「言ってくれたな、お嬢さん?」
別の岩から船に飛び乗って、高いところからユリを見下ろす。
感じの悪い人には見えないけれど、変な人という認識はユリと相違なかったから、下手に庇えない。
それに、こういうときのユリに心配は無用だった。
「変なやつに変なやつって言ってなにか悪いの?」
年の差とか知らない人だとか関係なく、我を貫くのがユリだから。
それより、と用件を話そうとしたユリを遮るように、ガタンと船が揺れる。
「やべえ! いま何時?」
「9時48分」
さっと携帯で時計を確認したユリが答えると、その人は船の後方へと飛び降りて、船体を押した。
少しずつ砂浜をすべって動くけれど、男の人の方もサンダルが砂に飲まれていって上手く足が進まない。
「なあ、ちょっと、そこの少年。押すの手伝ってくれ」
「どうやんの」
さすがの判断力というか、順応力で腕まくりをしたアキラが隣に立つ。
ふたりが船に手を置いて押す前に、男の人の方がわたしとユリを交互に見た。
「乗ってくなら先に上がりな。すぐ動くから」
言われるままにコンクリートの足場から船に乗り込むと、掛け声に合わせて船がガタンと揺れた。
わたしとユリの体重がプラスされてもものともせず、男の人が肩をぶつけると船がふわりと軽くなった気がした。
砂浜を離れて海に浮いている状態なのだろう。
そして、波が引くたびに離れていく。
「悪いな。この船、錨を積んでいないしボラードもこの間壊れたもんだから、乗り上げとかないと動くんだよ」
コンクリートに飛び乗って船に移り飛ぶと、アキラにも手を貸して船に乗せてくれた。
アキラより、そして夏哉よりも高い背丈。
白いトレーナーは脇腹の辺りにペンキがこびりついていて、膝の辺りまで捲りあげたズボンはところどころ解れていた。
もとは藍色らしいスニーカーはくすみ、側面が裂けかけている。
茶色というよりは黒色に近く染まった肌は、どれほど日に当てられたらそうなるのかと問いたくなるほど、綺麗に焼けていた。
船の操縦ができるということは、少なくともわたし達よりは年上なのだと思う。
どの年齢に達すれば免許を取れるものなのかはよく知らないけれど、体格や背格好が高校生には見えない。
「うわ、もう50分なってるし。はよ乗れ。俺が怒られる」
男の人が操縦席に座ったあと、エンジンのかかる音がした。
ひらがなでふりがなの振られた注意書きの紙を見ていると、ユリが隣でしきりに足を気にしていた。
「どうしたの、ひねった?」
「ちがう」
さっきは急かしてしまったし、ヒールで足を挫いていてもおかしくない。
わたしが相手なら強がることは想定内で、ユリの足を見ようとしゃがんだ瞬間、避けるように離れていく。
「ねえ、接着剤ってある? なかったら、新品の靴」
「接着剤なら向こうについたらあるけど、靴はないな。俺の履き潰したのでよかったらその辺に……」
「さいっあく」
縦席の後ろから、舵を握る彼に話しかけるユリの足元をよく見ると、ブーツのヒールが片方折れかかっていた。