「亮介、はるちゃんとカップルでのイベントってやった?誕生日とか」と雅之に突然聞かれた。誕生日か、一年に一度やってくる
大事なイベントなのでそれは盛大に祝ってあげたいな、と思った。だが、俺ははるの誕生日を知らなかった。ただの部活の後輩
であったはるの誕生日を知る機会などなかったからだ。なので俺は「今まで考えたことなかったな。そもそも俺、はるの誕生日
知らないしな」と言った。すると雅之は「彼女の誕生日くらいちゃんと知っておけよな。それに誕生日じゃなくてもこれから
クリスマスや年越しもあるんだから少し考えておけよ。まあいいや、はるちゃんの誕生日は俺がみくに聞いておいてやるよ」と
言ってきた。いくらなんでも誕生日くらい自分で聞けるよ、と思い俺は「いやいや、みくちゃんに聞かなくてもそれくらいは」と
言うと雅之は「はるちゃんと直接誕生日の話をしたことないんだろ?だったらお前が誕生日を知ってるってことをはるちゃんも
把握してないわけじゃん。ま、ちょっとしたサプライズってやつだな」と言ってきた。確かにいくら付き合ったとはいえはると直接
誕生日について話をしたことはない。付き合う前だって部活の先輩後輩の関係なのだから誕生日トークになることもなかった。
俺は「なんかお前の言う通りになるのも癪だけどいい案かもしれないから乗っとくわ。みくちゃんにはるの誕生日聞いといて
くれるかな」と頼むと雅之は「任せとけよ。明日になったら教えるよ」と言った。そしてその日は終わった。翌日、学校へ行くと
雅之が「おい、はるちゃんの誕生日なんだけどさ」と言ってきた。お、わかったのか?と思っていると「11月25日だってよ」と
言ってきた。今日の日付は・・・と思い確認すると11月18日だ。おいおい、あと一週間しかないじゃないかと思っていると雅之が
「まさかこんなに早いと思わなかったよ。あと一週間しかないけどできるだけ準備してあげてな」と言ってきた。そこから俺の
はるへのサプライズ計画が始まった。まず、誕生日なのだからプレゼントをあげなければならないだろう。とはいえ高校生の身分で
そんなに良いものは買えない。だからといって変なものをあげるわけにはいかないしな、と考えながらネットで調べてみることに
した。女子高生への誕生日の定番と言えば、と調べてみるとペンなどを上げるのがいいらしい。でもペンとなるとインクが
なくなったら使われなくなってしまう。はるはそれでも大事にしてくれるだろう。場合によってはインクを変えて使ってくれる
かもしれない。だがその「変えて使う」と言うのが彼氏が渡すものとしてはいまいちだよな、と思った。他にも調べてみると色々と
出てきた。そして目に止まったのがハンカチだった。ハンカチなら普段使いするものだし、ダメになるとしても数年後のこと
だろう。これはいいかもしれないな、と思い近くのデパートにハンカチを見に行くことにした。ハンカチはたくさん売っているが
どんなものがいいかを選ぶのは俺のセンスだよな、と思った。色や形についてははるっぽいものを俺が選べばいいだろう。そして
いいハンカチがあったのでそれを買った。当然誕生日用にラッピングをしてもらった。これでプレゼントの準備はできた。あとは
誕生日と言えばケーキだよな、とぼんやりと思った。だがあまり大きなケーキを買うと食べきれないかもしれない。小さなケーキを
買えばいいな、と思った。とはいえケーキは長く持つものではないので買うとしたら誕生日当日だよな、なんて思った。他に何か
ないかと考えたが思いつかない。歌でも歌うか?と思ったが誕生日の歌ぐらいはいいだろうが他に何を歌うんだよ、と自分で自分に
ツッコミを入れた。手紙でも書こうかと思ったがこの間手紙は渡したしな・・・なんて思って悩んでしまった。とはいえこれだけ
準備すれば問題ないだろうと思った。そして準備をしているうちにあっという間に期間は過ぎてはるの誕生日当日になった。
はるの誕生日だからと言って部活が休みになるわけはない。普通に部活はあるのだが放課後になると俺ははるの教室へと向かった。
いつもなら直接体育館に向かうのに、だ。はるは「あれ?亮介、どうしたの?今日は部活休みじゃないよ?」と言ってきたので
「ごめん。今日はちょっと用事があって部活に行くの遅れるんだ。俺が間に合わなかったら先に帰っていいからね」と告げた。
はるは「うん、わかった。亮介が用事なんて珍しいね」と言ってきたので「どうしても外せなくてね。ごめんね、間に合うように
行くから」と言ってはるの教室を出た。そして俺は近くのケーキ屋さんへ向かった。ケーキ屋さんで「予約をしていた中井です」と
伝えると小さなケーキが用意されていた。ワンカットのケーキのために予約をするなんて、と思うかもしれないがもしもなかったら
困るから仕方がないのだ。俺はケーキを買って、その足で学校の体育館へと向かった。当然だが部活はまだまだやっていた。なぜ
はるに向かって間に合わなかったら・・・と言ったかと言うとバレないようにするためだ。そして体育館の脇に座って、部活が
終わるのを待った。部活終了後、はるが「亮介、用事は全然早かったんだね」と言ってきた。なので俺は「うん、結構トントン拍子
で進んでね」と言った。そしてはるが「まぁ亮介がいてくれた方がいいや、一緒に帰ろ」と言ってきたので一緒に帰ることに
なった。そして帰り道ではるに「今日ってなんか特別な日じゃなかったっけ?」と聞いてみた。するとはるは「え?別になんにも
ないよ?部活もいつも通りだったし」と言ってきた。なので俺はあくまで自分では言わない気なんだな、と思いはるに
「そういえばさ、俺らって付き合いはしたけどお互いのことあんまり知らないよな」と言った。はるは「そうかな。でも亮介の
良いところはわかってるつもりだよ?」と言ってきたので俺が「例えばだけど誕生日とかね。はる、俺の誕生日って知ってる?」と
言うと「5月16日でしょ?知ってるよ」と言ってきた。俺が「良く知ってるね。なんで?」と聞くと「亮介と付き合う前に他の先輩
から聞いたの。好きな人のことなんだから知りたくなるのは当たり前でしょ」と言ってきた。なるほどなぁと思いはるに「まぁ
そうだね。じゃあちなみになんだけどはるの誕生日は?」と聞いた。するとはるは「私の誕生日も知らないの?私は・・・」と
言って黙り込んでしまった。なので俺は「ん?教えてよ」と言うとはるは「また今度ね。今日はもう帰ろ?」と言ってきた。
絶対今日教えるつもりはないんだな、と思い強硬策に出た。「はる、渡したいものがあるんだけど」と言うとはるが「え?なに?」
と不思議そうな顔をしてきた。「はい。誕生日おめでとう。誕生日のケーキだよ」と言ってはるに渡した。はるは「え?え?」と
