「打起しの時に、馬手(めて)弓手(ゆんで)よりも少し下がってる。下がったまま大三をとっているから、引分けの時のバランスが悪いんだよね。引分けは弓手の方に意識があるのか、馬手よりも先におさまっている。これじゃ、会の時に均等に伸びることができないから形も綺麗に見えないし、中りもあまり期待できないと思う。左右均等に引く意識を持ったほうがいいよ」
 少々きつめに言ってしまったと思い、僕は恐る恐る凛の顔を見る。それでも凛は、僕のアドバイスを真剣な表情で聞いてくれていた。
「やっぱり、私だけじゃ気づかないところがいっぱいあるね」
 くそーっと悔しがる凛は、真剣に弓道について考えてくれているみたいだ。
「あと、全体的に固くなってたよ。もっと肩の力を抜いて、呼吸を意識して引くことが大事だと思う」
「うーん。何となくわかるんだけど、できるかわからない……」
 凛は急に小さくなると、不安を漏らした。
「なら、もう一回やってみてよ。今度は違ったら矯正するから」
「うん。お願い」
 凛は再度、弓構えをする。ここまでは自分でも見えているから、間違いがはっきりわかるはず。問題は物見を入れた後。打起しをするときだ。
 打起しをした凛は、そのまま大三の姿勢をとろうとした。
「ストップ」
「何?」
「そのままの姿勢で物見を戻してみな」
 凛は言われた通り、物見を戻した。
「あっ……」
「馬手が下がっているでしょ?」
「うん」
「物見を入れると、自分がどんな形で引いているか見えないよね。だから、こうして形が崩れていることに気づかないんだ」
 伝え終えた僕は、凛の馬手を弓手と平行になる位置に戻した。
「この位置が、平行。意識できそう?」
「うーん。難しい……」
「形を自分のものにするのは時間がかかるからね。できれば、誰かに見てもらってアドバイスしてもらうのが一番だよ。もし一人で練習するなら、全身が写る鏡の前で練習することがオススメかな」
「なるほどね。先輩がいつも鏡の前を占領している理由が分かった気がする。今度、私も借りようかな」
 意気込む凛は、何度も打起しの動作の確認をする。
「それに」
 僕は凛の後ろに回ると両手で両肩を押さえた。華奢な凛の身体に触れた瞬間、ぴくっと凛の肩が震えたのがわかった。
「な、な、何?」
「肩に力入りすぎ。肩が上がってるよ。これじゃ、引きにくいと思う」
「う、うん……」