「意外だわ。全員の親が許可を出すなんて。一番無理そうだと思ってた碧理は、どうやって許可取ったの?」
二回目となる「紺碧の洞窟」を目指すために、五人が立っているのは駅のホーム。
時刻は朝の十時。通勤や通学のラッシュが終わり、駅のホームは空いていた。
この日は平日の金曜日。
土曜日から月曜日までは、祭日があるおかげで三連休と言う好条件。それを利用するため、蒼太と翠子は学校を休んだ。
そんな二人とは違い、美咲は相変わらずの引きこもりで学校は自主休校。碧理は病欠、慎吾は自宅謹慎。
洞窟へ連れて行くのがまだ正解か判断がつかない碧理とは違い、他の四人は楽しそうだ。
一回目の青春十八切符での旅と違って、待っている電車は快速。
今回は新幹線も使って早く帰宅すること。それが全員の親達が出した条件だった。しかも、午前、午後、夜と家に定期連絡を入れることも含まれている。
普通なら二回目となる子供達の逃避行に、親達は許可を出さない。しかも四人の記憶が無くなっているのなら、なお更だ。
だが、碧理の訴えに協力してくれる人物もいた。
碧理の母親の瑠美だ。
「……母に電話したの。協力して欲しいって」
「えっ? ……義母じゃなくて実のお母さんに?」
碧理の苦笑いに、美咲もまた何とも言えない顔をしている。
五人でまた洞窟までの道筋を辿ることになった時、碧理は絶対に祖父母も拓真も、許してくれないと察した。
だからこそ、禁じ手を使ったのだ。
実の母の所に電話して、どうしても行きたいと泣きながら訴えた。父親達を説得して欲しいと。
「うん。母には事情を全部話したの。……洞窟のことも、皆が記憶を失っていることも全部。そしたら、父を説得してくれるって言うからお願いした。そして今に至る」
「……よくそれで許可出たね」
「まあ、条件付きだけどね。泊まる場所は指定されたから」
苦笑いを浮かべた碧理は、一週間前話した瑠美との会話を思い出す。
ドキドキしながら電話をした碧理に対して、瑠美は静かに話を聞き、反対することなく、拍子抜けするほどあっさりと許可をくれた。
そして夜になると、突然、祖父母の家に現れた瑠美は、一枚のカードと現金五万円を碧理に与えた。宿泊する宿の名前と瑠美の名刺も一緒に。
それだけでも驚いたのに、さらに拓真の説得までも請け負ってくれたのだ。
いきなり現れた瑠美に祖父母は驚き、碧理の願いに難色を示した。それを根気強く説得し許可を勝ち取った。
拓真が夜に現れると、修羅場さながらの大喧嘩が始まり揉めに揉めた。その喧嘩の間に入ったのは、義母である香菜だ。
そして、大人達で話し合いは続き条件付きで許可が出た。
一、定期連絡は必ず入れる。
一、宿は指定した場所だけ。
一、危ないことはせず期限内に帰ること。この三つだ。
「でも助かったよ、碧理のママが来てくれて。交渉上手だよね。うちのパパが何も言えなくなって黙り込むの初めて見たもん」
瑠美が最初に向かったのは美咲の家。そして、蒼太や翠子、慎吾の家に次々と訪れた。
詳細は全員がわからないが、親達は瑠美の説得に折れたらしい。
「俺達の記憶が戻るかも知れないから、一度だけチャンスをあげて欲しいって言ってきたらしいよ。花木さんのお母さん。大人達の付き添いも上手く交わしてくれてた」
蒼太は両親から少し聞いたと言う。
どうやら、記憶が無くなった四人の親達も、そこは気にしていた。
そこで何があったのか、誰といたのか、犯罪に巻き込まれていなかったのかを。
「そっか。……戻るかな。皆の記憶」
電車が入ってくるアナウンスを聞きながら、碧理が呟く。
「そうだね。全部とは言わないけど、少しでも戻ると良いな。楽しい記憶だけでも」
そう言う蒼太の顔は少し青白い。
自分が死ぬ旅を辿ることに、やはり抵抗があるのだろう。そんな蒼太を見て、碧理は決意した。
