「太一君。まずは君に言いたい。紗雪を救ってくれて、本当にありがとう。そしてこんな目に遭わせてしまい、本当に申し訳なかった」
「だ、大丈夫ですから。ほら、生きていますし」
 深々と頭を下げる森川先生に、太一は笑みを見せる。それでも頭を上げない森川先生に、太一は聞きたいことを聞く。
「そ、それよりも俺はどれくらい眠ってたんですか? それに……紗雪は学校に行ってますか?」
 太一の質問に、森川先生は一つずつ答えてくれた。
 屋上から落ちて一週間が経ったこと。
 太一が落ちた場所には木や植え込みがあったことで落下の衝撃が和らぎ、様々な奇跡が重なって一命をとりとめたこと。
 そして森川先生が次に発した言葉が、太一に安心を与えてくれた。
「紗雪はあれから毎日、学校に休まず通っている」
「本当ですか!」
 太一は嬉しさのあまり、声が上擦った。しかしそんな太一とは対照的に、森川先生は浮かない表情をしている。
「でも、最近の紗雪は日を追うごとに元気がなくなっている。一緒に朝食を取っているけど、最近の紗雪はずっと顔色が冴えなくてね」
「そう……ですか」
 実際に学校に行くことができた。それは大きな一歩だと思う。でも。紗雪を待っているのは、クラスメイトからの冷たい視線だ。精神的にダメージがあることは、太一にも容易に想像できた。
「そうだ。太一君に見てもらいたいものがあるんだ」
 そう告げた森川先生は、病室に設えてあるテレビの電源を入れた。そこに映し出され映像を見た太一は、開いた口が塞がらなかった。
「夏月のお父さん……」
 どうしてテレビに映っているのか。画面端にライブ映像を知らせるロゴが表示されていた。
「星野教授は今、アメリカにいる。ボンドの研究についての重要な発表を今日することになっているんだ」
 森川先生の言葉を聞きつつ、太一は視線をテレビへと移す。会見は朝の六時ちょうどに始まった。星野教授が発表したことは、森川先生が言っていたボンドについて。今になって何を発表するのか、太一には全く予想がつかなかった。
 しかしテレビから聞こえた星野教授の言葉を耳にした太一は、直ぐに何が語られるのかがはっきりとわかった。
『今まで見つかっていなかった、ゼロ型に当てはまる人間が見つかりました』
 太一は咄嗟に森川先生へと視線を移す。森川先生は太一を見ると、ゆっくりと口を開いた。