこの坂の上に立って祈りのポーズしてたかわかる?
帆高:…え?
陽菜:あれね。さっき須賀さんから電話で連絡が有って、ああすると帆高が喜ぶよって。
帆高:…。
陽菜:さすが、須賀さん。同じ元家出少年だけあって、帆高が喜ぶポイントきっちり抑えてる。
帆高:…。
陽菜:んーなんか、顔しかめちゃって…。私、帆高を迎えに来てあげたんだよ。
帆高:…あ、ありがとう。陽菜さん。
陽菜:ちゃんとお礼を言える子になったね。えらい。
帆高:…。俺の方が陽菜さんより年上だぞ…。
陽菜:帆高は凪の『後輩』なんだから、私の方がお姉さん。それは譲れない。
帆高:…。わかったよ。
陽菜:よろしい。(ニッコリ)
帆高:…。
陽菜:そうそう。須賀さんから聞いていると思うけど、私の家、夏美さんが来てくれて保護者やってくれてます。
陽菜:おかげでこうして高校も行けてるし、凪とも離れなくて済んだし。
陽菜:ともかく、そんなわが家に、帆高を今からご招待!

(二人は陽菜の家に徒歩で向かう)
陽菜:なんか雨強くなって来たね。
帆高:陽菜さん、傘持ってないの?
陽菜:それって私が貧乏だから持っていないってこと?
帆高:えぇっ?そんな意味で言ってるわけないじゃん。
陽菜:ちゃんと折りたたみ傘有るよ。ほら。
帆高:言ってる間に濡れちゃうから、俺の傘に入りなよ。
(陽菜は帆高の傘の下に入る)
陽菜:うーん。もうすぐ家着いちゃうし、濡れた傘乾かすのも面倒よね。
陽菜:このまま家まで帆高の傘に入ってていい?帆高?
帆高:いいよ。
帆高:(経緯はともかく、陽菜さんとの相合傘は正直嬉しいな)

陽菜:帆高ぁ。今日須賀さんの事務所に行ったって聞いてるけど、夏美さんには会った?
帆高:取材で出張ってたみたいで、今日は会えなかった。
陽菜:じゃあ、今日はうちで夕食食べて行ってよ。そこで感動の再会だね♪
帆高:ありがとう。お言葉に甘えて…。
陽菜:お家到ちゃーく!どうぞ入って。
帆高:おじゃましまーす。
帆高:あ、これお土産。
陽菜:なになに…。お、美味しそうなショートケーキ。
帆高:ここに初めて来た時にショートケーキをお土産にしたのを覚えてるかな。
帆高:陽菜さん、あの時すっごく美味しそうに食べてたなって思い出したんだ。
帆高:流石にまたローソンのじゃあって、ここに向かう途中にルミネで買って来た。
帆高:(ルミネに行ったのは、須賀さんの新オフィスと近いのもある…。)
帆高:(でも、それだけじゃない。あそこで買ったこの指輪を渡すので頭が一杯だったから、他に思い浮かばなかった…)。
陽菜:そういうの憶えているとこ、えらいよ。
帆高:喜んでもらえてよかったよ。(やっぱりお姉さん口調…)

陽菜:そう言えば、凪もそろそろ帰ってくる頃ね。

凪 :ただいまー。姉ちゃん。今日はいいサイズのチヌがいけたよ。
凪 :すぐに捌きたいから台所使うね。ん、あんたは…。
帆高:お久しぶり。センパイ。釣りとかするんだ。
凪 :帆高じゃないかー!生きてたのかー?
帆高:勝手に殺さないでよ。
陽菜:凪、帆高は来月大学入学でこっちで暮らすんだって。
凪 :へー。でも、これまで連絡無かったのに、いきなり今日?
陽菜:須賀さんが言うにはね。連絡するのが照れくさかった……
帆高:陽菜さん!
凪 :ははーん。
凪 :帆高、ちょっと、こっちへ来いよ。
帆高:あわわわ。
(台所の方に引っ張られる)
凪 :お前、まだ姉ちゃんのこと好きなんだろ?
凪 :答えなくていいよ。顔が既に答えてるから。
凪 :今チャンスだぞ。この前、彼氏と別れたばかりだし。
凪 :姉ちゃんは美人だから、ほっとくとすぐに予約が埋まる。躊躇は許されない。
凪 :アクションプランは俺が魚をおろしている間に考えておけよ。

