トロイメライ

ここ、どこだろう……。

どこかぼんやりとした思考で、私は自分の所在を探っていた。
眼底に張り付いたような暗闇の中では、まるで何も分からない。
しばらくそうしていると、ふいに感じた光に目が眩んだ。

「……っ」

それは決して、優しい光ではなかった。

赤とオレンジと黄色と、黒。
蠢めくように立ち上るのは、間違いなく炎だ。
そんな光源を認めて、恐怖心に襲われる。
しかし熱い空気を吸い込んだ喉では、悲鳴を上げることさえできなかった。

火事だ……逃げなきゃ……。
でも、どこに?
私を取り囲むように燃え盛る炎せいで、逃げ道なんて見えない。
そんな絶望の淵で、ふと感じたのは肩への鈍い痛みだった。

「ごめんね雨音……ごめんね……」

「お母さん……?」

輪郭がぼやけて表情は曖昧だが、この声は私のお母さんのものだ。
震える手も、涙声も、遠い昔に覚えがある。

ああ、そうか。
これは、あの日の炎だ……――。



「雨音! しっかりして、雨音!」

大きな声が鼓膜を震わせ、ハッと覚醒した。
薄く開いた目で日の光の眩しさを感じ、そのままゆっくりとまぶたを開ける。
するとすぐそこに、心配そうに私を見つめる理人さんの姿が見えた。

「勝手に部屋に入ってごめんなさい。魘されて苦しそうな声が聞こえたから、起こさなくちゃと思って」

「……ううん。ありがとう、理人さん」

感謝の言葉を呟いた喉は、なぜか痛むほどに渇いていた。
まるで煙を吸い込んだかのように咳がもれる。
どうやら私は、家族を失ったあの日の夢を見ていたらしい。
寝起きの冴えない頭の中で夢の内容を思い出し、小さく身震いをする。

家族を失った日、私はまだ9歳だった。
けれどあれから何年も経った今でさえ、こうしてたまに夢に見るのだ。
あの日の恐怖は、たとえ薄れることがあっても消えることはないのだろう。

まぶたの裏に残った炎の色が、胸の奥の不安をどうしようもなく煽る。
そんな夢の名残を振り払うためにベッドから起き上がると、ぐらりと世界が回るような目眩がした。

「うう……」

「雨音っ」

均衡を失った私の体を、理人さんが咄嗟に支えてくれる。
そのまま、まるで子供を寝かしつけるように、背中を優しくさすられた。
されるがままに彼の腕に包まれていると、徐々に体温が上がっていくのを感じて、私はやっとそこで自分の体が冷えていたことに気がついた。

「大丈夫よ。怖いことなんてないわ。だから大丈夫」

「うん……」

今よりももっと幼かったころ、私は今日のような夢を頻繁に見ては、心を不安定にしていた。
そのたびに理人さんに抱きしめられ、なだめてもらったことを思い出す。
そんな昔に戻ってしまったみたいで気恥ずかしいけれど。

「雨音。無理しなくていいのよ。辛いときはいつでもアタシを頼ってね」

頭上から降る優しい言葉に、おとなしく身を委ねる。