何があっても蒼太を守ろうと。
二回目となる「紺碧の洞窟」を目指すために、五人が立っているのは駅のホーム。
時刻は朝の十時。通勤や通学のラッシュが終わり、駅のホームは空いていた。
この日は平日の金曜日。
土曜日から月曜日までは、祭日があるおかげで三連休と言う好条件。それを利用するため、蒼太と翠子は学校を休んだ。
そんな二人とは違い、美咲は相変わらずの引きこもりで学校は自主休校。碧理は病欠、慎吾は自宅謹慎。
洞窟へ連れて行くのがまだ正解か判断がつかない碧理とは違い、他の四人は楽しそうだ。
一回目の青春十八切符での旅と違って、待っている電車は快速。
今回は新幹線も使って早く帰宅すること。それが全員の親達が出した条件だった。しかも、午前、午後、夜と家に定期連絡を入れることも含まれている。
普通なら二回目となる子供達の逃避行に、親達は許可を出さない。しかも四人の記憶が無くなっているのなら、なお更だ。
だが、碧理の訴えに協力してくれる人物もいた。
碧理の母親の瑠美だ。
「……母に電話したの。協力して欲しいって」
「えっ? ……義母じゃなくて実のお母さんに?」
碧理の苦笑いに、美咲もまた何とも言えない顔をしている。
五人でまた洞窟までの道筋を辿ることになった時、碧理は絶対に祖父母も拓真も、許してくれないと察した。
だからこそ、禁じ手を使ったのだ。
実の母の所に電話して、どうしても行きたいと泣きながら訴えた。父親達を説得して欲しいと。
「うん。母には事情を全部話したの。……洞窟のことも、皆が記憶を失っていることも全部。そしたら、父を説得してくれるって言うからお願いした。そして今に至る」
「……よくそれで許可出たね」
「まあ、条件付きだけどね。泊まる場所は指定されたから」
苦笑いを浮かべた碧理は、一週間前話した瑠美との会話を思い出す。
ドキドキしながら電話をした碧理に対して、瑠美は静かに話を聞き、反対することなく、拍子抜けするほどあっさりと許可をくれた。
そして夜になると、突然、祖父母の家に現れた瑠美は、一枚のカードと現金五万円を碧理に与えた。宿泊する宿の名前と瑠美の名刺も一緒に。
それだけでも驚いたのに、さらに拓真の説得までも請け負ってくれたのだ。
いきなり現れた瑠美に祖父母は驚き、碧理の願いに難色を示した。それを根気強く説得し許可を勝ち取った。
拓真が夜に現れると、修羅場さながらの大喧嘩が始まり揉めに揉めた。その喧嘩の間に入ったのは、義母である香菜だ。
そして、大人達で話し合いは続き条件付きで許可が出た。
一、定期連絡は必ず入れる。
一、宿は指定した場所だけ。
一、危ないことはせず期限内に帰ること。この三つだ。
「でも助かったよ、碧理のママが来てくれて。交渉上手だよね。うちのパパが何も言えなくなって黙り込むの初めて見たもん」
瑠美が最初に向かったのは美咲の家。そして、蒼太や翠子、慎吾の家に次々と訪れた。
詳細は全員がわからないが、親達は瑠美の説得に折れたらしい。
「俺達の記憶が戻るかも知れないから、一度だけチャンスをあげて欲しいって言ってきたらしいよ。花木さんのお母さん。大人達の付き添いも上手く交わしてくれてた」
蒼太は両親から少し聞いたと言う。
どうやら、記憶が無くなった四人の親達も、そこは気にしていた。
そこで何があったのか、誰といたのか、犯罪に巻き込まれていなかったのかを。
「そっか。……戻るかな。皆の記憶」
電車が入ってくるアナウンスを聞きながら、碧理が呟く。
「そうだね。全部とは言わないけど、少しでも戻ると良いな。楽しい記憶だけでも」
そう言う蒼太の顔は少し青白い。
自分が死ぬ旅を辿ることに、やはり抵抗があるのだろう。そんな蒼太を見て、碧理は決意した。
何があっても蒼太を守ろうと。