陽菜:何話してるのー?
凪 :魚を見せてたんだ。帆高も釣りが好きみたいでさ。
帆高:俺は島の子だから、幼いころから釣り三昧だったんで気になって(汗)。
陽菜:そうなんだー。帆高も釣りするんだー。

(ピコン) ※LINEの着信音
陽菜:お、夏美さんだ。
夏美:『取材先から直帰 多分30分後には着きそう』
陽菜:『(*・∀・)ゞ了解』
(ピコン)
陽菜:今度は須賀さんだ。
圭介:『どうだった?帆高拾えた?』
陽菜:『( ^ω^)b』
圭介:『( ´∀`)b』
圭介:『アレやってくれた?』
陽菜:『(  ̄ー ̄)b』
圭介:『ありがとう それ見て帆高どんな反応だったか今度教えて』
圭介:『追伸:帆高のこと まだ夏美には伝えてない』
陽菜:『再会の感動マシマシですね♪』

陽菜:ご飯早めにしないと…。じゃ、買い物行くかー。
凪 :姉ちゃん、こいつの刺し身が有るから、それに合わせてお願いね。
凪 :後、ちっちゃい二匹で鯛めし炊いておくから。
陽菜:了解!
陽菜:(夏美さんと帆高、私がいない時に再会しても味気ないよね…)
陽菜:買い物、帆高も一緒に行く?
帆高:じゃ、行こうかな…。
陽菜:凪、留守番お願いね。後、夏美さん30分後に帰って来るみたい。
陽菜:ただ帰って来ても、帆高のこと内緒にしといてね。
凪 :ほーい。姉ちゃん。
(陽菜は颯爽とアパートを出て歩き始める。帆高は後ろから着いて行く)

帆高:(今、僕の頭はパンクしそうである。ちなみに僕が人生で最も頭をいっぱいにしたのは間違いなく3年前の8月22日だ。)
帆高:(多分この記録は一生塗り替えられることは無いと思う。でも、あの時はパンクしそうではなかった。)
帆高:(なぜなら、考えること、そしてやることが一つしかなかったから。…けど、今は考えることがとても多い。)
帆高:(ところで、ほんの1時間前も頭が一杯になるほどずっと考えていたはずであった。陽菜さんのこと。あの時のこと。)
帆高:(…でも、あれはすでに熟成されたことに立花のおばあさんと須賀さんの情報をほんのちょっと加えて考えてただけだった。)
帆高:(だから、まだ脳みそのキャパの限界には程遠かったと思う。)
帆高:(そして今、頭がフル稼働し、オーバーヒートの寸前に来ている理由…。)
帆高:(それは、陽菜さん、凪センパイから新たに大きな情報が追加入力されたからだ。)
帆高:(整理してみよう。僕の一杯な頭の内訳を…。)