言ってすごく混乱していた。そして「なんで今日だって知ってるの?私、亮介に言ったことないよ?」と言ってきたので「好きな
人のことなんだから知りたくなるのは当たり前でしょ、だっけ?」と言った。はるは大きな涙を流した。そして「私、自分から
誕生日なんだって言い出せなくて・・・。どうしようかなって思ってたの。でも亮介とは来年も一緒にいられるからその時で
いいかな、なんて思ってたのにこうやって亮介から祝ってもらえて・・・すっごく嬉しい。ありがとう」と言った。なので俺は
このタイミングだと思い「はる、泣かないで」と言った。はるは「無理だよ。嬉しすぎるんだもん」と言ってきた。俺は「泣いてる
ところは見たくないな。このハンカチで拭いて?」と言ってラッピングされたハンカチを渡した。はるは受け取ると「え?これは
なに?」と言ってきた。「俺からの誕生日プレゼントだよ。こんなものしか渡せなくてごめんね」と言った。はるはさらに泣いた。
今日はクリスマスイブだ。こんな日に彼女と出かけない選択肢はない。だがはるはクリスマスなんて関係がなく部活のはずだ。
学校は終業式の近くなので午前中で終わった。はるの部活が終わるまで待って、その後二人でデートでもするかな、とぼんやりと
考えていた。具体的なデートプランを考えようかと思ったがやめた。俺のデートプランはうまくいかないことが多いからだ。そこで
がっかりしてはるに変な気を遣わせたくもない。それにクリスマスだからと言って特別な場所に赴く必要もないと思った。とはいえ
ディナーを一緒に食べて、イルミネーションを見に行くくらいはしてもいいかもしれないな、と思った。幸いなことに学校からそう
遠くないところに大きな駅があるので、駅前に行けば大体のことはこなせるだろう。そして学校は特に何もなく終わっていく。
放課後になりはるの部活を見に行こうとすると雅之が「亮介、今日はクリスマスだよな。はるちゃんとどっか行くのか?」と
話しかけてきた。俺が「具体的にどこに行こうっていう話はしてないけど多分な。お前はみくちゃんとどっか行くの?」と
聞き返すと「おいおい、そんなんで大丈夫かよ。お前とはるちゃんにとっても付き合って初めてのクリスマスだろ?男がびしっと
決めてやらないとな。あ、俺はもう完璧だよ。この日のために二週間くらい前から綿密な計画をだな・・・」と言ってきたので
雅之が計画を頑張るとあんまりうまくいかないんだよなぁと思いながらも頑張ったことを馬鹿にするわけにもいかないので
「そっか。まぁ頑張ってくれよ。お互いいい思い出作ろうな」と言って俺は教室を出ようとした。すると教室の前にはるがいた。
あれ?これから部活なんじゃないのか?と思いはるに近づくと「今日はクリスマスでしょ?こんな日に部活なんて
やってられないって。デート行こ?」とはるが言ってきた。ここで元部活の先輩としての俺であればきちんと部活には出るべきだと
言うのが正しいだろう。だがはるがこうして自分で考えてわざわざ教室まで俺を迎えに来てくれたことを無下にしたくはないし、
色々と思うが一番は俺もはるとデートがしたいのだ。なので俺は「部活はきちんと出なきゃダメだろ。・・・明日からな」と
言った。はるが笑いながら「亮介のことだから部活に出ろって言ってくるかと思ったよ」と言ってきたので俺は「はるが俺に
告白してくれた時に俺が返した言葉、忘れたの?」と言った。はるが「えっと、これからは部活の後輩としてじゃなくて女として
見るって・・・あ、そういうこと?」と言ってきたので「そうだよ。彼女が俺のために無理して時間を作ってくれることに対して
反対するなんてかっこ悪いだろ?部活の先輩としては部活には出てほしいけどな」と言った。はるは笑いながら「もう。そこまで
考えてたの?」と言ってきたので俺は「いや、そこまで考えてなかった。単純に嬉しかったからさ」と言ってお互い笑い合った。
はるが「デートなんだけどどこ行こうか?あ、もしかして亮介のことだからデートプランとか考えてるの?」と言ってきたので
俺は「いつもならそうしちゃうんだけど、俺のデートプランって成功しないじゃん。だから今日は何も考えてないよ、ごめんね」と
言った。はるは「そっか、謝らなくてもいいのに。じゃ、近くの大きな駅でプラプラして何か探そうか」と言ってきた。なので
「うん、俺もそんな感じでいいかなって思ってた。あ、ちなみに今日はディナーくらいまでは一緒にいたいなって思うんだけど
平気かな?」と言った。はるは「うん、大丈夫だよ。親に連絡しておくね」と言った。俺が「とりあえずお昼でも食べに駅の方に
行こうか」と言うと「うん、そうだね。あ、クリスマスだからって気合の入れたものを食べようなんて考えなくていいからね?」と
はるが言ってきた。高校生だからそんな高級なお店に行けるわけはないしな、と思い「じゃあ、牛丼でも・・・」と言うとはるが
「牛丼はおいしいから食べたい気持ちはわかるけど、もう少しゆっくりできるところがいいな」と言ってきた。なので「はいよ。
じゃあファミレスでも行くか」と言うと「いいね。それくらいの気楽さでいいんだよ」と言ってきた。「それにファミレスの中で
どこに行くか話せばいいしね」とはるが続けてきたのでよく考えてるな、なんて思った。そして俺とはるは駅の近くにある
ファミレスへと向かった。クリスマスということもあってファミレスも少し混んではいたが、待たずに座れた。そしてご飯を
食べながらどこに行こうかと話をしているとはるが「別にクリスマスだからって特別な場所ばっかり行かなくてもいいと思うの。
テーマパークに行ったりとかそんなんじゃなくて、普通のデートをしよ?」と言ってきた。確かに肩ひじを張ってすごいところに
行って楽しめませんでした、じゃ意味はないしそもそも高校生の身分でそんなにすごいところに行けるわけもない。お金だって
限りはあるわけだし。なので俺は「じゃあ、カラオケでも行くか。んでウインドウショッピングしてゲーセンで遊んだりもして、
いい時間になったらディナーに行って・・・」と言ったところで少し止まってしまった。俺としてはイルミネーションを見に行く
ことも考慮に入れていたがそれは特別なことになるのか?なんて思っているとはるが「そんな感じでいいと思うけど・・・
どうしたの?」と聞いてきた。「俺としてはその後少しだけイルミネーションを見るのもいいかな、なんて思ったんだけどこれって
特別なことになるのかな?」と聞くとはるは笑いながら「特別なことはしたくない!って言ったわけじゃないんだから別に少しは
特別なことしてもいいじゃない」と言ってきた。特別なこと、という言葉にとらわれすぎていたようだ。「じゃあ、えっと、
ディナーのあと、イルミネーションでも見に行きませんか?」と言った。はるは笑いながら「はい、喜んで」と言ってくれた。
