帰宅すると、和室の襖越しから長唄の声がする。
「ただいま」
三味線の音色が止まった。
「あら、おかえり」
師匠をつとめる祖母の操は、弟子のほうを向いたまま、
「ご飯は台所にあるよ」
「おばあちゃんは?」
「私は済ましたから大丈夫」
とかえした。
萌々子はキッチンで手早く夕餉を済ますと、着替えもそこそこに型紙でトランプ柄の生地を裁ちはじめた。
パーツが裁ちあがると次はマチ針で止め、仮縫いをしミシンにかけてゆく。
手慣れた様子で萌々子が縫い合わせてゆくと、次第に一着のロリータ服が、形をあらわしてきた。
そこへ縁にレースをつけ、スカートの下へ、パニエと呼ばれる膨らみを持たせるパーツを組み合わせると完成となる。