陽菜:帆高ぁ?ねぇちょっと聞いてる?私、帆高を呼ぶの、アパート出てから三回目だよ?
帆高:あ、ごめん。考えごとしちゃって。
帆高:(陽菜さんのことが気になって、陽菜さんを無視しちゃったら本末転倒だ…。今は考えるのやめよう。)
陽菜:今日は帆高がお客さんなんだから、食べたいものリクエストしてくれる?
帆高:何だろう?…あ、3年前に陽菜さん家で食べたポテチチャーハンがまた食べてみたいな…。
陽菜:ごめんね。さっき、凪が黒鯛の鯛めし炊くって言ってたから、それは止めたほうがいいかも。
帆高:そっか…。お店に行ってから決めようか。ちなみにどこに向かってるの?
陽菜:旧駅前のアトレヴィ。夏美さんももうすぐ帰ってくるし、遠くには行けないよね。
帆高:あそこは沈んでいないんだ。
陽菜:船着き場みたいなのが付いて、商品の半分くらいは船で運び入れてるみたいだね。
帆高:北側ずっと海が続いているからそうなるよね。
陽菜:日本史の先生が、江戸時代は東北からの物資は全部利根川と江戸川を経由した船輸送だったって言ってた。
陽菜:今はその頃にタイムスリップした感じかな。
帆高:そう言えば、それと同じような話を、立花のおばあさんから今日聞いたな…。
陽菜:立花のおばあさん?
帆高:覚えてない?晴れ女サービスの依頼でスカイツリーの近くの日本家屋に行ったの。
陽菜:!あの人か。迎え盆を晴れにする依頼だったよね。
帆高:そう。その人。今日会って来たんだ。
陽菜:でも、どうして?
帆高:晴れ女サイトを久々に見たら依頼が来てたんだ。それで久々に会いに行ってみようって。
陽菜:曳舟のあたりは水没しちゃってるよね?
帆高:だから今は、高島平のアパートに引越してた。
陽菜:お元気だった?
帆高:元気そうだったよ。スイカを一緒に食べたお孫さんも結婚されたみたい。
帆高:お嫁さんはまるで女優さんみたいな美人だった。
陽菜:お孫さん夫婦にも会ったの?
帆高:写真を見せてもらっただけ。俺はどこかで会ったことが有る人のような気がしたけど…多分気のせいだと思う。

帆高:(立花のおばあさんがいう「東京が昔に戻っただけ」って話も僕たちが戻したってことならもっと深い意味になる。)
帆高:(陽菜さんがどう考えるのか…、聞くなら今の話の流れがチャンスだ…。)
帆高:陽菜さん。
陽菜:ん。どうしたの?お店着いたね。脱線しちゃってたんで、何食べたいの話に戻そうか。
帆高:…。そうだね。
帆高:うーん、メインは鯛めしと刺し身だよね…。サラダとか欲しいかも。
帆高:以前食べたチキンラーメンサラダとかどうかな。
帆高:ベビーリーフって人工光栽培だから晴れてた昔と値段変わってないし、いいよね。
陽菜:ちょっと帆高ぁ。こっちがご馳走してあげるってのに、値段の話とかするのって失礼じゃない?
帆高:えぇっ?天野家の家計とかも心配して…。何なら俺からお金出してもいいし…。
帆高:いや…。ごめん。
陽菜:よし、いい子。(ニッコリ)
帆高:…。(陽菜さんと話すとこういう展開ばっかり…)
(買い物を終えた二人は帰路、帰宅途中の夏美に会う)

陽菜:夏美さん、おかえりなさい。
夏美:お、陽菜ちゃん、買い物から帰るとこ?ん。後ろにいるのは…。
帆高:お久しぶりです。夏美さん。
夏美:帆高くんじゃない!ほーんと久しぶり。
(帆高に抱きつく。帆高の顔が紅潮する)
帆高:わわわ。夏美さん。
夏美:安心したー。ウブな感じが抜けてなくて。クールなイケメン男子に成長してたらどうしようかと思った。
夏美:で、東京また来たんだ?
帆高:はい。農工大受かったんで。昨日から国分寺に住んでます。
夏美:それだったら事前に連絡してくれたら良かったのに。
帆高:それは、何というか色々有って…。
陽菜:夏美さんの方こそ帆高の携帯とか知ってるんじゃなかったっけ?
夏美:確かにね…。でもまあいいや。そんなのは色々だもんね?帆高くん。
帆高:はい…。