ファミレスでランチを済ませたのでその後は予定通りに遊んだ。カラオケに行って楽しんだ。はるのために歌えるようになった
曲も何曲かあったので披露するとはるが「もしかして、今日のために練習してくれたの?」と聞いてきた。なので俺は「たまたま
はるに披露するタイミングがクリスマスってだけだよ。俺にはクリスマスを意識しないように、みたいなことを言ってるくせに
自分は意識してるのかよ」と言った。はるは笑いながら「そうだね。でも女の子なんだからクリスマスを意識してもいいじゃない」
と言ってきた。いつもの俺ならここで裏を読んでつまりはクリスマスだから意識せずにかっこいいことをしろってことか?などと
考えてしまったかもしれないが裏を読みすぎるといいことはないと学んだので今日は「そうだね」と返すだけで終わった。
そしてカラオケを終えてウインドウショッピングをしていると、ふと可愛いネックレスが目についた。値段を見るとそれほど
高くはない。これははるに似合うかもしれないな、と思いながらぼーっと見ているとはるが「どうしたの?」と聞いてきた。
なので俺は近くにいた店員さんを「すいません」と呼んだ。店員さんが近づいてきたので「このネックレス、この子につけて
みたいんですけどいいですか?」と言った。はるはえ?どういうこと?と言った様子でこちらを見ていたが俺は意に介さなかった。
そして店員がはるにネックレスをつけた時点で俺は「うん。やっぱりよく似合うな」と言った。はるは驚いた顔をしながらも
「あ、このネックレスが私に似合うかもって思って見てくれてたの?でも、ちょっと恥ずかしいな」と言ってきたので俺は店員に
「すみません、このネックレスください」と言った。はるは驚いて「ちょっとちょっと、何言ってるの?」と言ってきた。だが俺は
反応せずに店員さんとのやりとりを続けた。はるが「あ、もしかしてクリスマスだからって私にプレゼントをしようと
思ってるの?」と言ってきた。俺はそれも聞かずにネックレスの購入を済ませた。そしてはるに「そのネックレス、俺のなんだ
よね。だから俺がどうするかは俺の自由だよな?」と言った。はるは「あ、そうだね。じゃあ外すからちょっと待ってね」と言って
きたので俺は「かっこいい渡し方はできなかったけど、俺からのクリスマスプレゼントだよ。できればもらってほしいんだけど
どうかな?」と言った。ネックレスを外そうとしたはるは驚いた顔をして「え、いいよ。亮介のでしょ?亮介が大事にすれば
いいじゃん」と言ってきたので俺は「だから、さっき聞いたじゃん。俺のネックレスをどうしようが俺の自由だよなって。そしたら
はるはそうだねって言ったよな?じゃあ俺の自由だな、もらってくれる?」と言った。はるは「もう。そういうところが好き。
一生大事にするからね」と言って抱き着いてきた。なので俺が「ごめんね。ネックレス返そうとしてたけど気に入らなかった?」と
聞くと「そんなわけないじゃん。私の好きなデザインだし、好きな人からもらったものだよ?最強だよね」と言ってきた。俺は
あげて良かったな、と思った。そしてはるは俺から離れると「本当はこのタイミングじゃない時に渡そうと思ったけど・・・」と
言ってカバンからブレスレットを取り出した。だが同じものが二つ入っていたので俺が「あれ?同じのが二つ入ってるよ?」と
言うと「そりゃカップルなんだからブレスレットくらいお揃いでもいいでしょ。嫌だった?」と言ってきたので今度は俺の方から
はるに抱き着いて「嫌なわけないじゃん。一生大事にするよ、ありがとう」と言った。そして顔を見つめ合ってお互い笑った。
そしてウインドウショッピングが終わったあとはぶらぶらとしていた。ゲーセンで少し遊んだりしているうちに良い時間になった。
なので俺は「はる、ディナー行かない?」と言った。はるは笑って「夕飯、でいいしょ。ディナーとかかっこつけすぎだよ」と
言ってきた。なんだよ、と思いながらもディナーの場所はざっくりと決めていた。近くにあるイタリアンのお店だ。イタリアンなら
落ち着いて食べられるだろうし緊張もしないしいいだろうと思った。そしてはると一緒に向かった。クリスマスなので少し待つかと
思ったが混む前の時間だったようですぐに座ることができた。そしてイタリアンを食べながらはると話をした。そこで俺は覚悟を
決めて言ってみた。「はる、俺の部活引退の日に告白をしてきてくれて本当にありがとう。告白してくれた時、正直迷っていた。
俺とはるはあと少しで学校もわかれてしまうし、はるは俺の部活での姿に惚れて告白をしてきてくれたのだと思ったから」。はるは
「じゃあ、なんであの時OKしてくれたの?」と聞いてきた。俺は「だって、はるのこと好きだったから」と言った。はるは
「え?じゃあなんで迷ったなんて言ったの?」と聞いてきた。なので俺は「どんな迷いがあっても好きだってことだよ」と言うと
はるは笑って「それにしては私の告白にフェイクかけたりしてたくらいだから冷静っぽかったけどね」と言ってきたので俺は
「あれが素なんだよ。めんどくさい男でごめんな」と言った。はるが「で?じゃあ今は私のことは好きなの?」と聞いてきたので
「当たり前だろ。今は、じゃなくてずっと、だけどな」と言った。はるは笑いながら「その点は私も一緒だよ。ずっと愛してるよ、
亮介」と言ってくれた。俺とはるの心は初めて完璧に通じ合った。そしてディナーを終えた後、外に出てイルミネーションのある
広場へと向かった。そして二人でイルミネーションを見ていた。きれいだな、なんて思っているとはるが「あ、ねえ亮介。
さっきご飯食べてる時に亮介が一つだけ間違ってたの」と言ってきた。なにか間違ったのか?と思い「何が?」と聞くとはるは
「私が亮介を知ったのは部活でだけど、好きになったのは部活での姿じゃなくて部活外でもかっこよかったからだよ」と
言ってきた。思い当たる節はないがそんなことを言われたら照れる。
クリスマスから数日後、年末の時期ということもあり学校もないし俺は家でゆっくりと勉強をしていた。すると雅之から「少し
話したいことがあるから遊ばないか?」と連絡があった。たまの息抜きであれば問題はないし俺も誰かと話したい気分だったので
ちょうどよいな、と思い了解の返事をだした。すると雅之から「じゃあ、俺の家に来てくれない?」と来たので俺は雅之の家へと
向かった。ほどなくして着いたのでチャイムを鳴らすと雅之が出てきた。そして家の中に通され、雅之の部屋に着いた。雅之は
「最近、勉強の調子はどう?」と聞いてきたので俺は「すごく順調ってこともないけどダメなこともないよ。このままいけば大学は
問題ないかもしれないな」と言うと雅之は「良かったな。俺も応援してるから頑張れよ」と言ってきた。だがまさかこのことのため
