「手塚、俺行ってくるわ」
「おう、ちゃんと頑張ってこいよ」
何を頑張るのかわからなかった太一は、とりあえず手塚のエールに手を挙げて応える。そして紗雪の後を追った。教室を出た太一は既に歩き始めていた紗雪の元へ駆け寄る。
「ごめん。すっかり忘れてた」
「高野先生との約束も忘れてたんでしょ」
「あっ……」
紗雪の一言に太一は開いた口が塞がらなかった。
「そ、それより森川は何の用? 先生の所にもいかないといけないんだけど……」
「ついて来ればわかるわ」
淡々と語った紗雪は太一の一歩前を歩いて行く。太一は紗雪の後をついていくしかなかった。
堀風高校の校舎は二つの建物から成り立っている。生徒の教室があるホームルーム棟。音楽室や美術室、理科室といった教室が集約されている特別棟。上から俯瞰すると堀風高校の頭文字である「H」を象徴した造りになっている。太一達はホームルーム棟を離れ、三階にある連絡通路を経由して特別棟に移動した。紗雪の足並みは先程から変わらず、一定の速度で歩き続けている。いったいどこまで行くのか。太一には紗雪の考えが全く読めなかった。
紗雪は特別棟の階段をさらに上っていき、最上階の五階まで来ると、廊下をさらに歩いて行く。そしてようやく紗雪が足を止めた場所は、太一が先程いたホームルーム棟から一番離れた場所にある、空き教室だった。
「ここって、今は使われていない教室じゃ……」
太一の言葉を気に留めることなく、紗雪はスカートのポケットから鍵を取り出すと、鍵穴に入れた。ガチャっと音がして鍵穴から鍵を抜いた紗雪は、ドアに手をかける。
「入って」
冷めた声で太一に伝えた紗雪は、そのままドアを開けて中へと入って行く。太一も紗雪の後に続く。教室内は太一が想像していたよりも片付いていた。教室の後方にほとんどの机が寄せられ、前方には机と椅子が二脚ずつ設えてある。
「月岡君の席、用意しておいたから」
生徒が来るはずがない空き教室なのに、埃っぽい匂いを一切感じなかった。毎日誰かがこの教室を使っている。そんな生活感が漂う教室に、太一は違和感を覚えた。
「ちょっと、森川。まさかずっと一人でお昼を……」
「そうね。だってここは――」
「森川専用の教室だからな」
二人の会話に口を挟んできたのは、高野先生だった。高野先生は教室内に入ると、ドアを閉めてから太一達の方に近づいてくる。
「おう、ちゃんと頑張ってこいよ」
何を頑張るのかわからなかった太一は、とりあえず手塚のエールに手を挙げて応える。そして紗雪の後を追った。教室を出た太一は既に歩き始めていた紗雪の元へ駆け寄る。
「ごめん。すっかり忘れてた」
「高野先生との約束も忘れてたんでしょ」
「あっ……」
紗雪の一言に太一は開いた口が塞がらなかった。
「そ、それより森川は何の用? 先生の所にもいかないといけないんだけど……」
「ついて来ればわかるわ」
淡々と語った紗雪は太一の一歩前を歩いて行く。太一は紗雪の後をついていくしかなかった。
堀風高校の校舎は二つの建物から成り立っている。生徒の教室があるホームルーム棟。音楽室や美術室、理科室といった教室が集約されている特別棟。上から俯瞰すると堀風高校の頭文字である「H」を象徴した造りになっている。太一達はホームルーム棟を離れ、三階にある連絡通路を経由して特別棟に移動した。紗雪の足並みは先程から変わらず、一定の速度で歩き続けている。いったいどこまで行くのか。太一には紗雪の考えが全く読めなかった。
紗雪は特別棟の階段をさらに上っていき、最上階の五階まで来ると、廊下をさらに歩いて行く。そしてようやく紗雪が足を止めた場所は、太一が先程いたホームルーム棟から一番離れた場所にある、空き教室だった。
「ここって、今は使われていない教室じゃ……」
太一の言葉を気に留めることなく、紗雪はスカートのポケットから鍵を取り出すと、鍵穴に入れた。ガチャっと音がして鍵穴から鍵を抜いた紗雪は、ドアに手をかける。
「入って」
冷めた声で太一に伝えた紗雪は、そのままドアを開けて中へと入って行く。太一も紗雪の後に続く。教室内は太一が想像していたよりも片付いていた。教室の後方にほとんどの机が寄せられ、前方には机と椅子が二脚ずつ設えてある。
「月岡君の席、用意しておいたから」
生徒が来るはずがない空き教室なのに、埃っぽい匂いを一切感じなかった。毎日誰かがこの教室を使っている。そんな生活感が漂う教室に、太一は違和感を覚えた。
「ちょっと、森川。まさかずっと一人でお昼を……」
「そうね。だってここは――」
「森川専用の教室だからな」
二人の会話に口を挟んできたのは、高野先生だった。高野先生は教室内に入ると、ドアを閉めてから太一達の方に近づいてくる。