「毎年七月の終わりに催されるお祭りなんだけど、境内のあちこちに、町民の作ったいろんな燈籠が奉納されるんだ。だから『燈籠祭り』。紙製のものはもちろん、石製や竹製や布製……本当にいろんな種類が、いろんな飾られ方をする。遠くから見ても綺麗だけど、実際にお参りするといろんな発見があって更に楽しいから……ぜひ椿と一緒に行ってみて」

 想像するだけで素敵な光景だと、私は大喜びで「はい」と頷きかけたが、寸前でそれを止めた。
 ちらちらと誠さんを見ている椿ちゃんを確認して、本心に反し、いかにも残念そうにため息を吐いてみせる。

「行きたいけど、行かせてもらえるかな……もし私が無理だったら、誠さん、ぜひ椿ちゃんと……」
 我ながら、実に良いことを思いついたと考えながら、提案しかけたのだったが、ものすごい強さで椿ちゃんに腕を掴まれた。
(痛っ!)

 慌てて隣を見ると、椿ちゃんが大きな目に涙をうっすらと浮かべて、真っ赤になって首を振っている。
 その必死な様子に、私は彼女の心中を推し測った。
(二人きりでお祭りは、恥ずかしいと……)

 けっこういい雰囲気の二人なのにと思いながらも、私はひとまず椿ちゃんの懇願に屈することにした。
(そんなに恥ずかしいなら最初は三人でもいいか……いい感じになったら私がいなくなればいいんだものね……)

 心の中で決意し、言いかけていた言葉を改める。
「私も、なるべく行けるようにお願いしてみるんで……よかったら誠さんも一緒に三人で行きませんか?」

「え? 僕も?」
 そういう提案がされるとは思っていなかったらしく、少し考えるそぶりをしたあと、誠さんはにっこりと頷いた。
「ああ、いいよ。椿と二人で、和奏ちゃんに、『燈籠祭り』を案内してあげるよ……と言っても僕も、髪振町へ帰ってきたのはお正月ぶりなんだけどね」

 それからしばらく、誠さんは自分について私に説明してくれた。
 東京の大学に通っていること。
 今四年生で、卒業後もあちらへ残り、就職すると決まっていること。
 仕事に就いたら学生のように簡単には帰ってこれなくなるだろうから、ひょっとしたら今年が最後の夏祭りになるかもしれないこと。

 椿ちゃんは彼の話を口を挟むこともなく、ずっと窓のほうを向き、景色を眺めているふうだったが、トンネルに入った瞬間、その表情がはっきりと窓ガラスに映り、とても悲しそうな顔をしていたのだとわかった。
(椿ちゃん……)
 まるで自分のことのように、私の胸も痛んだ。

(どうなるのか、先のことはわからないけど……いい思い出作りのお手伝いはできるんじゃないかな……)
 咄嗟の勘を頼りに、夏祭りに三人で行けるように動いた自分を、褒めてやりたい気分だった。

(うん……二人がいい思い出を作れるように……がんばろう)
 ひそかな決意を固めながら列車に揺られた帰路は、往路よりもかなり速く、目的の駅へ着いたように感じた。