だけに俺を呼んだわけはないよな、と思い「で?話したいことって何?」と聞いた。すると雅之は「あのさ。はるちゃんからみくの
こととか聞いてる?」と言ってきた。なので俺は「いや?何も聞いてないよ?なんで?」と答えると雅之は「そうか。こないだ
クリスマスだったじゃん。俺、考えていたことが全然できなくてさ。みくは楽しめなかったんじゃないかと思って」と言ってきた。
俺が「成程な。それで心配になったってことね。本人に直接聞けばいいじゃん」と言うと雅之は「聞いたよ。でも楽しかったとしか
言ってこなくてさ」と言ってきたので俺は「じゃあ、楽しかったんじゃないの」と言うと雅之は「お前とはるちゃんはすげー順調に
付き合えてるからそんなこと思わないかもしれないけどさ・・・俺とみくは付き合いたてだから不安なんだよ」と言ってきた。
そのことをみくちゃんに伝えるだけでだいぶ仲良くなれそうな気もするけどな、と思いながらもこういう時は話を聞いてあげるのが
一番だと思い「で?具体的にクリスマスはどんなことがあったの?」と聞いた。雅之は「長くなって悪いけど聞いてくれよ。まずは
ちょっと高いレストランでランチでも、と思ってたんだけどすっごく混んでてな、一時間くらい並んじゃったんだよ。その後は
ウインドウショッピングに行ったんだよ。で、俺としてはそこでさりげなく前から見ていた店に行って、みくが喜ぶプレゼントを
買ってあげるつもりだったんだけど行ったら俺がいいと思ってたネックレスが売り切れててさ。取り急ぎで別のものを買ったけど
喜んでくれたかわかんないし。その後はカラオケとかで遊んだんだけどクリスマスっぽいことした方が良かったのかな、なんて
思ってな」と言ってきた。俺が「クリスマスっぽいことって何?」と聞くと「そりゃ、テーマパークに行くとかさ」と言ってきた
ので「クリスマスは学校が午前中まであったんだからテーマパークってテンションでもなかったじゃん」と言うと「だって他に
場所が思いつかないんだよ。お前はどこ行ったの?」と聞いてきたので俺のクリスマスの話をすると「すげえな。それで
はるちゃんは喜んでくれたの?」と聞いてきたので「はるは楽しかったって言ってくれたよ?それに俺の場合は気取るなって
はるから釘刺されたくらいだからな」と言うと「そうか。いい付き合い方してるんだな。あ、俺もイルミネーションは見に
行ったよ」と言ってきた。なので俺が「じゃあ十分じゃないの?」と言うと雅之は「でも、そこでみくちゃんがすごく寒そうに
しててさ、無理して連れてくるべきじゃなかったかななんて思ったんだよ」と言ってきた。気にしすぎなような気がするけどな、と
思ったが「まぁとりあえずわかったよ。はるにみくちゃんがなんて言ってたかとかは聞いておくからさ」と言うと雅之は「助かる。
もし何かあったら教えてくれ」と言ってきた。そしてそこからは普通に友達同士でゲームをしたりして遊んだ。いい時間になった
ので「そろそろ帰るわ」と言って俺は雅之の家を出た。そして帰りの電車に乗っていると電車の中に見かけたことのある人影が
いたので声をかけてみることにした。「あれ?みくちゃん、どうしたの?」。みくちゃんはびっくりしたような顔をして
「亮介くん。あ、こんにちは」と言ってきたので「今、雅之の家で遊んできたところなんだよ。みくちゃんはどこか行ってたの?」
と聞くと「うん、友達と遊びに行ってたの。で、一駅だけなんだけど寒いから電車使っちゃった」と言った。次の駅まで短い時間
だが今日のことを少し話してみた。「雅之が、みくちゃんとのクリスマスデートに失敗したって言ってたよ」と言うとみくちゃんは
「え?そんなことないよ?すごく楽しかった」と言ってきたので今日聞いたことを話すとみくちゃんは「確かにご飯を食べる時は
少し待ったけどクリスマスだからしょうがないな、って思ったし、プレゼントは素直に嬉しかったな。イルミネーションは確かに
寒かったけどクリスマスにしか見れないものだし、私が寒そうにしてたら雅之が肩を抱き寄せてくれたから嬉しかったのに」と
言ってきた。みくちゃんは失敗だなんて微塵も思ってないんだな、と思い「その話、雅之にしてあげたほうがいいかもな」と俺が
言うとみくちゃんは「少し恥ずかしいけど、こんなことで心配されても嫌だから言うね。ありがとう。あ、駅に着いたからまたね」
と言ってみくちゃんは降りて行った。うまくいけばいいな、と思い俺は家へと帰った。そして家に着くと雅之から連絡が来ていた。
「お前、今日の話を全部みくにしただろ」と来たので「したよ。そっちのが早いだろ?」と返すと雅之から「プライベートな話を
勝手にするなとか普通なら言うところかもしれないけど、今回は助かったわ。ありがとな」と来た。世話の焼けるやつだ。
「初詣、どこに行こうか」とはるに連絡した。今日は大みそかだ。今までは初詣に行くことはなかったが、大学受験を控えた今、
しかも彼女ができたのだから少しだけ神様の力を借りてもいいかな、と思っていた。神にお願いをする、という名目のデートだな。
はるからは「え?初詣行くの?」と連絡がきた。なので俺は「折角彼女がいるから一緒に行けたらいいな、なんて思ったんだ
けどな」と連絡すると「私、あんまり初詣は行ったことないよ?大丈夫?」と来たので「初詣で失敗とかないだろ。俺とはるの
家の間だったら稲荷神社ってところがあるみたいだけど、明日どうかな」と誘ってみた。はるから「うん、わかった。明日、
楽しみにしてるね」と来た。よし、誘うのに成功したぞ、と思いその日は年明けまで起きていた。親とリビングでぼーっとテレビを
見ながら年を越した、という感じではあったが。そして翌日、稲荷神社へと向かった。着くとはるの姿があった。はるとは
年を明けて直接挨拶は当然初めてなので「遅れてごめんね。あけましておめでとう」と言うと「遅れてないよ。あけまして
おめでとう」と返ってきた。稲荷神社はそこまで大きな神社ではないので参拝客はパラパラとしかいなかったが、むしろ空いていて
助かるな、と思いはると一緒に神社の中を歩きながらお賽銭箱の前まで行った。そこまでの間でお互いの服装について少し話し
合った。「亮介のことだから着物でも着てくるのかと思っちゃった」とはるが言ってきたので「少し考えたんだけどさ、そもそも俺
着物なんて持ってないし、じゃあスーツか?とか思ったけどスーツだって持ってないんだよ。だから神様に失礼にならないように
ジーパンだけは避けて、あとは大人しめの色で揃えたんだよ。はるこそ神様の前に立つんだから振袖とかじゃないの?」と言うと
「振袖ってそもそも神様の前で着るのかな?どんな時に着るかわかんないんだもん。それに初詣なんてあんまり行ったことないって
