「初詣、どこに行こうか」とはるに連絡した。今日は大みそかだ。今までは初詣に行くことはなかったが、大学受験を控えた今、
しかも彼女ができたのだから少しだけ神様の力を借りてもいいかな、と思っていた。神にお願いをする、という名目のデートだな。
はるからは「え?初詣行くの?」と連絡がきた。なので俺は「折角彼女がいるから一緒に行けたらいいな、なんて思ったんだ
けどな」と連絡すると「私、あんまり初詣は行ったことないよ?大丈夫?」と来たので「初詣で失敗とかないだろ。俺とはるの
家の間だったら稲荷神社ってところがあるみたいだけど、明日どうかな」と誘ってみた。はるから「うん、わかった。明日、
楽しみにしてるね」と来た。よし、誘うのに成功したぞ、と思いその日は年明けまで起きていた。親とリビングでぼーっとテレビを
見ながら年を越した、という感じではあったが。そして翌日、稲荷神社へと向かった。着くとはるの姿があった。はるとは
年を明けて直接挨拶は当然初めてなので「遅れてごめんね。あけましておめでとう」と言うと「遅れてないよ。あけまして
おめでとう」と返ってきた。稲荷神社はそこまで大きな神社ではないので参拝客はパラパラとしかいなかったが、むしろ空いていて
助かるな、と思いはると一緒に神社の中を歩きながらお賽銭箱の前まで行った。そこまでの間でお互いの服装について少し話し
合った。「亮介のことだから着物でも着てくるのかと思っちゃった」とはるが言ってきたので「少し考えたんだけどさ、そもそも俺
着物なんて持ってないし、じゃあスーツか?とか思ったけどスーツだって持ってないんだよ。だから神様に失礼にならないように
ジーパンだけは避けて、あとは大人しめの色で揃えたんだよ。はるこそ神様の前に立つんだから振袖とかじゃないの?」と言うと
「振袖ってそもそも神様の前で着るのかな?どんな時に着るかわかんないんだもん。それに初詣なんてあんまり行ったことないって
言ったでしょ。気合入れた格好していって自分だけ浮いたら恥ずかしいじゃない。だから普通の格好してきたけど、亮介と同じで
私もスカートやジーパンは避けて大人しめの服にしたよ。あと髪も少しあげたしね」と言ってきた。まあ昨日決めたことだから準備
なんてできるわけないよな、と思い俺は「じゃあ、いつかは二人で調べてきちんとした格好で来ような。もっと事前に準備してさ」
と言った。はるが「そうだね。でも来年すぐにってのは少し怖いかな。ネットで初詣のことは調べたんだけどさ、現地がどうなのか
は行ってみないとわからないでしょ?ここの参拝客の中に着物の人はまばらにいるけどね」と言ってきたので「それはつまり再来年
までは最低でも俺と付き合ってくれるってことでいいんですかね?」とニヤニヤしながら言うと「もう。当たり前でしょ。それとも
亮介は別れたいの?」と言ってきたので俺は「いやいや、そんなことはないよ。そう思ってくれてありがとうね」と言った。そこに
着物の老夫婦が歩いているのが見えたので「そうだな。あの老夫婦みたいになれたらいいかもね」と言った。はるが「え?それ
ってつまり・・・」と言って下を向いた。俺としては「老夫婦みたいに二人で着物を着れたらいいね」という意味で言ったのだが
何かはるの様子がおかしかったので少し考えてみた。そして気づいた。「あ、えっと」と口ごもっているとはるがこちらを見て
来たので俺は最初に自分が意図していた意味とは変えて「あんな風におじいちゃんおばあちゃんになるまで一緒にいれたら幸せだ
もんな」と言った。はるは抱き着いてきて「うん、これからも長いことよろしくね」と言ってきた。俺は少し焦って「ちょっと、
ここは神様の前なんだから」とわけのわからないことを言ってしまった。はるは俺から離れてくすくす笑いながら「あ、いつもの
TPOってやつかな?神様の前でいちゃついてはいけない、なんてTPOは知らなかったけどね」と言ってきた。多分そんなTPOはない
だろうな、と思っているうちにお賽銭箱の前に着いた。そしてお賽銭を入れようとするとはるが「ねえ、いくら入れるの?」と