陽菜:ただいまー。
凪 :おかえり、姉ちゃん。夏美さんまだ帰ってないよ。
夏美:ただいま、凪くん。
帆高:また、おじゃまします。
陽菜:さあ、みんな揃いましたー。夕食行きましょう。当番私だから、皆さんくつろいで待っててね。

帆高:家事って当番制なんですか?
夏美:そう。でもわたしって仕事休みの日に合わせた1日、凪くんも2日なんで、陽菜ちゃんの負担大きいのよね。
夏美:陽菜ちゃんはバイトもやってくれて、これだから私が甘えている感じかな。
凪 :姉ちゃんは俺が勉強に専念して欲しいって頑張ってくれてるんだ。
帆高:そうなんだ…。

夏美:そうそう、帆高君今日は何時までいられるんだっけ?
帆高:スマホで調べてみます。巣鴨まで水上バスで、そこから山手線で新宿出て中央線快速かな…。
夏美:昔だったら神田まで山手線でよかったけど、今は神田は海の底だもんね。
帆高:そうですね。あ、意外と水上バスって遅くまでやってるんですね。10時半まで居ても大丈夫みたいです。
夏美:今は地下鉄も一部区間しか動かせないし、水上バスがみんなの足だからね。
帆高:東京も色々変わっちゃいましたね…。
帆高:(あ、言ってしまってからだけど、これってすごく他人事な発言…。)
帆高:(須賀さんは僕の自惚れだって言うけど、たとえ、そうだとしても、言ってはいけない気がする…。)
夏美:どうしたの?帆高くん。考えごと?
帆高:あ、いえ。色々変わった東京の中で、今日気になったのがコインランドリーの多さ。
帆高:さっき陽菜さんとスーパーに行く途中でも3件有りました。凄いなと。
夏美:2年位前から雨後の筍のように増えたよね。…まあ、雨の後じゃないけど。
帆高:俺の地元の神津島って3年前までコインランドリーって1軒もなかったです。
帆高:でも二年前に2軒できました。だから東京来る前からでも想像は出来たはずだけど、それでも印象的でした。
凪 :うちはコインランドリーは使わないね。乾燥1回で400円は高いし。
帆高:そう言えば、ここって浴室乾燥もないし、洗濯機も外置きでしたよね?乾かすの工夫してるんですか?
夏美:除湿器とサーキュレーターなら有るよ。最近安いしね。
凪 :干し方は相当気を使ってるよ。やり方次第で乾き方が3倍違う。
帆高:俺のアパートも浴室乾燥無いし、その情報凄く欲しい。
凪 :いいよ。後で教えてやるよ。
帆高:ありがとう。センパイ。

夏美:新しく借りるなら、浴室乾燥付き物件にしたらよかったんじゃない?最近多いし、安くいけそうだけど。
帆高:うち貧乏だから、大学は奨学金だし、家賃も自分持ち。
夏美:陽菜ちゃんたちと暮らし始めて、私恵まれてたなって凄く感じる。
夏美:大学時代って学費も住居も全部親持ち。当時は不自由は無かったのに息苦しさだけ感じてたな。
夏美:圭ちゃんとこでのバイト代も浪費しちゃってたし、なんか皆さんに悪い感じ。
陽菜:ご飯できましたー。

夏美:じゃあ、いただきますかー。
全員:いただきまーす!
帆高:おいしい。3年ぶりの陽菜さんの手料理…。懐かしさでジーンとしちゃうな。
凪 :メインディッシュと主食のご飯は俺がやったわけだけどな。
帆高:そうだったね。センパイ。鯛めしとってもおいしいよ。
凪 :当然といったところだけどな。
帆高:ははは。あーでもこの4人が揃って会話するのって3年前の8月以来か…。そして、まだこれで二回目か…。
夏美:感覚としてはもっと多かった印象だよね。
夏美:私は帆高君と二か月くらいよく話してたし、陽菜ちゃん凪くんとはもうここ二年半一緒だからね。
陽菜:帆高も東京に住んでるんだし、このメンバーでの食事だってまたすぐの機会がありそうだよね。
陽菜:須賀さんや萌花ちゃんも加えてもいいよね。
帆高:そうだね。国分寺なんで23区じゃないし、また、お呼ばれしたいな。
凪 :お呼ばれとかじゃなくて帆高の家に集まってみるか。
帆高:うち、めっちゃ狭いよ。
凪 :うちだって狭いじゃん。よく3人住んでるって感じだしな。
帆高:じゃあ、ちょっと考えておこうかな。
凪 :よろしくな。