言ったでしょ。気合入れた格好していって自分だけ浮いたら恥ずかしいじゃない。だから普通の格好してきたけど、亮介と同じで
私もスカートやジーパンは避けて大人しめの服にしたよ。あと髪も少しあげたしね」と言ってきた。まあ昨日決めたことだから準備
なんてできるわけないよな、と思い俺は「じゃあ、いつかは二人で調べてきちんとした格好で来ような。もっと事前に準備してさ」
と言った。はるが「そうだね。でも来年すぐにってのは少し怖いかな。ネットで初詣のことは調べたんだけどさ、現地がどうなのか
は行ってみないとわからないでしょ?ここの参拝客の中に着物の人はまばらにいるけどね」と言ってきたので「それはつまり再来年
までは最低でも俺と付き合ってくれるってことでいいんですかね?」とニヤニヤしながら言うと「もう。当たり前でしょ。それとも
亮介は別れたいの?」と言ってきたので俺は「いやいや、そんなことはないよ。そう思ってくれてありがとうね」と言った。そこに
着物の老夫婦が歩いているのが見えたので「そうだな。あの老夫婦みたいになれたらいいかもね」と言った。はるが「え?それ
ってつまり・・・」と言って下を向いた。俺としては「老夫婦みたいに二人で着物を着れたらいいね」という意味で言ったのだが
何かはるの様子がおかしかったので少し考えてみた。そして気づいた。「あ、えっと」と口ごもっているとはるがこちらを見て
来たので俺は最初に自分が意図していた意味とは変えて「あんな風におじいちゃんおばあちゃんになるまで一緒にいれたら幸せだ
もんな」と言った。はるは抱き着いてきて「うん、これからも長いことよろしくね」と言ってきた。俺は少し焦って「ちょっと、
ここは神様の前なんだから」とわけのわからないことを言ってしまった。はるは俺から離れてくすくす笑いながら「あ、いつもの
TPOってやつかな?神様の前でいちゃついてはいけない、なんてTPOは知らなかったけどね」と言ってきた。多分そんなTPOはない
だろうな、と思っているうちにお賽銭箱の前に着いた。そしてお賽銭を入れようとするとはるが「ねえ、いくら入れるの?」と
言ってきたので「お金の話をあんまり外でするなよ。あ、でも10円だけ入れるのはやめた方がいいらしいよ」と言った。
「なんで?」とはるが聞いてきたので「言葉遊びなんだけどな、10ってとおって言うだろ?円をつけたらとおえん、つまり縁が
遠くなりますって意味があるんだとか」と言った。「へー、そんなのがあるんだね。亮介って初詣上級者?」と言ってきたので
「たまたま昨日調べたら書いてあっただけだよ。初詣初心者だっての」とお互い笑い合った。「じゃあいくら入れたら
いいのかな?」と聞いてきたので「神様への気持ちだからいくらでもいいんだよ」と話してお賽銭を入れた。そしてはるに、
二回手を叩いて最後にもう一回だけ頭を下げるんだよ。やってみようぜ」と言ってやってみた。はるはよくわからないと言った
顔をしていたが俺の指示に従ってやった。そして終わると俺に「さっきのってなんだったの?」と聞いてきた。
「二礼二拍手一礼って言うんだよ。神様にお祈りするときはこうやってやるのが正しい方法なんだって」と俺が言うと
「そうなんだ。亮介ってなんでそんなこと知ってるの?って・・・なんだってってことは誰かから聞いたの?」とはるが聞いて
きたので「相変わらず言葉の端を捕えるのがうまいんだから。そうだよ、昨日調べたんだよ」と言いながらはるに向かって手を
差し伸べた。はるは俺の手を掴みながら「じゃあ亮介も知らなかったんだね。あ、ここで手を差し出すのにも何かあるの?」と
言ってきたので「俺が神様へのお参りの仕方に詳しいわけないだろ。ここで手を差し出したのはその・・・」と言った。はるが
「ん?何かあるの?」と聞いてきたので「俺の女神さまと触れ合いたかったからだよ。言わせんな」と顔を赤らめながら言うと
はるは少しおどけた様子で「ん?その顔が赤いのも何かあるの?」と聞いてきた。俺は「わかってるくせに聞くなよ。でも、
俺たちが神様を大事に思ってますよって言うのは伝わったかな」と言うと「きっと伝わったよ。少なくとも女神にははっきりと
伝わってるしね」と言ってきた。なので俺は話を変えようと「そうだな。大体神様からしたら知らない人が
突然来て、少し感謝してなんかお願いしていくんだよ?ちゃんとしたやつを助けてあげたいっておもうのが神情じゃん」と言うと
「ん?神情ってなに?」と聞いてきたので「いや、人情じゃんって言おうとしたけど神様は人じゃないよなって思ったからさ」と
言うと「亮介、細かいところにこだわりすぎだよ。それを言い出したらどんな人でも平等に救ってあげるのが神様なのかもよ?」と
はるが笑いながら言ってきたので「そりゃそうだな。まぁでもきちんとしておいて悪いことはないだろ」と言うと「そうかもね。
ちなみに亮介は何をお願いしたの?」と言ってきた。俺は「願い事を人に話すと叶わなくなるって言う人もいるし関係ないって
人もいるんだよな。まぁでもさっきの話通りだとしたら神様はみんな叶えてくれるだろうから言うわ。そりゃ大学合格だよ」と
言った。はるが「あ、私と同じだね。私も亮介の大学受験が成功しますようにってお願いしたよ」と言ってきた。なので俺は
「部活で勝てますように、とかじゃなくてよかったの?」と聞くとはるは「折角初詣なんだよ?一番叶えたい願いをお願いするに
決まってるじゃん。部活で勝ちたいだって願いだけど、私にとっては二番目なの」と言ってきた。俺が「はるにお祈りまでして
もらったんだから大学受験は頑張らないとな」と言うと「プレッシャーには感じないでね。別に落ちたって嫌いになったりしない
からね」と言ってきた。俺は「ありがとな。まあでも落ちないんだけどな」と笑いながら言った。そして「ちなみにさ、俺とはるの
仲がずっと続きますようにってお願いとかは考えなかったの?」と俺が聞くとはるが「それは亮介だって同じでしょ?でもそれに
ついては私亮介と同じ考えだからお願いしなかったんだと思うけどな」と言ってきたので「じゃあ、なんで願わなかったか同時に
言ってみようか。せーの」。「決まっていることを願うのはおかしいから」二人で笑い合った。
初詣を終えた帰り、神社でおみくじが売っていた。「お、おみくじ売ってるじゃん。今年一年の運勢はどんなもんなのか確認したい
から一緒にやっていこうぜ」とはるに言うとはるは「いいね、やろっか。絶対負けないからね」と言ってきた。おみくじに勝ち負け
とか存在しないだろうと少し笑いながらも二人でおみくじを買った。すぐには見ずにお互い手のひらに隠して、せーので同時に
見ることにした。「せーの!」の掛け声と同時におみくじを見てみた。はるは大吉だった。おお、良かったななんて思ってはるの