言ってきたので「お金の話をあんまり外でするなよ。あ、でも10円だけ入れるのはやめた方がいいらしいよ」と言った。
「なんで?」とはるが聞いてきたので「言葉遊びなんだけどな、10ってとおって言うだろ?円をつけたらとおえん、つまり縁が
遠くなりますって意味があるんだとか」と言った。「へー、そんなのがあるんだね。亮介って初詣上級者?」と言ってきたので
「たまたま昨日調べたら書いてあっただけだよ。初詣初心者だっての」とお互い笑い合った。「じゃあいくら入れたら
いいのかな?」と聞いてきたので「神様への気持ちだからいくらでもいいんだよ」と話してお賽銭を入れた。そしてはるに、
二回手を叩いて最後にもう一回だけ頭を下げるんだよ。やってみようぜ」と言ってやってみた。はるはよくわからないと言った
顔をしていたが俺の指示に従ってやった。そして終わると俺に「さっきのってなんだったの?」と聞いてきた。
「二礼二拍手一礼って言うんだよ。神様にお祈りするときはこうやってやるのが正しい方法なんだって」と俺が言うと
「そうなんだ。亮介ってなんでそんなこと知ってるの?って・・・なんだってってことは誰かから聞いたの?」とはるが聞いて
きたので「相変わらず言葉の端を捕えるのがうまいんだから。そうだよ、昨日調べたんだよ」と言いながらはるに向かって手を
差し伸べた。はるは俺の手を掴みながら「じゃあ亮介も知らなかったんだね。あ、ここで手を差し出すのにも何かあるの?」と
言ってきたので「俺が神様へのお参りの仕方に詳しいわけないだろ。ここで手を差し出したのはその・・・」と言った。はるが
「ん?何かあるの?」と聞いてきたので「俺の女神さまと触れ合いたかったからだよ。言わせんな」と顔を赤らめながら言うと
はるは少しおどけた様子で「ん?その顔が赤いのも何かあるの?」と聞いてきた。俺は「わかってるくせに聞くなよ。でも、
俺たちが神様を大事に思ってますよって言うのは伝わったかな」と言うと「きっと伝わったよ。少なくとも女神にははっきりと
伝わってるしね」と言ってきた。なので俺は話を変えようと「そうだな。大体神様からしたら知らない人が
突然来て、少し感謝してなんかお願いしていくんだよ?ちゃんとしたやつを助けてあげたいっておもうのが神情じゃん」と言うと
「ん?神情ってなに?」と聞いてきたので「いや、人情じゃんって言おうとしたけど神様は人じゃないよなって思ったからさ」と
言うと「亮介、細かいところにこだわりすぎだよ。それを言い出したらどんな人でも平等に救ってあげるのが神様なのかもよ?」と
はるが笑いながら言ってきたので「そりゃそうだな。まぁでもきちんとしておいて悪いことはないだろ」と言うと「そうかもね。
ちなみに亮介は何をお願いしたの?」と言ってきた。俺は「願い事を人に話すと叶わなくなるって言う人もいるし関係ないって
人もいるんだよな。まぁでもさっきの話通りだとしたら神様はみんな叶えてくれるだろうから言うわ。そりゃ大学合格だよ」と
言った。はるが「あ、私と同じだね。私も亮介の大学受験が成功しますようにってお願いしたよ」と言ってきた。なので俺は
「部活で勝てますように、とかじゃなくてよかったの?」と聞くとはるは「折角初詣なんだよ?一番叶えたい願いをお願いするに
決まってるじゃん。部活で勝ちたいだって願いだけど、私にとっては二番目なの」と言ってきた。俺が「はるにお祈りまでして
もらったんだから大学受験は頑張らないとな」と言うと「プレッシャーには感じないでね。別に落ちたって嫌いになったりしない
からね」と言ってきた。俺は「ありがとな。まあでも落ちないんだけどな」と笑いながら言った。そして「ちなみにさ、俺とはるの
仲がずっと続きますようにってお願いとかは考えなかったの?」と俺が聞くとはるが「それは亮介だって同じでしょ?でもそれに
ついては私亮介と同じ考えだからお願いしなかったんだと思うけどな」と言ってきたので「じゃあ、なんで願わなかったか同時に
言ってみようか。せーの」。「決まっていることを願うのはおかしいから」二人で笑い合った。