(団欒続く)

帆高:あ、もう10時か。そろそろ帰る準備しないとね。
陽菜:そうだ!教えるって言って連絡先教えてなかったもんね。はい、これ。
(陽菜はスマホのLINEのQRコード画面を見せる)
帆高:ありがとう。じゃあ。
(帆高は陽菜にメッセージを送信する)
凪 :俺も教えてとくよ。
帆高:センパイも持ってるんだね。
凪 :無いと中学生ライフに支障をきたすからね。
帆高:そっか。(俺は高校入学の時にもらった親父のお下がりのiPhone8が最初だったけど…)
夏美:私は変わってないんで、いつでも前に教えたのに連絡してもらってもいいよ。

帆高:今日はごちそうさまでした。また、よろしくお願いします。
夏美:理系でしょ。そんでもってバイト二つってかなり大変だと思うけど大学頑張ってね。
帆高:そうですね。頑張ります。
陽菜:帆高はこっちにいるわけだし、意外とすぐ会えそうだよね。じゃあ、またね。
帆高:じゃ、また、陽菜さん。
凪 :じゃあな。帆高。
帆高:うん。センパイ。おじゃましましたー。

(帆高は巣鴨で水上バスを降り、山手線に乗り替える)

帆高:今日は楽しかった…。でも、陽菜さんに聞きたいことは結局聞けなかったな…。
(ピコン)
帆高:凪センパイだ
凪 :『アクションプランどうなった?』

帆高:考えてなかったな…。センパイに協力を得られないとマジでまずいし、何か考えて返さないと…。
帆高:…陽菜さん、少し前に彼氏さんがいたんだっけ…。気になる…。
帆高:いや、今それを気にしている場合じゃないな…。どうしよう。どうしよう。

帆高:『3年前の誕生日に贈った指輪を返したいんだ』
凪 :『どゆこと?』
帆高:『陽菜さん失踪後、ラブホテルの外で拾ったんだ』
凪 :『姉ちゃんが落としてったってこと?』
帆高:『たぶん』
凪 :『渡すのはいいんじゃない?思い出の品だし』
凪 :『でも安物だろ?』
凪 :『もう大学生だしグレードアップした姿見せなきゃダメかな』
帆高:『と言いますと』
凪 :『セットで4万円程度のを用意した方がいいかな』
凪 :『例えばティファニーのネックレスとか』

帆高:あー、ネックレスか…。そういえば陽菜さん、あのチョーカーはもうつけてないしな…。
帆高:しかし、4万円は高い。プライスレスな陽菜さんと比較して4万円はどうなのか?と問われたら答えは一つだけど…。

帆高:『結構高いな』
帆高:『うちはオヤジからの援助が少ないし家賃払うのも大変な状況』
凪 :『バイトで1ヶ月1万円ずつ貯めるのできない?』
凪 :『それで姉ちゃんが成人した記念に渡すとかが良いかな』 (*1)
凪 :『その間つなぎとめを頑張れよ』
陽菜:『(  ̄ー ̄)b』
帆高:『ヽ(*^▽^)ノ』

帆高:『ところでセンパイはどんなものを彼女に贈ってるの?』
凪 :『んー言葉とか気遣いとか…』
凪 :『尽くし甲斐とか』
帆高:『(゜д゜)』
凪 :『女性のハートを掴むのはモノじゃないからね』
帆高:『Σ(゜д゜#)』
帆高:『さっきと話が違わない?』
凪 :『帆高と俺では歳も立場も相手も会話スキルも違う』
凪 :『全く違う二人に共通の正解なんて有ると思う?』