顔を見るとはるが驚いた顔をしている。そんなに大吉が珍しいのか?と思って自分のおみくじを見るとそこには「凶」の一文字が。
神社によっては凶を入れないところもあるって聞いたのに珍しいな、なんて思いながらそんなこともあるんだな、と思っていると
はるが「亮介、凶だって。今年一年、大丈夫なのかな?」と聞いてきた。こんなものは運だから、と切り捨ててしまってもよいの
かもしれないがそもそも新年から運がないと言うこと自体があまり良いことではないなと思った。なので「とりあえず、書いてある
ことを一つずつ読んでみよう」と言った。【願い事】に関しては俺のは「叶わず。辛抱せよ」と書いてありはるのには「かない
ます。油断は禁物」と書いてあった。こんな感じで色々と書いてあったがやはり問題となるのは【学問】と【恋愛】だ。どうかと
思い見てみると【学問】は「思わぬ落とし穴あり。精進せよ」と書いてあった。今の方法に問題があるのかと思ったが変なことは
していないし、毎日しっかりとやっているのだから問題はないだろうと思った。落とし穴と言われてもよくわからないので
頑張るしかないな、と思った。そして【恋愛】を見てみた。そこには「動かないほうが良い」と書いてあった。つまりこれから
何もしないほうがいいのか?と思ったが動かないってどうしたらいいんだ?と思い考えているとはるが「あ、亮介のおみくじ、他が
当たってるかはわからないけど恋愛のところだけは当たってそうだね」と言ってきた。どういうことだ?と思いはるに「よく
わからないんだけど、これってどういうことかな?」と聞くとはるは「動かないほうが良いんでしょ?だったら私から動かなければ
いいんじゃないかな」と言ってきた。そういうことなのか?と思ったがおみくじをどうやって読み解くかはこちらの自由なのだから
従っておこう。そもそもはるのそばから動く気はないしね。そしてはるに「はるの方はどうだった?」と聞いてはるのおみくじを
見せてもらった。すると【恋愛】のところに「思いを口にすると吉」と書いてあった。あ、だからさっきのような普段なら言わない
ようなことをわざわざ言ってくれたのか、と思った。そして「おみくじの結果は気にしすぎても良くはないとは思うけど、さっき
みたいに色々言ってくれたほうが嬉しいかも」と伝えるとはるは「じゃあおみくじの言う通りじゃん」と言ってきた。まぁそうか、
と思いはると歩き出した時、はるの手がすごく冷たくなっていた。「はる、手がすごく冷たくなってるけど大丈夫?」と俺が聞くと
「私、冷え性だからさ。いつもは手袋してるけどさっきおみくじ見てたから手袋外しちゃったの。今つけるから」と言って俺の
手を離そうとしてきたのではるに「俺の手はあったかくない?」と言った。はるは「うん、亮介の手はあったかいね。いいな」と
言ってきたので「なんでかわかるかな?」と聞くと「え?冷え性じゃないからじゃないの?」と言ってきたので「違うよ。はるの
手を温めるために俺の手はあったかいんだよ」と言った。はるはにやりと笑って「そんなセリフ、今まで付き合ってきた子に言って
きたんでしょ」と言ってきたので「そこまで節操はないつもりだけどな」と言った。はるは笑って「そういうところが大好きだよ」
と言ってきた。幸せな初詣だったな。
時期は二月中旬だ。二月にはカップルにとっての一大イベントが存在する。そう、バレンタインだ。はると付き合ってから初めて
バレンタインを迎えるが、さすがにもらえないということはないだろう。手作りチョコとかかな?と期待している自分がいる。
そして二月十四日は登校日だったのでちょうどよかった。学校に行き、普通に過ごして帰る時にバレンタインのチョコをもらえる
だろうな、と考えていた。別に甘いものが特別大好きだとかそんなことはないが、嬉しいことに違いはない。バレンタインとは
チョコをもらえるというイベントではなく愛を伝えてもらえるイベントなのだと思っていた。早く来ないかな、と考えているうちに
あっという間に二月十四日になった。俺は学校に着いてからずっとソワソワしていた。教室に着くと雅之が「今日はバレンタイン
だな!たくさんもらえるかな?」と言ってきた。俺は「お前はみくちゃんからもらえればそれでいいだろ」と言った。雅之は
「そりゃそうだけど、たくさんもらえたらなんか嬉しいじゃん」と言ってきた。気持ちはわかるけどな、と思いながらもあっと
いう間に放課後になった。今日ははるが部活の日なので俺は体育館へと向かう。そしていつも通り部活を眺めていた。すると後輩の
女の子たちが近づいてきた。なんだ?と思っていると「はるに嫉妬されちゃうかもしれないけど、完全に義理なので気にしないで
ください!感謝の気持ちとして部の女子からのチョコです!」と言ってチョコを渡された。さすがにここで受け取らないという
わけにはいかないので「ありがとうね。あ、でも完全に義理だ、とか言わないでいいよ」と言って受け取った。可愛い後輩たちから
こうやってプレゼントをもらうのも悪くはないな、と思いながら部活を見ているうちに部活が終わった。そしてはると一緒に
帰ることになったが、ここで自分からはるに「バレンタインだよ」なんて言うとかっこ悪いな、と思い黙っていることにした。
いつも通りの会話をし、いつも通りに過ごしていた。そして駅に着いてはると別れる時だ。このタイミングでチョコを渡してくる
のかな、と思い足を止めたがはるは全く意に介さない。おいおい、このタイミングで渡さないとおかしいぞ、と思ったが俺から
それを言うのはやはりおかしい。そして電車に乗ってはるの最寄りの駅まで着いてしまった。はるはじゃあね、と言って降りて
しまった。俺はやはり悲しかった。後輩の女の子からチョコはもらったがあくまでもサービスのものだ。やはりバレンタインなの
だからはるからチョコをもらいたかった。もし頼めばはるも気づいてその場でチョコを用意するくらいしたかもしれないがそれでは
俺の気持ちが満足しない。俺への愛情表現の一つとしてチョコという形にしてほしかったのだ。とはいえはるはもういなくなって
しまったしこれからはるを追いかけるわけにもいかない。俺は大人しく家へと帰ることにした。家に着いて今日のことを少し悲しく
思いながらも親にそんなところを見られては突っ込まれるだろうな、と思い明るい姿を見せた。そして一時間ほどすると俺の
スマホが鳴った。なんだ?と思って見てみるとはるからの電話だ。電話なんて珍しいな、と思い電話に出るとはるから「今、亮介の
家の近くにいるんだけど出てこれないかな?」と言われた。時間は夜八時くらいだ、あまり女子が一人でふらふらとしていい時間
ではないだろうと思い俺は慌てて外に出た。そして少し歩いたところではるを見かけた。「はる、こんな時間にこんなところで
