- 春に桜の舞い散るように -


  ほんとうに ほんとうに
  逢えなくなって しまうのですか

  届かぬ想いと 分かっています
  叶わぬ願いと 分かっています

  それでも私の心には
  春に桜の舞い散るように
  あなたと過ごした優しい日々の
  想い出ばかりが募ります


  夏の夜空に零れる星に
  儚い願いを託してみても
  叶わぬことは 分かっています
  もう逢えないと 分かっています

  今でも私の心には
  秋に枯葉の舞い散るように
  寂しさだけが つもります


  それでも世界は回ります
  あなたを残して 私を乗せて
  愛しい日々は離れていって
  冬の小雪の舞い降るように
  心は冷たく 凍えます


  それでも世界は美しく
  朝日は昇り 花は開いて
  時は流れて 季節が巡り
  春の静かなそよ風が
  あなたの優しいその手のように
  私の背中を押してくれます


  涙は今も 零れるけれど
  春の桜の舞い散る中で
  私は前に 歩き出します

  あなたのいない この道のりを
  春に舞い散る桜のような
  あなたの笑顔の 記憶と共に




*** Miss Spring ***

 そうか。そうか。簡単なことだった。
 お別れは、寂しくて辛いけど、でも、みんなが私を覚えてくれて、私もみんなを覚え続けていれば、それは別れなんかじゃないんだよね。
 アキが言ったように、人は……人だけじゃなくて、この世界の生き物は、みんないつか死んじゃうけど、でも誰かが覚えててくれたり、思い出を形にしてくれたりして、私たちが存在した証は、生きた歴史は、ずっと世界に、私やみんなの中に、残るんだ。
 そうやって私たちの存在は、繋がってるんだ。今までの何千年も、繋がってきたんだ。それって、すごいことだ。
 アキはきっと私を、負担じゃなく、覚えていてくれる。春ちゃんも、千夏も、きなこも、たぶんそうかな。私の絵を観てくれたみんなも、心のどこかには私を覚えててくれるかな。私もみんなを忘れない。絶対に忘れない。
 暖かい涙が溢れる。心臓の鼓動が、いくつもの見えない波紋になって広がった。
 見えないけど、私を閉じ込めていたあの透明な壁が、なくなっていくのを感じた。
 手が、足が、先端の方から金色に光り出して、さらさらと立ち昇っていく。
 世界の暖かさを、神様の優しさのようなものを、体中が感じてる。

「きなこ、きなこ!」
「あら……行くのね」
「うん。今までありがとね。ホントにありがとう!」
「サクラと話せて楽しかったわ。あちらで、また会いましょう」
「うん、のんびり気長に待ってるね!」

 歌い終えた春ちゃんが、ほっとしたように胸を撫で下ろしている。きなこの視線に気付いたのか、私の姿を探すようにして、少しだけ寂しげな表情で小さく手を振ってくれた。私も笑顔で手を振る。
 春ちゃん、ありがとう。あなたに逢えて、本当に良かった。あなたのおかげで、私も、アキも、救われたよ。アキを宜しくね。そのヘアピン、すごく似合ってるよ。アキと同じくらい、大事にしてね。
 キッチンの台に寄りかかっているアキの方を見ると、少し涙を流しているけど、でも満足そうな表情で、お店の壁に飾ってあるアキが描いてくれた私の絵を見つめていた。
 アキ、ありがとう。あなたに逢えて、本当に良かった。あなたのおかげで、私は素敵な青春を送れたし、今もこんなに幸せだよ。展覧会、開いてくれてありがとう。私の絵を完成させてくれてありがとう。約束、守ってくれてありがとう。私の死を嘆くくらい、愛してくれて、ありがとう。春ちゃんと一緒に、幸せになってね。

 視界がぼやけて、霧が立ち込めたみたいに白くなってきた。拍手の音も、聞こえなくなってきた。どうなるんだろうと思っていたら、上の方から、優しくて懐かしい声が、私の名前を呼んだような気がして、声がした方を見上げた。

「あ……、お母さん……?」

 手を伸ばすと、大好きな暖かい手が、しっかりと私の手を握ってくれた。