帆高:…。

帆高:『失礼しました』

(執筆中…続く。)

*1) 2020年現在は成人年齢は20歳だが、作中の2024年では18歳。
[番外編] 圭介が陽菜に電話するまでと電話中の会話内容
―――――――――――――――――――――――――――――
帆高:お邪魔しましたー。
社員:またおいでね。
圭介:おい。
圭介:まあ気にすんなよ、青年。
圭介:世界なんてさ、どうせ元々狂ってんだから。

社員:今のは社長のご親戚の子ですか?
圭介:いや、違うよ。あいつは俺が3年前にここの事務所にバイトとして雇ってたんだ。元従業員というやつだな。
社員:それにしては若過ぎません?
圭介:まあ、雇った目的ってのが、家出少年の保護だからな。
社員:家出少年…?親御さんに頼まれたとかですか?
圭介:いいや。普通、親が息子の家出を認めたりはしないだろ。
社員:えっ、勝手に保護したんですか?それだと略取誘拐で罪に問われません?
社員:昨日も家出少女を家に連れ込んだ男が逮捕されたって報道有りましたよね?
圭介:…。実際罪に問われて逮捕されたよ。
社員:ええっ?!
圭介:気になるよな?でも…その話は本題から外れるからまた今度ね。
圭介:で、前にも話したけど、俺自身も家出して上京した口なんだ。
圭介:家出少年ってのを見ると捨てておけないんだよ。この気持ちは俺にしかわかんねぇだろうなぁ。
圭介:で、聞きたくないかも知れないが続けるぜ。
圭介:あいつとは3年前の6月、伊豆大島に取材に行った時の帰りのフェリーで出会ったんだな。
社員:伊豆諸島の子なんですか?
圭介:そうだよ。今も変わらないかもしれないが、当時のあいつは大人のいうことを聞くのが大嫌いな性格でさ。
圭介:豪雨の危険が有るってアナウンスを聞いた直後に面白そうだからって甲板に出やがったんだ。
圭介:それで滑って海に落ちそうになっているところを俺が助けてやったわけだ。まさに命の恩人。
社員:何で社長も甲板に出てるんですか?
圭介:それは聞いちゃいけない。で、あいつが命の恩人にお礼がしたいと言うんで、定食とビールを奢らせたんだよ。
圭介:これが付き合いのはじまり。
社員:お礼って、お金が無い少年になぜ奢ってもらうなんてしたんですか?
圭介:俺の計算に決まってるだろ。6月の平日にフェリーに一人で乗ってる少年がいたとする。
圭介:それが家出少年でない可能性は何%だ?
圭介:俺はこの時点であいつの面倒を見てやろうと心に決めてた。
圭介:家出少年ってのはさ。誰にも雇ってもらえないの。俺はその辛さを痛いほど経験していてだ…。
圭介:とにかく、家出時の資金なんて10万持っていても20万持っていても意味無いの。
圭介:家出を続けられるかは面倒見てくれるアテが有るかというそれだけ。
圭介:あいつに奢らせれば、俺への貸しが出来たと感じて頼る口実ができるだろ?
社員:そんなマドロっこしいことしなくて、事務所に来るように誘ったらいいんじゃないですか?
圭介:それは家出少年の気持ちがわかっていない人のセリフ。あいつは一人で生きていきたいと思ってたんだ。
圭介:でも、それがどれだけ難しいかをわからせてからでないと駄目なんだ。
圭介:だから、奢らせて名刺だけ渡しておく。これがあの場面でのベストな選択肢なんだよ。
社員:そこまで考えたんですか。意外ですね。
圭介:意外は余計だろ。
社員:ところで、あの子はこれから誰かに会いに行くとかなんですか?
圭介:ああそうだよ。夏美が引き取って一緒に暮らしてる女の子。前にも話したこと有ると思うけど天野陽菜ちゃん。
圭介:あいつは陽菜ちゃんの元ボーイフレンドってやつだ。
社員:夏美さんと暮らしてる子の元カレ?
圭介:ただな、あいつは今もあの子にベタぼれ状態。
圭介:高校3年間律儀に貞操を守ってんだけど、一方で彼女に一切連絡をしようとしない。この内気さ、バカだろ?
社員:事情が飲み込めないんですが…。
圭介:まあ。あいつは事件を起こしたせいでちょっと前まで保護観察期間だったんだよ。
圭介:それで陽菜ちゃんに気を使っていたというのは否めないんだがな。
圭介:その辺りの話聞きたい?ってか仕事中だったな。なんで、また今度。
社員:ちなみに、陽菜ちゃんには今カレ氏さんとか、いるんですか?
圭介:夏美から特に聞いてないけど…。
社員:可愛い子なんですよね?じゃあ、いるんじゃないですかね。
圭介:なるほどな…。とすると、帆高を陽菜ちゃんとこに向かわせて良かったのかな…?
圭介:そして、あいつは陽菜ちゃんの家に無事たどり着けるのかな…。
圭介:よし、陽菜ちゃんに電話してみるか…。
(ピッ。トゥルルルルルル…)