何してるの?」と俺が聞くとはるが「あ、亮介。こんな遅くにごめんね。でも今日じゃないと意味がないから」と言って俺に
チョコを渡してきた。俺は驚いた。なぜこのタイミングなんだ?と思いはるに「ありがとう。でも、なんでこのタイミングなの?」
と聞いてみた。はるは「だって学校にお菓子持っていくのってなんか悪い気がしない?」と言ってきた。高校生にもなって律儀
すぎるだろ・・・と思ったがそこには触れなかった。せっかくチョコをくれたのだからその思いを消したくはなかったから。
俺は「そっか、ありがとね」と言ってはるに抱き着いた。はるは慌てた口調で「ちょっと、ここ亮介の家の近くだよ?いいの?」と
言ってきた。なので俺は「本当なら恥ずかしいんだけど、でも嬉しさには勝てなかった」と言った。はるは「そっか、そこまで
喜んでくれたなら渡した甲斐があったかな」と言った。そしてはるは「あ、ちなみにだけど他の女の子からチョコもらったり
した?」と聞いてきた。部活の後輩の女の子たちからもらったがここでモテ自慢をしても意味はないよな、と思い「いや、もらって
ないよ?」と言うとはるは「そうなんだ。亮介ってこういう時に嘘をつくんだね」と言ってきた。嘘だってなんでバレたんだ?と
思ったが仕方がないので正直に「わかったよ、正直に言うよ。部活の後輩の女の子たちからもらったよ」と言った。するとはるは
「なんで嘘ついたの?」と言ってきたので俺は「彼氏が他の女からチョコをもらったなんて嬉しいもんじゃないかなって思った
からだよ」と言うとはるは「そういう風に考えるんだね。あ、一応言っておくけど私も後輩の女の子だからね?」と言ってきた。
そりゃ後輩同士で俺にチョコをあげようって話になってればはるにだって話は伝わるか、と思った。はるは続けて「他には
もらった?」と聞いてきた。なので正直に「いや、本当にもらってないよ。嘘ついたからどうやって証拠を見せればいいか
わかんないけど」と言うと「証拠を見せようと考えた時点で嘘じゃないってわかるよ。それに別に他の子からもらったって
いいしね」と言ってきた。俺は「そうなの?」と聞くと「だって亮介の心は私がもらってるから」と言ってきた。
現在日時は三月六日、大学の合格発表の日だ。
俺が受験した大学へ、合否の結果発表を確認しにいくところだ。
周りは俺と同じような人たちばかりなのだろう、一人で来ているものもいれば、親と一緒にきているものもいる。
俺は一人で来ている。大学の合格発表に親を連れてくるなんてかっこ悪いと思ったからだ。
さて、大学に到着した。もうすでに合格発表がされているらしい。
落ちてしまったのか泣いている人、受かったのか大はしゃぎをしている人などそれぞれである。
さて、掲示板の前に到着した。
ここで、今回の自分の状況について一度整理しておこうと思う。
まず、大学だが俺が受験した大学はこの関東大学だけだ。
普通といってはおかしいが、いくつか大学を受験しないのか?と思う人もいると思う。
しかし、俺はこの関東大学にいる教授が行っている講義に興味があるため、この大学を選んだのだ。
正直言って、他の大学であれば行く必要はないと思っている
そして受験した時の手ごたえについてだが、正直自信はある。
自己採点の結果、7割以上は取れていると思えたのだ。7割取れていればそうそう落ちることはないだろう。
というわけでいざ、掲示板の前へ。俺の受験番号である71番の数字を探す。まぁあるだろうが。
ずっと見ていくと60番台が乗っている。そろそろだな、と思い目を滑らせていく。
68、70、73・・・おや?見逃してしまったか?改めて確認をしてみる。
しかし、俺の番号は存在しない。念のため他のところも確認してみるがやっぱり存在しない。
俺が落ちた?7割以上取れていると思ったのに?他の人たちの成績がそんなに良かったのか?
そう考えていると、大学の職員らしき人がメガホンを持って何かを案内している。
「えー、今年はですね、問題用紙に名前を書いていない人がたくさんおりました。その方は申し訳ありませんが不合格とさせていただいております。」
名前の書き忘れ?まさかそんな・・・。と思いながらよくよく思い返してみると、確かに名前を書いた記憶がない。
だが名前を書くことなどいちいち覚えているはずがないのだからそれくらい当たり前だろうとも思う。
とはいえ俺は落ちた・・・そして名前未記入者が多いというアナウンスまである・・・。そんなばかなと思っていると、
また新たに大学職員が紙をもってやってきた。
その紙が掲示板に張り出される。どうやら今回の受験結果の平均点などをまとめているもののようだ。
普通ならばそんなことをしないだろうが、名前未記入者が多かったので点数を公開したのだろう。
そこを見ると、合格ラインは64点と書いてあった。64点が合格ラインならば、俺は受かっているはず・・・。
なのに番号がない。つまり俺は名前を書き忘れたのだろう。
そんなことで落ちるなど・・・。落ち込みながらも大学を去る。
来年は名前をきちんと書こう。そう思いながらもやはり気分は落ち込む。
親になんて説明すればいいのだろうか。自己採点結果では受かった、などと吹聴してしまっている。
そんなことを考えながら歩いていると、近くに一つの公園があった。
気分を晴らすために少し公園にでも寄っていくか、と思い公園の中へと入る。
すると、近くのベンチに座っているおじさんがいた。
俺もベンチに腰掛けてみる。するとそのおじさんが声をかけてきた。
「受験生の方ですかな?」
俺は少し驚きながらも返事をする。
「はい、そうです。」
おじさんがこちらをじっと見た後、また口を開く。
「見たところによると・・・結果はよろしくなかったようですな。この度は残念でしたね。」
そんなに落ち込んでいるように見えたか?と思いながらも、俺も口を開く。
「ええ、まぁ。自分では受かっていると思ったんですけどね。どうやら名前を書いていなかったようで・・・。」
と話していると自分の目から冷たい何かがあふれてきた。涙である。
落ちたことによるショックは。人に話すことで自分の心に刺さってきたのだろう。
涙をぬぐいっていると、またおじさんが口を開く。
「それは残念でしたね。まぁ大学受験は人生に一度きりではありませんから、来年また頑張ってください。
ちなみになぜ大学へ行こうと思ったのですか?」
このおじさんは初対面なのに色んなことを聞いてくるな、と思いながらも傷心の俺は話しを続ける。
「大学で学びたいことがあったのです。芥川龍之介についてなんですが・・・。」
するとおじさんが
「ほう。となるとあの大学ですから・・・北村教授から教えてもらおうと思ったんですね?」
と言ってきた。
