でも、僕達はそんな重圧に押しつぶされるようなチームではない。
 今まで数多くの困難に打ち勝ってきたのだから。
 パンッ。
 高瀬が三射目を中てた。中て続けることによって、僕達の強さは徐々に証明されていく。このまま繋ぐ思いを意識していれば、必ず結果はついてくると思っていた。
 パンッ。
「「ッシャアアアアアアアアアア!」」
 大歓声とともに、周囲から拍手の嵐が巻き起こる。
 鳴りやまない歓声が、道場に漂っている緊迫した空気を一気に変える。
 橘は四射皆中を成し遂げた。
 皆中は道場の空気を変えるだけの力を持っている。
 自チームを勢いづけるだけではなく、相手チームにも精神的ダメージを与える。
 それは弓道を長く続けている人にも影響を及ぼすだけの力を持っている。
 ましては公式戦という場所では、他校の声援が魔物へと変わる。
 古林は魔物に取りつかれてしまった。
 古林が放った三射目は、的に中らなかった。
 ついに均衡が破れた。
 古林が外したことにより、岩月とは一本差がついてしまった。
 それでも古林はいつも通り、平常心だった。
 誰も外したくて外しているわけではない。弓道は少しの気の緩みや周囲の空気にのまれてしまうと、中りが途端になくなることがある。
 それを古林は熟知しているのかもしれない。
 熟知しているからこそ、ここで焦って最後の一射を外してしまうことを恐れているのかもしれない。
 一本外したことにより、僕達のチームに勢いがなくなったように見えるかもしれない。それでも、僕がまた勢いを復活させればいいだけのこと。
 物見を入れて打起しに入る。無駄な力が入らない様に、深く息を吐いて肩の力を抜く。 大三をとり、引分けに入る。均等に引き分けること、呼吸のリズムを意識すること、練習の時に使用していたメトロノームの音を頭に浮かべながら引いていく。
 矢が口割りの位置まで降りて、ここから会に入る。
 誰かが外した時は、外した次に射る人が必ず中てる。そうすれば、悪い流れは最小限で食い止めることができる。僕達は繋ぐ思いを胸に、チーム一丸で練習をしてきた。 新学期を迎えてから大会までの二週間ちょっと。一人で練習は絶対にしないことを三人で約束した。だからこそ、僕達は互いの形や間を熟知している。おそらく高瀬も古林も思ってくれているはず。
 僕が必ず中てることを。