圭介:あ、もしもし、陽菜ちゃん。
陽菜:須賀さん、こんにちは。
圭介:萌花の誕生日プレゼントのバッグありがとう。すごく気に入ってくれてたよ。
陽菜:喜んでくれてとても嬉しいです。作りがいがありますから。
陽菜:バイトが入ってて直接渡せなかったの残念でしたけどね。
圭介:そうだね。また萌花と会う機会が出来たら、よろしくね。あいつも会いたがっているし。
陽菜:はい。よろしくお願いします。
圭介:それでさ。ここからが本題。実は今日、帆高のやつが俺の事務所に来たんだよ。
陽菜:ホダカ?
圭介:そう。陽菜ちゃんもよく知ってる森嶋帆高。
陽菜:本当?!懐かしい。
圭介:大学受かったってことで、今後はこっちに住むらしいんだな。
圭介:それでさ、陽菜ちゃんは帆高に会いたい?
陽菜:はい。とっても。
圭介:良かったー。嫌だって言われたら、俺どうしようかと思ったよ。
圭介:あいつ、陽菜ちゃんのことメッチャ気にしてて、それでいて女々しくてさ。
圭介:連絡して良いものか悪いものか…みたいなことばっかり言ってたよ。
圭介:それで、イライラした俺が今すぐ会いに行けって言っちゃった。
陽菜:いいですよ。私も会いたいですから。
圭介:帆高は水上バス乗りたいとか言ってたから、五反田経由で陽菜ちゃん家に訪ねていくと思うんだよね。
圭介:到着は1時間半後くらいじゃないかな。
圭介:そこでさ。お願いが一つ有って。あいつを田端ステーションに迎えに行ってやってくれないかな。
陽菜:帆高がそうして欲しいって?
圭介:あいつがそんなこと言うわけないぜ。帆高の性格、陽菜ちゃんも知ってるだろ?
圭介:アパートの前に行ってチャイム鳴らすか1時間迷って結局帰っちゃうってオチ。それを阻止する俺の親心。
陽菜:ふふ。帆高らしい(笑)。いいですよ。
圭介:ありがとう。で、ごめん、さらに相談。出迎えの際にステーションのとこで、あのポーズやってくれない?
陽菜:あのポーズ?
圭介:3年前に芝公園でやってくれた祈りのポーズ。
陽菜:晴れ女のですね。どうして?
圭介:それ帆高に見せたら多分泣いて喜ぶって思う。
陽菜:そうなんですか(笑)。わかりました。1時間半後ですね。
圭介:ありがとう。よろしく。
―――――――――――――――――――――――――――――

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