なんだこのおじさんは、やけに大学のことに詳しいなと思いながらも「ええ、そうです」と答えた。
するとおじさんは、「たけし・・・あ、いや君がわかるように言うと北村教授とは古い知り合いでね」と言った。
これには俺も驚いた。大学受験の帰りにたまたま寄った公園で、俺が学びたいと思っていた教授の知り合いに会うとは・・・。
俺が驚いているとそのおじさんが続ける。
「北村教授であれば芥川について詳しく教えてくれるでしょう。ぜひ来年は頑張ってください。
くれぐれも、名前の書き忘れはしないようにね。」
きっと北村教授と俺には何か縁があるに違いない。そしてこのおじさんはその縁を結んでくれる人なのだ。
そんなことを考えていると笑みがあふれてきた。大学に今年受からなかったことは確かにショックだが、
こうして北村教授と縁のあるおじさんと知り合うことができた。それだけでも今日来た意味があったのではないか。
しかし、今日は平日。普通の人ならば働いている時間である。そんな時に公園におじさんが一人座っている・・・。
ふと気になり、おじさんに尋ねてみた。
「おじさんは、ここで何をしていたんですか?」
するとおじさんが話し出した。
「私も関東大学で教授をしていてね。私の専門は夏目漱石なんだが・・・。」
驚いた。この人も教授だったのか。しかも関東大学の。確かに教授ならばこの時間に外をふらついたとしてもおかしくはないかもしれない。
おじさんが続ける。
「私も北村教授もお互いに個人で勉強を続けていたんだけどね、たまたま同じ大学から声がかかってね。
私も大学で北村教授を見た時は驚いたよ。なぜお前がここにいるんだってね。」
なんということだろう、このおじさんは北村教授の知り合いというだけでなく、俺が行きたい大学の教授だったとは・・・。
こんな偶然があるかと思いながら、俺は少し図々しいお願いをしてみることにした。
「そうなんですね、びっくりしました。一つお願いがあるのですが・・・。来年必ず関東大学に受かりたいので、
少し俺の勉強を見てもらえませんか?」
普通の人ならこんなお願いはしないだろう。ただ俺は受験生であり、しかも失敗した身なのだ。
それにもしここで断られたとしてもこのおじさんに会うのは早くても来年のことになるだろうからという思いも俺の気持ちを
強くした。するとおじさんが口を開いた。
「成程・・・。ここで北村教授から勉強したいと思う君に出会ったのも何かの縁だ。私としても
君には是非とも来年関東大学に来てもらいたいから勉強を見てあげたいとは思う。ただね、私はこれでも教授なんだ。
人に勉強を教えることでお金をもらっている身なので、ただでというわけにはいかないな。」
当然といえば当然である。大学教授ともあろう人に勉強を教えてもらうことなど簡単なことではない。
普通に予備校などに通えばそれなりにお金はかかるのである。そう考えているとおじさんが続けて話し出した。
「条件は二つある。一つは芥川だけでなく、夏目漱石についても勉強をすること。
私としても夏目漱石のことに詳しい若者が増えるのは嬉しいからね。」
それなら、と思い俺が承諾しようとしたが、もう一つの条件を聞いていない。
きっと高額を言われるのだろうと思いおそるおそる聞いてみた。
「わかりました。それでもう一つの条件とは?」
するとおじさんがにっこりと笑いながらこう言った。
「来年、君が合格した時の喜びの顔を私に見せることだ」
大学受験に失敗したことを親とはるに伝えなくてはならない。身内に嘘をついてもすぐにばれるし、はるに嘘をついても良いことは
ないからだ。家に帰って親に言う前に、はるに連絡をしてはると会うことにした。高校の前ではるに会った。「亮介、結果は
どうだったの」とはるが聞いてきた。俺は「それが・・・ダメだった」と言った。はるは「そっか。私がいたことで亮介がうまく
勉強できなかったのかな?」と言ってきたので俺は「いや、多分だけど試験は合格できるくらいだったんだよね」と言った。はるは
「え?じゃあなんでダメだったの?」と聞いてきたので俺は大学であったことを話した。するとはるは「そうだったんだね。名前を
書いたかどうかなんて覚えてるわけないもんね。でも大学の教授と知り合えたんだね。不幸中の幸いと言うか・・・だね」と言って
きた。俺は落ち込んでいることを見せたくなくて「まあ来年また頑張るよ!さ、せっかくだからどっか遊び行こうぜ!」と言った。
はるは俺をギュッと抱きしめて「こんな時は強がらなくていいんだよ。無理しないで泣きな」と言ってきた。その言葉を聞いて俺は
「何言ってんだよ!泣くわけないじゃん!」と言いながら泣いていた。はるは俺の頭を撫でながら「うん、来年また頑張ってね。
前にも言ったけど、私はこれくらいで亮介を見捨てたりはしないからね」と言ってきた。俺は年下に慰められるということを
恥ずかしく思い「おい、ここは学校の前だぞ。いつも言ってるだろ、TPOだって」と言うとはるは「うん、彼氏が落ち込んでいる
ときに彼女が慰めてあげるのがTPOだと思ったんだけど、違うかな?」と言ってきた。俺は「そうだな。今回は合ってるよ。でも
学校の前は恥ずかしいから勘弁してくれ」と言うとはるは「そういうところで素直になれるのはいいね」と笑いながら言ってきた。
そしてはるは「私と亮介はこれで同じ学年になるね。私も関東大学を目指そうかな?」と言ってきたので「いやいや。俺の目指す
学部は文学部、つまりはるの苦手な国語専攻だぞ?さすがにきついだろ」と言った。はるは「そうだね。さすがにきついかもね。
でも大学って色んなことを学べるでしょ?亮介と同じ学部は無理かもしれないけど、同じ大学に行くくらいいいかなって」と言って
きた。確かに色んなことを学べるけどな、と思ったが「そんなことで自分の進路を決めていいのかよ」と聞くとはるは笑って
「亮介ってどうやって関東大学を選んだの?」と言ってきたので「そりゃ、俺は芥川龍之介が好きで、好きなことを学べるから
だよ」と言うとはるは「私は亮介が好きで、亮介の近くにいれば亮介のことを学べるからだよ」と言ってきた。ここから俺とはるの
関係性はまた変わっていくだろう。俺は学校に無断では入れないので前のように部活が終わるまで待つということはできなくなる。
でもたまには会いに来ることだっていいはずだ。環境は変わっていっても、はるへの思いだけは変わらない。二人でダメなところは
言い合って成長していこうと思えた。思えばはるとは色々とあった。デートでは失敗ばかりだったが全て笑って許してくれたし、
はるの家に言った時はすごく緊張した。雅之とみくちゃんだって俺たちのおかげで知り合えたわけだし、あの二人もこれからは
無事に成長していくのかもな、と思った。ふと空を見上げると太陽が照り付けてきた。これからも頑張れってことなのかな。